被爆地ヒロシマが被曝を拒否する伊方原発運転差止広島裁判
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「ふるさと広島を守りたい」ヒロシマの被爆者と広島市民が、伊方原発からの放射能被曝を拒否し、広島地方裁判所に提訴しました


伊方原発広島裁判メールマガジン第21号 2017年9月15日

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 伊方原発・広島裁判メールマガジン第21号
 ばら撒かれる放射能。対抗する戦略「放射能汚染防止法」
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2017年9月15日(金)発行
編集長:哲野イサク
編集員:綱崎健太
編集員:小倉 正
編集員:網野沙羅

▽本号のトピック▽□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
■編集長からひとこと
■ばら撒かれる放射能。対抗する戦略「放射能汚染防止法」
 はじめに
 1.廃炉の時代を迎えて~それは伊方原発から始まった
 2.クリアランスレベルとは。「クリアランス制度」とは
 3.天下の悪法「特措法」の登場
 4.日本が「核のゴミ捨て場」になる日
 5.あるべき法整備を~「放射能汚染防止法」
■広島・松山・大分・山口 各地の裁判期日予定
■9月17日 日本地質学会in愛媛大学
■9月30日 放射能汚染防止法 尾道学習会
■10月21日 高松大行動
■読者のみなさまへ メルマガストーリー記事寄稿のお願い
■メルマガ編集部後記
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╋■┛ 編集長からひとこと
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 本号ストーリー記事は、『ばら撒かれる放射能 対抗戦略は「放射能汚染防止法」』と題する寄稿です。
 執筆者は岡山で「放射能汚染防止法」制定運動に取り組んでいらっしゃる上田三起(うえだ みき)さんです。
 マスコミは大きく取り上げないが、私たちの生活現場に直接大きく関係する問題が、上田さんの提起する「ばら撒かれる放射能」問題です。
 鋭い視点と具体的な提案をもった優れた記事だと思います。是非ご一読を。

 核の産業利用の世界的総本山である世界核協会(http://www.world-nuclear.org/ 日本では何故か世界原子力協会と訳されています)のWebサイトを見ていると、
 2000年代の半ばごろから、2020年代から世界的に本格的に迎える廃炉ラッシュをどう無事に乗り切るか、と言う議論が盛んになっていきます。
 「無事に」というのは、「できるだけコストをかけないで」という意味に他なりません。
 彼らが出した方法論は、またぞろ手垢のついた手法、つまり放射性廃棄物の定義を変えてしまおうというものでした。
 そして生み出されたのが「クリアランスレベル」といういかがわしい放射性廃棄物の枠組みです。

 クリアランスレベルとは、放射性廃棄物なのだが、放射性廃棄物として扱わないようにしようということです。
 国際的な核の産業利用の推進エンジン、IAEAはこの基準を放射性セシウム換算で、なんと100Bq/kgと提案しました。
 本来この動きは、一般市民が知らないうちに目立たず徐々に時間をかけて実施する、という戦略でしたが、福島原発事故で大量の危険な放射性廃棄物が発生した日本では、時間をかけてという訳にはいきません。
 そこで環境省は事実上基準を8000Bq/kgにまで引き上げて放射性廃棄物の全国拡散を企図しているのです。

 上田寄稿記事は、日本における政府・核推進勢力の、「市民の安全・健康」よりも「コスト優先」の政策に鋭い一撃を加えるものとなっています。
 (哲野イサク)

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╋■┛ ばら撒かれる放射能。対抗する戦略「放射能汚染防止法」
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◆はじめに

 2011年3月、日本の今と未来を大きくゆるがす事故が起きました。福島第一原発事故です。

 この事故で、大量の放射性物質が放出されました。
 その結果、かつてないほど大量の放射性廃棄物が出現しました。
 このような放射性廃棄物は、従来であれば、原子炉等規制法で、汚染度合いによって例えば黄色いドラム缶に詰めるなど比較的厳重に管理されていましたが、
 今、原発事故前の管理ルールをすべてなし崩し的に緩和する無法な処理が全国で進められています。

