被爆地ヒロシマが被曝を拒否する伊方原発運転差止広島裁判
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「ふるさと広島を守りたい」ヒロシマの被爆者と広島市民が、伊方原発からの放射能被曝を拒否し、広島地方裁判所に提訴しました


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 伊方原発・広島裁判メールマガジン第30号
 ICRP2007年勧告の国内法制取入れを急ぐ放射線審議会
 その(1)「待ち」の審議会から「攻め」の審議会へ
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2018年2月21日(水)発行
編集長:哲野イサク
編集委員:綱崎健太
編集委員:小倉 正
編集委員:網野沙羅

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▽本日のトピック▽
1.編集委員会からのひとこと(哲野イサク)
2.ICRP2007年勧告の国内法制取入れを急ぐ放射線審議会
  その(1)「待ち」の審議会から「攻め」の審議会へ
                   (哲野イサク)
3.【短信】2018年1月31日伊方原発広島裁判
      本訴第9回口頭弁論期日報告
               (網野沙羅)
4.【短信】2018年2月13日伊方3号差し止め仮処分高松抗告審
      第2回審尋記者会見・報告会参加報告
                 (小倉 正)
5.【短信】日本地質学会西西日本支部大169回例会で
      シンポジウム「中央構造線と中央構造線系活断層」
                      (網野沙羅)
6.【短信】2018年2月28日川内原発行政訴訟
     (設置変更許可処分取消訴訟)
      第7回口頭弁論期日 記者会見&報告集会
7.メルマガ編集後記
      (綱崎健太)
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□  編集委員会からのひとこと
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 「放射線防護村」というムラがあるのだそうです。「放射線防護村」とは「ICRP村」と同義だと思っていただいて結構です。

 放射線審議会は今「ICRP2007年勧告」の国内取入れ作業を急ピッチで進めていますが、そのためには関係各省庁向けのガイドラインを作ろうとほぼ2017年の半分以上の時間を使って仕上げにかかっています。その過程の中で出てきた言葉が「放射線防護村」。

 話は「LNT仮説」(直線しきい値なし仮説)を、各省庁放射線防護担当政策 立案者にどう説明するかの話題。

 事務局(原子力規制庁の放射線防護企画課)の作成した原案に対して、審議会委員の岸本充生(大阪大学ビッグデータ社会技術部門教授)がまず噛みつきます。

 「LNTモデルは科学的に証明された事実、として受け入れられているものではなく・・・、とありますが、確定的影響のほうも科学的に証明された真実とまでは言えないのではないかと思います」

 ここで岸本が言っていることはまさにその通りで、確定的影響を科学的事実ではないと指摘された、同じく委員の甲斐倫明(大分県立看護大学教授)が、ムッとして反論します。それから実験科学上の事実と放射線防護科学上の事実は、実は違うんだ、みたいな議論があって(放射線防護科学などというものが存在するのも初めて知りました)、取りなすように同じく委員の上蓑(かみみの)義明(理化学研究所・仁科加速器研究センター・安全業務室長)が発言します。

 ちなみにこの会合の時の放射線審議会委員は13名。 名前を挙げておくと、

 上蓑(前出)、小田啓二(神戸大学副学長)、甲斐(前出)、神谷研二(審議会会長、広島大学副学長、福島県立医科大学副学長)、唐澤久美子(東京女子医科大学教授=放射線腫瘍学)、神田玲子(量子科学技術研究開発機構・放射線防護情報統合センター・センター長)、岸本(前出)、杉村和朗(神戸大学理事・副学長)、藤川陽子(京都大学・原子炉実験所・准教授)、二ツ川章(日本アイソトープ協会・常務理事)、松田尚樹(長崎大学・原爆後障害医療研究所・所長)、横山須美(藤田保健医療大学准教授)、吉田浩子(東北大学大学院・ラジオアイソトープ研究教育センター准教授)

 さて上蓑の発言。

 「岸本委員以外はほとんど放射線防護村の人間かなと思うので、村以外の意見は尊重しないといけないかと思いますけど、LNTモデルについての、なんていうか、この科学的真実ではないというのと確定的影響についてのお話っていうのは、そのレベルが全然違うと思うんですよね」

 どうも「放射線防護村」の存在とともに、「放射線防護村」だけに通用する「科学的真実」があるようです。
 できれば「ムラ」だけに通用する「科学的真実」はムラだけにとどめておいていただいて、現実の客観的科学的真実の世界に持ち出さないように
 願いたいものです。
 (文中敬称略。以上は「放射線審議会第138回総会議事録-2017年12月8日」の9頁から10頁を参照しました。
  http://www.nsr.go.jp/data/000216155.pdf)

 (哲野イサク)


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□ ICRP2007年勧告の国内法制取入れを急ぐ放射線審議会
■ その(1)「待ち」の審議会から「攻め」の審議会へ
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 原子力規制委員会傘下の放射線審議会が、ICRP2007年勧告の国内法制取入れを急ぎに急いでいる。
 ▽原子力規制委員会 放射線審議会
 http://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/houshasen/index.html

 日本の国内現行放射線規制法体系はICRP(国際放射線防護委員会)1990年勧告をベースとしている。
 これを2007年勧告のベースに国内法制を変えていこうというわけだが、どうしても急いで変えないわけにはいかない深刻な事情が背景にある。
(文中敬称略)

◆公衆の被曝線量「1mSv」から「100mSv」へ
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 公衆の被曝線量上限(以降“限度”と表記する)に限っていえば、ICRP1990年勧告は「年間1mSv」を勧告した。
 従ってそれを丸ごと取り入れた現在の日本国内放射線規制法体系はすべて「年間1mSv」である。
 
