被爆地ヒロシマが被曝を拒否する伊方原発運転差止広島裁判
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「ふるさと広島を守りたい」ヒロシマの被爆者と広島市民が、伊方原発からの放射能被曝を拒否し、広島地方裁判所に提訴しました

第3回審尋期日 2021年2月3日(水)


伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立事件第3回審尋期日の報告です。
広島県は1月17日から新型コロナ感染緊急事態対応が取り敢えず2月7日まで続いている状況下でした。
いつも記者会見・報告会会場として使用している広島弁護士会館は、広島県の対応に準じて使用制限がかかり、記者会見・報告会会場としては使用できないことになっていました。
そこで、記者会見・報告会はZOOMのみで行うこととし、リスクを避けるため審尋参加も最低限の人数に絞りました。

▽御案内チラシ クリックするとPDFでご覧頂けます


▽当日のスケジュール
13時45分 広島地裁前にて記録撮影
14時00分 審尋開始
15時頃  審尋終了次第、ZOOMにて記者会見・報告会開始

期日記録としていつも乗込行進などを行い、写真を撮っていますが、コロナ禍のため記録撮影に切り替えました。
今回も撮影日和ともいえる澄み渡った青空、日差しは暖かく春を感じさせ、まさに「小春日和」。
審尋参加者のみで撮影するはずでしたが、なんとこの送り出し応援のためだけに数人の原告が駆けつけてくれました。




第3回審尋出席者と応援に駆けつけた原告で撮影

なおこの日、出席予定だった河合弘之弁護士が急遽体調不良で欠席となりました。
(後日ただの風邪とわかりました。ホッとしました)


第3回審尋報告

伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立事件第3回審尋は、2021年2月3日(水)14:00~14:30、広島地裁別棟の民事執行センター2階で行われました。

債権者側の出席者は、大河陽子弁護士、北村賢二郎弁護士、胡田敢弁護士、前川哲明弁護士、松田奈津子秘書、申立人5名、本訴原告1名の11名。
債務者側の出席者は、弁護士6名、社員8名の14名。

担当裁判官は、藤澤孝彦裁判長、中井沙代裁判官(右陪席)、佐々木悠士裁判官(左陪席)です。

裁判長は本案訴訟の進行を質問

はじめに、提出書面・証拠の確認が行われました。
申立人側からは、「準備書面5(最大加速度以外の耐震性判断要素について)(A4版2頁)」を提出。
四国電力側からは、「準備書面(2)、証拠説明書(3)(4)、乙号証156~175を提出。

続いてまず、裁判長から本案訴訟の進行状況について質問がありました。
まだ人証(※)には至っていないが、主張立証の終盤に入っているという見解で双方の弁護士が一致しました。

※人証:主張が出尽くした後に行われる証人調べ。

申立人側は、四国電力側の「権利自白」を指摘

ここで申立人側の大河弁護士が、今回提出した準備書面(5)について、次のような解説を口頭で行いました。

「四国電力側は、申立人側が「最大加速度」だけで耐震性を論じていることを不当だとしている。耐震性において、「最大加速度」以外の要素が重要であることはそのとおり。
 しかし、申立人側が「最大加速度」で耐震性を論じているのは、新規制基準も耐震性を「最大加速度」で示しているので、共通の単位を用いているのである。
 したがって、四国電力側が「最大加速度」で耐震性を論じることを不当だとするのは、新規制基準に不合理な点があると主張しているに等しい。
 新規制基準に不合理な点があるとするのは、四国電力側の権利自白(※)である。」

また、大河弁護士は、相手方の準備書面(2)について、当方の主張に対して認否がはっきりしていないところがあり、求釈明したいと述べました。

これを受けて、裁判長が四国電力側に準備書面5について反論するかどうか尋ねたのに対して、四国電力側の田代健弁護士は、「その問題については、準備書面(2)のp47~48で反論している。この内容だとあらためて別途の反論の必要はないと思う。」と答えました。

※権利自白:民事裁判で裁判の当事者が自己に不利益な陳述を行うこと。

四国電力の運転再開シナリオを問う

続いて裁判長は申立人側に、求釈明の時期と、次回の反論のイメージを質問しました。これに対して大河弁護士は、こちらが出した求釈明への回答を見てみないとわからないと答えました。

四国電力側の田代弁護士は、準備書面5に対する反論は必要ない、準備書面3・4についても反論は必要ないと考えていると発言。

続いて裁判長は、「報道によると、岩国原審の異議審が3月18日に決定予定とのことだが、決定が出たら結論を教えてほしい」と四国電力側に求めました。
また、「テロ対策特重施設(特定重大事故等対処施設)では、10月の運転再開をめざしているのですね?」と四国電力側に質問。これに対し四国電力側の田代弁護士は「はい。」と答えました。

終結を急ぐ四国電力

次回審尋期日は、5月13日の午後と指定されました。
次々回審尋期日について、裁判長はまず7月を提示し、申立人側の大可弁護士は7月26日以降を希望しました。
四国電力側の田代弁護士は裁判長に対して、本件は「最大加速度」の比較が主たる争点だと理解しているが、だいぶ主張が繰り返しになっているので、終結の時期をご検討いただければありがたいと発言。これに対して大河弁護士は、こちらとしては、まだ認否が詰めきれていないので終結までには時間がかかると認識していると発言しました。
裁判長は仮押さえの期日として9月8日(水)14:00を提示。これに田代弁護士が、7月下旬にもう1回期日が入らないかと異を唱え、裁判官は退席して別室で裁判官協議を行い、その後再び協議が行われ、次々回審尋の仮押さえの期日は7月21日(水)14:00とされました。(次々々回は9月8日)


