被爆地ヒロシマが被曝を拒否する伊方原発運転差止広島裁判
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「ふるさと広島を守りたい」ヒロシマの被爆者と広島市民が、伊方原発からの放射能被曝を拒否し、広島地方裁判所に提訴しました

原告団が「ひだんれん」など5団体と共に「黒い雨」訴訟最高裁上告断念を広島市、広島県、厚生労働省に申し入れ


 広島高裁は「黒い雨」訴訟高裁控訴審(広島高裁民事3部=西井和徒裁判長、絹川泰毅裁判官、澤井真一裁判官)で、一審地裁判決を支持・強化する形で、被告広島県と広島市及び参加行政庁である厚生労働省の控訴を棄却し、原告84名全員に被爆者健康手帳を交付するよう広島県及び広島市に命じました。
 これに伴い原告団は、19日、原発事故被害者団体連絡会(=「ひだんれん」福島県田村市)などと共に広島市及び広島県、厚生労働省に最高裁上告を断念するよう申し入れました。
 他の共同申し入れ団体は、福島原発事故被害救済九州訴訟原告団(福岡県うきは市)、原発賠償関西訴訟原告団(大阪市)、「避難の権利」を求める全国避難者の会(札幌市)、原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会(京都市)、福島原発かながわ訴訟原告団・支援する会(横浜市)の5団体です。

 厚労省に対しては、午前11時から衆議院第二議員会館・第5会議室で、厚生労働省・保健局総務課・原子爆弾被爆者援護対策室の香川直樹室長他1名に、「ひだんれん」幹事の村田弘さん、岡田めぐみさん、地脇美和さん、伊方原発広島裁判原告団の上田紘治、森川聖詩の5名が「申入書」を手渡しました。




 広島県に対しては午後2時から、県庁健康福祉局・被爆者支援課で、同支援グループの本西豊基主査他1名に、原告団から網野沙羅(原告団事務局長)、哲野イサク、正垣ますみの3名が「申入書」を手渡しました。



 広島市に対しては午後3時から、広島市議会棟1階第2応接室で、広島市健康福祉局・原爆被害対策部・援護課の宍戸千穂課長に同3名が手渡しました。



 なお、広島市に対する申し入れでは、中原洋美市議会議員(日本共産党)、馬庭恭子(市民改革ネットワーク)、広島県原爆被害者団体協議会(広島県被団協)の佐久間邦彦理事長が立ち会いました。

 以下、申入書全文を掲載します。

「最高裁上告断念に係る申入書」


最高裁上告断念に係る申入書


2021年7月19日


広島市長   松井 一實 殿
広島県知事  湯崎 英彦 殿
厚生労働大臣 田村 憲久 殿


【申し入れ】
2021年7月14日、広島高裁は「黒い雨訴訟」控訴審において、貴殿らの控訴を棄却し、原告全員に再び被爆者健康手帳の交付を命じた。判決の内容は原告らの完全勝利であって、貴殿らは以下に述べる理由によって、この判決を受け入れ、最高裁上告を断念すべきであると申し入れる。

【理由】

1.内部被曝被害の可能性を認めた画期的判決
 本訴訟は、広島における「黒い雨」に曝露した者の、「被爆者」該当性を問う初めての訴訟である。この意味で本訴訟は、広島原爆で内部被曝被害が単独で存在したかどうかを問う最初の訴訟である。
 この点で、これまでの被爆者援護行政の根本的な見直しを迫ると共に、福島原発事故で大量に放出された放射能による広範な内部被曝被害に本格的に対処する必要性も強く示唆している。
 原爆で発生した放射性微粒子や放射性希ガスによる内部被曝と、福島原発事故で発生したそれらによる内部被曝の間には、何ら質的違いはないからである。

2.高裁判決は原審地裁判決を一層深めた
 高裁判決はその要旨で、被爆者援護法1条3号に該当するものとして(争点2)「原爆の放射能により、健康被害が生ずることを否定することができない事情の下におかれた者」と判示している。これは原審広島地裁判決の判示をさらに一層深彫りしたものといえる。
 さらに判決は、黒い雨に遭った者は被爆者援護法1条3号に該当するかどうか(争点3)について、「原爆の放射能により健康被害が生ずることを否定することができないもの」と明確に判示している。これは現に何らかの疾病を発症しているかどうかに関わらない。疾病発症を1条3号該当の要件とした原審よりさらに内部被曝被害の本質に肉迫した判示である。内部被曝被害は、超長期にわたって健康被害を人にもたらすものであり、現に発症しているかどうかを問題とすべきではないからである。
 続いて判決は、

