被爆地ヒロシマが被曝を拒否する伊方原発運転差止広島裁判
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「ふるさと広島を守りたい」ヒロシマの被爆者と広島市民が、伊方原発からの放射能被曝を拒否し、広島地方裁判所に提訴しました


※2017年12月19日付で訂正しております。
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 伊方原発・広島裁判メールマガジン第26号 <広島高裁仮処分決定特集号>
 伊方3号仮処分:広島高裁抗告審決定(野々上決定)の歴史的意義
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2017年12月17日(日)発行
編集長:哲野イサク
編集員:綱崎健太
編集員:小倉 正
編集員:網野沙羅

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▽本日のトピック▽
 1.編集委員会からのひとこと(小倉正)
 2.広島高裁前「勝利宣言」―河合弘之弁護士
 3.伊方3号仮処分:広島高裁抗告審決定(野々山決定)の歴史的意義(哲野イサク)
 4.日本国憲法に忠実に従った野々上決定―抗告人はこう見る(綱崎健太)
 5.高裁決定は放射線被曝の害に正面から向き合わせる力を持つ(原田二三子)
 6.仮処分広島高裁抗告審決定の一日(小田眞由美)
 7.「大変嬉しく、誇りに思う」(森本道人)
 8.メルマガ編集後記(網野沙羅)
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<<12月13日広島高裁抗告審決定文・要旨および声明>>
▽決定文(A4版406枚)※当事者目録を除く
 http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/karishobun/20171213_kettei.pdf
▽決定要旨(A4版6枚)
 http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/karishobun/20171213_youshi.pdf
▽弁護団声明(A4版2枚)
 http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/karishobun/20171213_bengodan_seimei.pdf
▽抗告人・原告団声明(A4版3枚)
 http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/karishobun/20171216_koukoku_genkoku_seimei.pdf


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□  編集委員会からのひとこと
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 私も属している市民グループ(原発さよなら四国ネットワーク)では、
 この17日日曜日の昼前、松山のデパート伊予鉄高島屋前で、
 月一回定例の音楽を演奏しながらのアピールを行いました。

 チラシは広島裁判HPからメッセージを2つ借用し、
 裏面へは出来合いの県知事宛の愛媛県民署名を印刷して配布しつつ、
 その署名自体も担当者一人で集めました。
 すると40分で20名という記録的な署名が集まったのでした。
 握手を求めてくる人も居て驚いたとのこと。

 テレビや新聞で伊方原発が止められたことを知っていて、
 自分も行動に示せるのだと気が付いた人たちがそれだけいた、ということでしょう。

 さらに、通りすがりに自分も広島でのヒバクシャだ、という方が現れ、
 ご自分とご兄弟の経験を紹介しはじめたと後で聞きました。
 こんなドラマのようなことはいままでありませんでした。

 ちなみに、チラシに借用したメッセージは、
 被爆地ヒロシマ (伊方)原発を止める 、そして「過去は変えられないが未来は変えられる」でした。

 (小倉 正)


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□  2017年12月13日
■  広島高裁前「勝利宣言」―河合弘之弁護士
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(※この稿は当日勝利確定後、仮処分弁護団長・河合弘之弁護士が広島高裁前で、
  抗告人・原告団・支援者及び報道陣を前にしてスピーチした内容をテキスト起し
  一部抜粋したものです)

 勝った!みなさん、勝ちました!
 私たちの思いが通じました。瀬戸内海が守られます。

 ただし、ただしです。
 本案判決もあることだし、取り敢えず止めるのは平成30年(2018年)9月30日までということになっています。
 しかし、中身としては私たちの勝利。
 本案判決までとにかく止めろということで、大変重要な決定だと思います。
 本当に抗告人のみなさんの頑張り、それから支援のみなさんの頑張りのおかげだと思います。

 ここしばらく私たち脱原発の闘いは、敗訴がいくつか続きましたけれども、
 これで、しかも極めて重要な高裁決定で勝ったということは、
 極めて、極めて重要な歴史的な転換点だと思います。