記者会見・報告会

15:00から、zoomによる記者会見・報告会が始まりました。
Zoom記者会見・報告会には、仮処分弁護団長の河合弘之弁護士、滋賀から井戸謙一弁護士、そして、元裁判官の樋口英明さんも参加されました。
司会は、申立人の一人で原告団事務局の哲野イサクが務めました。


ZOOM画面。左上:井戸謙一弁護士、左下:河合弘之弁護士、右上:胡田敢弁護士、大河陽子弁護士、北村賢二郎弁護士、右下:元裁判官 樋口英明さん

急ぐ四国電力

初めに、弁護団の大河弁護士からこの日の審尋について説明がありました。

【大河】
「本日の期日、30分程度で終わりましたけれども、書面の確認をしました。
 内容としては、こちらが準備書面5を出しておりまして、それについて私の方から口頭で、「債権者は最大加速度のみで建物の耐震性を論じていて、債権者らの主張は不当である」という債務者の主張に対して、こちら債権者側が最大加速度で建物の耐震性を論じている理由は、加速度が建物の耐震性に重大な影響を与える要素であること、新旧の規制基準が主たる基準として耐震性について規制を加えていること、共通の単位ができなければ耐震性の比較はできないこと、こういう理由から最大加速度に着目したので、「最大加速度だけでは耐震性の考慮として不十分だと債務者が主張することは、今の規制基準自体を否定するに等しい」と、債務者の主張に対して反論した書面になっていることを説明しました。

準備書面05(最大加速度以外の耐震性判断要素について)(A4版2頁)

 それについて裁判官は、債務者のほうはどのように対応するか、またはしないのかということを聞いたのですが、債務者のほうは、「今回提出した準備書面(2)の47~48ページで反論しているので、今のところは特に反論する必要はない」と考えているということでした。

 今後の進展については、今回債務者側から出てきた準備書面(2)に対して、認否が不明確なところがあるので、それに対する求釈明をできるだけ早い段階で申し立てて、再反論をこちらからするということになりました。

準備書面(2)(A4版74頁)

 裁判官は、テロ対策施設、今の四電が準備を進めている特定重大事故等対処施設を完成させて、運転再開は10月頃という報道が出ているが、そういう予定か、広島地裁の本訴はどうなっているかというようなことを尋ねてきました。一応、債権者の予定通りに今後主張立証を進めていくことになります。

 次回の期日は5月13日、14時からとなっていますが、その次と次々回が決まりました。
 仮ですけれども、7月21日(水)14時からと、9月8日(水)14時からです。5月は債権者の主張の番ですけれども、7月は債務者の番です。
 仮におさえるということで、債務者の反論が間に合わなければ、7月の期日は飛ばして9月にするということで予定しています。
 四電のほうは、繰り返しの主張反論があるので終結をそろそろ考えていただきたい、というような話でしたが、まだまだこちらとしては認否が不明な点があって、審議が尽くせていないので、まだ主張反論や求釈明の回答を求めるということになっています。」

【司会】
「ありがとうございました。
 大河さん、次回、次々回、次々次回期日まで決まったということでよろしいでしょうか。四電さん、えらく急いでいるような印象を受けたのですが、どうなのでしょうか?」

【大河】
「四電は、従来から早期終結を言っていますので、たぶん早く終わりたいんだと思います。
 こちらの主張に対して、正面から答えることを避けたままで終わらせたいのではないでしょうか。」

四国電力の「権利自白」を指摘した準備書面5

ここで河合弁護士から、「権利自白」について四電は何か言っていただろうかという質問がありました。
申立人側の出した準備書面5の中に、四電は事実上「権利自白」しているのではないかという記述があるので、それについて四電は何か言ったかどうかということです。

【大河】
「四電は、今回提出した準備書面(2)の47~48ページで反論しているので今のところ特に反論する必要はないと考えているということです。」

北村弁護士から、四電側準備書面(2)の47~48ページの内容の説明がありました。

【北村】
「結論の部分だけ言うと、「新規制基準は最大加速度だけを基準として耐震性の規制を行っているわけでなく、現に本件3号機の耐震設計は最大加速度だけを用いているものではないのであるから、債権者の主張には理由がない」ということです。」

【司会】
「では、準備書面5の解説に入りましょうか。北村弁護士からお願いします。」

【北村】
「こちらが今回提出した準備書面5の概要だけ、できるだけわかりやすくお伝えしようと思います。
 伊方発電所の耐震性が、他の実際に起きている地震と比べて安全なのかどうか比べるときに、基準が必要になります。
 その比較の基準として、我々は最大加速度を考えています。
 最大加速度は、数字で比較できて、かつ安全性を考えるうえでメインになる定義です。
 もちろん、地盤の固さとか地震波とかいろいろな要素はありますが、比較するときにいろいろ言いだしたら比較ができなくなってしまうので、申立人側としては、定量的な数字でかつ主な基準として使われているガル数で比較しているだけだ、ということをまず言っています。
 そもそも、ガル数を主な基準として耐震性を考えるのは、新規制基準の考え方に則っているわけですけども、四電の側は、主な基準であるガル数で考えるだけでは安全性を考慮するに足りないと言っているのです。ということは、四電は新規制基準自体が安全性を考えるのに不十分だと言っているようなものだ、とこちら側は指摘しています。
 さきほど「権利自白」と言ったのは、法的な関係について自分に不利なことを認めていることです。
 今回の我々の準備書面は、四電が自分でガル数を主な基準として考えるのが不十分だと言っているのは、新規制基準自体が不十分だと言っているということではないかと指摘しています。」

