被爆地ヒロシマが被曝を拒否する伊方原発運転差止広島裁判
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「ふるさと広島を守りたい」ヒロシマの被爆者と広島市民が、伊方原発からの放射能被曝を拒否し、広島地方裁判所に提訴しました

広島高裁異議審 第1回審尋期日2018年4月23日(月)

広島高裁異議審
2018年4月23日(月)13:30~13:56
▼御案内チラシ
https://saiban.hiroshima-net.org/pdf/20180423.pdf


2017年12月21日広島高裁 相手方(四国電力)提出書面
保全異議申立書(A4版19頁)
2018年3月5日広島高裁 抗告人 提出書面
答弁書(A4版34頁)

2018年4月23日までに広島高裁に提出された書面

  
抗告人 提出書面
第1補充書(地震動関係)(A4版122頁)
第2補充書(司法審査の在り方)(A4版51頁)
第3補充書(補充書1への反論)(A4版17頁)
第4補充書(三次元地下構造調査)(A4版18頁)
  
相手方(四国電力)提出書面
補充書1(A4版37頁)
補充書2(A4版155頁)
補充書3(A4版43頁)



期日報告

広島高裁異議審第1回審尋期日報告

【お詫びと訂正】
広島高裁異議審第1回審尋期日報告の中で不正確な引用がありました。
「4.記者会見と異議審の行方」の「(9)破局的噴火の規模」の項目の中で「破局的噴火というのは、火山爆発指数(Volcanic Explosivity Index=VEI)で指数6(指数は0から8まであり、指数6は7段階目)以上の噴火、爆発時の噴火量で100立方km以上の噴火物をともなう噴火、と一般的にはいわれております。」という記述がありますが、記録動画をもう一度聞き直してみると、記者会見で中野弁護士は「破局的噴火には正確な定義はありませんが、火山爆発指数で7以上の噴火が一般に破局的噴火と考えられています」という主旨で発言しています。
従って上記の箇所は、「火山爆発指数(Volcanic Explosivity Index=VEI)で指数7(指数は0から8まであり、指数7は0から数えて8段階目)以上の噴火と考えられています」と訂正いたします。
不正確な引用をしたことをお詫び申し上げます。


期日報告の構成

1.火山事象に絞る四国電力と幅広い争点を扱う住民側
 (1)いずれも新任の3人の裁判官
 (2)双方の提出書面 
 (3)争点は火山事象だけではない
 (4)第2回審尋期日は7月4日
2.スローガンは「止め続けよう伊方3号」
 (1)乗り込み行進
 (2)裁判所前リレースピーチ
3.「9月30日期限延長」を狙って新たな仮処分提訴
4.記者会見と異議審の行方
 (1)甫守弁護士による総括報告
 (2)甫守弁護士による答弁書・補充書の解説
 (3)「科学の不確実性」
 (4)補充書(2)「司法審査の在り方」
 (5)争点は火山事象、地震動、司法審査の在り方など
 (6)立証責任はどちらにある?
 (7)科学者たちだけで決めさせてはならない
 (8)危うい規制委の火山ガイド解釈変更
 (9)破局的噴火の規模
 (10)6万年に1回の破局的噴火は低頻度ではない
 (11)政治的圧力に屈する規制委
 (12)新たな仮処分提訴の見通し
 (13)裁判官にこそ国際的視野が必要
 (14)3.11前にはなかった苛酷事故がいつの間に
 (15)うやむやにされる確率論的安全評価(PSA)
5.報告会での守田さんの発言


 2018年4月23日、伊方原発3号炉広島仮処分事件は、広島高等裁判所において四国電力による第1回異議審審尋期日を迎えました。当日の様子をお伝えする前に簡単に今回異議審に至るいきさつについてみておきましょう。

 広島高裁が私たちの提訴した抗告審において、伊方3号炉運転差止の仮処分命令を出したのが2017年12月13日。結果は私たちの勝利でした。四国電力による伊方3号の運転は法的に不可能となりました。高裁が原発の運転を差し止める日本で最初のケースとなったのです。
 一方で四国電力は、12月21日広島高裁に異議申し立てをします。この時四国電力は同時に「保全命令執行停止」の申し立ても行いました。これは、伊方3号の運転差止の仮処分命令の執行を止めてくれというものです。広島高裁(三木昌之裁判長)は18年3月22日に、この四国電力の「保全命令執行停止」の申し立てを「執行停止の理由なし」として却下。
 
 こうして18年4月23日(月)の広島高裁異議審を迎えることになったのです。

1.火山事象に絞る四国電力と幅広い争点を扱う住民側

(1)いずれも新任の3人の裁判官
 先に仮処分異議審の模様と結果についてみておきましょう。仮処分事件は完全な民事裁判という建前をとっていますから、一般には非公開です。傍聴者席というものはありません。ですから通常は、債権者4人(訴えた住民側)と債務者(相手方である四国電力)、それに双方の代理人弁護士だけが参加できます。ところが今回四国電力は通常4名の債務者に加えて四国電力社員18名が審尋に参加したいと申し出ました。そうなると対抗上こちらも18名が参加可能となります。裁判長(三木昌之裁判官)は、本案訴訟の原告に限って今回仮処分の関係者として同数の18名の参加を認めました。ですから今回は代理人弁護士を含めると双方それぞれ30名以上が参加する異例の審尋となりました。

