被爆地ヒロシマが被曝を拒否する伊方原発運転差止広島裁判
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「ふるさと広島を守りたい」ヒロシマの被爆者と広島市民が、伊方原発からの放射能被曝を拒否し、広島地方裁判所に提訴しました


伊方原発広島裁判メールマガジン第19号 2017年5月1日

※webサーバーメンテナンスのため、メールマガジンの発行が遅れましたことをお詫び致します。
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 伊方原発・広島裁判メールマガジン第19号
 玄海原発に見る再稼働地元同意問題/島崎邦彦氏証人尋問傍聴記
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2017年5月1日(月)発行
編集長 :大歳 努
副編集長:重広 麻緒
編集員 :綱崎 健太

▽本号のトピック▽□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
■玄海原発に見る再稼働地元同意問題
 1.玄海原発再稼働の地元同意手続きは終わったか
 2.福島原発事故による劇的大変化
 3.住民の被曝100mSv以下」も担保しない現在の原発災害対策
 4.「30km圏内自治体」同意は唯一の帳尻合わせ
 5.川内原発再稼働は地元同意もなしに行われた
 6.重大な人権侵害に沈黙は禁物
■名古屋高裁金沢支部・大飯原発3・4号機運転差止訴訟第11回口頭弁論
 島崎邦彦氏(元規制委委員長代理)証人尋問傍聴記
 1.島崎証言にいたるいきさつ
 2.入倉・三宅式の予測式
 3.金沢の裁判所はガラス張り
 4.傍聴席60席に対して希望者が227人
 5.島崎証言は2時間以上
 6.島崎証言の要点
 7.はっきり、きっぱり、淀みなく
 8.口頭弁論が終了したのは午後5時15分ごろ
■メルマガ編集部後記
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╋■┛ 玄海原発に見る再稼働地元同意問題
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 玄海原発再稼働の地元同意手続きは終わったか
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佐賀県玄海町にある九州電力玄海原子力発電所3・4号機は、2017年1月18日に原子力規制委員会から原子炉設置変更許可を受け、今後の規制基準適合性審査としては、工事計画・保安規定の審査、使用前検査を残しています。

玄海原発の再稼働に対しては、佐賀県の伊万里市長・神埼市長が反対を表明しました。
また、長崎県の壱岐市・松浦市・平戸市では、市議会が反対の意見書を採択するとともに、市長が反対を表明しています。
これらの自治体のうち、伊万里市・壱岐市・松浦市・平戸市は、玄海原発の30km圏内自治体です。

しかし、玄海原発所在自治体である玄海町と佐賀県の議会と首長が再稼働同意を表明したことを受けて、例えば『毎日新聞』(2017年4月25日)は、「…一連の地元手続きは終わり、玄海原発は年内にも再稼働する見通しとなった。」などと報じています。

だが、果たして「地元手続きは終わった」などと言ってよいのでしょうか?

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 福島原発事故による劇的大変化
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2011年3月の福島第一原発の事故で、日本の原発についての前提は180度転換しました。
それまでは「原発苛酷事故は起こらない」ことが前提となっていましたが、事故後は、「原発苛酷事故は起こる可能性がある」ことが前提となったのです。

また、「原発地元」の概念が大きく変化しました。福島原発事故では、年間実効線量20mSvというとてつもなく緩い避難基準を採用しても、福島第一原発から50km圏を越す飯館村が避難区域となりました。
さらに、事故当時の原子力委員会は、250km圏内に居住する住民に避難を勧告する可能性も検討したのです。

「原発地元」の概念は、「原発所在自治体」に留まらない広域に及ぶようになりました。

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 「住民の被曝100mSv以下」も担保しない現在の原発災害対策
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福島原発事故後の原子力規制は、少なくとも「原発苛酷事故は起こる可能性がある」ことを前提としなければならなくなりました。
現在の原発災害対策の枠組みでは、原発の重大事故の拡大が防止できずに放射性物質が放出される事態が想定されています。