ここで、河合弁護士と樋口さんからコメントが入りました。

【河合】
「そもそも私たちは、最大加速度だけで耐震性の基準を決めるというのは間違いだと思っています。そういうのが基本的立場です。
 地震の要素は最大加速度だけでないんですね。
 最大速度というのもあるし、縦横の方向がありますし、継続時間というのがありますし、繰り返しというのもあります。それが全部地震に対する要素なんです。
 四電は、前回のプレゼンテーションと準備書面で、最大加速度だけで耐震性を論じるのは意味がないんだ、これだから素人はいやだよ、というような言い方をしたんです。
 プレゼンでも熱を入れて、本当に得意げにやったのを僕らは聞いて、ああそうか、そんなら最大加速度で耐震性を決めている新規制基準に文句言っているのと同じだね、彼らは新規制基準に不合理な点があるという点を強調しているんだ、それならそれは僕らにとって有利なことだから引用しますね、というのが今日の準備書面なんです。
 本当に地震というのは、いろんな要素がありますから、最大加速度だけで耐震設計の基準を決めるのは間違いだと思います。
 ただ、いろんな要素というのは定量化しにくいんです。  単位もばらばらになって安全かどうか決められないところがあるものだから、原子力規制委員会はやむを得ず、どうしても原発を動かさないといけないから、こういうものを決めているので、我々も一応それに乗りましょう、その論争はガル数でやりましょうと言っているわけです。
 ガル数だけでは足りないよ、というのは誠にごもっともで、じゃあ原発不安だね、もっと精密な耐震設計審査指針でやらなきゃだめだよねというのが我々の主張なんです。
 だから、あなたがた自らが規制基準が誤りでとんでもないと言っているのだから、あなたがたの原発は危ないじゃないかと言っているというのが現状です。」

【樋口】
「今回の債務者の準備書面(四電側準備書面(2))を見ていると、反論らしい反論はないんです。
 全般的に、議論にならないようにしている、ごまかそうとしている態度が濃厚に見えますね。
 だからまともな反論が、私の見たところまったくないんです。
 誤解または曲解に基づく、反論らしきものを言っているに過ぎないと思います。
 これに対して再反論されるということですが、どこで債務者がごまかしているのかということをきっちり、はっきりさせたうえでの反論になろうかと思っております。」

議論をかみ合わせたい申立人側、かみ合わせない四国電力側

【司会】
「なるほど、ありがとうございます。大河先生、今のお話で言うと、申立人の主張と四電の反論がかみ合ってないということなんでしょうか?」

【大河】
「我々の主張に対して四電がかみ合わせて正面から反論してくれば議論が進むんですけれど、ここは認める、ここは認めないということもはっきりしないので、今はかみ合っていない段階だとこちらは認識しています。」

【司会】
「反論はかみあわないのに、四電は終わらせたいということでしょうか。」

【河合】
「四電は、中学生にもわかる訴状による攻め口に対して、わかりやすい反論をすると自分たちが負けちゃうから、わかりにくくしようとしているんです。
 わかりにくくするためには、一つは痛い問題点については答弁しない、認否しないということで、こちらの重要主張について逃げまくっているんです。
 裁判というのは、必ず訴状の主張事実について逐一、ここは認めるとか、ここは否認するとか、ここは知らないとか、一項目ずつやらないといけないんです。
 例えば、10年間に5事例の基準地震動を超える地震があったことを認めるんですかとか、基準地震動の決め方・地震の規模の決め方・そこから伝わる最大加速度の決め方についてこれが推定と仮説の体系であるということを認めるんですか認めないんですかとか。
 けれど四電は、自分の都合のよいところは否認とか認めるとか言うくせに、都合の悪いところはちっとも言わないで、知らないとも言わずにすっ飛ばしているんです。
 要するに四電は、こちらが言っていることから逃げて、自分たちに都合がよいことだけを取り上げて、「こんなに熱心に精密に調査してます、だから大丈夫です」とか、「原告は素人だからこんなことを言う」みたいなことにして逃げようとしているので、私たちはいわばウナギがつるんと逃げて捕まえられないのを、一つずつ串で刺して逃げられないようにして、認否をはっきりさせるために求釈明を準備中で、次回はそれを出します。」

【司会】
「逃げまくろうとする四電が逃げないように、求釈明が次回期日までに出てくるんですね。」

【河合】
「それからもう一つの特徴は、なんとか科学論争に引っ張り込もうとしていることです。
 裁判官を煙に巻いて、裁判官が「こんな難しいことしょうがない。学者の言う通りにしておくか。国の言う通りにしておくか」そんなふうになるように、科学論争に引っ張り込もうとしているんです。
 私たちはその手は食わない。
 そんな難しい話じゃないんですよ。簡単なんです。
 日本で普通に起きる地震に、この650ガルが耐えられるかどうか、そんな簡単なことなので、煙に巻かないでください。そういう戦いもあります。」