 定刻の午後1時半、三木裁判長が2人の陪席を伴って高裁300号法廷に現れます。正面に裁判長の三木昌之裁判官、裁判長の右側に右陪席の冨田美奈裁判官、左側に左陪席の長丈博裁判官が座ります。高裁抗告審の3人の裁判官は人事異動と定年退官ですべて入れ替え。三木氏は17年12月20日に京都地裁の統括判事から広島高裁の統括判事へ、冨田氏は鹿児島地裁川内支部判事から18年4月1日広島高裁へ、また長氏は鹿児島地裁判事から17年4月1日に高裁判事へ異動となったものです。なにやらキナくさい感じがしないでもありません。

(2)双方の提出書面
 冒頭裁判長からは今回裁判が四国電力(債務者)による保全異議申立の審理であること、広島地裁の決定(吉岡裁判長による住民訴え却下決定)を“原々審”、広島高裁決定(野々上裁判長による3号炉差止決定)を原審と呼ぶことなどが整理されました。

 次に審尋期日までに双方から提出された書面及び証拠書類の確認が行われました。まず債務者(四国電力)から提出された書面は「保全異議申立書」、それに補充書(1)(火山事象に関する専門家の意見)、補充書(2)(原決定の判断の誤り及び火山事象)、補充書(3)(債権者答弁書に対する反論及び火山事象)の4点と関連する証拠書類。
 一方債権者(住民側)が提出した書面は「答弁書」(債務者の保全異議申立書に対する反論)、補充書(1)(地震動関係)、補充書(2)(司法審査の在り方)、補充書(3)(債務者補充書(1)への反論)、補充書(4)(三次元地下構造調査)の5点。
 四国電力がほぼ「火山事象」に絞った争点の設定に対して、私たちは「地震動問題」、「司法審査の在り方」、そしてもちろん「火山事象」、それに「三次元地下構造調査」という比較的新しい争点を提出し、より幅広い争点設定であることがわかります。
 (なお、以上の書面は次のURLで全文読むことができます。
 <https://saiban.hiroshima-net.org/source.html>

 さらに債権者側代理人弁護士から火山事象に関して5人の専門家の証人尋問の申請がありました。これに対して四国電力の代理人弁護士は、証人尋問を行っても書面で展開する主張の内容を口頭で述べるだけに過ぎない、科学的書面を提出するだけで十分であり、証人尋問は断固反対と強い口調で主張しました。

 三木裁判長は、証人尋問は採用しない、書面による証拠調べで十分であると判定しました。

(3)争点は火山事象だけではない
 次に三木裁判長は、双方書面を提出しているがこれで終了か、と双方に尋ねました。四国電力側は、現在提出しているものだけで主張立証に関しては終了であると回答。
 一方住民側弁護士(債権者側弁護士)は、四国電力側の主張に対して反論をしたい、と述べました。
 これを受けて、三木裁判長は、債権者側弁護士は地震動問題については原決定の誤りを指摘している、また今回の主張には原々決定、原決定では見られなかった新たな主張も出てきている、これらに対して四国電力は反論して欲しい、今までの主張で十分だというなら、反論箇所を引用する形で構わないから新たな書面を提出して欲しい、と述べました。
 
 法廷でこのやりとりを聞いていた私は正直いってほっとしました。というのは、今回異議審で争点を「火山事象」だけに絞れば、原決定で勝ちはしたものの、地震動問題では完全に四国電力の言い分を認めた格好です。異議審では地震動問題も争点にしてより有利に裁判を進めたいところです。三木裁判長の判定は、「火山事象」に加えて「地震動問題」も争点にする構えです。また双方が書面提出することとなれば、もう1回審尋期日が開かれることは確実です。
 
 三木裁判長は、審尋期日を1回で終わらせないで少なくとももう1回開くつもりであることが垣間見えました。「1回だけの審尋期日では私たちは圧倒的に不利になる」と考えていた私は、この裁判長の言葉を聞いてほっとしたわけです。
 
 これに対して四国電力の代理人弁護士は、かなり強い口調で、争点は火山事象だけに絞って早く決定をいただきたい、今現在3号炉を運転できない状況が続いている、そのため「日々、回復できない損害が発生している」ので債務者の利益、考え方を尊重して欲しいと述べました。
 
 これに対して発言を求めたのが債権者側の河合弘之弁護士。すっくと立ち上がると、回復できない損害というのは燃料費のことだろう、それは所詮お金の話だ、債権者側(住民側)の被る損害は「人格権」侵害の被害だ、土台次元の違う話だ、このことははっきりと申し上げておきたい、という主旨の反論をしました。

 聞いていた私は全く同感でした。「金」と「命」や「健康」では全く比較にならない、比較することもできない話なのです。四国電力は「金」と私たちの「命や健康」を天秤にかけている、その考え方そのものが「反社会的」なのです。四国電力は、自ら反社会的企業であることを満天下に晒しているようなものです。「燃料費」、つまり金による損害を四国電力の代理人弁護士は「日々回復し難い損害」と表現しました。しかし四国電力が受けている「日々回復し難い損害」は、自ら反社会的存在であることを満天下に晒すことによって発生している市民からの信頼や信用の喪失なのです。四国電力はこのことに全く気がついていません。どこまで行っても「金、金」なのです。

(4)第2回審尋期日は7月4日
 結局四国電力は裁判長に促される形で、債権者側の補充書(1)(地震動関係)、(3)(四国電力補充書(1)への反論)、(4)(三次元地下構造調査)について反論書面を提出すると答えました。
 双方書面の締め切りは6月11日と決まりました。

