被爆地ヒロシマが被曝を拒否する伊方原発運転差止広島裁判
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「ふるさと広島を守りたい」ヒロシマの被爆者と広島市民が、伊方原発からの放射能被曝を拒否し、広島地方裁判所に提訴しました


伊方原発広島裁判メールマガジン第8号 2016年6月30日



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伊方原発・広島裁判メールマガジン 第8号
2016年6月13日 伊方原発運転差止裁判(本訴)第一回口頭弁論
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2016年6月30日(木)発行
編集長 :大歳  努
副編集長:重広 麻緒
編集員 :綱崎 健太 

伊方原発3号機に核燃料が装填されるというニュースが大々的に扱われていますが、広島そして松山・大分でも仮処分申し立てが一部始まり、一部予定されています。河合弁護士が説明するように、動いてから止められれば四電株は大暴落が待っています。
というわけで、本号では2016年6月13日広島地方裁判所にて伊方原発運転差止裁判(本訴)の第一回口頭弁論の、その様子と口頭弁論後に行われた報告会についてお伝えします。
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今日の見出し
■第一回口頭弁論
  ◇堀江原告団長の意見陳述
◇原告側弁護士による陳述と問答
■報告会
  ◇河合弘之弁護士あいさつ
  ◇原告側陳述解説
  ◇被告側準備書面解説
■準備書面から現れた二つの争点
  ◇社会的必要性と経済的合理性
◇低線量内部被曝の危険性
■編集長コラム
■おしらせ
  ◇期日・他スケジュール
◇愛媛訪問ミニ番組放送について
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■ 第一回口頭弁論
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当日は口頭弁論開廷前に広島弁護士会館にて学習会を行い、出席者と共に広島地裁に向かいました。
傍聴席60席のうち、あらかじめ裁判所側から原告・被告・報道に割り当てられた席を除くと43席。傍聴希望者は71名で席数をはるかに超えましたので、抽選となりました。(裁判所調べ)こうして傍聴席は全て埋まりました。

◇堀江原告団長の意見陳述
開廷し、最初に原告団長の堀江壮さんの意見陳述が行われました。堀江さんは礼をして裁判長の前の台に着席し、意見を述べる機会を得たことに感謝を伝え、本題に入りました。
伊方原発に危険を感じ調べていくうちに、適合性審査に合格しても事故を起こさないわけではないこと、伊方原発が事故を起こせば広島は避難しなければならないほどの放射能汚染を被る可能性があること、また事故を起こさなくても伊方原発からは大量の放射性物質が環境の放出されていることを知りました、と述べました。
熊本大地震にも触れ、伊方原発は南海トラフ巨大地震震源域ギリギリに位置していることから、いつ起きてもおかしくない自然災害によって伊方原発が事故を起こす可能性を示しました。
知れば知るほど伊方原発の危険を思い知らされ、やむにやまれず裁判に踏み切ったこと、
次世代に対して無責任なことはしたくないこと、そして最後に被曝は私達だけで十分です、と裁判長に訴えました。
 堀江さんは時々、原稿を見ながら裁判長の方へ顔を向けて落ち着いて語られました。
裁判所から「7分前後で」との時間制限の中で、原稿を作成しリハーサルも行いました。その甲斐あって、誰から見ても文句なしの意見陳述でした。

▽第1回口頭弁論「意見陳述書」原告団長 堀江壯
http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/honso/20160613_horie.pdf

◇原告側弁護士による陳述と問答
 その後、原告側弁護団から訴状を要約して陳述しました。
裁判長から「訴えの内容に『廃炉するまでの間の一月一万円を慰謝料として請求する』とありますが、ここでいう廃炉の定義を次回期日までに明瞭にしてください」という要望がありました。
すると被告側の弁護士から「電気事業法では廃止と決定すれば廃炉と同義です」と発言しました。それを聞いて河合弁護士は「我々が言う廃炉とは原子炉も建屋も解体され核燃料も運び出されてそこが更地になるまでを指しています」と反論しました。
裁判長は「食い違いがあるので、訴状の中にある廃炉の定義を明確にしてください」と原告側の弁護団に再度、要請し弁護団は了承しました。
その他、いくつか問答がありましたが重要な場面のみ記述します。
 