 今回は、現在、ばら撒かれつつある放射能の実態と危険性、そして、この実態を解決するために必要な法整備である「放射能汚染防止法」について述べます。


◆1.廃炉の時代を迎えて~それは伊方原発から始まった

 日本に54基ある原発(廃炉中の東海第一原発を含めれば55基です)。世界の国々にある原発と同様、日本の原発は廃炉の時代を迎えています。

 先日、次のようなニュースが報じられました。
  ▽「伊方原発1号機の廃炉計画に愛媛県が同意」(NHKニュース、2017.9.8)
   http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170908/k10011131761000.html

 この報道によれば、伊方原発1号機は、廃炉の見通しがたった原発としては、全国で6基目となる、とのことですが、
 実は、伊方原発は、廃炉廃棄物の処理方法にもつながる、原発から出る放射性廃棄物の処理について、従来の原子炉等規制法を規制緩和する処理方法の先鞭を切っているのです。

 「伊方の放射線管理区域廃棄物『汚染なし』一般処理」と題する2012年12月20日付の愛媛新聞の記事を引用してみましょう。

 「四国電力は19日、伊方原発の放射線管理区域内で発生した、放射性物質による汚染の恐れがない廃棄物について、
  2013年1月から資源の有効活用を目的に再利用したり、一般産業廃棄物として処分したりすると発表した。
  精密機械の梱包材や電池、工具などが対象。
  四電は国の指示に基づき、廃棄物が汚染されているかどうかを判断する基準を作成し、伊方原発の原子炉施設保安規定に追加。
  経済産業省原子力安全・保安院(当時)に申請し、12年9月、認可された。
  四電によると、管理区域内に搬入された機材の場所や日付を記録し、明らかに放射性物質の汚染がないと判断できる場合、
  再利用するか、一般産業廃棄物として処理する。廃炉作業などで発生する原子炉建屋のコンクリートなども対象となる。
  四電は当面、対象物の線量を自主的に測定した上で処分しているとしている。
  伊方原発では現在、管理区域内で発生したすべての廃棄物を放射性廃棄物として管理区域内に保管し、青森県六ケ所村の施設に搬出している」
  (http://azarashi.exblog.jp/17041729/)

 この報道のポイントは、四電が独自に「廃棄物が汚染されている基準」を作成し、「線量を自主的に測定し処分」しているとする点です。
 すなわち、この時点ですでに、いわゆる原子炉等規制法で定められている放射性廃棄物の基準となる「クリアランスレベル」を規制緩和しているのです。

 この四国電力伊方原発の方針変更に追随するかのように、続いて中部電力浜岡原発と東海原発が廃炉廃棄物の処分方法を方針転換しました。

  ▽「中部電力浜岡原発1,2号機 廃炉作業の廃棄物を原発敷地外へ初搬出 今年度中に50トン搬出へ」(静岡新聞、2014.8.30)
   http://financegreenwatch.org/jp/?p=46384
  ▽「東海原発 低レベル廃棄物敷地埋設」(読売新聞、2014.9.25)
   http://archive.fo/x6MiS


◆2.クリアランスレベルとは。「クリアランス制度」とは

 それでは、放射性廃棄物の基準とされている「クリアランスレベル」とは何でしょうか。

 これは、国際原子力機関(IAEA)が原子力施設の解体等で出る放射性廃棄物のうち「人体への影響が無視できる」として、放射性物質としての管理を外すために2004年に定めた基準です。
 200以上の放射性核種が対象とされています。
 いわゆる「クリアランスレベル」と言われるのは、セシウム137の基準(規制値)である100Bq/kgです。

 日本でも、廃炉を含めた原子力施設廃止後の廃材処理のため、2005年に原子炉等規制法が改正されて「クリアランス制度」が設けられました。
 セシウム137を含めた33種類の核種が対象とされています。

 100Bq/kg以下ならすべて一般のごみとして捨てられるわけではありません。
 クリアランスレベルの対象となるのは、原子炉等規制法ではコンクリート、鉄、ガラスだけで、作業服などの汚染物は対象になりません。
 放射線障害防止法ではこれに焼却灰が加わります。
 これら以外のものは100Bq/kg以下であっても管理する必要があります。
 コンクリート、鉄、ガラスは再利用が前提となっています。