原発裁判に変化が起きているのか

【司会】
「では次に参ります。昨年2020年は、脱原発訴訟を目指す私たちにとっては、非常にある意味、意義深い年でした。1月に伊方3号機運転差し止めを命じた広島高裁抗告審決定で幕を開けました。
 12月に大飯原発3,4号機の原子炉設置許可取り消しの判決を出した森鍵判決で幕を閉じました。
 1年の間に異なる訴えで、また異なる裁判官が住民側勝訴の判決なり決定を出したのはおそらくこれが初めてではないでしょうか。
 これは単なる偶然なのか、それとも司法あるいは脱原発裁判全体に何か変化が起きているのか。
 ここら辺を解説していただくんですけれども、元裁判官で2006年に金沢地裁北陸電力志賀原発2号機に運転差し止め判決を出された方がいらっしゃいます。他ならぬ、ここにいらっしゃる井戸謙一弁護士です。
 井戸弁護士から、私の要約の仕方が大げさなのか、そこら辺をまず解説していただきます。」

【井戸】
「もう裁判所を離れて10年経つので、陪審の内部のことはわからないので外から見ている印象だけですが、私が受けた印象を少しお話しさせていただきます。
 昨年出た2件の判決決定はいずれも非常に重要な判決・決定でしたが、12月に出た大飯原発の判決はインパクトがあったと思いました。
 この一報を聞いた時に、海渡雄一弁護士は「潮目が変わった」と感じたそうですが、私は「終わりの始まりだ」という感想をまずもちました。

 どういう意味でこの大阪地裁判決はインパクトがあるかというと、おそらく三つ理由があると思います。
 一つ目は、被告が一電力会社ではなくて、元締めの国(原子力規制委員会が参加行政庁として被告になっている)であるということです。
 国の審査が不合理だということになると、これは一原発の問題ではなくて、全原発に影響が及びます。

 二つ目は、その審査が違法であるとした理由が、地震規模を算定する際に使う経験式のバラつきを考慮していないということでした。
 さきほどから議論に出ている基準地震動を算定するにあたって、まず、その原発に一番影響を与える活断層を特定します。
 その活断層が活動したときに、マグニチュード何の地震が起きるかということを想定するわけです。
 これについては、経験式は過去の観測記録の平均式で、活断層が何キロ、何キロの活断層が動いたらマグニチュード何の地震が起きる、あるいは断層面積が何キロ平米の断層が活動したら、地震モーメント何の地震が起きるという、過去のデータを平均した式というのが出来上がっています。
 ただこれはあくまで平均ですから、実際の観測データは、その前後にばらついているわけですね。
 特定の活断層の長さをまず電力会社は決めます。あるいは断層面積を決めます。これ自体は非常に不確かなんですけれど、とりあえず決める。

 そのうえでそれが活動した時のマグニチュードあるいは地震モーメントを、その経験式に従って算定するわけです。
 これについて、新規制基準ではその観測データのバラつきを考慮しなさいとわざわざ明記してあるのに、そのバラつきを考慮してないんです。
 それは、関電だけでなくて、どこの電力会社も考慮していない。

 その理由は、他のところで不確かさを考慮しているからそれでいいんだというのが大体の電力会社の弁解なんです。
 今までの裁判所はその弁解を通していたのですが、今度の大阪地裁は、「バラつきを考慮しろとはっきり新規制基準に書いてあるんだから、それを考慮しないのは違法だ」と言ったんですね。
 あの事件は大飯3、4号機の事件ですが、大飯3、4号機だけじゃなくて全国のすべての原発に共通する問題なので、その意味で影響が大きいと思います。」

大飯原発3・4号機運転差止 大阪地裁行政判決の影響

【井戸】
「三つ目は、大阪地裁行政部の判決だということです。

 大阪地裁は、民事部が30くらいありますが、民事事件の中で行政事件というのがあります。
 行政事件というのは、被告が国とか地方公共団体の事件なんですが、その行政事件は特定の部に集中させているんですね。
 大阪地裁には行政部というのが2つあって、すべての行政事件はその2つのどちらかに行きます。
 行政事件というのは、国や地方公共団体が被告ですから、国の利害に非常に大きくかかわる事件がたくさん来るわけです。
 だから、行政事件の裁判長というのは、最高裁当局から見て安心できる裁判官を配置します。いわゆるエリートコースなんですね。
 現実に大阪地裁の行政部の裁判長をした裁判官はその後すくすくエリートコースに乗っていくわけです。

 今回の森鍵裁判長も、最高裁の事務総局の経験もあるし、那覇地裁では辺野古の関係の訴訟で国を勝たせてきた、エリートコースに乗っている裁判官ですね。
 その裁判官がこういう判決をしたということに、非常に大きな意味があると感じました。

 それはどういうことかというと2つ意味があって、一つは、もう原発を止めるということが裁判官の感覚の中で突飛な判断ではないということです。
 そういう風になってきたということです。
 別に森鍵さんは自分のエリートコースを捨ててこの判決をしたということではないと思うんですね。
 一時代前は、原発を止めればよほどの覚悟がないといけないという時代がずっと続いていたわけですけれども、今はそんなに覚悟しなくても、裁判所の許容範囲の中に入ってきている。
 だからこうした大阪地裁の行政部の判決ができたと。そういうことだと思うんですね。

 そうだとしたら、一番大きな理由は福島の事故だし、この10年間、原発が電力供給のために要らないということがはっきりしてきた。
 あるいはコストが高いということがはっきりしてきた。
 それから全国で粘り強い市民の方々の運動が積み重なってきている。
 そういうことが要素だと思いますけれども、その積み重ねの中で、裁判所内部の感覚が変わってきたということが端的に表れたのではないかと私は感じました。

