被爆地ヒロシマが被曝を拒否する伊方原発運転差止広島裁判
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「ふるさと広島を守りたい」ヒロシマの被爆者と広島市民が、伊方原発からの放射能被曝を拒否し、広島地方裁判所に提訴しました

第14回口頭弁論 2019年2月13日


2019年2月13日、広島地裁にて第14回口頭弁論が行われました。この日、第5陣提訴が併合され、原告は276人となりました。
この日の原告側の主張は、準備書面21と準備書面22の2つの準備書面に示されています。準備書面21は「原発に求められる安全性2」(四国電力側の反論に対する再反論)、準備書面22は「避難計画」です。
この日はまた、第5陣提訴の併合に伴い新たに原告となった福島原発事故避難者、久保山康代さんの意見陳述も行われました。
第14回口頭弁論期日案内チラシのタイトルを原告団は、「放射能避難は生命健康財産の侵害」としました。

▼御案内チラシ


第5陣原告を先頭に乗り込み行進

13:30から、いつものように乗込み行進を開始しました。
先頭は3名の第5陣原告と原告団長の堀江壯さんそして「原発はごめんだヒロシマ市民の会」代表の木原省治さんです。
約30名の原告と支援の人たちが行進に参加しました。



先頭には「被爆地ヒロシマが 被曝を拒否する」の横断幕。
そして「原発は 悪の塊 愚の象徴」の大旗も掲げられています。
地裁玄関でボディチェックを受け、中に入ります。


口頭弁論で福島原発事故避難者原告が意見陳述

14:00から進行協議、そして口頭弁論は14:30から始まりました。
傍聴席は満席でした。四国電力側の人が10名くらい、報道関係の人が10名弱、あとは原告側の傍聴者で、乗り込み行進には参加していなかった人の姿も多く見られました。
裁判長は高島義行裁判官、右陪席は大嶺崇裁判官、左陪席は岡村祐衣裁判官に変わって、今回から塚本友樹裁判官になりました。
はじめに原告の意見陳述が認められました。

▽第14回口頭弁論期日原告意見陳述要旨
原告意見陳述書 久保山康代 A4版4枚

福島原発事故の放射能から家族を守るために千葉県白井市から香川県高松市に避難した第5陣原告の久保山康代さんは、福島第一原発から200kmの千葉県白井市で子どもを放射能から守ることがいかに困難だったかということ、そして、国や電力会社や地方行政が住民を放射能から守る手立てをまったく持たなかったことを切々と訴え、日本国憲法に基づく賢明な判断を裁判体に求めました。
福島第一原発から200kmの地点でどのようなことが起こったのかを知ることは、伊方原発から100kmの広島市が疑いもなく伊方原発の被害地元であることを、あらためて広島市民に意識させました。
四国電力側の弁護士や傍聴者もじっと原告の意見陳述に聞き入っているように見えたのが印象的でした。

意見陳述終了後、事件番号が読み上げられ、裁判長が原告側、被告側双方の主張する書面、今後の書面の提出予定や口頭弁論の日程を確認した後、口頭弁論は終了しました。


弁護士会館にて記者会見・報告会

口頭弁論終了後、原告や傍聴に参加した人たちは広島弁護士会館3階ホールに移動しました。



会場には、寄せ書き横断幕や、南海トラフ巨大地震発生時の広島市の被害予測や「原発がないと電気が足りないってホント?」をテーマとしたパネル、


「原発の発電容量は、日本の発電容量のうちどれくらいでしょうか?」という街頭アンケートの結果などが展示されています。

原発の発電容量は実際には日本の発電容量の15%以下ですが、原告団が2月11日に広島市の本通りで行った街頭アンケートでは、3択で「50%くらい」と答えた人が28%もあり、「30%くらい」と答えた人が43%、「15%以下」と正解した人は29%だったことが紹介されました。

15:10から記者会見・報告会を開始しました。

(向かって左から)原告団副団長の伊藤正雄さん、原告団長の堀江壯さん、第5陣原告の久保山康代さん、胡田敢弁護士、橋本貴司弁護士、村上朋矢弁護士、松岡幸輝弁護士が並んだステージ上の机には「審査無き 避難計画 国家詐欺」の大横断幕が張られています。