 「年間1mSv」を規定した諸法令は、主なものでも

 「原子力基本法」、
 「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(障防)、
 「原子炉等規制法」、
 「労働基準法」、
 「労働安全衛生法」、
 「電離放射線障害防止規則」(電離則)、
 「医療法」、「薬事法」、
 「臨床検査技師等に関する法律」、
 「船員法」(船員電離放射線障害防止規則)、
 「船舶安全法」(危険物船舶運送及び貯蔵規則)、
 「国家公務員法」(人事院規則)、
 獣医療法、
 「鉱山保安法」

 などがあげられる。

 こうした諸法令に関連した規則や規格などが枝葉のように派生しており、これら体系全体を矛盾なく変更する作業は容易ではない。
 (関係諸法令は「放射線審議会基本部会「国際放射線防護委員会(ICRP2007年勧告(Pub.103)の国内制度等への取入れについて-第二次中間報告-」2011年1月の「別表」を参照した)
  http://saiban.hiroshima-net.org/mm/kai20110323sfc_220-2.pdf
 
 ところが、2007年勧告は事実上、「年間1mSv」の公衆被曝線量限度をかなぐり捨て、一挙に100mSvを上限とする勧告を打ち出したのだ。
 もちろんその背景には1986年に起こったチェルノブイリ原発事故がある。
 もし公衆の被曝線量を年間1mSv限度とすると、チェルノブイリ原発事故では数百万人の移住者が発生する。
 (実際1985年、ICRPはパリ声明において「公衆の被曝限度年間1mSv」を90年勧告に先立って定式化していた)
 
 旧ソ連政府はIAEA(国際的な核の産業利用推進エンジンである国際原子力機関)
 のアドバイスに従って、年間5mSvの被曝線量を移住の基準とした。
 それでも旧ソ連政府はこれら移住に伴う費用で壊滅的な財政打撃を受け、それがソ連崩壊を早める一因になったとされる。

 「年間1mSv限度」では、将来チェルノブイリ事故級の壊滅的事故が起こったら、今度は「原子力発電事業」そのものが成立しなくなるほどの経済的打撃 (事故処理費用の壊滅的増大)を受けると考えたICRPは、事故後の処理費用を低く抑えることができる勧告を出す必要に迫られた。それがICRP2007年勧告である。事故処理費用を抑えるためには、事故による移住者や避難者をできる限り少なくすることが心要となる。そのためには「公衆の被曝限度」を引き上げればいい、となる。

◆3つの被曝状況
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 それではICRP2007年勧告はいかなる形で「公衆の被曝線量限度」を大幅に引き上げたか。「3つの被曝状況」を案出したのである。
 
 ICRPは2007年勧告で、それまでの「正当化の原則」、「最適化の原則」、「線量限度の原則」に加え、新たに「3つの被曝状況」なるものを勧告した。

 3つの被曝状況とは、
  1.計画被曝状況
  2.緊急時被曝状況
  3.現存被曝状況
 の3つである。
 
 よくわからない。じっくり読み込み、解説を聞き、やっと理解ができるというシロモノだ。
 その原因は彼らの詭弁にある。
 筋の通った論理的な話は理解にさほど苦しまない。
 ところが詭弁に詭弁を重ねた話は、彼らの詭弁を理解するのに大きなエネルギーを割かざるをえない。
 ICRPの打ち出した「3つの被曝状況」はまさにこの代表例である。

◆計画被曝状況、緊急時被曝状況、現存被曝状況
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 「計画被曝状況」とは「線源を意図的に導入し運用する状況」(2017年12月第138回放射線審議会総会提出資料1-2号「放射線防護の基本的考え方の整理-放射線審議会における対応-<案>」5頁表1。以下同じ)だそうである。
  http://www.nsr.go.jp/data/000212871.pdf

 原発を考えてみたらいい。
 事故を起こさない原発はその通常運転でも放射能を出している。
 これが「線源を意図的に導入」の意味である。
 しかしそこから放出される放射能は管理され、防護の規制の管轄下にある。
 (少なくともそうであると前提されている。実際にはそうではないが)
 この状況における被曝はあらかじめ計算され、計画されているから「計画被曝状況」というわけである。

 言い換えれば「計画被曝状況」とは今まで1990年勧告で想定していた「公衆の被曝一般」の状況だと考えることができる。

 「緊急時被曝状況」とは「事故時等、緊急の対策を必要とする状況」(同表1)

 なにも説明していないのだが、ポイントは「事故時等」にある。
 ちょうど2011年3月11日に発生した福島原発事故を想定してみるといい。
 東電福島第一原発からは発生直後から約4-5カ月にわたって盛んに環境に放射能を放出していた。
 この時の状況がちょうど「緊急時被曝状況」である。
 従って「緊急時被曝状況」とは、避難や移住など「緊急の対策」が必要となる状況ということになる。
 (話が横道に逸れるが、チェルノブイリ事故に対処する「チェルノブイリ法」では、事故初期の事態は別として「避難」の概念はない。「移住」である。
  「避難」は元の場所に戻ることを前提にした言葉だが、「移住」は元の場所に戻らない。
  逆に福島原発事故では「移住」はなく「避難」しか存在しない。
  理由は簡単だろう。「避難」の方が「移住」よりコストがはるかに安く済む。
  原発を推進する側がチェルノブイリ事故から学んだ貴重な教訓というべきだろう)