ところがなんと、原発の重大事故の拡大が防止できずに放射性物質が放出される事態に対する防護手段とは、「住民広域避難」でしかなく、しかもこの防護手段で目的とするところは、この事故による住民の被曝を「100mSv」以下に抑えることに過ぎません。

福島第一原発事故後に原子力規制委員会が定めた「原子力災害対策指針」は、「原発から概ね半径30km圏」を「原子力災害対策重点区域」とし、この区域の自治体に原子力災害に対する避難計画の策定を義務付けています。
この「概ね30km圏」という数字は、どこから出てきたのでしょうか?

この数字の基になったのは、原子力規制委員会が行った「放射性物質拡散シミュレーション」(2012年12月に最終確定)です。
▽原子力規制委員会webサイト「拡散シミュレーションの試算結果(総点検版)」
http://www.nsr.go.jp/data/000024448.pdf

福島原発事故並みの事故が起こった場合、各原発から放出される放射性物質がどう拡散し、被曝線量がどの程度になるかを予測したこのシミュレーションの結果、各原発から概ね30kmを超えると、1週間の被曝線量(実効線量)がほぼ100mSv内に収まりました。
(ただし東京電力の柏崎刈羽原発を除く)

これが「原子力災害対策重点区域」を「原発から概ね30km圏」とした根拠となっているのです。
したがって、「30km圏内自治体」とは、原発で重大事故が起こった場合、適切な避難をしなければ住民が1週間で100mSvを上回る被曝をする自治体であると言うことができます。

本当に住民を100mSvを上回る被曝から守ろうと思えば、少なくとも、自治体が策定する原発災害に対する避難計画の実効性が担保されていなければならないはずです。しかし、自治体の避難計画については、原子力規制委員会の審査の対象とはなっていません。
また、原子力規制委員会以外の行政機関が避難計画の実効性を審査する仕組みもありません。

現時点では、自治体の避難計画の実効性を審査し担保する仕組みは皆無なのです。

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 「30km圏内自治体」同意は唯一の帳尻合わせ
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いかに微量であっても原発による被曝の強制は拒否するというのが私たちの立場ですが、仮に現在の日本の原発災害対策の枠組みを認めたとしても、自治体の避難計画の実効性を担保する仕組みがない今、「原発苛酷事故は起こる可能性がある」ことを前提とした原発再稼働を正当化する唯一の手段は、「30km圏内自治体」の同意です。
福島原発事故後の原発災害対策の法令の枠組みの中では、少なくともこれが終わらなければ、「地元手続きは終わった」とは言えないのです。

ただし、原発再稼働に同意を表明する自治体は、実効性があるかどうかわからない避難計画に基づいて、原発苛酷事故が起こった場合にも、住民を100mSv以上の被曝から守る第一義的な法的責任を負います。

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 川内原発再稼働は地元同意もなしに行われた
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原発の重大事故拡大が防止できずに放射性物質が放出される事態を想定しなければならないにもかかわらず、それに対する防護手段を審査することのできない原子力規制委員会が、原発再稼働の「許可」を行えないことは理の当然です。
原子力規制委員会の田中俊一委員長は、繰り返し、「原子力規制委員会は規制基準に適合するかどうかを審査する機関であり、再稼働の判断には全く関係しない」と述べています。

現行日本の原子力規制行政の中では、原発に再稼動の許可を与える行政機関は存在しないのです。
これがたとえばアメリカの原子力規制行政との大きな違いです。
(アメリカ原子力規制委員会は原発に運転の許可あるいは停止の命令を与える権限を持っています)

では、一体誰が、原発の再稼働を許可するのでしょうか?
川内原発1号機再稼働後の一昨年の10月6日、私は川内原発再稼働の許可に関して、「お便りBOX」を通じて九州電力に質問をしました。

Q:確かに川内原発1号機は原子力規制委員会の規制基準適合性審査には「合格」し、原子力規制委員会は2015年9月10日に貴社に対して「合格証」を交付しました。
 しかし、原子力規制委員会は現在「再稼働の許可」を行う機関ではないという立場で一貫しています。
 であるとすれば、貴社は一体どこから川内原発1号機の再稼働を行ってもいいという許可を受けられたのでしょうか?