はじめに、胡田弁護士からこの日の進行協議と口頭弁論についての全体報告が行われ、続いて久保山さんが再度この場で意見陳述書を読み上げました。


ところで、この日の進行協議において四国電力側から、毎回原告側からの意見陳述が行われることに対して疑問が呈されたということです。
これをどう受け止めればよいのかという司会者の問いかけに対して、松岡弁護士は「四国電力側は、意見陳述をなかなか認めず原告側に厳しかった前の裁判体に比べて、現在の裁判体が意見陳述を容易に認めることが不満なのではないか」、胡田弁護士は「四電側の弁護士は、原告側の意見陳述を聞いていてちょっとつらいんだろうなと思った。傍聴席で聞いている四電社員の中には何かを感じる人もいるだろうから」と感想を述べられました。
続いて、胡田弁護士による準備書面の解説です。

▽準備書面21
準備書面21「原発に求められる安全性2」 A4版24枚

(解説要約)

準備書面21は、準備書面20で主張した原発に求められる安全性に対する被告側反論に対する再反論です。

前回原告側が主張したことは、そもそも必要性のないものである原発(確かに電気は生むが、他の発電施設に比べて経済的にも供給の安定性の点からも有利ではない。
環境を汚染する危険があり、廃棄物は処理できないという大きなマイナスがある)に対しては、とことん厳格な審査をするべきであるということです。
平成4年の最高裁判決は、専門家が規制の基準を作り、専門家がその基準に適合しているかどうかを審査するというシステムを採るのは、放射能災害が万が一にも起こってはならないからだ、としています。
この最高裁判決は、最新の知見において絶対的安全を要求しているものですから、科学的に否定できないリスクがある以上は、それが少数説であっても採用して安全性を判断しなければならないということを主張しています。

これに対して被告側は正面からは答えず、最高裁判決ではなく、高裁の判決文を引用しながら、通説的な見解で安全性は判断すればいいのだという論を展開して来ました。
また、原発の経済性や供給の安定性についてはまったく反論しないで、長い時間をかけて権威ある組織から人を集めて作られた今の新規制基準や原子力規制委員会はすばらしいものだから原子力規制委員会の判断に誤りがあるはずがないという趣旨の反論をして来ました。

これに対して準備書面21では、まず、被告側の主張の基本的な組み立てがおかしいのではないかと言っています。
そして、原発で一旦事故が起こったらどんな大きな被害が発生するのか――ひどい汚染があったこと、多くの方々が亡くなったり、健康被害に遭っていること――を書いています。
こういう被害をもたらす原発の安全性とはどうあるべきなのかをもう一度問い直しています。
そして、三条委員会であることから独立性が強くその判断に間違いがないと四国電力側が主張する原子力規制委員会について、委員長以下の各委員の経歴を示しています。
ほとんどが原子力村の出身者です。原子力規制委員会を支える事務局の原子力規制庁もまた、昔から原子力行政に携わってきた人たちで構成されています。
初代の原子力規制委員会委員長代理で地震の専門家の島崎邦彦氏が、委員をやめた後で、今の基準地震動の算定のしかたでは大変な過小評価になる危険があると発表しました。
この島崎氏の意見を原子力規制委員会は採用せず、規制基準を変えることはしませんでしたが、この時規制委員会には地震の専門家は一人もいませんでした。
では誰が規制基準を変えないという判断をしたのかというと、事務局の原子力規制庁が考えたに違いないのです。
このような事実を示し、原子力村の人たちの手になる新規制基準や原子力規制委員会の公正・中立に疑問を投げかけています。
そして、あるべき安全審査においては、科学的に否定しきれないリスクがある以上は、認めてはいけない、許可してはいけないという形で結んでいます。

▽準備書面22
準備書面22「避難計画」 A4版30枚

(解説要約)

原発事故防護体制の国際標準

深層防護という考え方があります。深層防護とは「人や環境と危険な放射性物質との間にいくつかの層を設け、層ごとにリスクを消滅ないし減少させる」という考え方です。
現在、世界の潮流は「5層防護」です。スリーマイル島原発事故やチェルノブイリ原発事故の後、IAEA(国際原子力機関)は、過酷事故の発生は避けられないという認識の下、5層の防護体制の体系化を図りました。