 「現存被曝状況」とは「管理について決定をする時点ですでに被ばくが存在している状況」(同表1)だそうだ。
 これもわからない説明である。意味合いは放射能の線量限度の管理を決定する時点ですでに被曝が存在している状況、すなわち計画被曝以上の被曝状況が「現存」している状況、ということになる。
 計画被曝も被曝状況なのだから、どんな状況なのか論理が一貫しない。
 これは今の福島県を中心とした東北南部地域、東京を含む東関東地方の状況を想定したらいい。東電福島第一原発からの大量放出は一応終了した。(緊急時被曝状況の終了)
 かといってすぐに「計画被曝状況」(事故前の放射能汚染状態の状況)に戻るわけではない。大量に放出した核種のうちセシウム137やストロンチウム90など比較的長寿命核種だけをとってみても、事故前の状況に戻るには少なくとも百年単位の年月が必要だ。
 そのうちプルトニウム239の娘核種であるアメリシウムなどといった原子炉内で生成された量よりも大量の危険な放射性物質が環境にゆっくりと生成されていく。(プルトニウム239→プルトニウム241→アメリシウム241=半減期約432年)

 こうしたことを考えると実は人間の時間軸の中ではほぼ永久に、ICRPのいう「計画被曝状況」に戻ることはないのだ。
 こうした「緊急時被曝状況」でもない「計画被曝状況」でもない、事故後の惨憺たる状況を「現存被曝状況」と、ICRPは呼んでいる。

◆「線量限度」と「参考レベル」
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 さらにICRP2007年勧告以降で、この3つの状況に応じて、それぞれ公衆の被曝線量の「限度」を設けるのである。以下のごとくである。

 ただし、「緊急時被曝状況」や「現存被曝状況」においては、「限度」という言葉は使われない。
 一定の幅があるためだ。ICRPはこれを「参考レベル」と称している。
 1990年勧告で使われていた公衆被曝線量「限度」という言葉は2007年勧告では「計画被曝状況」にのみ使用される言葉となった。

 ・緊急時被曝状況 年間20mSvから100mSv (線量参考レベル)
 ・現存被曝状況  年間1mSvから20mSv (線量参考レベル)
 ・計画被曝状況  年間1mSv (線量限度)

 こうしてICRPは「緊急時被曝状況」という状況を案出して公衆の年間被曝上限を一挙に100mSvまで引き上げる勧告を打ち出したのである。

 しかし、ICRP勧告はまさしく勧告であり、法的にはそれ以上ではない。
 勧告を日本国内での各種放線規制の法的根拠とするわけにはいかない。
 この勧告の趣旨を国内での規制原則・基準とするためには、国内法に矛盾なく取り入れることが必要となる。
 現実に1990年勧告を矛盾なく国内法に取り入れるのに約13年間かかっている。
 (数え方はいろいろだが、10年以上かかっている、という表現であれば異論はどこからも出ないであろう)

 また関係している法令が先に紹介したように非常に幅広く、また複雑多岐にわたっている事を考えれば大変な作業となることは想像に難くない。

◆勧告取入れ、これまでの経過
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 こうして2007年勧告の国内制度への取入れが開始された。
 福島原発事故前の取入れへの取組については、2011年(平成23年)1月に出された「国際放射線防護委員会(ICRP)2007年勧告(Pub.103)の国内制度等への取入れについて-第二次中間報告-」(放射線審議会 基本部会)という文書が比較的手際よく説明しているのでそこから抜粋しながらみてみよう。

 放射線審議会(当時は文科省傘下)は平成20年(2008年)1月21日の第104回総会において、2007年勧告の国内制度取入れについて基本部会で検討することを決定。基本部会は2008年3月13日の基本部会から検討を開始し、以下の内容で検討を実施した。
 (1)2007年勧告の内容確認
 (2)1990年勧告と2007年勧告の比較
 (3)2007年勧告と関連する国内諸法令規制内容との比較
 (4)国内制度取入れに関連して検討すべき事項と課題

 基本部会は検討を重ね2010年(平成22年)1月、中間報告書をまとめ、その後検討を重ねてちょうど1年後の2011年1月、第二次中間報告書をまとめた。
 2011年1月の時点でまさかその2ヶ月後の3月11日、東電福島第一原発事故が起こるとは誰も想像すらしなかったであろう。
 しかし2007年勧告で想定した苛酷事故は、日本で発生するのである。

 この時第二次中間報告は、

 「・・・評価対象となる線源以外からの放射線の寄与により現実的に線量限度を超える可能性は極めて低いことから、評価の基準としては、現行と同様に線量限度である1mSv/年を用いることが適切である。」(第二次中間報告6頁)

と提言していたのである。

◆「避難基準20mSv」の法的根拠
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 そこへ発生したのが福島原発事故である。住民を避難させなければならないが、当時の民主党菅直人政権は、「放射線防護の専門家」の提言を入れて、年間予測被曝線量20mSvを避難基準とした。
 当時(現在でもそうだが)日本の法体系は公衆の被曝線量の年間限度は1mSvである。
 厳密に当時の国内法に照らせば、この避難基準は違法である。
 (現在でも公衆の被曝線量年間限度は1mSvである)

 しかし当時の民主党政権は避難基準に年間20mSvを選択した。
 この事情はいかなる資料によってもいまだに明らかになっていない。
 当時野田内閣の経産大臣だった細野豪志(2011年3月11日当時は内閣総理大臣補佐官。同年4月15日から担当事項が「原子力発電所事故全般についての対応及び広報担当」)が『朝まで生テレビ』という番組に出演した折、

  「放射線防護の専門家から20mSvから100mSvの間で避難基準を選べ、といわれたんですね。私たちはわからないもんだからそのうちの最低の20mSvを選んだんです」

 と証言しているくらいである。
 それでは福島事故の時の避難基準20mSvがいかなる法律にも違反しているのかというとそうでもない。

 2011年3月11日、福島原発敷地から大量の放射能が敷地外へ放出されることが確実となった時、当時の民主党菅直人政権は、法律に従って 「福島第一原発による原子力緊急事態宣言」を発した。
 (この緊急事態宣言は今に至るも解消されていない。福島原発による原子力緊急事態宣言は今も発令中である)