「黒い雨に放射性降下物が含まれていた可能性があったことから、黒い雨に直接打たれた者は無論のこと、たとえ黒い雨に打たれていなくても、空気中に滞留する放射性微粒子を吸引したり、地上に到達した放射性微粒子が混入した飲料水・井戸水を飲んだり、地上に到達した放射性微粒子が付着した野菜を摂取したりして、放射性微粒子を体内に取り込むこと」

 で内部被曝被害は生ずると説示し、原告全員を1条3号の該当者として認定している。この点も内部被曝被害の源泉を正しく認識した判決といえる。

3.「大雨降雨域」による線引きはできない
 判決は「黒い雨降雨域の範囲」(争点4)について従来の「宇田雨域」に加え、「増田雨域」、「大瀧雨域」を挙げ、「宇田雨域の範囲外であるからといって、広島原爆の投下後に黒い雨が降らなかったとするのは相当ではなく、実際の黒い雨降雨域は、宇田雨域よりも広範であったと推認される。」と述べ、大雨であったかなかったかで、被爆者認定の線引きはできない、3つの雨域のいずれか一つに居住が確認されれば、黒い雨被爆者と認定すべき、と述べている。けだし内部被曝被害は、その被害発生の範囲を簡単に線引きできない、常にホットスポット状、まだら状に被害発生範囲が生ずるのであって、ここでも高裁判決は、内部被曝被害の本質を摘出している。

4.高裁判決は福島原発事故後の内部被曝被害対策への指針
 前述のごとく、原爆で発生した放射性微粒子や放射性希ガスによる内部被曝と、福島原発事故で発生したそれらによる内部被曝の間には、何ら質的違いはない。「黒い雨」で内部被曝被害が発生したのなら、福島事故でも内部被曝被害が発生している筈である。それも、元となる放射性物質(ウラン235)の量を考えれば、福島原発事故による内部被曝被害は、「黒い雨」のそれの数千倍の規模で発生している。その超長期にわたる内部被曝被害は、黒い雨被害者に鑑みれば、これから本格的にわれわれ日本社会の間に立ち現れてくるというべきであろう。この問題に対処する基本的考え方は、今回高裁判決に明示されている。この意味で高裁判決は、福島原発事故で発生する内部被曝被害を最小限に抑制、あるいは緩和するための指針ということができる。決して闇に葬ってはならない。

5.上告を断念すべき理由
 今回黒い雨訴訟の原告は84名である。7月14日の高裁判決までにその84名のうち14名がすでに鬼籍に入った。残された時間はあまりにも少ない。被告広島市及び広島県、そして参加行政庁である厚生労働省は、最高裁に上告して徒に時間の引き延ばしを計るべきでない。

 また2000年4月改正・施行の地方自治法の定めによれば、広島市、広島県は被爆者認定の法定受託事務において、自主的にその判断ができるのである。旧地方自治法時代の機関委任事務とは大きく異なっている。今回も広島市及び広島県が、厚生労働省の意向に盲目的に従うとすれば、現行地方自治法の立法趣旨(地方自治の自主性強化)に反するばかりか、広島市民及び広島県民に対する背信行為になることを知るべきであろう。

 今回被告は広島市及び広島県である。厚労省は参加行政庁に過ぎない。被告広島市及び広島県が上告を断念しさえすれば、参加行政庁である厚労省は独自に最高裁上告はできない。

 また厚労省は、憲法92条から95条(「地方自治」)と現行地方自治法の定めを尊重し、広島市及び広島県の地方自治自主性を認めるべきである。予算措置の締め付けなどの報復措置の脅しをかけるべきではない。さようなことをすれば、新型コロナパンデミック対策で、厚労省に対する国民の信頼を失っている現状にさらに拍車をかけることになる。国民は見るべきところをちゃんと見ている。

 さらにこれまで述べた理由以上に、今回高裁判決が、福島原発事故後、日本社会を覆う内部被曝被害に対処する、一つの重要な指針となっていることを忘れるべきではない。今回高裁判決を受け入れ、被爆者援護行政の根本的見直しを計ることこそ、福島原発事故後の、日本社会における正しい内部被曝被害対策への第一歩となることを知るべきであろう。