第1層の防護目的は、そもそも異常運転を起こさせないこと。
第2層の防護目的は、異常が起こったとしてもそれを事故に発展させないこと。
第3層の防護目的は、事故が起こったとしても炉心損傷などの過酷事故に発展させないこと。
第4層の防護目的は、過酷事故に発展したとしても格納容器破損に至らせないこと。
そして第5層の防護目的は、放射性物質が外部に放出されてもその影響を最小限度にすることです。
避難計画は深層防護の第5層の手段です。

福島原発事故後、日本も「5層の防護」にわが国では従前「3層防護」で、第4層、第5層がありませんでした。「安全神話」ゆえです。
現実的で実効性の高い避難計画がなかったために、福島では多くの悲劇が起きています。
「双葉病院事件」は、避難指示が出されてから3日か4日救助がなくて、患者さん50人が亡くなって1人が行方不明という悲劇です。
避難指示のために子どもたちが親を救助しに行けなくてご両親が亡くなるという事件も発生しています。
福島原発事故の後、やっとわが国も「5層防護」になりました。

避難計画の法的な根拠となるのは、「災害対策基本法」と「原子力災害対策特別措置法」です。
放射能災害に対する避難計画は、「原子力災害対策特別措置法」に基づいて原子力規制委員会が定める「原子力災害対策指針」に従って、都道府県防災会議と市町村防災会議が作成することになります。
「原子力災害対策指針」は、原発から概ね半径5km以内を「予防的防護措置を準備する区域(PAZ)」、原発から概ね半径30km以内を「緊急時防護措置を準備する区域(UPZ)」と定め、避難計画作成を求めています。
これら原発から概ね半径30km以内の区域が「原子力災害対策重点区域」とされています。
しかし、30km以遠の地域では、放射能防護措置が必要になる事態が当然発生し得るにもかかわらず、避難計画は作成されていません。
広島市も広島県も避難計画を作っていません。
広島県は作る気持ちはあるのですが、国から何の指示もないので作れないのです。

審査無き避難計画

では、30km圏自治体の避難計画はどのようにして作られるのでしょうか?

原子力事業者は原発の運転に当たって「原子力事業者防災業務計画」の作成を義務づけられています。
この防災業務計画は、30km圏自治体が作る避難計画と整合していなければなりません。
したがって原子力規制委員会の適合性審査に合格していても30km圏自治体の避難計画が出来ていないと、原子力事業者は「防災業務計画」を完成させることができず、原発の再稼働をすることができません。
これが、30km圏自治体に対して避難計画を早く作れと国と電力会社が非常に強い圧力をかける理由です。

避難計画はいささかやっつけ仕事的に作られています。
内閣府原子力災害対策担当室が「地域防災計画(原子力災害対策編)作成マニュアル」を作成し、ここの空欄に必要事項を記入して避難計画にするという方法です。
そして出来上がった避難計画は、伊方原発の避難計画の場合だと伊方地域原子力防災協議会で確認をして、内閣府に送られて、了承をされてそれで完成ということです。
伊方原発の避難計画については平成27年の10月6日にわずか16分の会議(内閣府の第5回原子力防災会議)で了承をされています。
議事録によると、出席者は安倍晋三以下ほとんど政治家です。
こんな形で了承されてそれで伊方を動かせとなるわけです。

つまり、避難計画は審査がされません。
「5層防護」の第1層~4層については新規指基準に従って規制委員会がチェックします。
ところが避難計画については、そういう審査システムがありません。
市町村及び県が内閣府の指導の下に避難計画を作ると、それがノーチェックで避難計画ができましたということになるわけです。

アメリカは、避難計画の適合性審査を厳格に実施しています。
アメリカでは、第1層~4層については米原子力規制委員会がチェックしますが、米原子力規制委員会が専門知識や技術を持たない第5層の避難計画については、連邦緊急事態管理庁がチェックをしています。
アメリカの避難計画の適合性審査は非常に厳格で、ニューヨークから100kmのロングアイランドに建設されたショアハム原発は、建物や中身は全部完成したにもかかわらず、避難計画が非常に厳しくて、結局稼働に至らず廃炉になりました。
しかも、わが国の避難計画というのは、福島原発事故並みの放射性物質の放出を前提にしているのです。
あれだけひどい事故なのだからどれほどの放射能が出たのかと思うかもしれませんが、実際には原発にある放射性物質の極めてわずかな部分しか放出されていません。
ヨウ素で2.78%、セシウムで2.13%、くらいの話なのです。
そんなわずかな放射性物質の放出であれだけの事故になった。
これがもし10%出ていたら、20%出ていたら、あるいは30%出ていたらとんでもないことになるわけです。