 根拠法である「原子力災害対策特別措置法」によれば、原子力災害が発生すると、原子力緊急事態宣言を発令し、内閣総理大臣を本部長とする原子力災害対策本部が閣内に組織され、本部長にはほぼオールマイティの権限が与えられることになっている。「年間20mSv」の避難はこの本部長の指示である。(原子力規制庁担当者の私に対する回答)

 だから、20mSv避難基準の法的根拠が原災措置法に基づく本部長指示といういい方はできる。しかし日本の法体系の中には当時も今も、「緊急時被曝状況」などという状況は法律に根拠をもたない。
 であれば、20mSvを避難基準とした本部長指示そのものが違法ということになる。
 このこと自体大問題だが、さらに大きな問題はその違法状態が現在ただいまも続いているということだ。

 原発推進側、自民党・公明党連立政権、原子力規制委員会をはじめとする政府各関係省庁、原子力事業者などなどにとってはこの状態、つまり公衆の被曝線量年間限度1mSvの基準と公衆の被曝線量年間20mSvの避難基準の二重基準状態は大きな政治的リスクである。
 今のところまだこの二重基準状態(公衆の被曝線量限度20mSvの違法状態)は一般に知られていない。
 しかし、たとえば一連の福島原発訴訟でこのことが争点になっていく可能性は大きい。また国会で現在の避難基準の法的根拠について厳しく問われれば、ことは公にしられてしまう。
 また現在進めている福島帰還政策の誤魔化しも明らかになってしまう。
 また少なくとも2020年に予定されている東京オリンピックまでには原子力緊急事態宣言は解消したい。
 20mSvの唯一の法的根拠が緊急事態宣言とあってみれば、今すぐは解消できない。
 2007年勧告の国内法制化を急がなくてはならない大きな要因であろう。

 「ICRP2007年勧告国内取入れ作業」は、こうして基本部会の第二次中間報告まで順調に進んだが、東電福島第一原発事故の発生によって審議は中断してしまった。
 関係各省庁の事務方を務める官僚たちがそれどころではなくなったのである。
 しかし、福島事故の発生による政府の放射線防護政策は、すでに事実上「勧告」を、国内法の裏付けや根拠をもたないまま、先取りして実施していることだけは銘記しておくべきだろう。

◆事故後開店休業の放射線審議会
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 事故の発生によって、原子力行政の在り方が大きく変わることとなった。
 中でも大きな変化は、原子力規制行政の一元化であろう。
 原子力規制委員会が新たに設立され(2012年6月成立、9月始動)、また放射線審議会そのものが文部科学省から原子力規制委員会傘下に移管された。
 (2012年6月成立『原子力規制委員会設置法』で 「(所掌事務)第四条 原子力規制委員会は、前条の任務を達成するため、次に掲げる事務をつかさどる。」とし、第四条の五で「放射線による障害の防止に関すること。」と規定され、(審議会等)第十三条の2では「前項に定めるもののほか、別に法律で定めるところにより原子力規制委員会に置かれる審議会等は、次のとおりとする。「放射線審議会」とされた)

 しかし原子力規制委員会に置かれた放射線審議会はしばらく開店休業が続く。
 「2007年勧告」の取入れを急ぎたいのはやまやまなれど、原子力規制委員会及びその事務局である原子力規制庁は、福島原発事故の影響でいったんストップした原発の再稼働問題で忙殺されていたからである。

 原子力規制委員会に移管してから最初に開かれた放射線審議会は2014年4月4日の127回総会。
 この日は会長の選任と審議会の運営の確認のみ。
 30分程度でそそくさと終わる。
 2014年はこの後128回と129回の3回。
 2015年は130回と131回の2回。
 2016年に至っては2月8日の132回総会の1回切り。

◆機能強化で攻めの審議会へ
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 それが2017年に入ると様相ががらりと変わる。
 2017年3月2日、極めて重要な決定が行われる第133回総会が開催される。
 (規制委の年度でいえば16年度)
 そして6月16日の第134回総会、7月21日の135回、9月25日の136回、11月10日の137回、12月8日の138回、翌18年1月19日の第139回総会と立て続けに開催される。
 「2007年勧告取入れ」が切迫した状態であることを物語る。

 各総会で何が討議されたかはこれからみていくのだが、さしあたり今から1年前の133回総会での重要事項をみていこう。

 この会合では、放射線審議会の機能強化を図る法案改正の提案がなされた。
 具体的には放射線審議会設置の根拠法である「放射線障害防止の技術的基準に関する法律」の中に、「放射線審議会に、(1)自ら調査審議を行う、(2)必要に応じて関係行政機関の長に意見を述べることができる機能の追加」項目を付加しようということだ。

 それまで放射線審議会は各省庁からの諮問をまって審議・答申する機能しかなかった。いわば「待ちの放射線審議会」だった。
 2007年勧告を取り入れようにも、関係各省庁が「諮問」してくれなければ話が進まない。
 ところがICRPの放射線防護の体系は、いわば一面詭弁の体系であり、各省庁の担当者にも非常に理解し難い。
 いきおい諮問しようにもなにをどう諮問していいかわからないままズルズル時間だけが経過していく。

 そうではなくて、審議会に調査機能を持たせて関係法令を審議し、関係諸省庁に「諮問」を促す機能を持たせようというわけだ。
 別ないい方でいえば、「あなたのところはこういう内容で放射線審議会に諮問してください」といえる機能を持たせるところにこの改正法案のポイントがある。

 133回総会では事務局の提示した「改正法案」が、大した議論もなしに決定される。この法案は規制委員会の承認を経て、開会中の国会に提出され、国会でもこれまた大した議論もなしに成立する。(2017年4月14日公布=平成二十九年法律第十五号)

 野党議員が質問しようにも内容が理解し難く、また一般受けしない地味な内容であるため、質問のしようがない、専門家に任せておけばいい、といったところだろう。
 
 しかし「2007年勧告取入れ」という点では、(核推進側にとっては)大きな前進である。なにより「待ち」の放射線審議会から「攻め」の放射線審議会へ転換する体制が整ったからである。