10月22日には、次のような質問もしました。

Q:原発周辺概ね30km圏内自治体の同意は、原発再稼働の必要条件であるとお考えでしょうか?

回答はあっても、なかなか質問したことへの答えが得られないまま、5度のやり取りを繰り返しました。
その間に、九州電力からは次のような発言がありました。

A:ご質問の「再稼働の許可」がどのような意味かわかりませんが、前回もご回答いたしましたが、再稼働についての最終的な判断は当社が行っております。
A:エネルギー基本計画の中で、国の再稼働方針が明確に示されており、原子力発電所を再稼働させるか否かを判断し、法令上の手続きに従って、必要な申請等を行うのは、原子力事業者であります。

11月26日に、次のような質問をしました。

Q:次のような理解でよろしいでしょうか?
(1)川内原発1号機の再稼働について、九州電力は再稼働の許可をどこからも受けていない。
(2)川内原発1号機の再稼働について、九州電力は原発周辺概ね30km圏内自治体の同意を得ていない。

この質問に対する回答はありませんでした。

回答がなかったのが答えだとすれば、「九州電力は、エネルギー基本計画で国の再稼働方針が示されていることを盾に、再稼働の許可をどこからも受けることなく、原発周辺概ね30km圏内自治体の同意も得ることなく、自社による最終的な判断で川内原発の再稼働を行った」と考えるのが順当でしょう。

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 重大な人権侵害に沈黙は禁物
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福島原発事故後、「原発苛酷事故は起こり得る」ことが前提となったにもかかわらず、住民を原発事故による100mSv以上の被曝から守る保障もないまま、原発事故による深刻な被害が予測できる地域住民・自治体の同意も得ないまま、無許可で原発の再稼働が行われる無法状態に、現在の日本は陥っています。
極めて重大な基本的人権の侵害が進行中です。これは、電力会社による人権侵害であると同時に、国及び自民党・公明党連立政権による重大な人権侵害に他なりません。

日本国憲法第12条には、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」とあります。
もし私たちがこの重大な人権侵害に対して沈黙していたら、私たちは自ら不断の努力を怠ることによって、自分たちの人権を放棄してしまうことになるでしょう。
佐賀県伊万里市・神埼市、長崎県壱岐市・松浦市・平戸市の再稼働反対表明は、まさに基本的人権を守るための「不断の努力」の表れです。

私たちも、伊方原発稼働による人権侵害を受け入れるつもりはありません。
伊方原発運転差止裁判の原告となるということは、私たちの生存権を守るための不断の努力そのものなのです。

読者の皆様、もし自らの生存権を守るために伊方原発運転差止広島裁判に原告として参加されるご意思があれば、私たちは大歓迎です。
原告団参加のための手続きは、こちらをご覧ください。
 ▽
http://saiban.hiroshima-net.org/genkokudan.html

(文責:応援団代表・原田二三子)

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╋■┛ 名古屋高裁金沢支部
■   大飯原発3・4号機運転差止訴訟第11回口頭弁論
    島崎邦彦氏(元規制委委員長代理)証人尋問傍聴記
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2017年4月24日、関西電力大飯原発3・4号機の運転差止を求める住民訴訟は、舞台を名古屋高裁金沢支部に移して争われ、第11回口頭弁論を迎えました。
この日は恐らくはこの裁判のハイライト中のハイライト、島崎邦彦元原子力規制委員会委員長代理の証人尋問が行われます。
島崎氏といえば、日本の地震学会を代表する地震学者の1人であり、また地震担当の規制委委員として、2014年9月まで原子力規制委員会委員長代理を務めました。
その島崎氏が住民側の証人として法廷に立つというのです。
原発問題に関心のある日本全国の人々の注目を集めたとしても不思議はないでしょう。
証言は確実に私たちの裁判にも大きな影響を与えます。
幸運にも傍聴できた筆者がその「島崎証言傍聴記」をお届けします。

