被爆地ヒロシマが被曝を拒否する伊方原発運転差止広島裁判
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「ふるさと広島を守りたい」ヒロシマの被爆者と広島市民が、伊方原発からの放射能被曝を拒否し、広島地方裁判所に提訴しました

「黒い雨」被爆者訴訟判決を受け、
控訴断念を広島市・広島県に申入れ



2020年7月29日、広島地方裁判所の高島義行裁判長は「黒い雨」被爆者認定訴訟で原告全員を被爆者に認定するよう判決を下しました。

2020年7月29日14時10分頃、結果を知らせる旗を掲げ、喜びに沸く広島地裁前

この判決を受け、伊方原発広島裁判原告団・応援団は臨時総会を開き、被告広島市と広島県に控訴断念の申入れを行うことに決定し、2020年8月4日、広島市と広島県に申入れを行いました。

広島市への申入れは、10:00から広島市役所議会棟1階会議にて行われました。
この段取りは、広島市議の馬庭恭子さん(市政改革ネットワーク)が行っていただき、馬庭さんと、藤井敏子さん(日本共産党)が立ち会ってくれました。
なお山内正晃さん(市民連合)からも別件があり立ち会えないけど申入れに賛同しますとの連絡がありました。
広島市からは、健康福祉局原爆被害対策部援護課の課長 山本雅英さんが対応いただきました。
山本さんは「私たちも同じ気持ちです」と喜んで申入書を受け取っていただきました。
広島市への申入書


写真左から、原告団哲野イサク、藤井敏子議員、馬庭恭子議員。
写真右が健康福祉局原爆被害対策部援護課の課長 山本雅英さん。

広島市への申入れのあと、広島県庁へ。
広島県へは事前に連絡を入れる余裕もなく、突然の訪問になりました。
健康福祉局被爆者支援課援護グループの主査 本西豊基さんが「課長が不在なので代理で受け取ります」と丁寧に対応してくれました。
広島県への申入書

広島市への申入書(なお、広島県知事 湯崎英彦氏への申入書も同内容。)


広島市長 松井 一實 殿

2020年(令和2年)8月4日
伊方原発広島裁判原告団

申 入 書

 2020年7月29日広島地方裁判所民事第2部(高島義行裁判長)は、「黒い雨」訴訟に関し、原告ら全員(84名)に係わる被爆者健康手帳交付申請却下を取消し、被爆者健康手帳の交付を命じる判決を行った。
 この件に関し、

 1.「黒い雨」訴訟の被告たる広島市は控訴を断念し判決を受け入れること。

 2.判決に従って原告ら全員に、速やかに被爆者健康手帳を交付すること。

 3.本判決に従って被爆者援護法第1条3号の審査基準を改訂し、「黒い雨」被爆者を3号被爆者の類型に位置付け、すべての「黒い雨」被爆者を早期に救済すること。

 4.判決は、「内部被曝による身体への影響には外部被曝と異なる特徴があり得る」との知見が存することを念頭に置く必要があるというべきである、と説示しているが、この冷静かつ科学的な見解を受け入れ、今後の被爆者援護行政の指針とすること。

 右申し入れる。

【申入れの趣旨】
1.本判決は、広島における「黒い雨」被爆者の3号被爆者該当性を争点とする初めての判決である。健康管理手当の対象となる造血機能障害、肝機能障害など11種類の障害を伴う疾病を発症した「黒い雨」被爆者の疾病を、原爆の影響との関連が想定されると認定した。と同時に「黒い雨」降雨地域のうち、いわゆる「大雨地域」のみを第一種健康診断特例区域に指定し、「大雨地域」外の「黒い雨」被爆者を被爆者援護の対象外としてきた従前の被爆者援護行政の不合理性、非科学性を断罪し、その転換を求めるエポックメイキング的な判決であり、被爆者援護行政のパラダイムシフトを迫るものである。