 その後立て続けに審議会が開かれるのは前述の通りだが、そこで何が課題になって、どう解決を図っていこうとしているのかは次回以降みることにする。

(哲野イサク)


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【短信】2018年1月31日伊方原発広島裁判
    本訴第9回口頭弁論期日報告
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(本訴裁判体は、裁判長:末永雅之裁判官、右陪席:山本由美子裁判官、左陪席:岡村祐衣裁判官の3名です)

厳しい寒さの続く中、当日午後の広島は、その時だけ陽光溢れるあたたかな日和となりました。
広島地裁への乗り込み行進後、原告の内5名は進行協議へ、その他の原告15名が口頭弁論法廷へ、残る30名が傍聴の抽選会場へ向かいました。
抽選会場では、用意された座席数が傍聴希望者数35名と同数だったため結局、抽選なしで全員が法廷に入り口頭弁論を傍聴できました。

■進行協議
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進行協議は209号法廷で行われました。14時02分に裁判官が入室。
全員起立して迎えると、末永裁判長が「お待たせしました」。
進行協議の内容はおよそ次のようなものでした。

■第1陣と第4陣原告の併合
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第9回口頭弁論で併合するつもりとの末永裁判長の話がありました。
ですからこの進行協議ではまだ併合前ということになります。
4陣で弁護団に参加する村上朋矢代理人弁護士の同席があり、「第4陣で併合する弁護士ですけど(進行協議参加)いいですかね?」と四電側代理人弁護士に村上弁護士が進行協議に同席することの同意を求め、了承を得ました。また、このあとの口頭弁論で第4陣との併合があるが、その際、第4陣原告は第1回目の口頭弁論になるので意見陳述を認めるという話がありました。

■従前から言っていた?
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次に、双方からの提出準備書面の確認となりました。
末永裁判長からちょっと意外な発言が飛び出し、ちょっと驚きました。

「これまで被告側が出された地滑りや津波に関する準備書面は主に3号機に関する主張で、1号機2号機に関する主張も必要だ。従前から言っていたが、3号機とは場所も設備も位置も違う。地震に関してはどれも共通でかまわないが、それ以外は設備も位置も違うのできちんと主張して欲しい。」
と述べました。後で進行協議に出ていた全員に聞くと、みんな驚いていました。
というのも従前もなにも、これまでそんな話はでていなかったと記憶しています。
少なくとも初めて聞く話です。「そんなこといってかな?」と。

仮処分の裁判とは違って、本訴では1号機、2号機、3号機運転差止と廃炉を求めています。
1号機については四電は廃炉を決定したものの、現実に廃炉にいたっていません。
ですから1号機も本訴対象案件です。しかし四電の答弁書や準備書面は、これまで3号機に関する疎明(説明)ばかりです。
1-3号機とも全く同じならこの疎明もあるのかも知れませんが、1、2号機と3号機は同じ加圧水型といっても型式も違えば、運転年数も違います。このままだと、1、2号機については裁判にならないので裁判長は、前述の指摘になったものだと思います。

四電側の弁護士は、確かに指摘通りなので、「わかりました」と答えるしかありません。

■提出準備書面の確認
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今回は原告側から準備書面14「外部人為事象」が提出されています。
http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/honso/jyunbi_14.pdf

次回第10回は原告側から2点準備書面が提出され、被告側からは火山についての反論書面、しかも高裁仮処分異議審で提出された準備書面を流用する形で提出するという話になりました。

さらに第11回口頭弁論期日にて被告は準備書面14の反論を予定し、原告は被告から第11回で提出される反論を受け、第12回で原告側から再反論するとの予定が弁護団側から述べられました。

■第2陣・第3陣原告併合問題
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なお末永裁判長は、第2陣・3陣原告の委任状再提出事件について相当気になっているようで「委任状の集まり具合はどうか」と尋ねてきました。
弁護団は70%強で前回とあまり違っていない、原告団の事務局も手一杯で進んでいないと伝えると、

「そこは原告団事務局ではなく、弁護団のほうでやっていただいて進めてほしい」
「処理は次回までにはなんとかできないか。(第2陣・3陣原告の裁判が一度も口頭弁論が開かれず)止まっているのは異常だと思っている。」

との発言がありました。弁護団は極力努力するといい、進行協議が終わりました。
進行協議が終わったのは14時21分でした。

■異常事態を招いたのは末永裁判長自身
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廊下に出た進行協議出席者は「裁判所も異常事態だと思っていたのか」と苦笑い。

事の発端は第2陣・第3陣原告の委任状提出書類の形式にあります。
第1陣原告の委任状には一人一人の原告に代理人弁護士目録がついた形で提出されました。
第2陣・第3陣原告の委任状は、いわゆる集団訴訟形式で提出されていました。
つまり、すべての委任状のあとに代理人目録を1部つけ、全体を1ファイルの形にしたものです。
これは原告人数が多い時によくある形式です。

裁判所の事務方も不備なしと判断し、確認もスムーズに行われ、第1陣原告と第2陣原告の併合さえ、いったんは行われました。

ところが第1陣と、第2陣・第3陣の委任状の提出の仕方が違うと知った末永裁判長は、

「書類不備である。代理人目録直前の委任状に関しては代理人がついているものとし、それ以外は代理人弁護士がいないものと判断する」

と、いったん行われた併合を取り消しました。
そして第2陣・第3陣原告に対して訴訟委任状の再提出を命じたのです。
第2陣原告と第3陣原告には代理人弁護士が存在しない状態が長く続きました。
従って原告が提訴したものの、一度も口頭弁論が開かれない、しかも1年近くにもわたって店ざらし状態が続いています。
このことを指して末永裁判長は「異常な状態」と表現したものと思われます。