 広島市、広島県及び厚労省は最高裁上告を断念すべきであると強く申し入れる。

以上



【申入書発出団体】(※連絡先略)
  原発事故被害者団体連絡会(ひだんれん)
  伊方原発広島裁判原告団
  福島原発事故被害救済九州訴訟原告団
  原発賠償関西訴訟原告団
  「避難の権利」を求める全国避難者の会
  原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会
  福島原発かながわ訴訟原告団・支援する会



まぼろしの再度の上告断念申入書

7月26日夕刻に、厚労省は広島市・広島県に対して上告させることを断念いたしました。
以下は27日午前中に広島市・広島県に提出する段取りだった「まぼろしの申入書」です。

「最高裁上告断念に係る再度の申入書 特に地方自治法2条9項1号に関連して」


最高裁上告断念に係る再度の申入書
特に地方自治法2条9項1号に関連して


2021年7月27日


広島市長   松井 一實 殿
広島県知事  湯崎 英彦 殿

【申し入れ】
2021年7月14日、広島高裁は「黒い雨訴訟」控訴審において、貴殿らの控訴を棄却し、原告全員に再び被爆者健康管理手帳の交付を命じた。判決の内容は原告らの完全勝利であって、広島市及び広島県は、この判決を受け入れ、最高裁上告を断念すべきであると、再度、申し入れる。

【理由】

1.再度申し入れの趣旨
 申し入れの理由に関しては、7月19日付け申入書で述べたのでここで繰り返さない。
 再度申し入れる理由は、被爆者援護法による法定受託事務に関し、「国のいわば手足として動かなくてはいかんという組織の位置けである。」(松井広島市長の20年7月13日記者会見での発言)という認識のまま、現在に至っても広島市、広島県は厚労省(国)と協議を続けており、2000年4月改正地方自治法2条9項1号に規定された「法定受託事務」の立法趣旨を理解していないような外観を見せているからである。この申し入れでは、被爆者援護法に基づく法定受託事務では、広島市、広島県は国の指揮監督を受けることなく、自主的判断ができることを再度確認し、広島市及び広島県は、国の意向に左右されることなく、最高裁上告を断念すべきであると申し入れる。

2.2000年4月改正地方自治法
 旧地方自治法時代、国が地方公共団体に委任する事務は、「機関委任事務」とされ、「国の機関として、地方自治体の長や行政委員会が処理する事務であり、長などの機関は主務大臣の指揮監督を受ける」(同150条)と定められていた。機関委任事務は地方公共団体の事務のうち多い時には、総事務量の半分以上を占め、地方公共団体の「国の下請け機関化」の批判を浴びていた。地方自治の尊重、地方分権化の流れの中で、機関委任事務は廃止になり、2000年4月改正地方自治法では、新たに「法定受託事務」が作られた。法定受託事務は「国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるもの 」(地方自治法2条9項1号)と定義される。以降、法定受託事務は国から指揮監督を受けるものではなく、国に替わって地方公共団体が自主的に判断できる事務となった。被爆者援護法に基づく被爆者認定事務は、まさにこの法定受託事務なのである。
 従って、前出松井市長発言は、旧地方自治法時代の「機関委任事務」に関する認識を示したものであり、現行地方自治法に照らして適法ではない。

3.広島市及び広島県は最高裁上告に関し自主的判断をすべき
 広島市及び広島県は、現行地方自治法の立法趣旨に照らしてみると、最高裁上告について、国の意向に盲目的に従うのではなく、自主的に判断するのが適法なのである。国の意向に従うとすれば、それは地方自治法に照らして見ると違法行為である。

4.「黒い雨」訴訟控訴審広島高裁判決
 7月14日に出された「黒い雨」訴訟控訴審広島高裁判決は、今回原告84名の被爆者健康管理手帳申請を却下した広島市及び広島県の判断は、被爆者援護法に照らして「違法である」と明確に判示している。
 今回、もし地方自治法の立法趣旨に反し、最高裁上告について広島市及び広島県の自主的判断を放棄し、国の意向に盲目的に従うとすれば、それは二重の違法行為(被爆者援護法違反及び地方自治法違反)を犯すことになる。広島市の市民としてまた広島県民として到底看過することはできない。
 広島市及び広島県は、今回広島高裁判決、被爆者援護法、そして現行地方自治法の趣旨を遵守し、最高裁上告を断念すべきであると強く申し入れる。

以上



【申入書発出団体】(※連絡先略)
  広島県原爆被害者団体連絡会
  伊方原発広島裁判原告団
  原発はごめんだヒロシマ市民の会
  憲法と平和を守る広島共同センター

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