 私が先ほど、これを、決定をもらう前に、決定文を受け取りに行く前、
 歴史的な決定になると思いますけれどもと言いましたけれども、その通りになったということですね。

 私たちはしかし、このまま、さらに闘いを続けていって
 日本中の原発を止めるという闘いを、さらに、さらに続けていかなくてはならないと思います。

 万一、伊方原発が事故を起こせば、瀬戸内海は死の海となります。
 その周辺に住んでいる、何千万の人たちの生活が根底から脅かされる。
 そういう事態を、とりあえず防ぐことができました。

 しかし私たちの闘いは、伊方原発だけの闘いではありません。
 日本中から全ての原発をなくしていく、その日まで、
 原爆と原発は同じだ、両方とも地球からなくしていくんだという闘いの、
 大きな一歩を刻めたということを確認して、お互いに喜びあいたいと思います。

 とりわけ、今日の決定の重要な意味は、
 世界初の被爆地である広島の高等裁判所で、このような決定が出たということです。

 ノーベル平和賞でICANが受賞しました。
 それも広島や長崎の方たちの、とりわけ原爆被爆者の方たちの、粘り強い闘いの成果です。

 そして、それは原爆も原発も同じ核による人類に対する惨禍だということで、
 私たちのこの闘いと、ICANの闘いが合流しているということを
 広島の地点で示せたことは、大変意義の大きいことだと思います。

 私たちは被爆者の方、そして原爆・核兵器と闘っている人たちと共に、
 原発もなくしていく、そういう闘いをこれからも力強く進めていきたいと思います。

 しかしまだまだ、日本から完全に原発をなくすこと、
 世界から核兵器をなくすことの闘いは、まだまだ先があります。
 これを重要な一歩として、自信を持ちながら、確信を持ちながら闘いを続けましょう。

 “We Shall Overcome Someday”という「俺たちはいつか必ず勝つんだ」という歌がありますけど、
 しかし私たちが勝つのは「いつか」ではない。
 “We Shall Overcome in the very near future”です。
 「近い将来に勝つんだ」、そのための大きな一歩を踏み出したんだということを
 お互い確認しあって喜びあいたいと思います。

 本当にお互いによかったですね。これからも頑張りましょうね。

 当然あちらは、不服申立をしてきます。
 この闘いも続きます。最高裁にいくかもしれません。
 私たちはこれを一層、今日の喜びと自信を固めて、さらに前に、手を繋いで、
 繋いだ手を離さないで、前に進みたいと思います。
 ありがとうございました。

 (大きな拍手)
 (河合弁護士はマイクをもって歌い始めた。そして高裁前での合唱となった。)

“ We shall overcome,
We shall overcome,
We shall overcome someday.
Oh! Deep in my heart,I do believe.
We shall overcome someday!”

  (大きな、大きな拍手)


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□  伊方3号仮処分
■  広島高裁抗告審決定(野々上決定)の歴史的意義
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 みなさんすでにご案内のように12月13日、伊方原発3号運転差止仮処分命令申立事件、
 広島高裁抗告審決定は「即時運転差止」を四国電力に命じました。


 “目の前をピンクのものがサッと横切った”
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 決定文書受け取りの場所は、広島裁判所南棟3階和解室でした。
 当日受け取りに中に入れたのは河合弘之弁護士と甫守一樹弁護士の2人のみ。
 代理人弁護士2人、抗告人3人、旗出人3人と決定要旨印刷要員1人は
 和解室前の廊下で待機せざるを得ませんでした。
 その上決定内容をいち早く報道しようと報道陣が群がって廊下に待機しています。

 午後1時28分、裁判所係官が河合弁護士と甫守弁護士の2人だけを和解室に招じ入れます。
 午後1時30分きっかりが決定文交付です。
 30分から数秒すぎたころ、和解室のドアが乱暴に開いて河合弁護士が飛び出してきます。
 この時の情景を、廊下で待機していた抗告人の綱崎健太は
 「何か目の前をピンクのものが凄いスピードでサッと横切っていった」と後で証言しています。

 「ピンクのもの」というのはもちろん河合弁護士が当日着ていたピンクのジャケットのことです。
 綱崎があっと気づいた時は、河合弁護士が階段を駆け下りようと踊り場に出、
 一刻も早く結果を本社や報道センターに連絡しようと報道陣が追いかける光景が目の前に繰り広げられていました。