 こうなると、次回審尋期日の設定です。三木裁判長は6月20日から2日刻みで期日を提案しましたが、双方の都合が合わず、結局第2回目の審尋は7月4日と決まりました。

 次回期日で結審するかどうかは、「期日終了後に判断する」(三木裁判長)ということで、含みを持たせた発言でした。

 最後に中野宏典弁護士が特に発言を求め、ぜひ証人尋問を行って欲しい。
証人尋問でなければプレゼンでもよい、「科学の不確実性」の話は書証ではなかな表現できない、是非申請した5人の科学者の話を聞いて欲しい、と再度食い下がりました。これに対して三木裁判長は、短くそしてやや不快そうに「うかがっておきます」と応じ、閉廷しました。30分足らずの短い審尋でしたが、なかなか興味深い展開とはなりました。
 次回期日は前述のように7月4日(月)午後1時30分からです。

2.スローガンは「止め続けよう伊方3号」

(1)乗り込み行進
 さて話は前後します。4月23日の異議審審尋期日が裁判所から通知されたのは3月22日のことでした。準備期間はちょうど一ヶ月、事務局内部で準備チームをスタートさせ、いろいろな議論を行いました。そして出てきたスローガンが「止め続けよう伊方3号」。これはチラシのタイトルともなりました。昨年12月の広島高裁決定は、一応伊方3号炉に対して運転差止命令を出してはいるのですが、18年(平成30年)9月30日までの期限付き。異議審勝利を睨みながら、9月30日期限の無期限延長を狙ったスローガンが上記の文言です。

 当日記者会見・報告会会場に予定している広島弁護士会館3階大ホールに集合後、恒例になった裁判所乗り込み行進を開始。河合弁護士を先頭に、抗告人(仮処分申立人)4人や審尋に参加する本訴原告が先頭集団で歩きます。本訴原告の高松グループが準備した大型バルーン・ディスプレイ(“クジラ”と称しています)や回転式縦置きディスプレイ(“キリン”と称しています)などが設置され、なかなか気合いが入っています。(写真参照のこと)


 審尋参加グループは河合弁護士の「いってきます!」のかけ声と共に審尋会場へ消えました。裁判所前に残ったグループは、今回初めての試みとなる「高裁前リレースピーチ」を始めます。もともと、審尋の時や本訴口頭弁論の間、裁判所付近の、道行く人たちに私たちの裁判をアピールしようと開始した「裁判所前アピール行動」の発展形です。

(2)裁判所前リレースピーチ
 約20人ほどが広島高裁前でリレースピーチを行いました。発言者は5人。

 広島原爆の被爆者の方は、「これ以上放射線による被曝者を出したくない」という主旨で原発反対を。
 また江田島出身の原告の方は「伊方原発で事故が起きれば、それこそ“風評”でなく瀬戸内海は完全に破壊される」という主旨のお話。

 広島市会議員の方のお話からは、絶対に原発を再稼働させない、という強い意志を感じました。
 ドイツから今回異議審の取材にきてくれた、フリー・ジャーナリストのアンドレアス・シングラさんもマイクを握って、「日本人は統一した形で行動をとる、というイメージがあったが、日本にきていろいろ取材してみると、考えかたから、行動様式から多様性があるのだな、とわかった」「福島原発事故で、ドイツは原発ゼロに向かったのだが、そのドイツから見ると事故を起こした日本で原発が推進されているのを見て、信じられない思いがする」と語ってくれました。


 また、高松から参加してくれた支援者の方は、最近高名な地質学者の方と佐田岬半島の地質調査に参加した経験を写真入りで報告し、地質・地形からしていかに脆く、崩れやすいかを説明していました。参加した人の印象では、「まるで講義を聴いているよう」とのことでした。裁判所前で待機している報道陣の中には耳をそばだてている人もいました。中には気がついてテレビカメラを回すスタッフもいました。
 裁判所前を通りかかる通行人にもアピールしようという欲張った企画でしたが、一定の手応えがあった、というのが参加した人の感想です。

3.「9月30日期限」延長を狙って新たな仮処分提訴


 さて審尋を終わったグループと裁判所前リレー・スピーチを終わったグループが、記者会見・報告会会場の広島弁護士会館3階大ホールに集合したのは、午後2時半ちょっと前。記者会見の始まる前に、会場のパネル展示を見たり、今回新たに設けられた書籍コーナーをのぞいたり、互いにおしゃべりをしたり結構あっという間に時間が経っていきます。またこれも恒例になったカンパもこの時みなさんに呼びかけました。この日集まったカンパは3万7801円でした。(みなさん、ありがとうございました)

 午後2時50分頃、弁護団会議を終えた代理人弁護士の一行が会場に入ってきたのを合図に記者会見が始まります。

 最初に弁護団からの重要な発表のことを報告しておきましょう。私たちにとって最大の問題の一つは、昨年12月の広島高裁決定が期限付きということです。つまり今回異議審に仮に勝っても、9月30日を過ぎれば四国電力は、法的に伊方3号炉の運転が可能となるという問題です。もちろん私たちが異議審に負ければ、9月30日を待たずして、四国電力は伊方3号炉の運転が法的に可能となるのですが、勝つことを前提にして何らかの手を打たねばなりません。

 「止め続けよう伊方3号」をスローガンに戦う私たちにとって、何らかの法的手段を執らねばなりません。当日記者会見の弁護団の発表によれば、近々「9月30日期限延長」を狙いとした、新たな仮処分提訴を広島地方裁判所に起こす、とのことです。具体的な訴えの内容は今のところ不明ですが、期限延長を
目的としたアクションが起こされることが明らかになりました。それも9月30日までに裁判所の決定を貰わねばなりません。詳細がわかり次第みなさんにお伝えすることにします。