ところが、わが国の避難計画というのは福島原発事故並みの放射性物質の放出という前提で立てられています。
100km離れている広島の場合、1週間の被曝線量が大体4.3mSvくらいだ、したがってまあそう慌てなさんなという話になるのですが、これは福島原発事故並みの放射性物質の放出だからそうなるのであって、もしこれが20%、30%出て、風が広島方面に向かっていたら、これはほんとうに即死はともかくとして相当大きな放射能被害を受けるということです。
伊方原発の場合はどこを向いたって人間の住んでいるところなのです。
福島原発事故の場合は6~7割が海のほうに流れたのですが、伊方原発の場合は東西南北すべて人が住んでいる陸地ですから、20%、30%の放出になったら大変な損害が発生するということです。


広島市域の避難計画・愛媛県の避難計画

具体的な避難計画について見ると、広島の場合はまったく避難計画がありませんので、多分大変な混乱ばかりになるでしょう。
特に、地震で原発がやられたとすると、三角州の平野部分に中心部がある広島市では液状化が起こります。
非常に広範に液状化が起こって、橋が落ちて、という状態ですから、中心部の人口集中地帯はほとんど脱出できないことになりそうです。
避難計画のない状態で原発が動くということは広島にとって大変な危険です。
愛媛県は、30km圏内は避難計画ができています。
ところがその内容を見ると、伊方原発は佐田岬半島の付け根にあって、そこで事故が起きると佐田岬半島の先の西側の人たちは半島の先に西に進む以外ないのですが、何時間で避難できるのか、何時間で放射能が襲ってくるのか、風向きはどうかといった前提も持たないまま、バスを何台用意しますとか、船が何隻いますとかいった計画が出ているだけです。
避難計画が現実的に機能するかどうかという観点では、ほとんど何の保証もない状態です。

続いて、広島県被団協理事長の佐久間邦彦さんに司会者がコメントを求めました。佐久間さんの発言です。



私は、生後9か月の時に爆心地から西3kmのところで被爆し、その後母に背負われて逃げる途中で「黒い雨」に遭いました。
「黒い雨」と福島原発事故とは非常に結びつきが強いということは、随分後になって分かりました。
私は、今先生方のお話を聞いていると、これは原発をなくするしかない、それ以外解決しない、そんな気がします。
核兵器だってそうなんです。
核兵器を使う使わないじゃなくて、核兵器があるだけでコンピュータの誤操作とかいろんな可能性があることを考えると、核兵器をなくす以外どうしようもない、私たちは二度とこういう目に遭いたくないということで運動してきましたが、原発だってそうですよね。
ほんとに怖いです。ほんとに怖いですよ。
ですから、その怖さというものを多くの人たちにアピールして、どうすればいいのかということを科学的に語るということは非常に大切だと思います。
全国から修学旅行生たちが来て被爆の体験を話すのですが、生徒たちから一番聞かれるのは、じゃあどうすればいいのかということです。
そうしたときに私たちが言うのは、「もし皆さんが私たちと同じような体験をしたらどうしますか?どうにもならない」ということです。
私たちの住んでいる地球から原発をなくしていこうという方向に世界が進んでいるのは、もう間違いないんですね。
ですから私たちの運動というのは、最終的には一つになって核兵器と同じように原発をなくしていく方向を取っていく必要があるんじゃないかと思っています。
私は被団協として核兵器廃絶の運動と被爆者援護の運動をしていますが、それに加えて核兵器のない原発のない世界というものを作っていかなければいけないと思います。
これは広島だけでも日本だけでもなくて、世界的な問題、人類的課題だと思います。
私個人にできることは何かと言いますと、やはり一人一人もしそんな目に遭ったらどうなるのか、間違いなく自分の身にふりかかってくるということ、その中で恐ろしさを強調していくことをしていかなければならないと私は思います。
なかなか大変なことですが、それはやっていかなければいけない、一人一人を変えていくということをしていきたいと私は思っています。