 このように「クリアランス制度」は、2005年には法律が成立しましたが、多くの問題点を抱えていたため、日本社会に定着していませんでした。
 本来、標準的な原発を解体すれば、廃棄物の量は50数万トンにも上りますが、「クリアランスレベル」の部分をスソ切りすることによって、
 放射性廃棄物として扱うものをわずか2%程度にまで抑えようとする、経済性コストを重視した原子力業界の目論見がありました。
 さらに、いわゆる「低レベル放射性廃棄物」の再生利用という概念が社会に受け入れられていませんでした。

 しかし、福島第一原発事故により、環境中に大量の放射性物質が拡散したことを受け、国は一気に再生利用の「クリアランス制度」を定着させようとしています。
 「クリアランス制度」が定着すれば、例えば高濃度に放射能汚染された焼却灰を希釈してクリアランスレベル以下のセメントに加工して、市場に流通させることも可能になります。

 国は、大量の放射性廃棄物を処分するために、さらなる規制緩和を進めようとしています。
 この政策に基づき、放射能は全国に拡散しつつあるのです。


◆3.天下の悪法「特措法」の登場

 「クリアランス制度」では、100Bq/kg以上を放射性廃棄物としています。
 すなわち、一般ごみとして処理できるのは100Bq/kg以下の廃棄物のみです。
 これは本来、原子力発電所由来の放射性廃棄物は施設内で管理される事のみを想定したレベルです。
 外にばら撒かれた時の対策は何もありませんでした。

 そこに2011年3月、福島第一原発事故が起きました。

 施設外に広範囲にわたり、大量の放射性廃棄物が出現しましたが、当時、対処できる法律はありませんでした。

 この福島原発事故由来の放射性廃棄物に対応すべく、2011年8月30日「汚染対処特措法」が制定されます。
  ▽「平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(「特措法」)
   http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H23/H23HO110.html

 先に示した放射性廃棄物の基準であるクリアランスレベルを無視して決められたのが「特措法」です。
 この環境省令で、8000Bq/kg以下の廃棄物は「管理しなくてよい」と定められたため、現在では、クリアランスレベルの100Bq/kgと、この8000Bq/kgという、ダブルスタンダード状態になっています。

 「特措法」では「8000Bq/kg以下」の廃棄物は「管理しなくてよい」とされてしまっていますが、これは3つに場合分けして考える必要があります。

 1つ目は、「もともと8000Bq/kg以下のもの」ですが、これは無条件に一般ごみにされています。
      クリアランスレベルから比べたら圧倒的に放射能レベルの高いものが、自治体の焼却場や産業廃棄物処理場に送られています。

 2つ目は、「8000Bq/kgを超えていったん「特措法」のもとで放射性廃棄物としての規定を受ける「指定廃棄物」に分類されたものが
      セシウム134の減衰によって「8000Bq/kgを下回った」と称して指定解除になり、一般ごみにされたもの」です。
      代表が千葉の焼却汚泥です。
      ただし「放射線値が下がった」と言っても第三者機関が測ったのか、環境省が許可した方法で測ったのか全くわかりません。
      責任者が誰なのか分からない状態にされています。

 3つ目は、「指定廃棄物」を分流・分別して8000Bq/kg以下になったものです。
      土がほとんどです。福島県で除染によって出た土に限定されています。
      国はこの除染土を公共事業等に再生利用しようとしています。

 繰り返しますが、原発事故前、再利用してよいクリアランスレベルは100Bq/kg以下でした。
 原発事故を境に「特措法」により、クリアランスレベルの80倍の8000Bq/kg以下の放射性物質が安全とされるようになったのです。

 当初、このような除染土を再利用するのは公共事業に限られる、としていた環境省でしたが、今年に入り、8000Bq/kg以下の除染土を、公園造成にも再利用するという方針を発表しました。
 ▽「除染土、公園造成にも再利用 環境省、方針に追加」(日本経済新聞、2017.4.26)
   https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG26H7J_W7A420C1CR8000/