4.記者会見と異議審の行方

(1)甫守弁護士による総括報告
 さて肝心の異議審の行方です。この日の記者会見では、甫守一樹弁護士から総括報告がありました。おおよそ次の内容です。
 
 ・・・本日は、四国電力が昨年広島高裁に提出した異議審の第1回目の審尋期日です。今回提出した書面ですが、四国電力は、異議申立書、京都大学の大倉敬宏教授が原子力規制庁に提出した内容が中心の補充書(1)、火山事象問題ですね。補充書(2)は、四国電力が各方面からかき集めてきた火山に関する知見です。その言うところは、阿蘇カルデラは運転期間中に破局的噴火の恐れはないし、仮に噴火しても火砕流は伊方原発に到達しない、としています。補充書(3)は、こちらが提出しております答弁書への反論です。
 当方が提出している書面は、3月10日付けで答弁書。四国電力が提出した異議申立書に対するものです。補充書(1)は基準地震動に関する広島高裁決定の誤りを指摘したものです。補充書(2)は広島高裁決定での「司法審査の在り方」に関する誤りを指摘したものです。補充書(3)は、四国電力が出している補充書(1)(火山事象に関する大倉教授の見解)に対する反論です。つまり大倉教授の火山に関する知見に対して、いつ破局的噴火が起きるとか、どの規模の噴火になるかなど現在の科学的知見では予測できないことを述べたものです。補充書(4)では京都大学名誉教授の芦田譲先生、元物理探査学会の会長なんですが、新規制基準の目玉の一つである“三次元地下構造”の把握、これを四国電力はやったといいながら、実際は全然やっていないじゃないかと指摘したものです。規制委員会の適合性判断の誤りも同時に指摘しています。

 それから私たちは、やはり専門家の方々、これら専門家の話を裁判官に直に聞いて貰いたい、そして理解を深めて貰いたいと、5人の火山学の専門家の証人申請も行っております。うち2人は四国電力側が採用している専門家です。

 その後、四国電力は、これら書面で火山事象に関する主張は尽くしている、また保全異議審という裁判の性格上、火山の問題だけに限って審理して貰いたい、と述べました。とはいいながら、もし火山事象以外で債権者側から争点提起があれば、すみやかに反論を出す準備があるとも述べています。それから四国電力は、「回復困難な損害が発生しているので速やかな対応」が必要とも述べました。

 私たちは再度、科学の不確実性を理解して貰うためには専門家証人の証言が必要である、と主張しましたが、最終的には証人申請は採用されませんでした。

 さらに三木裁判長は、基準地震動については、私たちの主張は、見る限り従前の(四国電力の)主張で反論が尽くされているかも知れないけれど、必ずしも議論が尽くされていると決めつけられないものもある(新たな材料が提出されているかも知れない)、だから従前の主張と変わらないのであれば、それを引用して新たな反論書面を出して欲しい、と述べました。

 これら書面の提出期限は6月11日までとすることも決められました。それから三木裁判長は次回期日を定めます、と述べ、第2回の審尋期日が7月4日(月)午後1時半と決まりました。法廷は今日と同じ300号法廷です。次回期日において審理終了するかどうかを判断すると、三木裁判長は述べました。・・・

(2)甫守弁護士による答弁書・補充書の解説
 続いて甫守弁護士が提出書面の解説に入ります。大要以下の通りです。

 ・・・3月10日に出した答弁書、これは四国電力が提出した「保全異議申立書」に対する反論なんですが、主な内容としては、たとえば破局的噴火の話です。四国電力は、「阿蘇カルデラで破局的噴火がおこれば西日本は壊滅的状況となる、その時には伊方原発からの避難どころの話ではない」と主張していますが、こちらの反論は、仮に破局的噴火が起こった場合、西日本は壊滅的状況となるといいますが、その時かぶる火山灰は放射能入りの灰(文字通り“死の灰”)となる、これは決定的違いです。

 補充書(1)については、基準地震動関係について広島高裁決定が広島地裁決定よりも後退した判断をしています。四国電力の主張をそのまま引き写すか、あるいは明らかに誤った判断をしている、それがいかに不合理な内容であるかを論じた中身になっています。

 補充書(3)は先ほども申しましたが、京都大学の大倉教授の意見書がいかに火山学界の通説を無視しているかという話です。補充書(4)についても先ほども触れましたが、(三次元地下構造の)物理探査の話です。新規制基準では三次元地下構造を物理的に把握しようということになっています。しかし四国電力はほとんどやっていない、ボーリングをやったなどと言っていますが、ボーリングというのは一次元探査ですね、そのボーリングの穴を使って地震波探査をやったといっていますが、それをあわせても二次元探査でしかない、それで三次元などというのは、ちゃんちゃらおかしいわけで、それを専門家の先生にご指摘頂いた上で、私たちも三次元探査になっていない、という主張をしています。・・・

(3)「科学の不確実性」
 補充書(4)については中野宏典弁護士の解説です。以下その大要です。
 ・・・補充書の解説に入る前に、私の感想をちょっと申し述べたいと思います。証人尋問のことです。この種の裁判で一番難しいのは、科学がいかにあいまいなのか、不確実なのかということ、地震や火山といった事象で科学が常に明快な答えを出せるわけではない、非常に不確実な部分が大きいと言うことが重要で、ただそのことがあまり理解されていない。書面でそれを見てしまうと、いかにもそれが正しい、書面では確実なようなものに見えてしまうので、書面では“曖昧なものです”などとは書きませんから、書面ではもっともらしく見えるわけです。そうした意見書だけを見て判断することは危険なので証人尋問を申請したわけです。“科学の不確実性”を十分考えてください、と。専門家のお話をうかがうと、その科学の不確実性がよくわかるわけですね。それを裁判官に感じて頂きたい、それには直接お話を聞くのが一番なんです。結果から見てみると裁判官にはその辺がご理解いただけないのかな、という印象を持ちました。それから書面を読んだだけでは理解できないところがあるんです。そこは“求釈明”ですね、こういったことがわからないから双方に質問してくれと、その点もお願いしておきました。それについては「意見として聞いておきます」という回答でした。