佐久間さんの発言に大きな拍手が送られた後、質疑応答が始まりました。


(朝日新聞 新谷記者)
第5陣提訴によって原告は計何名、何都道府県になったのでしょうか?
(原告団事務局長 小田眞由美さん)
現在、原告276名、23都府県になりました。

(中国新聞 小笠原記者)
避難計画について、広島県は避難計画を作る気はあるけれど作れないというところを、もう少し詳しくお願いします。広島市としてはどうなのでしょうか?
(原告 哲野イサクさん)
まず広島市の対応は、国が自然災害と原子力災害が同時に起こることを想定していないので、広島市はまったく考えていないというのが、広島市の回答です。温暖化対策室を窓口として、正式に文書で回答をいただいています。
広島県の場合は、担当が危機管理課で、ここは「原子力災害対策指針」もしっかり読んでいて広島県が20μSv/時の放射線に遭う可能性があるということも十分把握していて、本来は避難計画を作らなければいけないのだけれども専門家もいなければ予算もなくて作れない、それで内閣府の原子力防災対策担当部署にもう3回くらい手紙を送って早く国としてのガイドラインを出してくれということを申し入れているそうです。申入れてもう5年くらい経っているそうですが、なしのつぶてだそうです。
広島県の危機管理課の中心幹部クラスの方は、広島県の中でも原子力災害が起こり得て避難計画が必要になってくるということは十分に認識している。ただ、広島県議会議員や県庁全体がそういう認識になっているということではありません。あくまで担当部署内部で心配しているということです。
(原告団長 堀江壯さん)
口頭弁論が行われる前に、私はいつも市と県の議会と危機管理担当部署にチラシを持っていきますが、非常に反応が悪いです。ほんとうにしっかり考えているのであれば、自分たちにたとえ能力がなくても、もうちょっともっともらしい反応を示してくれていいのではないかと思います。

(原告 小倉正さん)
胡田先生の話の中でちょっとおかしいなと思うところがあります。
民主党政権の時代の2012年の間に原子力規制の大きな話は出来たんですが、実際には安倍政権に代わってからかなり、起こる原発事故の想定自体が変わっています。福島級の原発事故の想定をしたのは2012年が最後で、今の原子力防災計画、つまり30km圏までUPZとして避難を求めていることの元になっているのは、原子力規制委員会が新たに出した、セシウム137について福島原発の100分の1、100テラベクレルを放出した場合を想定したシミュレーションです。今の避難計画はそれ自体、その新たなシミュレーションに基づいているので、国としては30km以遠のところに避難計画を作らせるつもりはまったくないということだと思います。
そのこと自体非常におかしいのですが、一応国としては、第4層の過酷事故の想定事故として、要は第4層を安全として通過させる基準として、福島原発100分の1、100テラベクレルまでの放出に抑えることができるということを確認して、同じものを第5層の避難の想定にも使っているという状態だということで、国会でのいくつかの質疑でも出てきている話です。2015年の時点の話だったかと思います。
もともとの100km圏の4.3mSvというのは、福島並みの想定をした場合の線量で、その場合広島が危ないという話になる。それは前政権のときの想定です。
(胡田弁護士)
伊方原発から100kmの広島で4.3mSvというのは、福島並みですよね。で、30km圏内でいいんだよというのが100分の1に下げた場合ということなんですか?
(小倉さん)
はい。
(胡田弁護士)
今すぐには分かりませんので、ゆっくり時間をかけて検討いたします。
※「原子力災害対策指針」は、「原子力施設から概ね30km」を目安として「緊急時防護措置を準備する区域(UPZ)」を定めています。
 原子力規制庁2012年10月の「放射性物質の拡散シミュレーションの試算結果について」は、各原発について「東京電力福島第一原子力発電所の事故と同程度のシビアアクシデントをベースとして」放射性物質の拡散シミュレーションを行い、(柏崎刈羽原発以外の)各原発の「最初の7日間の実効線量が100mSv」を越える距離が概ね30km以内に収まっている、と説明しています。そして「最初の7日間の実効線量が100mSv」を「UPZの基準」としています。「原子力災害対策指針」において原発から概ね30km圏内をUPZとする根拠となっているのは、福島原発事故並みの放射性物質の拡散シミュレーションです。
ところが、原子力規制委員会2014年5月28日の「緊急時の被ばく線量及び防護措置の効果の試算について」では、「セシウム137が100テラベクレル、その他核種がセシウム137と同じ割合で換算された量、希ガス類が全量」環境中に放出される事故を想定し(「なお、本試算はこれ以上の規模の事故が起こらないことを意味しているものではない」とご丁寧に但し書きが付いています)、その試算結果から得られる「示唆」として、「UPZにおける防護措置」としては「予防的に屋内退避を行うことが合理的」などとしています。この文書の目的は、「関係自治体において地域防災計画の策定等が進められている」が「関係自治体において、リスクに応じた合理的な準備や対応を行うための参考としていただくこと」であるとしています。現在、原発から概ね30km圏内の自治体が実際に作成している避難計画は、このような福島原発事故の100分の1レベルの事故の想定を参考として作成されていると考えられます。
起こり得る原発事故を考えると「福島原発事故並み」がそもそも過小評価であるにもかかわらず、「避難計画」はさらにその100分の1の過小評価に基づいているということになります。