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 島崎証言にいたるいきさつ
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最初に島崎証言にいたるいきさつを簡単に見ておきましょう。

福井地方裁判所の樋口英明裁判長(=当時)が、「大飯3・4号機の運転をしてはならない」と歴史的な名判決を出したのが2014年5月。
関西電力は翌日判決を不服として名古屋高裁に控訴しました。
こうして舞台は名古屋高裁金沢支部に移して争われることになりました。

2014年11月5日の第1回口頭弁論から数えて10回目の口頭弁論で内藤正之裁判長は、すでに第8回口頭弁論で意見書(島崎意見書=準備書面28)を提出している島崎氏を証人として採用することを決定、こうして第11回口頭弁論で「島崎証人尋問」が実現することとなりました。
「島崎証人尋問」決定時、内藤裁判長は「島崎証人は、控訴審においては最も重要と考えています。
それを聞いて、その他の証拠調べや進行を決めたいと思います。」と述べており、いやが上にも島崎証言に注目が集まることになりました。

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 入倉・三宅式の予測式
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島崎証言の重要性を理解するに当たって、「入倉・三宅式」と呼ばれる地震モーメント(モーメントとはこの場合地震のエネルギーの大きさのことを指します)の計算式のことを大まかに理解しておきましょう。

地震モーメント(地震エネルギーの大きさ)を活断層の長さから推測する手法は、原発敷地での基準地震動の大きさを決定するために一般的に用いられています。ですから、地震モーメント計算式を誤って使用すると、基準地震動の策定に誤りを生じます。
これが過大評価ならば原発の安全性に大きな影響は出ませんが、過小評価ならばそれは原発の安全性に直結します。ここに「島崎証言」の決定的重要性があります。

島崎氏は、「日本の陸域およびその周辺の地殻内浅発地震でマグニチュード7程度以上」の地震モーメントを予測する式として4つの代表例を例示します。
(日本の陸域の地殻内浅発地震でマグニチュード7程度以上、といえば2016年4月に発生した熊本大地震がぴったりのケースとなります)

それが以下の4つの式です。(なお以下の式では、地震モーメントの大きさをMo、活断層の長さをL、と表示しています。なお式の数値の単位はNm=ニュートンメートルです)

(1)武村式     Mo=4.37×10の10乗×Lの2乗(1998年)
(2)山中・島崎式  Mo=3.80×10の10乗×Lの2乗(1990年)
(3)地震調査委員会 Mo=3.35×10の10乗×Lの1.95乗(2006年)
(4)入倉・三宅式  Mo=1.09×10の10乗×Lの2乗(2001年)

いずれの式も科学者が真剣に検討した結果の予測式であり、どの式が正しくどの式が誤っていると断定することはできません。
別な視点から見れば地震の大きさを予測する科学はまだまだそれほど未発達なのだと言ういい方もできます。

現在ただいまの問題としては、原子力規制委員会や原発事業者が、原発の基準地震動を策定する際、「入倉・三宅式」を使用しているということです。
(なお、入倉・三宅式の説明については、伊方原発広島裁判仮処分命令申立事件の第5回審尋で行われた大阪府立大学名誉教授長沢啓行氏のプレゼンテーション・スライド「伊方3号の基準地震動は過小評価されている」の25枚目のスライドを参照しました)
http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/karishobun/20160920/kou_D497_20160920.pdf

島崎証言のポイントは、「地震モーメントを予測する式として入倉・三宅式を使用することは、使い方を誤っている」というものです。
原子力規制委員会での基準地震動の策定の時にも使われ、その審査を基礎にして大飯原発の基準地震動が決められ、そして規制基準適合性審査に合格しているのですから、この島崎証言の重要性がどれほど大きいかがおわかりでしょう。