(4)補充書(2)「司法審査の在り方」
 さて補充書(2)は、「司法審査の在り方」について論じています。前述のような科学の不確実性を踏まえていかに裁判所が判断すべきなのかを論じた書面です。原発が安全かどうか、どこで一線を引くべきなのかは科学者にはわからない、それを科学者自身がいっているわけです、どこまで原発に安全性を求めるのかは、科学者が答えるべき課題ではない、社会が、われわれ全員が考え答えを出すべき問題で、裁判所が今まで大きな誤解をしてきたのは科学者が安全かどうかを決めるのだ、と考えてきた点です。原子力規制委員会も科学者の集団ですけれど、科学者が(高度な安全性を)決められる、と(裁判所が)誤解をしてきている。その点を書面としてまとめております。
 広島高裁決定では火山事象については認めて頂いていますが、その時も火山学者の率直な意見をなるべく沢山出して、高裁に安全性について判断していただいた、といういきさつがあります。・・・

 次に発言したのは松山地裁、高松高裁で伊方3号炉の運転停止仮処分を求めて戦っている松山の薦田伸夫弁護士です。
 「最悪のパターンとして、今日で審尋終結するというシナリオもありえたんですけど、そうはならなくて、第2回目の審尋が7月4日と決まったので、9月末というタイムリミットまでに広島異議審で決定がでるかどうかはかなり微妙になってきました。そういう感じをもちました。」

 次に発言したのは4人の仮処分申立人(広島高裁抗告審では抗告人)の一人、綱崎健太さんです。
 「私たちは10月1日以降も引き続き、伊方3号炉を止め続けたいと思っていますので、異議審も当然勝っていかなくてはならないのですけれど、10月1日以降も、止め続けるためにみなさん、共に戦っていきましょう」

(5)争点は火山事象、地震動、司法審査の在り方など
 記者会見は質疑応答に入ります。ある記者さんは、「今回、高裁決定は火山事象で3号炉の運転をさしとめたわけですけど、異議審では火山事象と基準地震動問題の2点が主な争点だと考えていいわけですか?それとスケジュールのことになりますけれど、9月30日が期限ですけど、それまでに高裁異議審の決定がでると考えていいわけでしょうか?」と質問しました。

 答えるのは甫守弁護士。「火山と地震は主な争点ですが、それ以外に争点がないのかといえば、ある、と。特に先ほど中野弁護士から説明のあった“司法審査の在り方”、あるいはシビアアクシデント対策について、広島高裁決定は非常に不合理な点がありますのでそれについてもキチンと争点化していきたいと考えています。それから9月30日までに決定がでるかどうかは、先ほど薦田弁護士からコメントがあったように、ちょっと微妙な情勢になってきておりますので、それは裁判所に聞いてくれ、ということになりましょうか。
 基本的に異議審というのは、四国電力の利益のために存在する審尋なので、ですから9月30日を過ぎると、法的に四国電力は伊方3号炉の運転ができるわけで、それまでに決定がでなければ、四国電力の異議審による利益は失われますので、自動的に却下という結論になるでしょう」

(6)立証責任はどちらにある?
 一般参加者の方からも次々と質問がでました。主なものを紹介しましょう。「争点の“司法審査の在り方”についてもう少し詳しく説明して欲しい。それから四国電力は証人尋問の必要はない、と主張したのですが、その理由はなんでしょうか?」

 答えるのは中野弁護士。「“司法審査の在り方”は大きく言うと2種類の問題がありまして、一つ目は立証責任の問題。原発が危険であるということを住民側が立証しなければならないのか、それとも原発が安全であることを四国電力が立証しなければならないのか、という問題です。これについては広島高裁決定は原発が十分に安全であることを四国電力が立証しなければならない、としています。これは正当な判断だと思います。もう一つの問題は、原発は安全でなければならないというんだけど、じゃ、どの程度安全じゃなきゃいけないのかという問題です。これは従前“社会通念”ということが考えられてきた。それはいくらなんでも曖昧でしょ、考える人によってどうとでも解釈できる、とわれわれは主張してきたわけです。そこを広島高裁決定は、“社会通念“に変えて、“合理的に予測できる規模の自然災害に対応していればいい”としたわけです。でも“合理的に予測される規模”というのは、やっぱり曖昧ですよね、それも人によってちがうんじゃないですか、というのが私たちの主張。広島高裁決定ではおおまかにいって、“新規制基準”が“合理的に予測できる規模の災害”としました。それじゃ、新規制基準をクリアすればOK、ということになっちゃうじゃないかというのが私たちの反論です。

(7)科学者たちだけで決めさせてはならない
 新規制基準が間違うこともあるわけですし、さっきもいいましたけれど、規制委は科学者の集団です。科学者には原発にどの程度の安全性が求められるかどうかは判断できない。これは社会全体で議論し判断しなければならない。
 もちろん科学者の意見は尊重すべきではありますけれど、科学者だけで決めさせてはならない、というのがわれわれの主張です。裁判所であれば裁判所が独自に判断する、ということでなければいけない、ということです。
 
 証人尋問の件ですが、裁判所は却下の理由を2つ理由をあげました。ひとつは今回は「保全手続き」であって、人格権侵害があるかないかの緊急の判断をしなければならない、あまり時間をかけていられない、そういう手続きの性格から証人尋問にはなじまない、という理由。これに関しては必ずしもそうではないんですね。実際の裁判では“保全手続き”で証人尋問をすることがあります。現に山口の仮処分では、山口地裁岩国支部で、伊方原発仮処分事件の証人尋問を行います。
 もう一つの理由は、専門家の証人なので文書で意見を聞けばすむことだ、というものです。しかし、そこは“不確実性”が沢山含まれているので、書面の行間のニュアンスを証人尋問でくみ取るべきだ、というのが私たちの主張で、これは前に述べたとおりです」