口頭弁論終了後に非公開で、裁判長・両弁護士・当事者のみで進行協議が行われ、期日の調整や、事務的な打ち合わせが行われました。その後、弁護団と参加した原告が広島弁護士会館に戻り報告会が行われました。


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■ 報告会
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 東京から駆けつけてくださった河合弁護士から会場の皆さんに向けて激励のあいさつをいただきました。

◇河合弘之弁護士あいさつ
「今日は記念すべき日です。被爆地ヒロシマから原発を止めることはとても意義があります。そして広島から原発運転差止を訴えたという事実は大きな波紋を呼びました。
長年、本訴で戦ってきた松山が仮処分も併せて行うことになりしました(*1)。それから、伊方原発から100km離れた広島が裁判を起こしておいて、40km離れた大分が黙っているわけにいかない、と大分からも本訴・仮処分を併せて行うと奮起しました(*2)。
 この伊方原発広島裁判が投じた一石から広がった波紋は、伊方原発を包囲する大きな層を成形したのです。前衛に高浜方式があったのですが、この流れは伊方方式として、脱原発勢力と推進勢力の裁判闘争のモデルとなるようなシステムを確立しつつあります。
 そして先ほどの進行協議で裁判長は、当原発を訴えた裁判は他にもあるので、訴えの内容は似通ったものになるのですか?という旨の質問をされたのですが、胡田弁護士は我々独自の訴えを主張していきますと言いました。すると裁判長は、ではそのつもりで取り組みますと、返された一幕がありました。
 それぞれの地域で、地元の弁護士が原告と手を携え、独自の訴えで自分たちの裁判を闘っていくという取り組みはとても大事です。東京から来ている私と甫守弁護士は広島弁護団のお手伝いしかできませんが、団結して戦っていきましょう。どうぞよろしくお願いします。ありがとうございました。」

(*1)差し止め仮処分を松山地裁へ申請 伊方3号機 愛媛新聞
http://www.ehime-np.co.jp/news/local/20160601/news20160601977.html
(*2)大分でも申し立てへ 運転差し止め 伊方原発 大分合同新聞
https://www.oita-press.co.jp/1010000000/2016/05/13/003718918

 その後弁護団代表の胡田弁護士に陳述内容の解説をして頂きました。口頭弁論でされた陳述の内容は訴状の要約だそうです。その解説からまとめました。

◇原告側陳述解説
?原発に内在する危険性
・高温の核燃料の管理の危うさ
自然災害・人為的災害によって設備に損傷があれば、核反応制御が出来ず核の暴走が起き過酷事故を起こす可能性がある

?適合性審査の信頼性
・そもそも適合性審査に合格しても事故を起こさないことを担保するものではない
 福島第一原発事故の反省を踏まえて作られたという事になっているが、事故は今も継続中で事故の原因究明は未だにされていない

?適合審査の為の追加設備の実用性
原発事故は災害が引き金となって起こると推測出来る、その時に災害を受けた状態で、追加された設備は実際に機能するのか

?設定された基準地震動の信頼性
設定された基準地震動をもとに四国電力は余裕をもって耐震設計をし、設備が地震に耐え得ると解析データを出して示しているが、別の解析データを用いたクロスチェックをしてもクリアできているのか

?広島に及ぶ危険
シミュレーション結果からも判るように伊方原発で事故が起きれば広島も放射能汚染を被る
半閉鎖水域である瀬戸内海が深刻な被害が及ぶと想定できる

以上が訴状の要点です。
続いて、四国電力が提出した準備書面を項目毎に胡田弁護士が解説しました。
先日、仮処分事件で提出された準備書面とおおよそ同じ内容だそうです。