 前代未聞の旗出光景
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 結果がわからない旗出人3人はただ呆然とその場に立ち尽くしました。
 ややあって、ゆったりと和解室から甫守弁護士が出てきました。
 抗告人の一人が「どうでした」と聞くと、甫守弁護士は実に落ち着き払って「ああ。勝ちましたよ」。
 その間5-6秒。
 旗出人3人はその言葉を聞き終わらないうちに高裁前での旗出へと飛び出していきました。
 詳細に打ち合わせた旗出の手順もなにもあったものではありません。
 なにもかもメチャクチャです。

 私はというと高裁前コーディネーターとして旗出、河合弁護士の「勝利宣言」(または「敗北宣言」)、
 報道陣との調整など手順を頭で反芻しながら高裁前に待機し、裁判所の玄関を見つめていました。
 というのは勝った場合は旗出人3人、負けた場合は旗出人2人、
 つまり3人飛び出してくれば勝ち、2人なら負けとわかっていたからです。

 ところが飛び出して来たのはなんと河合弁護士。
 それも凄いスピードの全力疾走でこちらにかけてくるではありませんか。
 河合弁護士に続いてこれも全力疾走で追いかける報道陣。
 こちらも一刻も早く結果をデスクやセンターに知らせようと必死です。
 そしてそれに続いて旗出人が飛び出して来ます。
 和解室前の出来事を全く知らない私はただただ呆気にとられるばかりです。

 こうして、全力疾走の仮処分弁護団長、それをこれも全力疾走で追いかける報道陣、
 その後をこれまた必死で追いかける旗出人、という
 前代未聞にして空前絶後の旗出風景が広島高裁前で繰り広げられたのです。
 そしてこの前代未聞の旗出風景は、実は今回高裁決定を象徴していたのです。
 しかしそのことがわかるのは決定文を読んだ後のことでした。


 実質争点は3つの野々上決定
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(注※ 決定文では○に入った番号やカタカナで記述されておりますが、
    メルマガでは表示されませんので以降全部、
    ( )内に番号・カタカナで代用しております。)

 野々上決定は実に精緻に、狡猾といっていいほど巧妙に組み立てられています。

▽決定文(A4版406頁)※当事者目録を除く
 http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/karishobun/20171213_kettei.pdf
▽決定要旨(A4版6頁)
 http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/karishobun/20171213_youshi.pdf

 決定要旨から今回決定の構成を見てみましょう。
 要旨は争点を大きく5点だ、と指摘しています。その5点とは、
  (1)司法審査の在り方
  (2)新規制基準の合理性に関する総論
  (3)新規制基準の合理性に関する各論
  (4)保全の必要性
  (5)担保金の額
 の5点です。(要旨1頁)

 しかし(4)と(5)は前段(1)・(2)・(3)の結論から必然的に導かれる話ですから、
 実質基本争点は3点ということになります。
 
 そして「(3) 新規制基準の合理性に関する各論」として次の諸点をあげています。

 (ア)基準地震動の策定の合理性、
 (イ)耐震設計における重要度分類の合理性、
 (ウ)使用済み燃料ピット等に係わる安全性、
 (エ)地すべりと液状化現象による危険性、
 (オ)制御棒挿入に係わる危険性、
 (カ)基準津波策定の合理性、
 (キ)火山事象の影響による危険性、
 (ク)シビアアクシデント対策の合理性、
 (ケ)テロ対策の合理性

 の9点です。
 そうして各論「(キ)火山事象の影響による危険性」以外の争点については

  「新規制基準は合理的であり、伊方原発が新規制基準に適合するとした
   原子力規制委員会の判断も合理的」(同2頁)

 として現行規制基準の合理性をほぼ全面的に認め、国、規制委、電力会社側の反論を封じています。

 仮処分事件における判断ですから、これら争点の1点でも「疑問あり」「合理性に欠ける」となれば、
 運転停止を命ずる根拠になります。
 いいかえれば抗告人側(住民側)はこれら争点のうち1点突破すれば「勝ち」となり、
 逆に相手方(四国電力側)は、これら争点をすべてクリアしなくてはならないことになります。