(8)危うい規制委の火山ガイド解釈変更
 「規制委委員会が3月に火山ガイドを一部変更しましたよね。あれは広島高裁決定対策なんですか?」という質問もでました。答えるのは中野弁護士。

 「3月7日に原子力規制庁が“考え方”というのを出してきました。それがご指摘の文書ですね。(正式には『原子力発電所の火山影響評価ガイドにおける
「設計対応不可能な火山事象を伴う火山活動の評価」に関する基本的な考え方について』)
 広島高裁決定は、過去阿蘇カルデラ4噴火の際、火砕流が160km圏まで届いている、その証拠がある、阿蘇カルデラから130kmの伊方原発に届いていないというためには相当な根拠がいる、四国電力が阿蘇カルデラ4噴火の火砕流が届いていないというのであれば、相当確かな立証をしなければならないが、四国電力はこの立証に失敗した、という理由で伊方原発を「立地不適」としたわけです。
 これに対して原子力規制庁は、この広島高裁決定を無力化するために、基本的に破局的噴火というのはもともと頻度が低いものだから、差し迫って破局的噴火が近いことを合理的な根拠をもって立証できない限りは、(破局的噴火は)ないものとして扱います、という解釈を(「考え方」の中で)したんです。
 ところが「差し迫って破局的噴火が近い」ことを予測することは、現在の科学では不可能なんですね。要するに破局的噴火は無視してよろしい、としたんです。またある程度予測できる時点ではもう遅いんです。ある程度予測できる時点、たとえば2~3週間前、数週間前でしたらある程度差し迫って破局的噴火が近いと予測できるかも知れない。しかしその時点ではもう遅いです。原子炉の燃料を移動させるには数年単位の時間がかかる。数週間ではどうしようもないんです。それともう一つの問題は、事業者が、四国電力がわざわざ自分たちの不利になるような、「破局的噴火が近い」などという証拠や報告を提出するはずがない、という点です。
 どう考えてもこの考え方の枠組みはおかしいし、第一国際基準にも反している。どのような国際基準をとっても、“破局的噴火が立証できない限りは無視してよろしい”なんていう国際基準はありません。このことを国際社会に出したら(原子力規制委員会や規制庁は)大恥をかくと思います。」

(9)破局的噴火の規模
 「破局的噴火とはどの程度のものなんですか?」という質問も出ました。答えるのはやはり中野弁護士。
 「破局的噴火というのは、火山爆発指数(Volcanic Explosivity Index=VEI)で指数7(指数は0から8まであり、指数7は0から数えて8段階目)以上の噴火と考えられています。ただ、広島高裁決定では7段階目の噴火の話をしているのに対して、先ほど出した原子力規制庁の「考え方」では、「巨大噴火」といういい方をしていて6段階目の話まで含めてしまっている。これがまた大問題なんです。
 この問題に関しては『脱原発弁護団全国連絡会』がすでに抗議声明(“福島原発事故を上回る大災害につながる「原子力発電所の火山影響評価ガイドにおける『設計対応不可能な火山事象を伴う火山活動の評価』に関する基本的な考え方について」に断固として抗議し,適正な司法判断を求める声明”)を出して徹底的に批判しています。詳しくはそちらを読んで見てください。
 100立方kmの噴火物と言ってもピンとこないと思いますが、阿蘇カルデラ4噴火の時の噴火物は600立方kmと言われています。それが私たちが知っている日本最大。もっと前にはもっと大きな噴火があったかもしれませんが。」

(10)6万年に1回の破局的噴火は低頻度ではない
 また次のような質問もでました。
 「阿蘇カルデラ4噴火は9万年前のことなので、そんな昔のことまで想定に入れる必要はない、という意見がありますが、いかがお考えでしょうか?」
 中野弁護士。「そのようなことをいう専門家と称する人たちがいることは承知しています。詳しくは準備書面のなかで反論しているところではありますが、阿蘇カルデラ4噴火が起きたのは9万年前。大体6万年に1回の頻度で阿蘇カルデラは破局的噴火をおこしている、日本全体で言うと1万年に1回起きています。九州全体でいうと2万年に1回と言われています。考えて頂きたいのは、6万年に1回の頻度で起きる事象が、ここ9万年間起きていない、という点です。つまりいつ起きてもおかしくない状況になってきているということですよね。どのくらいの頻度で起こるかということを考えてみると、9万年前だから考慮しなくていい、という話にはならなくて、9万年前だから十分考慮しなくてはならない、という話になります。
 それと“9万年”という時間は、考慮しなくてもいい時間なのかという問題がそもそもあります。
 広島高裁決定がでてから、キャンペーンが張られていまして、9万年前のことなんか考えていたら日本で原発は建てられないよ、というストーリーが執拗に流されています。
 一般の世界では、9万年前というのは古い古い昔の話ですが、原子力安全の世界では新しい話なんですね。たとえば活断層。活断層が活動するかしないかを考える基準は大体12.5万年です。12.5万年まえにさかのぼって活動した痕跡があれば、それは活断層としようとなっています。9万年どころではありません。原子力規制庁や事業者は、9万年という数字が、原子力安全の世界では普通の数字だとわかった上で、破局的火山噴火は頻度が低いんだ、と印象操作をしているんです。なので、ひっかからないようにご注意ください」