 現在、福島原発事故由来の放射能汚染に関しては、大気・水質・土壌の汚染規則がありません。
 汚染規制の前提なしに、廃棄物処理法を適用したのが「特措法」です。
 8000ベクレルまで廃棄物処理法を適用し、一般の「ゴミ扱い」しています。

 その結果、自治体の廃棄物処理・処分施設が、環境基準も規制基準もない実質上の放射性物質の処理施設になりました。

 さらに、循環型社会形成基本法の適用により、放射能汚染資材、いわゆる汚染ゴミを資源として、公共土木事業等に再利用する道を開きました。
 この循環型社会形成基本法には推進交付金があるため、県などの自治体長がなかなか国に逆らうことができません。
 原子力発電所と同じ構図があるのです。

 改めて認識すべきことがあります。
 それは環境省が「特措法」のもとで行っていることはすべて違法行為だということです。
 「特措法」には違反していないかもしれませんが、既存の法律を適用すれば、すべて違法なのです。

 クリアランスレベルの対象は33核種ですが、一つ一つに基準があります。
 例えばセシウムだけで100Bq/kgなら基準をクリアできますが、ストロンチウム90が1Bq/kgでも加わると基準をクリアできません。
 ところが環境省はセシウム134またはセシウム137だけしか対象にしていないのです。

 仮に土の放射能を測定して、セシウム137が8000Bq/kg以下でも、原子炉から放出された何種類もの放射性核種が加わればその土は「放射性同位元素(アイソトープ)」になることがあります。
 セシウム137の場合はその基準が10000Bq/kgです。
 他の核種の放射能レベルを足し合わせて、濃度、総量ともセシウムの10000Bq相当になった場合、その土は「放射性同位元素」とみなされます。
 そうなれば「放射線障害防止法」が適用され、その土は放射線管理区域で管理されねばなりません。

 「特措法」はこういう既存の法律を無視しています。
 環境省は、この天下の悪法を盾に、堂々と法律違反を行っています。
 このような状態を改善する必要があります。


◆4.日本が「核のゴミ捨て場」になる日

 「特措法」によって、放射性廃棄物処理の無法地帯となろうとしている日本は今、世界の原子力ビジネスに狙われています。

 昨年の春、1つの気になる報道が新聞に掲載されました。
 「放射性廃棄物、日本で処理 仏ヴェオリア、廃炉需要見据え」(日本経済新聞、2016.4.16朝刊)という記事です。
 記事には、フランスの水処理世界最大手ヴェオリア社が放射線量の低いごみの処理事業を日本で始める計画を明らかにした、とあります。
  ▽「仏ヴェオリア、日本で低レベル放射性廃棄物処理」(日本経済新聞、2016.4.16)
    https://www.nikkei.com/article/DGXLASGM15H7E_V10C16A4MM8000/

 日本以外では、IAEAが定めたクリアランスレベルが、例えばセシウム137(134)では100Bq/kgなので、廃炉作業に伴って発生する膨大な量の放射能汚染ゴミを管理しなくてはなりません。
 ところが日本では、8000Bq/kg以下の汚染であれば、一般ごみとして扱われています。
 「核のゴミ捨て場」としてこんなに好都合な場所はありません。

 こうしたことを可能にする「特措法」は今すぐ廃止し、これまでの法律と整合性が取れる法整備を行うことが必要です。


◆5.あるべき法整備を~「放射能汚染防止法」

 今年の4月、毎日新聞の夕刊で大きく取り上げられた記事がありました。
  ▽「特集ワイド「放射能汚染防止法」制定運動 「原発事故に罰則」なるか」(毎日新聞、2017.4.10)
   https://mainichi.jp/articles/20170410/dde/012/040/003000c
 「放射能汚染防止法」は、札幌在住の山本行雄弁護士が提唱されていて、放射能汚染やその由来となる原発事故に罰則規定を設けようという法整備です。
 この運動は全国に広がりを見せつつあります。
 この法整備を求める意見書は札幌など道内5市議会に加え、昨年は東京都小金井市議会、茨城県取手市議会でも全会一致で可決されました。