 各論では火山事象だけを問題とした野々上決定
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 野々上決定は、明らかに1点突破主義をとり、
 「(キ)火山事象の影響による危険性」だけを問題にします。
 そして規制委自身が定めた「火山ガイド」を逆手にとって論理的にねじ伏せていきます。

 まず野々上決定は、原発の立地評価に関して規制委自身が定めた「火山ガイド」(安全性審査の内規)
 とはなにかを次のように明確にします。

 (1)半径160kmの範囲に位置する火山で(この場合は九州の阿蘇カルデラ)、
    40年間の運転期間中、活動可能性が十分小さいかどうかを判断する。
 (2)活動可能性が十分小さいと判断できない時は、噴火規模を推定する。
 (3)噴火規模を推定できない場合は、当該火山の過去最大の噴火規模を想定し、
    設計対応不可能な火山事象(火砕流)が原発(この場合は伊方原発)に到達する
    可能性が十分小さいかどうかを評価する。
 (4)火砕流が原発(この場合は伊方原発)に到達する可能性が十分小さいと評価できない時は
    伊方原発の立地は不適となる。

 この火山ガイドの意味するところは明白です。
 要するに阿蘇カルデラ(伊方原発から約130km)がいつ活動するか(1)、
 またその噴火規模を推定する(2)などは現在の火山に関する科学の及ぶところではありませんから、
 結局阿蘇カルデラの過去最大の噴火で火砕流が伊方原発に到達した可能性があるかないか(3)だけが争点となります。
 もっと具体的にいうと阿蘇カルデラの過去最大の噴火(約9万年前の阿蘇4噴火)の時に、
 火砕流が伊方原発に到達した可能性が十分小さいかどうかだけが問題になっていきます。
 
 断っておきますが野々上決定は「火山ガイド」が誤っているとか不合理だとかといっているのではありません。
 むしろ規制規則(内規)である「火山ガイド」を厳密に「伊方原発と阿蘇カルデラの関係」に適用したら
 どうなるかを論じているに過ぎません。
 
 この場合「到達した可能性が十分大きい」ことを疎明(証明よりも弱い立証)する必要はありません。
 「到達した可能性が十分小さい」ことを疎明すればこと足ります。
 その疎明責任は当然事業者側、つまり四国電力にあります。
 実に簡単なことです。
 しかし四国電力はこの疎明に失敗しました。
 
 要旨から引用します。

 「しかし四国電力が行った伊方原発敷地周辺の地質調査や火砕流シミュレーションからは、
  阿蘇4噴火の火砕流が伊方原発敷地内に到達した可能性が十分小さいと評価することは
  できないから(4)により伊方原発の立地は不適」(同3頁から4頁)
 
 つまり伊方という土地に原発を建設することは、規制委の規則(内規)から見て「立地不適」と断じています。
 運転、再稼働以前の問題です。
 
 まことに規制基準の合理性を認め、それを逆手にとった巧緻な決定理由といえましょう。
 後のことは全部付け足りです。
 
 ただし以上は今回決定のテクニカルな話。
 もっとも重要で、今回決定の最大の価値は、前記「実質3つの争点」のうちの
 「(1)司法審査の在り方」に関する判断の中に隠れています。


 1丁目1番地の争点は「司法審査の在り方」
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 それでは争点のうちの1丁目1番地、「司法審査の在り方」は野々上決定ではどう扱われているのでしょうか? 

 要旨はその2頁で、

  「抗告人ら所在地と伊方原発との距離(広島市居住者につき約100km、松山市居住者につき約60km)に照らすと、
   抗告人らは、伊方原発の安全性の欠如に起因して生ずる放射性物質が周辺の環境に放出されるような事故によって
   その生命身体に直接的かつ重大な被害を受ける地域に居住する者ないし被害が及ぶ蓋然性が想定できる地域に居住する者といえる。」

 と述べ、生命身体に直接的かつ重大な被害を与える原因物質が放射性物質であることを明確に指摘しています。
 
 この記述の背景には在広16年、野々上友之裁判長の、広島原爆の放射能被害、
 低線量被曝被害への高い見識と深い洞察が基盤として横たわっているとみるのは私の読み過ぎでしょうか?
 