(11)政治的圧力に屈する規制委
 また次のような質問も。「規制委は、原発というのは絶対安全ではありません、しかし1炉あたり100万年に1回という頻度で苛酷事故発生を抑えます、といいました。そこからすると火山事象の9万年前の破局的噴火は頻度が低いので無視できる、といういいかたには納得できない、と思うんですが・・・」
 
 答えるのは甫守弁護士。
 「1炉あたり100万年に1回の苛酷事故というのは、あくまで努力目標ですが、それにしてもこれは彼らが自分で引いた線引きです。100万年に1回が十分に安全なのかどうかについては議論がありますが、そこはちょっと今横に置いておいて、自分たちが100万年に1回、と自分たちが決めたんだからちゃんとそれを守ろうよ、といいたいですね。100万年に1回というのは、火山や地震だけではなくてテロも含めたあらゆる事象を勘案していっているのです。でも火山事象だけとっても、日本全体で1万年に1回、九州だけだと2万年に1回、阿蘇カルデラだけをとっても見ると6万年に1回、設計対応不可能な火山事象が起きている。これらを“社会通念上無視しうる”といっているわけですよね。ま、とんでもないことをいっている。本当にいっていることとやっていることが完全に矛盾している。
 なんでこんなことになるのかといえば、国会審議でも明らかなように、原子力規制委員会が政治的圧力を受けまくっている。独立の委員会なんてものじゃない。だから自分たちの決めた規制なり、目標とは大幅にずれたことをやっている。いい例が先日の火山事象に関する「考え方」です。政治的圧力を受けてどんどん規制委が変質している。このままほっておいてはいけません。みんなで声を大きくして、この問題を指摘していかないと、またぞろ(福島原発事故のような)大変なことが起きてしまう、と懸念しています」

(12)新たな仮処分提訴の見通し
 また次のような質問も。
 「伊方3号炉を止め続ける、という観点に絞って話を俯瞰してみれば、9月30日期限延長の新たな仮処分提訴をして、仮に異議審に勝っても、裁判所が新たな仮処分申立に対して、9月30日までに結論を出す可能性は低いのではないか、この点どうでしょうか?」
 答えるのは甫守弁護士。「高裁決定が、期限を設けた理由はあくまで本訴が違う結論を出すかもしれない、だから仮に9月30日までを期限とする、というものでした。現在のところ、本訴の判決が9月30日までに出される見通しは全然ない。とすれば、高裁決定の期限設定の理由枠組みを変えない限り、期限延長は自然なんじゃないでしょうか?」
 補足するのは中野弁護士。「期限延長に論点を絞ってみれば、広島の裁判所が結論を出すのにそう時間はかからないと思いますよ。期限延長に論点を絞るかどうかは裁判所次第ですけれど」

(13)裁判官にこそ国際的視野が必要
 次のような質問もでました。
 「今日もドイツからのジャーナリストの方がきてますが、ドイツでは原発事故を起こした日本が原発推進をしている、日本は学ばない国だな、という話を聞きます。また日本の司法はこうした国際的観点を持っているのでしょうか?」
 
 答えるのは中野弁護士。「ドイツの話ですけれど、私も似たような経験があります。ドイツを訪問した折、司法関係者といろいろ話合いをしたなかで、ドイツでは、司法は福島原発事故から学んで完全に脱原発に舵を切った、日本はそうではないじゃないか、という意味合いのことを言われて大変悲しい思いをしたことがあります。日本の裁判官は、国際的な動向はまったく考えていない、頭の片隅にもないのだろうと思います。ただ原発というのは日本の国内だけではすまない話。放射性物質には国境がありませんから。日本の社会だけに通用する、ガラパゴス的な発想で原発を動かしていいはずはありません。そのことは実は法律にも書かれていて、原子力基本法と原子力規制委員会設置法の中に、“確立された国際的な基準を踏まえる”という言葉が(福島原発事故以降)新しく入ったわけです。そのことからすれば当然、日本の勝手な“安全性”だけで動かしてはいけない。このことは従前から何度も主張をしています。ただいろんな方にお話を聞くと、外国の方は日本でこそ厳しい安全性の判断をして、科学の不確実性を考慮して。ま、こういう問題に裁判所がどういう判断を下していくか世界中が悩んでいる問題であることはまちがいないんですけれど、日本こそそういう問題に先鞭をつけるべきだ、ということはいろんな方から指摘を受けています。裁判官にも少しでもそういう視点を持っていただきたいなということは強く思っています」

(14)3.11前にはなかった苛酷事故がいつの間に
 ついでに次のような質問が出たこともご紹介しておきましょう。
 「1992年の伊方最高裁判決では、国側が“日本では苛酷事故は起こらないんだ。万が一でも事故が起こらないように安全基準が整備されている”と主張し、原告側が“いや事故は起こるんだ”と主張していました。ところが福島原発事故後、国側は“苛酷事故は起こるんだ。どの程度までの事故なら社会が容認するかが争点だ”と主張が変わってきています。この観点からの指摘はないのでしょうか?」
 答えるのは薦田弁護士。
 「伊方最高裁判決の前の松山地裁判決時の国側の主張に、“10万年に一度の確率、落ちてきた隕石にあたって人が死ぬような確率”だということが書かれてありました。その時の主張に“富くじは誰かにあたるけれど、原発は絶対事故はおこさない”という主張がありました。今から考えると信じられないんですけれど、実際裁判の中でそういう主張がありました。」それを引き取る形で中野弁護士は、「そうですね。ご指摘のようにそこから解きほぐさなくていけないかも知れませんね。そういうことを踏まえてまた主張を考えたいと思います」
 黙っていられなくなったか甫守弁護士。
 「いつも思うんですよね、われわれが“高度な安全性”を主張すると、国や電力会社側は“原発反対派は絶対の安全性を求めている。それは選択論だから裁判所のやることじゃない”などという反論がかえってくる。それに対して裁判所は“絶対の安全性は保障できないのだから、原告の主張は採用できない”などと判断をします。いつも不思議に思うんですが、“福島原発事故後、いつ私たちは原発のリスクを受け入れることを決めたんだろう?”原発ってリスクがあるけれど必要なんだからみんなで受け入れていこうよ、という意思決定があったんだったらわかるんですけど、そんな意思決定はないわけですよね。そうした意思決定もないままに、原発が推進されている、そもそも入り口のところが間違っていたということです。間違った入り口から入って、“人格権侵害”がない、というのであれば、それをちゃんと証明してみろ、というのですが、裁判所はなかなか冷たい・・・。悩ましい問題ではあります。」
 