(原告 西本喜治さん)
ほんとうにいろいろ学ばせてもらっています。避難のために家族ごとあちこち行かなくてはいけない状況というのはいたたまれません。われわれ自身が避難者の方を追いつめてきている状況というのを痛感しております。
その中で一つ情報として、伊方原発でもし何かあったら愛媛県から避難する方を広島県も受け入れてほしいという愛媛県側からの要請があったようなのですが、その具体的な中身が分かるでしょうか?
加えて、広島県の者がもし被災を受けたらどこに避難したらいいのかまったく計画がないということ、深層防護における第5層の避難計画がずさんで、30km以上だから計画を立てなくていいよという話、非常に憤りを覚えています。
基準についても、誰をまず基準にするかと言ったら、やはり胎児とか子どもを中心に考えなくてはいけないのではないかと思います。それから、障害者の避難はどうなるかとか、そこらあたり考えたほうがいいかと私は思います。
基準と言えば、やはり憲法の規定からどうなのかというところも、きっちりととらえていけたらいいかと思います。

(原発はごめんだヒロシマ市民の会代表 木原省治さん)
広島県は、島根県と県間防災協定を結んでいます。島根県の島根原発から30km圏内の避難者は広島県で受け入れるという協定です。
そして何年か前に松山市で、四国4県プラス大分県と広島県で会議を開いています。具体的なことはまったく決めていませんが、伊方原発の30km圏内自治体の人も広島県に避難するということは決まっています。中国新聞では大きく取り上げていました。
だから広島というのは、島根からも愛媛からも避難者が来るということです。伊方原発30km圏内の避難者は、最初は四国4県で受け入れようとしていたわけですが、それがどうも体制が組めないということで、広島県では橋のない大崎上島町以外はすべての市町村が受け入れるということに会議の中で決めております。
久保山さんの意見陳述はとても良かったです。四国電力の社員が聞いているわけです。中国電力が原子力分野で働いている人にアンケートをしています。そうすると、いろんな人から日常的に原発はいやじゃねというようなことを聞かれるという答えが沢山出ているのです。電力会社の社員自体が原発を非常に不安に思っているということが中国電力の数字で出てきているのです。そういう意味でも、今日の久保山さんの訴えはとても良かったです。

(原告 上里恵子さん)
5層防護と関係があるのですが、外国では原発を立地するときに、人が少ないところに原発を立地するという考え方があったようなのですが、日本ではどうなのでしょうか?
(木原さん)
原子炉を作るときに、「何メートル以内は人が住んでいない」ということを決めていた指針があったのですが、福島事故後は新規制基準に全部が入ってしまって、その指針はどこへ飛んでしまったのか、ということが私の中にはあります。これは良くないなと思います。


原告意見陳述や準備書面の解説を通して、広島市域もいかに深刻な危険にさらされているか、現在の原発事故防護体制、特に第5層の「避難計画」がいかに実効性のない空手形であるかが、実感として迫ってきました。活発な質疑応答の後、16:30に記者会見・報告会は終了しました。

(文責 原田二三子)


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