 この法整備には「環境基本法」という法律が大きく関係しています。

 「環境基本法」は1993年に成立しました。
 前年1992年にブラジルのリオデジャネイロで国連地球環境サミットが開かれ、「リオ宣言」が採択された機運を受けてのことです。
 「環境基本法」の内容は、「公害対策基本法」(※1967年制定、1970年の「公害国会」で改定)であった「大気汚染防止法」「水質汚濁防止法」「土壌汚染防止法」です。
 公害規制の基礎は「空気」「水」「土壌」の汚染を防止することです。「環境基本法」3法はこのためにあります。

 実は「環境基本法」は第13条で放射性物質を適用除外にしていました。
  環境基本法第13条「放射性物質による汚染防止のための措置については、原子力基本法とその他の関係法律の定めるところによる」

 しかし、原発事故後の2012年、この適用除外条項が削除され、放射性物質は法律上、公害原因物質に位置付けられました。
 つまり、放射性物質に「環境基本法」が適用されることになったのです。
 しかし、具体的な法整備が進んでいません。

 本来ならば、放射性物質にも適用されるはずの公害規制をいくつか紹介します。
 「直罰制度」は、基準違反があったら、事前の改善命令などなしに処罰できる制度です。
 行政の改善命令がなくても、監督官庁が動かなくても、住民は告訴告発できます。
 「大気汚染防止法」も「水質汚濁防止法」も直罰方式を取り入れています。

 大気汚染や水質汚濁の規制では「総量規制」が大原則です。
 「総量規制」は排出量の上限を規制しています。
 公害規制には「総量規制」が極めて重要です。
 しかし、原子炉等規制法の排出段階の規制は「濃度規制」だけです。しかも、違反しても罰則がありません。
 「濃度規制」だけだと水や空気で薄めてしまえば無制限で、全体量の規制にはなりません。
 しかし、「環境基本法」が適用されることになった以上、放射性物質にも「総量規制」が必要です。
 大気汚染や水質汚濁の公害規制は、地域を指定して総量規制を行っており、違反には罰則を伴います。

 このように、原発事故災害を環境問題、公害問題すなわち原子力公害問題としてとらえ、すでにある法体系を活用して、
 放射性物質を規制する法整備を行い、罰則規定や損害賠償制度の仕組みを整えていく、それが「放射能汚染防止法」です。

 「放射能汚染防止法」は、今、既に福島原発事故で汚染されてしまった事例、例えば汚染土壌はもちろん、被害者の賠償や責任問題にも適用されます。
 このことについての以下の記述は、「放射能汚染防止法」の提唱者であり、法律の専門家である山本行雄弁護士から伺ったお話をまとめたものです。
 「放射能汚染防止法」が今回の原発事故に適用されることについては、「不法行為の民事賠償義務」と「公害被害者救済措置義務」この2点から考えます。
 「不法行為の民事賠償義務」は原子力公害では原賠法で賠償義務が認められています。ADRや原発訴訟がこれに当たります。
 一方で「放射能汚染防止法(=公害法)」の具体化として、公害被害者救済の法整備を行えば、不法行為による賠償に関係なく、福島の事故による被災者に対する公害保障ができます。

 過去の公害問題を振り返れば、被害と制度の関係性が浮き彫りになってきます。
 そして、本稿で述べた通り、放射能汚染、すなわち今回の原発事故は「原子力公害」です。

 公害問題に詳しい大阪市立大学大学院の除本理史教授は、著書「原発賠償を問う」(岩波ブックレット)の中で、かつての公害問題と福島原発事故では同様の問題が起きているとし、次のように書かれています。

 「(第二に)重要なのは、被害を引き起こした主体の責任に基づいて、補償・救済の仕組みをつくることである。
  補償・救済制度ができてはじめて、被害者自身も被害を受けていることを自覚する、というプロセスは公害問題でもみられた」
 (岩波ブックレットNo.866 除本理史「原発賠償を問う」、p.57)