 (なお、同頁で「四国電力がこの主張立証(疎明)を尽くさない場合には、
  具体的危険の存在が推定されるべきである。」とも述べています。
  四国電力はこの疎明に失敗しました。)


 「具体的危険の不存在(2)」とは?
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 さらに野々上決定は本文で次のように述べています。(<>は筆者注)

  「そして、基準の不合理性又は基準適合判断の不合理性が事実上推定される場合は
   <この場合は直接的には火山事象問題を指す>、被告事業者<四国電力>は、それにもかかわらず、
   当該発電用原子炉施設の運転等によって放射性物質が周辺環境に放出され、
   その放射線被曝により当該原告の生命、身体に直接的かつ重大な被害を受ける具体的危険が存在しないこと
   (以下『具体的危険の不存在?』という。)を主張立証(保全処分の申立では主張疎明)しなければならない
   と解すべきである。」(決定文178頁)

 こうして、「具体的危険」の実体は放射線被曝被害であることを明確にし、
 さらに「具体的危険の不存在(2)」の主張疎明を全面的に四国電力に負わせています。
 
 四国電力から見れば不意打ちを食らったようなものでしょう。
 というのは60km圏松山市在住の抗告人にしても100km圏広島市在住の抗告人にしても、
 伊方原発の苛酷事故で100mSv以上の中線量・高線量被曝を被るとは考えられず、
 被る放射線被曝被害は100mSv未満、広島市住民に至っては10mSV以下の放射線被曝被害が想定されます。
 
 野々上決定は事実上、100mSv未満の低線量被曝被害が人体に害がないことを疎明する責任を
 四国電力に負わせたことになり、100mSv以下の放射線被曝は人体に害がないとする
 「放射能安全神話」ないし「100mSv閾値論」に安住してきた四国電力には全く準備のなかった新たな争点だからです。
 
  「本件の争点は、以上のとおり、本件原子炉の運転により抗告人らの生命、身体等の人格権が侵害される
   具体的危険があるかどうかであり、その危険がある場合には、相手方(四国電力)が
   本件原子炉の運転を継続することは違法であって、原子力発電の必要性や公益性が高いことを理由として、
   本件原子炉の運転を継続することは許されないというべきである」(同179頁)

 と述べ、これを総合するに、野々上決定は60km圏、100km圏に住む住民が被る低線量被曝被害が、
 生命・身体など人格権を侵害していることを強く示唆し、
 日本国憲法が保障する人格権を侵すような原子炉の運転は違法である、とはっきり言い切っています。

 この野々上決定をもう少し先に進めると、
 果たして低線量被曝被害が人体にどのような影響を与え、
 それは人格権を侵害するのかどうかという「低線量被曝危険論」が、
 本格的に原発裁判の主要争点となってくる地平が見通せます。

 まことに野々上決定は広島原爆の低線量被曝被害に永年苦しんできた
 「被爆地ヒロシマ」の高等裁判所にふさわしい決定であり、
 福島原発事故後の低線量被曝被害に苦しみ、
 あまつさえ慢性被曝環境に住み続けることを強制、勧奨されている多くの市民にとって、
 意義深い、歴史的な決定ということができましょう。

 さらにこの野々上決定は、全国で原発再稼働に立ち上がっている
 多くの市民に対する力強いメッセージとなっています。


 私たちを守っているのは日本国憲法
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 広島高等裁判所の抗告審を担当した裁判体(野々上友之裁判長、太田雅也右陪席=職務代行、山本正道左陪席)は、
 両度にわたる求釈明、理非を尽くした審尋ぶり、火山問題などに代表されるように、
 緻密かつ独創的な論理展開、用意周到なる裁判計画など精密な審理を展開し、結論として正しい決定を導き出しました。
 昨今司法の独立について大きな疑念が各方面から指摘される風潮のなかで、
 3人の裁判官は「司法の独立」の旗を守り抜いたといえましょう。

 さらに特筆すべきは、こうした精密な審理を展開し正しい決定を導くことによって、
 「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」とする
 日本国憲法第76条第3項の規定を、見事なまでに現実化、肉化したことです。
 今回の私たちの勝利は、単に伊方原発3号機の即時運転差止を勝ち取ったというに止まらず、
 現行日本国憲法を基盤とした日本の民主主義の勝利ということができます。
 