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 金沢の裁判所はガラス張り
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証言当日の金沢は、雲ひとつない快晴でした。
名古屋高裁金沢支部裁判所は、加賀百万石の名城金沢城を背中に背負い、交差点を挟んで日本三大名園の一つとされている金沢兼六園の広大な敷地(約12ha)が広がります。

事前の確認で裁判所にいってみると写真でみるように、名古屋高裁金沢支部裁判所はガラス張りでした。

▽兼六園側から見た名古屋高裁金沢支部裁判所
http://saiban.hiroshima-net.org/img/20170424_01.jpg
http://saiban.hiroshima-net.org/img/20170424_02.jpg
▽裁判所正面玄関
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http://saiban.hiroshima-net.org/img/20170424_04.jpg
▽正面玄関の看板
http://saiban.hiroshima-net.org/img/20170424_05.jpg

外部のものを一切寄せ付けない感じの作りの広島高等裁判所(写真)とは外観上大きな違いです。
▽広島地裁の外観
http://saiban.hiroshima-net.org/img/20170206_chisai.jpg

気のせいか裁判所の職員の対応も、私たちを見くだす風ではありません。

広島の裁判所の受付ロビーでは警備の制服を着たいかめしい職員が座っており、なにか問いかけると「一体何しにきたのか」という感じで対応しますが、金沢の裁判所では、受付ロビーに私たちと全く変わらない庶民風の中年女性が座り、傍聴券発行の手続きやら時刻について親切に教えてくれます。
気のせいかも知れませんが、えらく対応が違うわい、と思わざるをえません。
こちらは気のせいではなく、ロビーの待合スペースも広く大きくガラス張りのせいで明るく採光されています。

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 傍聴席60席に対して希望者が227人
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法廷の傍聴席は80席。うち約10席を報道陣が予約し、約10席を原告・被告側の選んだ特別傍聴人の席と言うことで、一般傍聴席は60席。
高裁金沢支部裁判所では一番大きな法廷だそうですが、一般には60席しか割り当てられません。当然傍聴席は抽選となります。

午後1時から整理券が配布になるということで、早くも12時過ぎには人が並びはじめました。
当日は晴天で建物の外に並んでいます。私の番号は130番台。これで終わり頃だろうと思っていたら、私の後にもどんどん人が並びはじめます。

午後1時、整理券配布の時間になって目の子で数えたら約240人以上は並んでいます。
諦めて帰った人もいると見えて、実際に裁判所が配った整理券は227枚。倍率は約4倍となります。

私はくじ運の悪い方で、大売り出しの福引きでも、何回やってもポケットティッシュしか当たったことがありません。
ほとんど諦めかけていたところ、案の定外れ。と、大阪に住む我が応援団のある人が、自分の当たり券を「哲野さん、これ、いる?」と差し出してくれるではありませんか。

裁判所には極力ナイショにして欲しいのですが、私が感謝の気持ちと共にこの申し出に飛びついたことはいうまでもありません。

そういうわけで、私は島崎証言が行われる法廷に滑り込むことができました。

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 島崎証言は2時間以上
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法廷に入ると、これも広島の裁判所と比べての話ですが、裁判長席が低く私たちの目線に近いことに誰でもすぐ気がつきます。
広島の裁判所は、裁判官の席はあくまで高く、左右に並ぶ原告と被告の代理人席が次に高く、一般傍聴席は一番低く設計されています。
いやが応でも裁判長が私たちを上から睥睨する形になります。ところが金沢の裁判所はそうした雰囲気はありません。

午後1時半きっかりに内藤裁判長が現れ第11回口頭弁論開始。簡単な提出書面の確認をした後、いよいよ島崎証言の開始です。
裁判長が原告・被告代理人に対して尋問持ち時間の確認をします。