 除本教授はこの項の冒頭に引用した毎日新聞の記事でも過去の公害問題を例に出し、制度の策定が、起きてしまった「公害」に適用されることをこのように述べられています。

 「07年に全面和解した東京大気汚染訴訟では、国や東京都などの負担による医療費助成制度が設けられ、因果関係の証明を条件とせずに、ぜんそく患者へ医療費支援を実施しました」
  https://mainichi.jp/articles/20170410/dde/012/040/003000c

 そして「放射能汚染防止法」について、同記事でこのように評価されています。

 「放射能汚染を想定した規制の策定は、安全神話が再びはびこるのを防ぐことにもつながります」

 「放射能汚染防止法」制定の大きな原動力となりうるのが、すでに明文化されている地方自治体の権限強化です。
 地方自治体には「上乗せ条例」と「横出し条例」という2つの条例制定権があります。
 この2つの条例制定権は、「大気汚染防止法」(4条1項、32条)と「水質汚濁防止法」(3条3項、29条)で認められています。
 「上乗せ条例」は、国より厳しい基準を定めることができる条例です。
 「横出し条例」は、国の規制対象外の事項や地域を規制することができる条例です。
 放射性物質が環境基本法の適用範囲となった現在、県などの地方自治体は放射性物質について条例で独自に規制できます。

 私が住む岡山県でも県条例化を目指しています。
 これはもちろん広島県でも可能で、地方から住民が波を起こしていくことが重要です。

 既存の「環境基本法」で既に定められている法体系を一本化し、「放射能汚染防止法」の法整備を行うことで、
 「原子力公害」である放射能汚染にはあるべき規制や罰則規定、補償制度が定められることとなり、
 既に経済性の面から破綻している原子力ビジネスにとっては、原発の再稼働が今まで以上に厳しいものとなるでしょう。

 市民の手で「放射能汚染防止法」を制定しましょう。
 これ以上、放射能汚染を広げないために。
 そして、2度と原発事故を起こさないために。

(上田 三起)

【参考文献】
○「原子力市民委員会」特別レポート2「核廃棄物管理・処分政策のあり方」
http://www.ccnejapan.com/20151225_CCNE_specialreport.pdf
○「制定しよう 放射能汚染防止法」(山本行雄著、ブイツーソリューション)
http://v2-solution.com/booklist/978-4-434-22736-3.html
○「あなたの隣の放射能汚染ゴミ」(まさのあつこ著、集英社新書)
http://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0871-b/
○「原発賠償を問う」(除本理史著、岩波ブックレットNo.866)
https://www.iwanami.co.jp/book/b254403.html
○「日本が”核のゴミ捨て場”になる日」(沢田嵐著、旬報社)
http://www.junposha.com/catalog/product_info.php/products_id/998
○政府が広域処理を進めたい本当の理由:あざらしサラダ
http://azarashi.exblog.jp/14911335/
○政府が広域処理を進めたい本当の理由(その2):あざらしサラダ
http://azarashi.exblog.jp/17041729/
○廃炉廃棄物の処理について:あざらしサラダ
http://azarashi.exblog.jp/20233822/
○「放射能のゴミをずさんに捨ててはダメ!河野益近さんに聴く放射性廃棄物問題」(編集発行:守田敏也 morita_sccre★yahoo.co.jp)※★をアットマークに変えて下さい
○「静岡放射能汚染測定室だより」から 河野益近「静岡に住む娘へ」(静岡放射能汚染測定室)
http://sokuteisitu.plumfield9905.jp/


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╋■┛ 伊方原発運転差止裁判の予定
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◆広島裁判
 仮処分(広島高等裁判所)
     抗告審 12月決定予定
 本 訴(広島地方裁判所)
     第8回口頭弁論期日 11月8日14:00~進行協議 14:30~口頭弁論
     第9回口頭弁論期日 2018年1月31日14:00~進行協議 14:30~口頭弁論