書類不備といっても、委任状ひとつひとつに訴訟代理人目録がついておらず、どの代理人に訴訟を委任したのか不明確だ、というだけのことです。
弁護団からは裁判長立ち会いのもと、訴訟代理人目録をつけていくのはどうかという提案もされましたが、理由も示されず「ダメだし」が行われ、
あくまで訴訟委任状の再提出を命じた、といういきさつがあります。
委任状再提出を原告の方々にお願いしながら、そこにかかる膨大な手間と時間、コストを思いやると、原告団事務局の中には「こうなると、嫌がらせだよね」とのぼやきも出ていました。

再提出には時間がかかります。
委任状再提出があまりに遅いので、進行協議で末永裁判長の「催促」となったものと思います。

■口頭弁論・意見陳述
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口頭弁論は302号法廷で14時30分から行われました。
なお、今回、なんと法廷には暖房が入っておりました。
最初に第4陣の併合がされ、第4陣は初めての訴訟になるので意見陳述を認めるという話がありました。
第4陣原告の山下徹さんが意見陳述を行いました。

▽意見陳述書「瀬戸内海を死の海にしてはならない」江田島市 山下徹
http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/honso/20180131_yamashita.pdf

意見陳述が終わると拍手が起こりました。
末永裁判長は「拍手はやめてくださいね」と一言いいました。
次に進行協議で確認したり、決めた内容が申し渡されました。

準備書面や証拠書類等の確認のあと、次回第10回は3月26日14時から進行協議、14時半から口頭弁論、第11回は6月18日、14時から進行協議、14時半から口頭弁論の予定であることが述べられ、14時46分に口頭弁論は終了しました。

■傍聴者にやさしい?口頭弁論
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今回口頭弁論では前回と違う点がいくつかあります。
1.法廷に暖房が入っていたこと
2.裁判長がマイクを使ったこと
3.進行協議で決まった提出書面の確認や次回期日の予定が述べられたこと

前回は11月の寒い日であるにも関わらず暖房なし、マイクなどの拡声器なしで、傍聴者には裁判長が何をしゃべっているのか全く聞こえず、さらに進行協議で決まったことなどが口頭弁論で詳細に述べられませんでした。

傍聴者からは毎回、批判の声が聞かれていましたが、前回はるばる愛媛県から傍聴にきていた女性がメルマガに傍聴記を寄稿してくれましたのでこれまでの「異様」な口頭弁論の様子が分かると思います。
▽メールマガジン第24号11月15日発行参照のこと
http://saiban.hiroshima-net.org/mm/24_20171115.html

■記者会見・報告会―弁護団解説がわかりやすく好評―
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口頭弁論が早く終了したため、記者会見報告会は15:10~16:40の開催となりました。
弁護団の胡田先生から進行協議及び口頭弁論についての報告、松岡先生から今回の準備書面14「外部人為事象」についての解説がありました。

私たちの弁護団は準備書面を「一般のみなさんにわかりやすく読んで貰うため」を目的として書いてくれています。
今回の準備書面14も分かりやすく好評でした。
▽準備書面14「外部人為事象」
http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/honso/jyunbi_14.pdf

伊方原発上空が沖縄の米軍基地から岩国基地に向かう飛行ルートになっており、松山空港も管制権は米軍にあること、加えて非常に頻繁に伊方原発近傍で航空機事故が起きていることが述べられており、伊方原発に関して「外部人為事象」はかなりウェイトを置くべき問題であること
がつまびらかになっています。

質疑応答も様々な角度からなされ充実したものとなりました。
テロ対策でドローンを心配する声が会場からでた際に、伊方原発付近を訪れたことがある同じく会場の原告からは「大丈夫です。伊方原発の敷地境界線の柵にドローン禁止って書いてありますから」と発言があり、会場が笑いの渦となったのは印象的でした。

■活発な質疑応答
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質疑応答中、「裁判の進行は全体からいうとどれくらいのところに来ているか?」という質問がありました。
弁護団の胡田先生から回答があり、
「裁判全体で2~3の山場を想定しているが、今はその最初の山の7~8合目。」
という解説でした。

裁判の進行については、今後、再反論・再々反論に際して検証の修正あるいは外国の専門家の招聘なども行っていきたい、それにはお金がかかるので皆さんの更なる支援をお願いしたい、という話がありました。

また、仮処分の期限9月30日以降も伊方原発を止めておくためには何をすればよいか、という質問に対しては、期限到来前に当然仮処分の申請を決めて行うが、まず「実力をつける」ことが重要だとの回答でした。
具体的には、画期的で新しい論点や視点を付け加えていくこと。
可能性を広げるための必須事項です。

■報告会
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報告会では「伊方原発を止める山口裁判の会」より原告団共同代表の木村則夫さんが光市から駆けつけ、壇上で山口での直近の伊方に対する取組や上関原発についてお話をしていただきました。
山口は仮処分が先行していましたが、2017年12月27日に本案提訴し、これから本格的な本訴の闘いがはじまる旨が報告されました。
▽伊方原発をとめる山口裁判の会
http://ikata-yamaguchisaiban.jp

さらに「福島原発ひろしま訴訟」原告団団長の渡辺美和さん、
「伊方原発をとめる大分裁判の会」の事務局長・小坂正則さんからのメッセージも披露。
志を同じくする他団体との連携を確認しました。
▽福島原発ひろしま訴訟
https://hiroshimafukushima.jimdo.com
▽伊方原発をとめる大分裁判の会
http://ikata-sashitome.e-bungo.jp