◇被告側準備書面解説
?差止請求の要点と枠組み

?当原子力発電所の概要

?原子力の必要性
 原子力は安価でCO2を排出しない環境によい発電方法である
→原告とのお話の中で度々、争点に挙げてほしいと要望があった話題です。裁判の本質から外れているのでチャンスがあれば訴えていくという姿勢でいましたが、被告側が主張してきましたから、実際は高コストであると反論していきます。

?立地条件・自然災害に対する安全性
地盤・地震・津波の三つを挙げている。地震を中心に主張

?平常運転時の被曝低減対策
→これも原告との対話の中で度々、争点に挙げてほしいと要望があった話題です。争点にすることに消極的でいましたが、被告側から挙げてきましたので低線量内部被曝の危険を訴え反論していきます。

?事故防止対策
 事故が起きても過酷事故に発展しないよう防止策をとって安全性を高めている

以上、四国電力側が提出した準備書面の主な項目です。現時点で、この裁判の進め方はほぼ確立しました。被告側が適合性審査の合理性と、原子力発電所がその審査に適合しているかを主張・立証し、原告側がそれに対して反論、主張・立証していくという形になります。


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■ 準備書面から現れた二つの争点
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胡田弁護士による、四国電力が提出した準備書面の解説の中で「原告から争点に挙げてほしいと要望があったが、裁判の争点にすることには消極的だった」とあります。その原告と胡田弁護士の協議の経緯についてお伝えします。

◇社会的必要性と経済的合理性
四国電力側が提出した準備書面の?「原子力は安価でCO2を排出しない環境によい発電方法であり、社会に必要な発電方法である」に対する反論として
原子力は発電量に見合わない高コスト体質であり、事故を起こせば甚大な量の放射能を放出する、また事故を起こさなくても大量の放射能を放出する、すなわち「原発再稼働には社会的必要性も経済的合理性もない」と主張します。

メールマガジン予告号でお伝えした原告結成集会での事です。弁護団への質疑の中で訴訟方針にエネルギー・経済問題としての原発問題を盛り込むべきか、議論されました。訴状の中には盛り込まれませんでした。

▽メールマガジン予告号(2016年3月4日)
http://saiban.hiroshima-net.org/mm/00_20160304.html 

◇低線量内部被曝の危険性
四国電力側が提出した準備書面の?「平常運転時の被曝低減対策」に対する反論として
たとえ低線量の被曝でも安全ではないとして「低線量内部被曝の危険性」を主張します

メールマガジン創刊号の胡田弁護士インタビュー内で「核産業労働者の低線量外部被曝研究」の話題を挙げ低線量被曝の危険性を示唆したことに対し胡田弁護士は「今の国内の知見はそこまで達していないので、裁判を闘う材料にはならないでしょう。何かの折に主張に含められたらと思います。」と答えています。四国電力側から被曝に関する主張をしてきたので、堂々と反論し争点に据えることができるという事です。(重広)

▽メールマガジン創刊号(2016年3月10日)
http://saiban.hiroshima-net.org/mm/01_20160310.html


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■ 編集長コラム
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 本文中にあったように四電側弁護団は、過酷事故時の健康被害について答弁書の中に以下のように書いています。

「本件3号機から約100km離れた地点に居住する債権者らが本件3号機の事故により健康被害等の影響を受ける可能性が高いとする点は否認し、その余は、(伊方原発で過酷事故が発生した場合)との仮定の上で、概ね認める」
仮処分四国電力の答弁書、324頁から325頁(4月25日付け)
http://saiban.hiroshima-net.org/source.html

「その余は、(伊方原発で過酷事故が発生した場合)との仮定の上で、概ね認める」というのは、原子力規制委員会が出したシミュレーションにおいて、広島市における空間線量率が約4.3mSv/週になることを認める、ということだと思います。ただし、そうした場合でも債権者(つまり私たち)が健康被害等の影響を受ける可能性は高くはないと主張しているわけです。
ひとつ見落としてはいけないのは、4.3mSvを認めるということは、公衆の追加被曝線量の上限は1年間では1mSvなので、それ以上の被曝を与えることを認めていることになります。これ自体が現行法令違反であることを指摘しなければいけません。
4.3mSvで健康被害があるか否かというのは次の話となります。