◆松山裁判
 仮処分(高松高等裁判所)
     抗告審第1回審尋期日 11月16日14:00~
 本 訴(松山地方裁判所)
     第19回口頭弁論期日 未定

◆大分裁判
 仮処分(大分地方裁判所)
     第9回審尋 10月11日(※第9回で終結予定)
 本 訴(大分地方裁判所)
     第6回口頭弁論期日 10月11日
     第7回口頭弁論期日 12月7日

◆山口裁判
 仮処分(山口地方裁判所岩国支部)
     第4回審尋 10月19日15:00~
     第5回審尋 12月15日15:00~
     第6回審尋 2018年2月8日10:30~終日
     第7回審尋 2018年4月19日15:00~17:00(※現在第7回で審尋終結予定)
 本 訴(山口地方裁判所岩国支部)
     10月19日までに提訴予定



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╋■┛ 日本地質学会2017愛媛
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 伊方原発沖約600メートルの海底を横断する地質学上の中央構造線こそが想定すべき震源断層だ、とする小松/早坂説についての2年目の学会での議論が行われます。

 小松/早坂説については、本応援団HP内の講演会・座談会「四国電力伊方原発:広島への危険性」案内ページ
 http://saiban.hiroshima-net.org/lecture/20161113.html
 を参照ください。

 「日本地質学会2017愛媛」
 開催期間:2017年9月16日~18日
 場  所:愛媛大学城北キャンパス

 9月17日の午後2時半~6時まで、第二会場グリーンホールにて
 「中央構造線と中央構造線活断層系」のセッションが開かれ、関連の研究発表が何本か予定されています。
 早坂康隆氏(広島大学大学院理学研究科准教授)は、このセッションの世話人の一人でもあります。

 詳しくは大会の特設webサイト https://confit.atlas.jp/guide/event/geosocjp124/top をご覧ください。

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╋■┛ 「放射能汚染防止法」制定学習会【尾道】
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 福島原発事故を起こした東電の経営者たちがなぜ罰せられないのか、被害者たちへの補償がうやむやなのか。
 放射性物質による汚染を公害として捉え、罰則や補償を明確にした「放射能汚染防止法」の制定についてみんなで学んでみよう、という学習会です。

 「放射能汚染防止法 制定学習会」
 日時:9月30日(土)14:00~16:30
 場所:尾道市中央図書館 2階大会議室(尾道市東久保町4-1 TEL:0848-37-4946)
 講師:「放射能汚染防止法」を制定する岡山の会
     事務局から高橋直己さん、上田三起さん
 主催:フクシマから考える一歩の会
 連絡:大住元(電話 090-5705-6491)

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╋■┛ STOP!!伊方原発 高松集会「原発は止める。私たちは止まらない」
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 STOP!!伊方原発 高松集会
 「原発は止める。私たちは止まらない」

 日時:2017年10月21日(土)13:00~
 場所:JR高松駅前広場
    15:00~四国電力本店前を通って琴電瓦町駅前までデモ行進
 主催:脱原発アクションin香川・原発さよなら四国ネットワーク
    グリーン市民ネットワーク高知・脱原発市民ネットワーク徳島

 ▽STOP!!伊方原発 高松集会webサイト
   https://kyoudoukoudou.wixsite.com/ikatahairo
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 昨年8月12日に、伊方原発3号機が多くの反対を無視して5年3ヶ月ぶりに再稼働されました。
 直前には熊本・大分群発地震もあり、これに関連する大地震発生も懸念されている中での暴挙でした。
 この地震は予想されていなかった地域での巨大な地震であったにもかかわらず、四国電力は伊方発電所の運転には「問題がない」と再稼働を強行したのです。

 伊方原発は、中央構造線の直上近くに位置するだけでなく、南海トラフ地震の震源域にも入っており「日本で一番危険な原発」と 安全審査をした原子力規制委の元委員長代理が「見直し」をすべきと警告しています。
 また伊方原発は佐田岬という日本一細長い岬の半島の付け根にあって、原発の奥には5000人近くの人が住んでおり、一度原発で事故が起きれば逃げることができません。
 誰かを犠牲にすることでしか成り立たない「便利さ」を享受するなどということが許されるはずがありません。