本来総会議題・協議となる「脱原発福島ネットワーク」の代表・佐藤和良さんから呼びかけのあった「原子力規制委員会更田豊志委員長への抗議・要請書」
http://fukushimaaction.com/?p=1573
に伊方原発広島裁判原告団として賛同するかどうかについて、この報告会の場で臨時に諮り、団体賛同する承認を得ました。

また、当原告団からも、原子力規制委員会更田豊志委員長のトリチウム海洋放出発言に対する抗議声明を出すことに決定しました。

毎回期日の取組ではカンパを募っていますが、今回¥37,970.のカンパを頂戴いたしました。
ここにご報告の上、大切に使わせていただきます。

(網野沙羅)

<今後の期日予定>
第10回2018年3月26日(月)14時~進行協議14時半~口頭弁論
第11回2018年6月18日(月)14時~進行協議14時半~口頭弁論
※期日が近づきましたらご案内させていただきます。
 ぜひ傍聴にお越し下さい。


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【短信】伊方3号差し止め仮処分高松抗告審
    第2回審尋記者会見・報告会参加報告
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2018年2月13日に「松山裁判」の高松高裁での仮処分抗告審の第2回審尋が開かれ、その報告集会に出席しました。
「松山裁判」高松高裁抗告審の行方は、「広島裁判」広島高裁抗告審に続くものとして注目を集めています。
(大分裁判は大分地裁で、また山口裁判は山口地裁岩国支部でいずれも審尋中です)

弁護団の報告では、今回審尋で、今後の進行日程が定まり、弁護団による基準地震動関係の重点主張項目も反映されることになり、また今回審尋の中で非公開で論述された中身を再現する、火山事象を説明するビデオを使ったプレゼンもしたとのことで、盛り沢山な内容でした。

当日の経過から報告します。
12時から、みなさん三々五々高松高裁前に集合し、香川の支援グループの人たちが自主的に高松高裁入口前でクジラ(大型のスローガン表示バルーン)や、大旗・旗差物を掲げてのスタンディング。高松の支援市民グループはもちろん、松山や広島、四国各地から支援者が駆けつけて、賑やかな雰囲気とはなりました。

(小雪のちらつく中、目抜通りの高松高裁前で抜群のアピールを長時間展開された地元香川の人たちには、本当にご苦労さまでした)
 
それから、横断幕を掲げての入場行進。拍手に送られての抗告人・弁護団の高松高裁乗り込みとはなりました。
 
審尋(一般非公開)は午後3時開始(一般非公開)で終了のアナウンスがあったのが3時51分。終了後ただちに抗告人や弁護団は、記者会見・報告会場(高松センタービルの501会議室=100人規模収容)に向かったものとみえ、午後4時には記者会見・報告会が開始されました。

記者会見・報告会では、「伊方原発をとめる弁護団」事務局長の中川創太弁護士が全体像を3項目解説し、弁護団長の薦田伸夫弁護士が補足をしました。

■あくまで基準地震動過少評価問題での勝ちを目指す弁護団
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以前の松山地裁での仮処分でも審尋中にプレゼンを行った高知大岡村眞名誉教授と長沢啓行大阪府立大学名誉教授のお二人を証人尋問するよう申請を出した結果、非公開の「参考人審尋」が行われることが決まりました。

「参考人審尋は実質的な証人喚問であり、高裁で行われることは非常に高く評価できる。」(薦田弁護士)とのことです。

つまり弁護団は、地裁段階から本論とみなしてきた「中央構造線断層帯」が起こす活断層地震における基準地震動の過少評価問題に焦点を絞って主張をし続ける方針であることを明らかにしました。
もし新たな論拠に基づいた差し止め仮処分が再び高裁で出されれば、その効果は絶大です。

このほか、昨年12月19日公表の地震調査研究推進本部による新たな活断層地震の長期評価の論点も四電に反論する証拠に使える、と基準地震動の補充書面に含めたことの紹介もありました。

■当日審尋での目玉は火山ビデオを使った解説
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もちろん広島高裁での決定の論点である火山問題を活かす取り組みをしないわけではありません。
火山関係2つの書面を含めて今回提出した5つの書面は「伊方原発をとめる会HP」
http://www.ikata-tomeru.jp
に掲載されていますのでご一読ください。

さらに審尋では裁判官の目前に大きなテレビを据え、広島高裁であった火山の決定について、NHKの「巨大災害」のビデオを紹介する形で今回20分ほど解説を行ったことを紹介し、その内容を、後から中野弁護士本人の解説で再現していただきました。
中野弁護士の解説の要点は、

◇マグマの上昇経路が多段階のカスケード状のものであるため、最上部のマグマ溜りにだけ注目していても噴火時期の予知にはつながらないこと。
(四電はカスケード最上部に溜まるマグマの状態を観察して噴火時期の予知ができる、と主張しています)

◇四電が行っているシミュレーションソフトでは火砕流といっても小規模なものしか計算出来ないが、カルデラ噴火の際の噴煙柱崩壊型の火砕流がいかに小規模な火砕流と流れ方が異なるかの例示。つまり四電は阿蘇カルデラで想定されているような巨大噴火にはあてはまらないシミュレーションソフトを使って、「伊方原発敷地には火砕流は到達しない」と主張していること。

◇9万年前の「阿蘇4」カルデラ噴火時の火山灰の堆積厚さシミュレーションをしていた事例も示し、火山灰問題でも過小評価がひどいこと。

こういった論点すべてが裁判官の頭に残るかどうかは分かりませんが、イメージを持ってもらうのに適したビデオ紹介を補足して活用するというのはとても柔軟な戦術のように思いました。

またメルマガ前号で紹介した議員会館での「交渉」の場で原子力規制庁のお役人が四電を代弁して説明しようとしていた火山問題の反論に対して、それぞれ再反論のようになっているように思いました。