 私たちが忘れてはならないのは、
 日本市民一人一人個々にもっている人格権が最高の価値をもつと謳う日本国憲法の存在です。
 こうしてみると今回私たちが曲がりなりにも勝利したのは、日本国憲法という後ろ盾があったからであり、
 もし日本国憲法が変質してしまえば、たとえば「人格権」より「原子力発電の必要性や公益性が高いこと」の価値の方が高い、
 と変えられてしまったらこのような民主主義の勝利はありえなかったことに思いを致すべきでしょう。

(哲野イサク)


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□  日本国憲法に忠実に従った野々上決定―抗告人はこう見る
■                     (綱崎健太)
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 100km圏での被害の蓋然性
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 マスコミ各社の報道を見ていますと、広島高裁野々上決定の注目点として一様に「火山事象」を取り上げています。
 それはそれで当然のことなのですが、私は、広島の地で被曝者認定について争った被爆者集団訴訟を経験し、
 またその訴訟で初めて国の責任を認めた野々上裁判長ならではの視点に注目せずにはいられません。
 
  「抗告人らのうちの松山市居住者1名は本件原子炉施設の安全性の欠如に起因して生じる
   放射性物質が周辺の環境に放出されるような事故によってその生命、身体に直接的かつ
   重大な被害を受ける地域に居住する者に当たるといってよく、他の抗告人ら3名(広島市居住者)
   についても上記放射性物質の放出によりその生命、身体に直接的かつ重大な被害の及ぶ蓋然性が
   想定できる地域に居住する者といえる」(決定文179頁)
 
 野々上裁判長ははっきりと、放射性物質が「生命、身体に直接的かつ重大な被害を」与えると認定しています。
 それも、松山市はもちろん、およそ100km離れた広島市でもその蓋然性が想定できると述べています。

 決定文は他の裁判で証拠として提出されます。
 100kmでの被害の蓋然性が認められたことは、現在起こされている
 松山(仮処分は現在高松高裁抗告審)・大分・山口の裁判にも大きな影響を与えるでしょう。

 また、伊方原発から約100km離れた広島市での被害の蓋然性が司法の場で認められたことは、
 被曝を拒否し、100mSv以下の被曝線量では健康影響は確認されないとする
 放射能安全神話と戦う私たちにとって、殊更に大きな意味を持ちます。


 日本国憲法に忠実に従った野々上決定
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 火山の破局的噴火のリスクを無視することは社会通念上許容されるとした
 原審広島地裁吉岡決定に対し、それに一定の理解を示しつつも、
 そもそも立地不適であるという原則を貫いた点が、
 広島高裁野々上決定が運転差止に至った決定打でした。
 しかしこれは、火山による立地不適という新規制基準に則っただけではない、
 もっと別の意味を私は感じてしまいます。

 広島地裁吉岡決定は社会通念論によって新規制基準を限定解釈し骨抜きにしましたが、
 広島高裁野々上決定は、決して社会通念を最大の拠り所としていません。
 
 それは、
  「すべて国民は、個人として尊重される。
   生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、
   立法その他の国政上で、最大の尊重を必要とする。」
 という日本国憲法第13条などに見られる個人の人権を尊重する日本国憲法の精神に忠実に従った、
 野々上裁判長の司法人としての真摯な態度の表れではないかと私は感じずにはいられません。
 
 日々憲法違反が繰り返される今日の日本において、
 広島高裁野々上決定の存在意義は非常に大きいのではないでしょうか。
 
 (筆者は4人の抗告人の一人)


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□  高裁決定は放射線被曝の害に正面から向き合わせる力を持つ
■                     (原田二三子)
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 広島高裁前で勝利を告げる声、「勝った!」。
 それが河合弘之弁護士の声だったと分かっていたかいなかったか、今でもよく憶えていない。
 ともかくその宣言が耳に入ったとき、思わず「やったー」と叫んだ。
 