これを指摘すれば、彼らはこう言うかも知れません。
「過酷事故を起こした場合は、原子力緊急事態宣言が出されるので、1mSvという基準値は適用されない」
しかし、原子力緊急事態宣言を出すのは原子力対策本部・本部長(=内閣総理大臣)であって、電力側にその権限はありません。したがって4.3mSv自体が現行法令違反となります。

次に健康被害ですが、「健康被害等の影響を受ける可能性が高いとする点は否認し、」というならば、その根拠を示さなければならなくなります。なにをもって4.3mSv/週が健康被害を与えるレベルではないと説明するのか、という議論です。

ICRP勧告によれば、緊急時の一般公衆の被曝限度は20~100mSv/年となっています。それぞれの国が、この範囲内で緊急時の一般公衆の被曝限度を決めてよいということになっています。日本の場合は、福島事故において避難した住民を帰還させるために用いた基準値が20mSv/年となっています。福島事故時の管直人政権が、原子力緊急事態宣言下において、この値を採用しました。
しかし現行法においては緊急時の一般公衆の被曝限度を何mSvにするのかは、いまだ未整備のままとなっております。

さて、四電側は何mSv以上を健康被害が出てもおかしくないレベルであるとみなすでしょうか?
私の考えでは、現行法が未整備である以上、100mSvという値を持ってくると考えます。ICRPの理論においては、これ以上の被爆において『確定的影響』が認められるとされているからです。では、100mSv以下の被曝では、健康被害はないのかというと、ICRPにおいては『確率的影響』があると考えられています。

これがどういうものかというと、がんの発生原因は様々あって、100mSv以下の被曝においては、それが被曝によるものなのかどうかが判断しにくい、しかし被曝による健康影響には、閾値のようなものはないと考え、100mSv以下であっても『確率的影響』はあり、被曝は少なければ少ないほどよい、という考えです(LNT仮説)。

以上のことを整理すれば、過酷事故時に100mSv以下の低線量被曝を市民に与える様な状況を司法がどう判断するのか、ということになります。また、事故がない状況においても、そうした可能性が常に内在されている状況を司法がどう判断するのか、ということもいえるでしょう。
原告側がしなければいけない努力は、この100mSv以下の低線量被曝が具体的にどのようなものか説明する努力、また外部被曝と内部被曝の決定的な違いについて説明する努力となってきます。
 低線量被曝は、歴史において常に過小評価されて来ました。これを認めてしまえば、原発ビジネスも軍事産業も成り立たないからです。以上のことを踏まえて、次号では6月13日伊方原発運転差止裁判(本訴)の第一回口頭弁論の前におこなわれた学習会(放射線被曝とは何か?)についての報告を掲載する予定です。(大歳)


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■ おしらせ
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◇期日・他スケジュール
 7月13日 仮処分第3回審尋(催し企画中)
 8月6日  8・6第二陣提訴(催し企画中)
 8月22日 本訴第2回口頭弁論(催し企画中)

◇愛媛訪問ミニ番組放送について
前号でお知らせした、堀江原告団長の愛媛訪問に広テレの撮影クルーが同行し作成されたミニ番組は6月7日に「テレビ派宣言」の番組内で放送されました。当初5月19日放映予定でしたが放送延期になり、放送当日に堀江さんに連絡がありました。オバマ米大統領の広島訪問が急遽決まった為、番組の構成に変更があったようです。放送日を事前にお伝えできず申し訳ありませんでした。

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伊方原発運転差止広島裁判
URL http://saiban.hiroshima-net.org/
◆伊方原発広島裁判メルマガ編集部◆
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