原告側代理人で尋問役の甫守一樹弁護士が裁判長に65分程度時間が欲しいと申し出、被告人代理人の承諾を得た上で裁判長が認めます。
一方被告人代理人で反対尋問役の代理人弁護士も60分以上の時間が欲しいと申し出、裁判長はこれも認めます。

証人の島崎邦彦氏がややあって法廷に現れ、証人台に立ちます。
内藤裁判長は、証言は裁判の重要な証拠となること、良心にのみ従って証言すること、虚偽の証言をした場合には刑事罰もありうることなど型通りの注意を与えたあと、法廷参加者全員起立の中、島崎氏は宣誓を行いました。
これでこの後の島崎氏の発言は、宣誓のもとでの証言ということになります。

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 島崎証言の要点
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長時間に及ぶ島崎証言の中身を一つ一つお伝えするわけにはいきません。
ここで要点を網羅する形で全体観を捉えておきましょう。

尋問は甫守弁護士の質問に答える形で進み、島崎氏の答えは「はい」、「いいえ」あるいは「その通りです」と言った類いのものでした。
甫守弁護士の質問はおよそ次のようものでした。

・島崎氏は規制委退職後、活断層学会、日本地球惑星科学連合大会、日本地震学会などで、入倉・三宅式を使うと他の式に比べて地震エネルギー予測が過小評価となることを再三再四警告してきたが、その判断に至った理由。

・たとえば、1930年の北伊豆地震などについて、ポストディクション(地震発生後えられた情報や知見を使わずに地震前にえられている情報や知見のみを用いて予測を行うこと)と比較しても、また地震後えられた測定値と比較しても、入倉・三宅式を使うと、地震エネルギーの過小評価となること。

・16年に発生した熊本大地震についても、地震の結果から見て入倉・三宅式を使うと、予測地震エネルギーが過小評価になってしまうこと。

・地震調査研究推進本部地震調査委員会において行われている強震動予測に関して、「震源断層を特定した地震の強震動予測の手法」(この手法のことが“レシピ”と呼ばれています。なんだか料理教室のようですが)、では、
  (ア)過去の地震記録に基づき震源断層を推定する場合や詳細な調査結果に基づき震源断層を推定する場合
  (イ)地表の活断層の情報を基に簡便化した方法で震源断層を推定する場合
  の2通りの場合を選択できることとなっていました。

 しかし、同調査委員会は2016年12月9日に、「原子力事業者が詳細な調査を行えば、地表の活断層の情報を基に震源断層を推定しなくてもいい、と読めてしまう誤解が発生しているので、この誤解をなくすように表現を改めました。
 この表現の訂正が規制委審査会合に与える影響。

・2014年7月ごろ原子力規制庁が実施した大飯原発の基準地震動の試算について。

・島崎証人が大飯原発の適合性審査を規制委員会の委員として担当していた時の認識について。

などでした。
素人目には一見関係のないばらばらの質問のように思えますが、この証言の答えをつなぎ合わせていくと、原子力規制委員会の認めた大飯原発の基準地震動=700ガルが極端な過小評価であり、規制基準に適合した大飯原発が地震に対して重大な脅威にさらされたまま、であり規制基準審査が甘いことを浮かび上がらせる内容とはなりました。

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 はっきり、きっぱり、淀みなく
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以上のような主要な論点に島崎氏は一つ一つ答えていったわけですが、その答え方は全く淀みがなく、きっぱりはっきりしたものでした。たとえば次のような調子です。

 甫守弁護士:「入倉・三宅式は間違っているということですか?」
  島崎証人:「入倉・三宅式の計算式が間違っている、といったことは一度もありません。ただ、ポストディクションで地震の強震動を予測するには使うべきではありません。地震エネルギーが過小評価されます。ただ、地震後えられたデータを修正して入倉・三宅式に当てはめるとよく合致します。入倉・三宅式は間違ってはいませんが、使い方を間違っているということです」

 またたとえば。

 甫守弁護士:「それでは、現在の原子力規制委員会の適合性審査での結果は誤っているということですか?」
  島崎証人:「その通りです。全面的に見直さなくてはなりません」