 これまで生きてきた甲斐があったと思った。
 
 勇気ある決定を下した野々上友之裁判長、言葉では言い表せないほどの努力傾け
 裁判をここまで持ってきた弁護団に、力いっぱいの拍手を送らずにはいられなかった。
 
 そして思えば、この瞬間に同じ喜びを共有していた人たちが、日本じゅうに多数いたのだ。
 原発の運転差止を求めるのは、今や多数の意思なのだ。
 
 このことを思うと、多数の意思の大きな力を感じるとともに、
 私たちの裁判運動がこの多数の意思と繋がっていること、
 また繋がっていなければならないことを強く感じる。
 多数の意思と繋がっている応援団・原告団のあり方とはどういうものか、
 よく考えていかなければいけないと思う。
 
 広島高裁の決定は、伊方原発から約100kmに居住する抗告人についても、
 原発からの「放射性物質の放出によりその生命・身体に直接的かつ
 重大な被害の及ぶ蓋然性が想定できる地域に居住する者といえる」と、明確に述べている。
 
 このことの持つ意味は大きい。
 放射線被曝の害を、被爆地広島でこの決定を下した裁判体はよく理解しているのだ。
 この決定文の一文は、広く原発の風下に居住する人たちを立ち上がらせ、
 多数の人たちを放射線被曝の害に正面から向き合わせる力を持っている。

 (筆者は伊方原発広島裁判 応援団代表)


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□  仮処分広島高裁抗告審決定の一日
■          (小田眞由美)
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 灰白色の雲が空を覆う寒い一日が始った。

 心に残っているのは、広島弁護士会館に13時前に集まられた皆様に、
 寄せ書き横断幕へ一言書き入れるようお願いし、
 どなたも躊躇することなく書き入れてくださったことだ。
 これまでお見かけしたことはないが、とても嬉しそうに書いて下さった女性もいらして、
 人は自分を表現する機会を求めているのかもしれないと感じた。
 
 高松、松山、山口、福井、大分、大阪、滋賀・・・実に様々な場所から皆さんおいで下さった。
 広島の市民運動グループに関わる方々もいらしていた。
 福井からは大飯原発訴訟弁護団長の島田広先生も駆けつけられ、
 広島弁護士会館3階大ホールに集まった抗告人や支援者に対して、
 広島高裁へ向けて出発号令をかけていただいた。
 
地裁前の乗り込み行進。
 抗告人、弁護団、原告団、支援者、他地区、他団体、関心ある人々が、
 寒い裁判所前に総勢110名も集まった。
 いつもと違う多彩なムードがありつつも落ち着いた行進になった。

 「核と人類は共存できない」と謳う「寄せ書き横断幕」には
 たくさんの人々の言葉が書き込まれている。
 高裁前行進出発地点に現れた仮処分弁護団長の河合弘之先生が、一目みるなり、
 「この旗が一番大事だ!他の幟や旗で隠してはならない!」と指摘。
 「核と人類は共存できない」のメッセージが
 テレビカメラを通じて日本全国に届けられるように行進をはじめた。
 
 行進終了、決定文受け取りグループが高裁前を出発して、
 決定結果がその河合先生によって裁判所前に集った人々や報道陣に、
 口頭で告げられるまで約15分。
 旗出人の私が、河合先生を追いかけるようにして高裁前に戻った時には、
 そこには既に喜びが溢れていた。
 
 「勝った!」
 
 「歴史的決定だ」とする河合先生の講評を聞きながら、
 日本が一歩だけ民主的で自由な国に近づいたような気がした。
 
 私自身はこの裁判を通した運動の全体が見えないままに
 追われるように目先のことだけを片付けることに精一杯の不本意な状態で、
 決定日を迎えたが、こうなることは分かっていたように感じられ、
 裁判所前でただただ喜びを共有するだけになった。

 弁護士会館に戻ってから記者会見報告会の開始まで30分以上の待ち時間が発生した。
 が、その間には、ニュースで見て慌てて駆けつけた男性もあった。
 とても感動されているのが伝わってきた。
 報道関係者も70名程度が集った。
  