 二つ目の意味としては、大阪地裁の行政部がこういう判決を出したということになると、今後全国で原発訴訟を担当している裁判官が、止めようかな、どうしようかなと悩んだ時に、大阪地裁の行政部が止めたんだからということになると、ハードルが非常に低くなるということなんですね。
 そういう、今後の裁判に与える波及効果が大きいと思います。
 今までは原発を止めるというのは、エリートコースから外れたちょっと変わった地方の裁判長か、定年間近の高裁の裁判長しかない、と言われてきました。

 それは、中らずと雖も遠からずというところがあったんですけれども、エリートコースに乗っている有力裁判長がこういう判決ができる時代になってきたということは、今後の全国の原発訴訟の行く末に大きな希望を与えるものではないかと私は感じました。」

【司会】
「ありがとうございます。今の井戸先生のお話を一点だけ取り上げれば、福島原発事故以降あるいはその前からの反原発の運動が、ある意味司法を変えてきたという言い方ができますでしょうか。」

【井戸】
「はいそうだと思います。もちろんそれだけではない、いろんな要素があるけれども、その中の一つの大きな要素として長年のこの運動の積み重ねがあると思います。」

【司会】
「ありがとうございます。もう一人、元裁判官、福島原発事故後はじめて原発の差し止め仮処分の決定と判決を出された樋口英明さんがいらっしゃいます。
 樋口さんは、去年のこの動きについてどのようなご意見をお持ちでしょうか。樋口先生お願いいたします。」

【樋口】
「森鍵さんの判決のことだけ言います。  この訴訟にかかわる部分としては、この訴訟はどういう筋立てで主張しているのかと言うと、今までの規制委員会の考え方・電力会社の考え方は、「詳しく調査すれば、その原発を襲うであろう最大の地震動が計算できる」と思っているんです。
 例えば、将来にわたって伊方原発の敷地には650ガルを超える地震動は襲いませんって言っているんですよ。
 「そんなこと本気で言っているの?」って、非常にシンプルな疑問を抱けばいいだけなんです。

 これ、常識的にわかると思います。
 例えば、医学とか、地震と違って遥かに資料も多くて観察もできる学問がありますよね。
 しかし遺伝子分析できる医学でも、この人は健康だから何十年も生きますよとか、そんなことは言えないんですよ。
 天気予報だってそうです。長期の天気予報だってやりますけど、その可能性が高いというだけの話であって、必ず当たると思っている人なんていないんです。
 にもかかわらず、この地震学というのは、未解明の部分が多すぎるがゆえに、非常識な「650ガルを超える地震は来ません」ということを信用しちゃう人がいるんですね。
 それを裁判長も信用しちゃっているんです。

 650ガルを超える地震は来ませんなんて言うことは不可能でしょう。
 特に650ガルというのは、日本の地震の観測史上において、一言で言ってしまえば平凡な地震です。
 「平凡な地震でも、伊方原発の敷地に限っては、来ません」ということはとても言えないんですよ。
 だから、今の規制基準の考え方は根本的におかしいんです。
 それが我々の主な主張なんです。地震動が精度良く計算できるかできないかについては、できないという考え方です。

 二番目の主張として、仮に計算できるとしても、計算方法として根本的におかしいでしょう、というのが、法律的には予備的主張となるんです。
 計算できるとしても計算方法として根本的におかしいというところで、森鍵さんの判決がでているんですね。計算方法として根本的におかしいんですよ。

 なぜかと言うと、非常に対象地震の資料数が少ないという問題があります。
 資料数が少ないから、正確な平均値は出ないんですよ。
 仮に正確な平均値が出たところで、平均値でマグニチュードの大きさを推定することは極めて危険です。
 これは、法的に言うと、経済的重点よりも人格権の方が上位にあるということから法律的に説明できるんですが、理性と良識を持てば簡単にわかることです。

 例えば、幼稚園でブランコとか遊具を作るとしますね。
 その場合に幼稚園児の平均体重を念頭に置くか、幼稚園児の一番体格の良い子を念頭に置くか、この問題と一緒なんですよ。
 一番体格のいい子を念頭において、それにプラスαしなくちゃいけない。当たり前の話です。

 ところが今の規制基準は、平均値―平均値とも言えないんだけど―にプラスαすればいいと言っているんですよ。
 今までは、そのプラスαもしてなかったんです。
 規制基準は、平均値ではダメで、プラスαしなさいと決めてあるんですよ。そのプラスαをしなさいと言うことさえ守らなかった。

 だから手続き的にも異常だと。この指摘を受けた規制委員会は、プラスαをしなさいと言うところを徐々に規制基準から外していくんじゃないか、という恐れもあるんですけれど、行政訴訟は外されると非常に厄介なんだけど、人格権に基づく差し止め訴訟の場合は、外されようと外されまいと、それが危険かどうか、平均値にプラスαさえもしないということが危険かどうかだけで判断すればよいのです。
 だから行政訴訟以上に、人格権に基づく差し止め訴訟では、森鍵さんの判断の影響は大きいと思います。以上が私の感想です。」

わかりやすい裁判

【司会】
「ありがとうございます。森鍵判決の意義の深さというのがよくわかりました。
 福島原発事故以降、原発訴訟で住民側が勝った事例が本訴、仮処分併せて5例、森鍵判決は6例目になりますけれども、よく読んでみると、高度の学術論争に決着をつけるというのではなくて、非常にわかりやすい、我々一般市民もわかりやすい判決なり決定ですよね。
 要するに規制基準に問題がある、あるいは審査に問題がある、こういう風なわかりやすい判決で住民側が勝訴するというのが、これからの大きな流れになっていくでしょうか?
 河合先生からお願いします。」