 電力会社も政府も一度再稼働してしまえば反対の声は消えていくと思っています。
 先日四国電力に要請にくるから対応するように申し入れに行くと、「再稼働前は対応が大変だったが、最近はどこも来ない」というような意味のことを言っていました。
 「私たちは止まらない」絶対に諦めないことを電力会社や政府にしっかりと思い知らせる必要があります。

 原発の問題はエネルギーの問題ではない。
 命の問題であるということをもう一度、原子力マフィアにも私たち自身も胸に刻まなければならないという思いから今回の集会を準備しています。

 30年前のチェルノブイリ原発事故の時には全国で原発反対の声が上がりました。
 四国でもチェルノブイリ事故と同じ出力調整実験が伊方原発で行われるということで大きな反対集会が行われました。
 その後東京でも2万人に及ぶ集会が行われたと聞いています。
 この運動は、2度行う予定だった出力調整実験を1回にし、その後出力調整は行われないという成果を勝ち取りました。
 しかしその後、多くの人の記憶からはだんだんとチェルノブイリ事故は消えていき、原発反対の声も小さくなっていきました。

 その結果が2011年3月11日の福島原発事故ではないでしょうか。
 私たち市民の声が小さくなれば電力会社は利益を優先して安全を平気で疎かにします。

 同じ想い。同じ後悔は決してしたくありません。
 伊方原発設置計画の時から50年間反対運動を闘い続けて来られた女性が昨年8月に伊方原発ゲート前で再起動のスイッチが押された知らせを聞いて、「なんで止まらんのや」と泣き崩れましした。
 「原発事故に現地はない」とも言われますがやはり数キロのところで日々巨富感を感じている人たちと、200キロ近く離れている私たち香川では同じではない。
 リスクは少なく、恩恵だけを享受している私たちにこそ原発を止める責任があるのではないでしょうか。
 四国電力本店のある高松で「原発NO!」の大きなうねりを作りたいと思っています。

 ぜひ多くの方々の参加をお願いいたします。

 (脱原発アクションin香川 名出真一)


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■ メルマガ編集後記

 311後の放射能汚染の問題が四国の片田舎にまでやって来た最初の事案は、震災がれきの焼却処理受け入れ問題だったと思います。
 たしか3年間という期限が区切られていたため、西日本では手を挙げるのが早かった北九州市や大阪市だけが受け入れたものの、愛媛県知事は結果的に手を挙げずに終わりました。
 というのも、愛媛でもいくつかの産廃処分場の事業者が食指を動かしている、と思われたこともあり、
 産廃処分場のできそうな地元では反対運動が活発に行われて、例えば久万高原町では町の環境条例の制定運動にまでつながってたりします。

 今回上田さんに書いていただいたクリアランスレベルの話というのは、処分場へ入れるのではなく、
 放射能を帯びた産業廃棄物をリサイクル資源として積極的に再生利用して、市中に出回らせようとするものなわけですから、
 それが311後に規制を緩和してしまえば、多くの人々への低線量被ばくを現実に引き起こすことになるわけで、これもまたあべこべバックフィットの一種のようですね。

 原発の周辺で働いていた人たちこそが、その規制緩和の異常さを一番よく知っていることと思います。
 本来なら循環型社会の理念というのは、リサイクル可能な資源だけを徹底的に多数回リサイクルし活用することで環境へのフットプリントを減らしていくということですから、
 放射能汚染はリサイクル可能なはずの資源を破壊したことになります。これも大きな損失だけれど、行政の側は損失であることを認められないのでしょう。

 過去には仮想的な原発事故時のリスクに過ぎなかった低線量被ばくの危険性が今日現実のものになったからには、本来必要なのは規制緩和ではなく規制強化のはずです。
 新たな法律制定に前向きに動いてしかるべきなのに、それが多くの住民や議員さんに受け入れられないのなら、
 そのバリアとなっているのは、新たに「放射能安全神話」が固まりつつあるからなのかもしれません。

(小倉 正)
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