 そしてまたたとえば:

 甫守弁護士:「関西電力は、地盤を詳細に調査し、その上で保守的な基準地震動を決めたと主張していますが、この点については先生はどうお考えになりますか?」
  島崎証人:「詳細に調べたといっても、ボーリングしたのは表層の精々2-300m程度です。地震が発生するのは5km以下の地盤です。表層を調べたとしてもそれはなんともいえません。ましてや“保守的”に決めたと言う主張には全く根拠がありません。」

 といった調子です。

傍聴席で聞く限り、関西電力や原子力規制委員会の主張は粉々に粉砕されたと感じました。
島崎証言は恐らくは伊方原発を巡る私たちの裁判、また九州電力玄海原発を巡る裁判にも大きな影響を与えることは間違いありません。
(ただし、全く自分の頭で考え検証しようとせず、他の裁判所の判断に依存するような広島地裁の吉岡裁判長みたいな裁判官には、島崎証言も全く影響を与えないでしょう)

(なお、法廷でのやりとりは私のメモを基に再現したもので、裁判所の証言記録が完成して照合したら、表現や言葉に異同が出てくるかも知れません)

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 口頭弁論が終了したのは午後5時15分ごろ
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甫守弁護士による証人尋問が終了したのは予定を少しオーバーした頃でした。
つまり島崎氏は70分近くも法廷に立ったことになります。
後ろから見ているので島崎氏の表情は窺えませんでしたが、声の調子には少しつかれが見えます。
関電代理人弁護士による反対尋問の前に、内藤裁判長は島崎氏に休息を与えるため30分間の休廷を宣言します。

口頭弁論再開後、島崎氏は関電代理人弁護士の反対尋問に応じます。
私の聞く限り反対尋問に見るべき点はありませんでしたが、反対尋問の方針は島崎氏の地震学者としての信頼性をおとしめる点に焦点を合わせていたように思えます。
そして入倉・三宅式そのものが誤っている、と島崎氏が主張しているかのような印象を裁判長に与えようとわざと問題を混同させるような質問を次から次へと繰り出しました。

従って関電弁護人とのやりとりは全く曖昧模糊とした印象になったことは否めません。

長い島崎証言が終わったのはもう午後5時15分に近くなっていました。
内藤裁判長は丁寧な言葉で島崎氏に礼を述べ、先に島崎氏の退廷を許可しました。

島崎氏は法廷に一礼した後、静かに法廷を立ち去ろうとします。
その時です。なんと傍聴席から拍手が起こったのです。最初はためらいがちに、そして次には大きな拍手に広がりました。

私はといえば完全に面食らっています。というのは拍手の行為は、静粛を旨とする法廷規則に反します。
広島の裁判所であれば、裁判長が「静粛に!静止を聞かなければ退廷を命じます」と警告を出したところでしょう。

しかし内藤裁判長は、なにも言いませんでした。拍手が静まるのを黙って待っていました。印象的なシーンでした。

(文責:原告団事務局長・哲野イサク)

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■編集後記

今回は島崎氏の証言と玄海原発再稼動における地元同意問題と、2つのトピックを掲げて発行致しました。
なかなかのボリュームになってしまい、「これは読むのも大変だなあ」などと感じておられる方もいらっしゃると思います。

が、私たちはこれからも、ひとりひとりが被曝を拒否する権利を行使できる社会実現のために必要だと思った情報を、私たちが適切だと考えた形でみなさまと共有していくつもりです。
それがまた、日本国憲法が私たちに注意を喚起する「不断の努力」なのだと思います。

これからも伊方原発広島裁判メールマガジンをよろしくお願いするとともに、私たちの当面の狙いである伊方原発運転差止実現の最大の力である「原告になる」ことで、是非、伊方原発を、今、私たちの手で、ともに止めましょう。
次回20号もよろしくお願い申し上げます。
(綱崎健太)
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