【河合】
「まさにそういう流れになっていくと思います。
 今までの原発差し止め訴訟は、すごく難しい科学論争を展開するんですよね。
 それは、電力側がいわばカッコ付きの「高度な科学技術論」に基づいて安全性を主張するから、それに対してこっちは、そのレベルでの的確な反論を完膚なきまでやろうとするので、どんどんレベルが積みあがっていって、書証(証拠書証のこと)とともに積み上がり、1000号証とか積み上げながら、ものすごい論争をやるわけですよ。
 それは、地震学会とか原子力学会で論争されるべきものを法廷でしてるわけですよね。
 そうすると裁判官はわけわからなくなって、そういう時には、権力側と大会社側といわゆる御用学者が言うことをノリとはさみで勝たせて終わりにすることになりがちなんですね。

 今、司会者が言ったように、勝った判決はみんな、すごく単純でわかりやすいところに目をつけているんです。
 難しい論争をしなければならないところは、はっきり言って、原告をほとんど負かして、それでも原告を勝たせるところは、一点だけわかりやすいところだけ拾って、これだから駄目だという形で勝ってきている。
 そういう我々の勝訴判決を、我々はきちんと総括をしていかなきゃいけないと思うんです。

 我々が今やっているこの仮処分事件が、はっきりとそのことを標榜しています。
 裁判所にも、「中学生でもわかる論理でやるから、裁判官、そんなに構えないでください」、「緊張しないでください」ということを私はっきりと言いました。
 それからもう一つは新しい訴訟で、六ケ所の再処理工場の差し止めですが、これも極めてわかりやすい理論で構成してあります。
 これは論より証拠で、勝訴判決に学ばないといけないと思うんですよね。

 今、2つの極めてわかりやすい論理での新しい訴訟が始まったわけですけど、従来の訴訟の中でも、例えば、東海第二原発(日本原子力発電所=日本原電)の差し止め訴訟も、これも結審して3月に判決が出ますが、これも始めはものすごい難しい論争をやっていたんですが、最後は極めてわかりやすい論点に絞って判決を迫るという形になっています。

 ですから「新しい訴訟」は、「わかりやすい論理」、従来から継続しているものも、ごく一部の担当弁護士しかわからないような難しい科学技術論争はやめて、裁判官が安心して判決を書けるような論点に絞っていこうではないかという傾向がどんどん出てきていると思います。

 被害論でずっと押していくとか、多重防護の思想の中で、第5層がダメなんだから止めろというような理論とか、今のコロナの緊急事態宣言の中で事故が起きたらどうするんだ、避難なんか全くできないじゃないか、というような「わかりやすい論理」で裁判をしていくという傾向が、これから大きく主流になっていくだろう。
 判決も、我々を勝たせてくれるとすれば、そういう理由になっていくだろう。
 潮目が変わったというか、大きな流れが変わりつつあるというのが真実だと思います。」

【司会】
「今お話に出た東海第二原発運転差し止め訴訟の判決が、3月18日に水戸地裁で出ます。
 同じく3月18日に、山口の住民が訴えている仮処分の広島高裁の異議審の決定がでます。
 今先生方がお話になっているような流れがどうなっていくのか、もうすぐ3月18日にある程度、勝つにしろ負けるにしろ、見えてくるのではないかと思います。要注目です。」

政治・経済の流れは、自然エネルギー・脱原発へ

【河合】
「もう一つ、これから流れはどうなっていくのかというと、大事な要素があります。
 それは、日本の政治と経済が2050年にCO²をゼロにする、プラマイゼロにするということを宣言し、自然エネルギーに対する評価と資本投下が急速に進みつつあるということです。

 これは、去年の今頃から、日経新聞とNHKが気が付いて、日本は自然エネルギーが世界の1周半遅れだと、こんなことやっていたら日本の経済沈没してしまうぞと、自然エネルギーとデジタル革命の複合=グリーンデジタル革命によって経済を再構築しないと大変だと言い出して、これが経済界と政治の世界に浸透していって、安倍政権の時は原発推進一本槍だったけど、菅政権に変わって一回目の施政方針演説で、脱温暖化というのは経済的な負担、コスト等を考えるな、最大のビジネスチャンスだと、デジタル革命とグリーン革命はこれからの最大のビジネスチャンスで、それをもとに経済を組み立てようという宣言をはっきりしたんですよね。
 これはどんどん浸透しつつある。
 菅首相はそういう風に言いながらも、原発については、安全を大前提にして、従来通り再稼働は推進しますと言っているんですけれど、その言及が全体の1%以下ぐらい、それを見てもわかるように、いま日本の経済は大きく自然エネルギーに行ってます。
 原発を熱心にやろうという経済人はほとんどいません。

 電力会社だけですね。
 電力会社が原発をやることの正当論理は1日1億円の燃料費の節約ということだけになってきちゃっているわけですね。
 そういう大きな世の中の流れが、この原発裁判にものすごく大きく影響してくると思います。
 なんだ、自然エネルギーって、馬鹿みたいなおもちゃで、環境派のおもちゃだと思っていたけど、違うんだと。もう(電力需要の)30%も40%もすぐいっちゃうんだと。これ100%は無理じゃないよね。
 そうすると原発なんか国の生命線なんて考える必要がないから、深刻に考えないで、危ないんなら止めちゃえばいいんじゃないの、という風に、裁判はどんどんなっていくと思います。
 それは、まさに井戸さんがおっしゃったように、裁判官が原発を止めるのにハードルがうんと低くなった、清水の舞台から飛び降りなくても、差し止め判決が書ける時代・社会的背景になっていく、そういうのがあるので、必ず我々は勝つ、連戦連勝になるという風に考えています。」