(15)うやむやにされる確率論的安全評価(PSA)
 壇上から抗告人の一人である小倉正さんが、たまらなくなったか、確率論的安全評価( PSA)が規制委員会の謳い文句で、それを整備しようという話になっていたのに、これがうやむやになってきている、この点は論点にならないか、と質問しました。
 答えるのは甫守弁護士。
 「おっしゃる通りです。絶対安全ではないとわかった、じゃどれくらいのレベルの安全を原発に求めるのか、という議論になりますよね。どうしても動かしたいんであれば、これぐらいのリスクは我慢してくださいと、その時に定量的評価は凄く大事です。ある人にとっては1万年に1回程度のことを考えていれば十分安全だというかもしれないし、別な人にとって1億年に1回でも不安だと主張するかも知れません。議論の前提として、どこまでの安全性を求めているのかを定量的に確立しないと、ちゃんとした議論にならない。“3.11”後は、外国の先進国はみんなやっているから日本もやろうよ、という話になっていた。実は“3.11”前でもやろうという議論になっていたんです。地震についてやり始めるとどうもこれはマズいぞとなった。外国の水準よりも高くなっちゃうから発表できない、それでとりやめになったということが国会事故調報告を読むと書いてあります。
 で、“3.11”後はやろうと言う話になって、やり始めるとこれもマズいぞ、となった。世界一安全とかいっているけれど世界一安全じゃなくなっちゃうぞ、となってきたんですね。で、今ずるずるとやらない方向になってきている。先延ばしにして、原子力規制委員会の更田委員長も、堂々と“もうPSAなんてできないでしょ。それでいいですね”というようになってきているのが現状です。
 こうしたことはこれまでも裁判で主張してきているんですよ、しかし裁判所は全く理解しません。」
 

5.報告会での守田さんの発言

 
 記者会見というよりなにやら公開シンポジウムのような案配になってきましたが、司会者はここでいったん記者会見終了を宣言、引き続き報告会に入ります。報告会では、ドイツ人ジャーナリストのアンドレス・シングラさんの参加もあり、英語と日本語が飛び交う活発な質疑応答があったのですが、その模様は割愛します。ただ一点だけ、京都から参加した本訴原告で、自らもジャーナリストの守田敏也さんの発言が注目を引きました。守田さんはトルコの弁護士会に招かれて、現地で交流したときの経験から次のように話しました。
 「僕はトルコへの原発輸出に反対していて何度も訪問しているのですが、実は去年の4月は甫守さんと一緒に行ったのです。トルコの弁護士会が呼んでくださいました。その時に僕は原発の構造的な危険性について話し、甫守さんは2014年に福井地裁が出した大飯原発差止訴訟の判決を縷々解説したのです。そしたらトルコの弁護士たちが“こんな判決が出ることが可能なのか”とすごく喜んでくれました。
 僕の周りには知り合いがいて「やったな」と背中をバンバン叩くのです。
 今日は甫守さんの話している場面の動画を撮ったのでこれもトルコで流してもらおうと思うのですよ。トルコ弁護士会の方は甫守さんを知っているので“どうも甫守は今度は伊方というところを止めているらしいぞ”という話になると思います。
 それで「日本の人たちが止めなければいけないものなんて輸入しちゃだめでしょ」という声が強まり、トルコが輸入を止めたら、日本のメーカーがさらに苦しくなってやめざるを得なくなっていきます。その道を僕はさらに切り開こうと思います。
 あともう一つ、僕は京都「被爆2世3世の会」に入っていて、5月19、20日に京都で被爆2世3世全国交流会を開くのでぜひ参加して下さい。
 ご存知のように広島・長崎の被曝被害はものすごく過小評価されてきています。それを基準に、被曝はどれぐらい危険なのかということが言われているわけですよね。
 だからもう一度、私たちが隠されてきた広島・長崎の被曝実態を明らかにすることで、コストの面から追い詰めていくだけではなくて、被曝の危険性という一番大事な問題をもって、原発を止めるように迫っていきたいです。
 
 その点でこの裁判が掲げているスローガン、「被爆地ヒロシマが被曝を拒否する」というのは本当に素晴らしい。「もう二度と被曝を許してはいけないんだ」ということで頑張りたいと思います」
 
 守田さんの発言には多くの拍手がありました。
 
 あっと気がつくともう閉会の時間が迫っています。前々回の報告会から恒例となってきている“We Shall Overcome”の合唱で締めくくりです。
 歌唱指導は本訴原告の渡辺朝香さん。今日は初めてギター伴奏がつきます。ギターを弾くのは突田守生さん。すべての原発にとどめを刺す日まで闘い抜くことを誓いながら、みんなでこの歌を歌い終えました。
 


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