 来場していた2人の知人に応援団に入ることを提案したところ、
 2人ともすんなりと了解。会場には祝勝ムードが漂っていた。

 記者会見の途中、帰路への時刻が来てしまった松山から来た女性が、
 広島だからできたのだ、松山は雰囲気が違うとおっしゃったことも印象深い。
 
 しかし、次は必ず本家本元の松山でも住民側が勝訴するのだ。
 今回の広島高裁決定が必ず生かされるよう、私たちがまず動かなければいけない。
 あの日、喜んだすべての人たちが、
 その喜びを手にするために何をすべきかを知り行動できるように。
 決定の日の皆の笑顔を報酬に、これからも全力投球し続けたい。

 (筆者は原告団事務局長、当日3人の旗出人の一人)


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□  「大変嬉しく、誇りに思う」
■          (森本道人)
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 2011年3月11日の福島原発事故を機に原発の恐ろしさに気がつかされ、
 故郷や家族の絆を奪った原発を許す事ができず、
 原発をなくしたいと思い、自然と反原発運動に参加するようになりました。

 各地で原発反対のデモが起こり、原発反対の声が盛り上がり、
 すぐにこの国から原発がなくなると思っていたがそんなに甘くはありませんでした。
 世論を変え、選挙で勝たなければ原発は止まらないと考えていました。
 そんな中での福井地裁の差止め裁判は、大変嬉しいニュースであり、画期的な勝利でした。
 
 自国の事故を収束していないのに再稼働を進める政府、
 原子力規制委員会に絶望を感じ、心が折れそうになる時期もありました。
 私が反原発運動に参加してからも、敗北の連続であり、
 目に見える形では成果を感じることはできませんでした。

 そんな中で原発、放射線について勉強し、専門家でない私が学んでも意味がないのでは
 と思った時期もあったが無駄ではなかったと思います。
 私はECRR、ICRP勉強会、広島2人デモの資料で多くを学ばせて頂きました。
 これらの資料は、放射線被曝や原発について様々な方向からアプローチ、
 分析されており大きな武器(財産)になっていると思います。

 当初、この差止め裁判に否定な人もいたが、
 この判決当日にはそんな人たちも集まってくれていました。
 原告の人数が物語るように信頼を得て、増えていったのではないかと思います。
 同じ志を持つ各市民グループと協力し合い、尊重し合い、
 緩やかな繋がりを持っていくことが大切と考えます。
 
 また、この好機にこの裁判を知ってもらい原告、応援団を増やし、
 資金力強化を図るチャンスと考えます。

 本訴原告の1人として、伊方原発を止めることができたのは大変嬉しく、誇りに思います。
 私が原発を止めたいと思って活動してきて、初めて勝利を感じることができました。
 しかし目的は、単に伊方原発を停めることではなく、すべての原発をなくすこと。
 今回は大きな勝利には違いがありませんが、これに満足することなく、
 また歩みを止めることなく各差止め裁判においても
 1つでも勝利を重ねたいと思います。
 そのため先ずは伊方原発の息の根を止めること、これが大切だと思います。

 事務局、弁護団の方々を知っているだけにこれまでの地道な活動に心より感謝致します。
 ご苦労が報われ、本当に良かった!

 (筆者は本訴原告。当日旗出人3人のうちの1人)


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◆編集後記

 広島高裁前での河合先生の「勝利宣言」のあと、
 スピーチに触発されたようにある女性が歌を歌い始め、
 河合先生がそれにすぐ続き、自然に高裁前の大合唱となりました。
 私には初めての曲で、まったく知りませんでした。

 その曲は“We Shall Overcome.”

 調べると20世紀の初頭、黒人の牧師がゴスペルソングとして作曲し、
 1960年代、燃え上がった公民権運動を闘った人たちの間で歌われ、
 ピート・シーガーや、ジョ-ン・バエズなどの歌で有名だったそうです。
 この曲は60年代から70年代にかけて日本でも反戦・平和・社会運動を
 闘った人たちの間で広く歌われたと知りました。

 原発・被曝問題の根幹は人格権問題です。
 3人の裁判官は司法・裁判官の独立、憲法76条第3項を現実のものとし、決定を書いてくれました。
 今度は私たちが第12条で謳う国民の不断の努力を発揮し、私たち一人一人の人格権を守り勝ち取る番です。
 いま再び、私たちにふさわしい曲かもしれません。

 (網野沙羅)



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伊方原発運転差止広島裁判
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