【司会】
「ありがとうございます。今のお話は、経済界の要求としても脱原発を進めなければ、経済の構造的変化に追いついていかない、それは原発がもうビジネスにならなくなってきたことの裏返しでもあるということですね。」

【河合】
「僕思うんですけどね、原発再稼働しようというお金の動きが、自然エネルギーの大発展の足かせになっていると思う。
 もし原発再稼働なんてやめたとなると、すべてのエネルギー関係の設備投資が全部自然エネルギーの方へ向かうんですよ。
 マインドもそうなるんです。
 そうなったら、もう原発は自然消滅ということになるので、僕は、ウイシャルオーバーカムだということを確信しています。」

「誰でもわかる訴訟」が未来を拓く

【司会】
「わかりやすい判断、わかりやすい司法判決・決定が、これまで住民側が勝った裁判の大きな特徴ではないか、これからこれが大きな潮流になっていくのかということでご意見をうかがっていますが、樋口先生、この点でいかがでしょうか。」

【樋口】
「基本的に裁判のやり方の問題なんだけど、多くの裁判官は、目の前でわからん科学論争を黙って聞いていることがよくできるなと思うんですよね。
 それって自分の訴訟が自分の手中にないということです。
 自分のわかる範囲内で論争してもらわなければいけないわけでね、他の裁判官はこんなことをよく我慢していたなあと私は不思議なんだけどね。
 自分の能力で理解できないことは排除しないと正当な判断ってできないんですよ。
 私は訴訟というのは職権主義的にやるというように思っていたから、わからんことは主張するな、そういう風にすすめてきたんです。

 これから特に原発訴訟というのは、ある意味では国策に反するところもなくはないんですね、そうすると最高裁でも勝てるようにしないといけない。
 最高裁でも勝てるようにするためには、常識人が見たら、どう見てもこっちが勝つな、という風に判決を書かないといけないんですよ。

 高邁な理論とか非常に専門技術的な訴訟の微妙なところで原告が勝ったのでは、最高裁では勝てない可能性が高いんですよ。
 だからそういう意味でも、大衆的に司法で原発をなくすという意味からすると、必然的に誰でもわかる訴訟にしなきゃいけないんです。
 そうしないと未来は開けない。
 勝ったり負けたりで一喜一憂しているようでは最高裁では勝てないんです。
 だから、わかりやすい訴訟にしなくてはいけないのは必然と私は思っています。」

【司会】
「最高裁で勝つというところまで、そこまで視野に収めてやらなければいけないというお話だったかもしれません。
 さっきの井戸先生のお話と、もしかしてかぶるかもしれませんが、井戸先生、今の論点でいかがお考えでしょうか。」

【井戸】
「河合先生の言われるように、連戦連勝とはなかなかならないと思いますけれども、やっぱり勝ったり負けたりと思いますけれども、やはりトレンドはそちらの方に動いていくだろうというふうに思います。
 電力会社は、バラつきを考慮していないのは争いようがないので、バラつきを考慮していないけれども、他の不確かさを考慮してバラつきの問題をカバーしているのだということを、これから全国の裁判所で強く主張してくると思うんですよね。
 ただ今までは、こちら原告側が、基準地震動は不十分だと、それで安全を確保できていないということを立証しなければいけなかったんですけれど、これで攻守逆転するんですね。
 バラつきを考慮していない、これは大きな問題なんだから、それを他の不確かさを考慮することでカバーしているんだということを、今度は電力会社が実証しないといけないということで、その実証の負担が電力会社に行くので、そういう意味からも住民側が有利な展開というのが期待できるのではと思っています。

 余談になりますけど、関西に住んでる方はご存知かと思うんですけれど、関西電力が以前からテレビコマーシャルを流しているんですけれど、関西電力は「地球にやさしい、COを排出しない発電を目指してます」というコマーシャルを今しているんです。

「3つの方法でやっています」と最初に言うものですから、3つのうち一つは原発だろうと思っていたら、そうでなくて、「太陽光、風力、バイオマス」なんですよ。原発が出てこないんですよ。
 そういうコマーシャルが今流れているんです。関西電力自体がもう、COを排出しない発電方法として、原発を堂々と言えなくなっている。
 それほどもう追い込んでいるんだということの現れだと思うので、自信もってこれからもやっていきたいと思います。」

質疑応答

ここから、質疑応答に入りました。
初めに、チャットで入った質問です。

【参加者A】
Q:国策で進めてきた原発ですから、単なる電力発生というだけでなく、その裏には核兵器開発という国策があるのではないでしょうか?