2.広島市は、本訴訟に至るまでの間、原告ら「黒い雨」被爆者と手を相携えて、国(厚生労働省)に対し、第一種健康診断特例区域の見直しを求めてきた。その広島市が、「黒い雨」被爆者の申請を却下し、本訴訟の被告側に座るなどとはもともと大きな自己矛盾である。本判決はその自己矛盾を解消するまたとない機会であると捉えるべきである。この点からも控訴を断念すべきである。広島市が国と「黒い雨」被爆者の間で板挟み状態になっていることは私たちも同情する。しかし究極の選択で、「黒い雨」被爆者の側ではなく、国の側に立ったことは大きな過ちである。控訴断念はその過ちを正す機会でもある。

3.広島市は、国(厚生労働省)との協議で、本判決に従って被爆者援護法1条3号の審査基準を改訂し、「黒い雨」被爆者を3号被爆者の類型に位置付け、すべての「黒い雨」被爆者を、新基準のもとで審査し3号被爆者と認定すべきである。「黒い雨」被爆者は、今回訴訟原告だけではない。
 訴訟には大きな犠牲と苦痛が伴う。多くの「黒い雨」被爆者にこのような苦痛と犠牲を強いることは社会正義に悖る。
 ちなみに救護(3号)被爆者訴訟において、広島市は2009年3月に言い渡された広島地裁判決を受け入れ、控訴を断念、原告ら7名全員に被爆者健康手帳を交付するとともに、3号被爆者の審査基準を改訂した。
 今回「黒い雨」被爆者に対しても同様な措置を講ずることは可能なはずである。

4.本判決は、判決理由の一つに放射線「内部被曝」の特徴を挙げている。長くはなるが、本判決文から引用する。(判決文299頁から300頁。引用は二重カギ括弧)

『(1) 内部被曝とは、体内に取り込まれた線源による被曝をいうところ、内部被曝には、外部被曝とは異なり、次の点で危険性が高いとする知見がある。
 すなわち、内部被曝では、外部被曝ではほとんど起こらないアルファ波やベータ波による被曝が生ずるところ、アルファ波やベータ波は、飛程が短く、電離等に全てのエネルギーを費やし、放射線到達範囲内の被曝線量が非常に大きくなること、放射性微粒子が、呼吸や飲食を通じて体内に取り込まれ、血液やリンパ液にも入り込み、親和性のある組織に沈着することが想定されること、内部被曝のリスクについて、放射性微粒子の周囲にホットスポットと呼ばれる集中被曝が生じる不均一被曝は均一な被曝の場合よりも危険が大きい(下線は引用者)とする指摘意見や、放射線を照射された細胞の隣の細胞も損傷されるというバイスタンダー効果、低線量でも細胞に長期間放射線(*判決文原文は“徴期間”となっているが、これは明らかに“長期間”の誤植)を当てると大きな障害が起こりうるというペトカウ効果、低線量・長時間の方が、一度に大量に被曝したときよりもリスクが高いという逆線量率効果などの知見が存在することが認められる。

 (2)「黒い雨」が人に健康被害をもたらす過程として、放射線微粒子を含む「黒い雨」を直接浴びたことや、そのような「黒い雨」が付着した物に接すること等による外部被曝に加え、放射性微粒子を含む「黒い雨」が混入した井戸水等を飲用等すること、そのような「黒い雨」が付着するなどした食物を摂取すること等による内部被曝を想定できることから、「黒い雨」に遭った者について、これに含まれる放射性微粒子から受けるおそれのある健康被害の程度を評価するにあたっては、降雨の状況等、その者の降雨前後の行動及び活動内容並びに降雨後に生じた症状等を踏まえ、放射性微粒子を体内に取り込んだことによる内部被曝の可能性がないかという観点を加味して検討する必要があり、そのような検討に際しては、内部被曝による身体への影響には外部被曝と異なる特徴があり得るという前記知見が存することを念頭に置く必要があるというべきである。』

 まことに冷静かつ科学的な説示というべきであり、広島市の今後の被爆者援護行政に際しても「内部被曝による身体への影響」を特に重要視した指針を採用すべきである。

5.今年広島原爆75周年を迎える。「黒い雨」被爆者らは、本訴訟原告を含め高齢化が進んでいる。残された時間はわずかしかない。思いを果たせないまま無念のうちに鬼籍に入った「黒い雨」被爆者も少なくない。広島市はこうした「黒い雨」被爆者の無念や苦難に思いを致すべきである。

6.以上の趣旨の通り、広島市は控訴断念に踏み切るべきである。

以上




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