【司会】
「今の質問は、核の平和利用、産業利用を勧めていく背景には、核の軍事利用も併せて行うことが国策として入っているんじゃないかという問題提起ですね。」

【河合】
「そのことが、裁判に反映されていることはありないですね。裁判で、核兵器作る必要があるんだから、原発が必要なんだということが主張された例はないと思います。
 ただ、政治的な雰囲気として、核兵器開発の潜在的能力を保持するためには、原発を動かしておかないといけないんだという主張は、保守の非常にコアな部分、それもかなり右翼的な部分に伏流水のようにずっと、戦後75年間流れ続けている思想です。
 国策としては正式に表明されていることはないんですけれど、核兵器についての政府の見解は、核兵器は日本国憲法が禁止しているわけではない、自衛の手段として許される部分もあるというのが公式見解のようですから、そういうことを腹で思っている人はいるし、自民党の多くの政治家がそう思っている可能性はあります。
 我々裁判で原発を止めようとする人間が、裁判の上でそれを考える必要はないだろう。

 但し、政治運動として原発を止めていくときに、そういう論理との戦いは必要で、その進め方としては二つあって、我々が核兵器をもつなんてとんでもない、その潜在的開発能力をもつこと自体が許されないんだという一番真っ当な反論と、もう一つは、日本はもう十分に47トンのプルトニウムを持っている、今原発をやめても6000発か7000発か原爆作れるから、原爆の製造と原発の稼働は関係ないんだという、ちょっと変な論理なんですけど、そういう論理があると思います。
 その後の方の論理は、竹田恒泰氏など超保守のなかで原発反対の人たちが言っているようなことです。」

【司会】
「今よく聞かれる議論なんですけれども、今の河合先生のお話は、原発をこの世の中に存続させ続けるための理由付けとして、核兵器あるいは潜在的核兵器保有能力を持っておこうというのが、戦後一貫して超保守勢力から流されてきたという理解だと思います。
 それはそれとして、これに対して理論的に反論できるような理論武装しておかなければいけないというお話だったと思います。その他、何か質問は入ってますか? 
 では、私の方から、申立人のHさん、申立人の立場から、今日の報告を聞いたり、先生方のご指摘を聞いたりしてどんな感想をお持ちでしょうか。」

【申立人H】
「四電は、論点のすり合わせというか、共通理解はできたというか、地震動については同じ事ばかり言っていてもう話をする必要はないというようなことを言っていたんですけど、まったくそうではないと思います。
 まったくこちらの主張を四電は理解していない、または理解していないふりをしているのかなという感想を持ちました。」

【司会】
「わざとかみ合わせないようにしているという印象をもったということでいいんでしょうかね?」

【申立人H】
「そうだと思います。」

【司会】
「それは、大河先生や河合先生の話とも通じるところがありますね。」

【申立人A】
Q:審尋に出席してみて、裁判官のみなさんがちゃんと書面を読んでいるんだろうかという疑問が浮かんだんですけど、弁護士の先生方から見られてこの点はどうでしょうか?


【大河】
「裁判官は書面の内容について何もふれずに、本訴はどうなっているのかとか、伊方原発のテロ対策施設の工事はどうするのかということを発言されていて、どれだけ読まれているかというのはよくわからないんですけれども、しっかり読んでいれば、こちらの主張とかみ合っていないことがわかって、四電にもっときちんと認否をしなさいと言ったと思うんですよね。
 でもそういった内容に入るような話は全然なかったので、そうすると読んでないのかなと推測はしました。」

【北村】
「私も大河先生とほとんど同じ感想です。
 形式的な訴訟はするんですが、書面の中身に踏み込んでいれば、かみ合っていないというのは一目瞭然だと思うんですね。
 そうすると樋口先生もおっしゃっていたように、裁判官としてはどこがかみ合ってないのかとか、問題点を確認しようとすると思うんですが、そういうことは一切やってないので、まだ中身には踏み込んでないと思っています。」

【司会】
「その他、ご質問はございませんでしょうか?」

【参加者B】
Q:私がこうなればいいなと思うのは、中間貯蔵の問題です。関西電力の原発の再稼働も、知事さんが同意するには、県外に中間貯蔵の場所をきちんと確保しなければならないと言っています。 中間貯蔵が行き詰まれば原発は止まると思うんですが、中間貯蔵のことで裁判になっているケースはありますか?


【井戸】
「中間貯蔵を直接対象にした裁判は聞いていません。
 中間貯蔵の問題が、特に関西電力との関係で非常に重要な問題で、今、福井県知事が最後の防波堤になっていますから、あの姿勢を崩さずに頑張ってくれている限りは、関電は高浜1、2、それから美浜は動かせないという状況が続きますので、福井県知事を応援していくという運動が必要だと思います。」

【司会】
「中間貯蔵施設の問題は非常に原発推進側にとっては大きな問題なんだけれど、これが論点として裁判では今のところ扱われていないというお話でよろしいでしょうか。
 運動としてこの問題も我々は推し進めていかなければいけないという井戸先生のお話でした。
 では最後に大河先生、5月13日の期日では、何がポイント、何が中心になっていくのか、簡単にお話をいただいて、今日の記者会見報告会を終わりたいと思います。」

【大河】
「何が中心になるか正直まだわからないところで、今回四電が出してきた書面について不明確な認否の所をこちらが質問をして、それに対して四電がどのような回答をしてくるかによって、論点が深まっていくか、あるいは四電が逃げているのかはっきりすると思います。
 ここがポイントというのはまだ決まっていませんが、こちら側の主張の番になっています。」

【司会】
「逃げ回っている四電に対して、一つずつ歯止めをかけていけるかどうか、これが次回期日の、今度は我々が攻撃する番になるんですが、焦点になるというお話でした。
 ではこれで記者会見報告会を終わりたいと思います。みなさんどうもありがとうございました。」

16:30に記者会見・報告会が終了しました。




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