このNHKビデオ、動画はネットを検索してみるとat-dougaやDailymotionなどいくつかに掲載されているようです。
 
中野弁護士によれば、火山学者が地震学者たちと比べても団結して問題点を指摘してきてきたことが広島高裁決定に反映しているのではないか、とのこと。

■今後の進行日程が決まりました。
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2018年6月5日(仮決め)に第3回審尋(参考人審尋も同日)で時間は11時から17時まで。
同7月18日第4回審尋(15時から)で審尋は終了。

やはり9月30日の広島高裁決定の期限切れを目途に新たな決定を出したいという意思の表れであって欲しいと思います。

■その他
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最後の質疑応答のところでは、広島から参加した哲野さんからは、「準備書面にSTS論を入れたのはなぜ?」、同じく網野さんからは「四電側はなぜ証人尋問の開催に反対するのか?」と質問がありました。
まだまだ紹介すべきところですが、詳しくはツイキャス録画をご覧下さい。
https://twitcasting.tv/togura04/movie/441101503

(小倉 正)


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【短信】伊方原発大分裁判:2018年3月1日(木)
    第8回口頭弁論・第11回仮処分審尋期日
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3月1日に、大分地裁にて第8回口頭弁論および第11回仮処分審尋が行われます。
今回の目玉は広島高裁決定を受け、火山の危険性について申立人側・四国電力側双方からプレゼンテーションが予定されていることです。
双方がどんなプレゼンをしたのか注目されます。

火山の危険性については2月13日の松山の高松高裁抗告審でも準備書面が提出され、中野宏典弁護士から裁判体に対して映像を伴う説明が行われました。

火山灰問題やマグマ溜まりなど火山の危険性については様々にありますが、中野弁護士の説明で特に印象に残ったのが、火砕流です。

火砕流というと、私たちは雲仙普賢岳の火砕流を想像してしまいます。
プリニー式噴火になると、溶岩を伴う噴煙が勢いよく1万メートル(10km)、時には5万メートル(50km)に到達することもあるそうです。
それが重さに耐えかねて一気に落ちてくる「プリニー式噴火の噴煙柱崩落 (スフリエール式火砕流)」というのがあるそうで、これはイタリアのヴェスヴィオ火山のポンペイの街を埋没させた例が有名です。

阿蘇で破局的噴火が起きたとき、このスフリエール式火砕流が起これば、伊方原発に火砕流が到達する可能性は非常に高くなります。
海で阻まれるではないかと思いがちですが、あまりの熱風に瞬時に海の水が蒸発し、ホバークラフト状態になり、火砕流が滑るように海を渡ってしまうのだそうです。

噴火で一度街が壊れても、生きてさえいればいずれ人は戻ることができますが、放射能で汚染されたら人は戻れません。放射能災害に復興はありません。

本訴と仮処分は同じ裁判体で進行しています。
是非、14時からの本訴傍聴には大勢でつめかけ、報告会に参加しましょう。

2018年3月1日(木) 第8回口頭弁論・第11回仮処分審尋期日
<当日の予定>
 13:30  裁判所集合
 14:00~ 第8回口頭弁論
 14:30~ 第11回仮処分審尋
       広島高裁決定を踏まえて「火山の危険性」について、
       申立人側、四国電力側双方のプレゼンテーション
 16:30頃 審尋終了

なお仮処分審尋は非公開ですので、審尋出席者以外の参加者は大分弁護士会館にて記者会見・報告会を待ちます。
待つ間、代理人弁護士からの話と原発関連のビデオ映像上映を予定しています。
終了後、大分弁護士会館にて報告集会を行います。

伊方原発をとめる大分裁判の会
http://ikata-sashitome.e-bungo.jp/

(網野沙羅)


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【短信】日本地質学会西西日本支部大169回例会で
    シンポジウム「中央構造線と中央構造線系活断層」
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日本地質学会西西日本支部大169回例会(広島大学西条キャンパスで開催)が3月3-4日の2日間にかけて行われますが、2日目の3月4日に、丸1日かけて「中央構造線と中央構造線系活断層」をテーマにシンポジウムが開催されます。

もうしばらくすると、WEBサイトに詳細なプログラムが掲載されるようですが朝9時から15時半まで目白押しです。
早坂康隆先生や小松正幸先生も参加されます。是非ご参加ください。
詳しくはWEBサイトをご覧下さい。
▽日本地質学会WEBサイト
http://www.geosociety.jp/outline/content0025.html

2018年3月4日日本地質学会西西日本支部大169回例会
地質学会125周年記念西日本支部シンポジウム
「中央構造線と中央構造線活断層系」
(Median Tectonic Line (MTL) and MTL active fault system)
日 時:2018年3月4日(日) 9:10-15:30
場 所:広島大学大学院理学研究科E棟002講義室
参加費:一般1000円/人、学生500円
▽キャンパスまでの交通案内
https://www.hiroshima-u.ac.jp/access/higashihiroshima

(網野沙羅)

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【短信】2018年2月28日川内原発行政訴訟
   (設置変更許可処分取消訴訟)
    第7回口頭弁論期日 記者会見&報告集会
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さくら共同法律事務所の松田様より情報が入りましたので御案内いたします。

∽∽∽∽∽川内原発行政訴訟∽∽∽∽∽∽∽
  (設置変更許可処分取消訴訟)
第7回口頭弁論期日 記者会見&報告集会
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

川内原発は、過去に何度も火砕流が到達したと見られる場所に立地しており、
火山活動による事故のリスクが世界一高い原発であることは間違いありません。
昨年の熊本大地震による原発への影響も懸念されています。

前回11月29日の第6回の口頭弁論期日では、被告提出の小林報告書は適合性審査においてまったく参照されないどころか、単なる仮説に過ぎず、確立された知見からはほど遠いことを主張しました。

いよいよ第7回口頭弁論期日を迎えます(倉澤守春裁判長)。
昨年12月13日には広島高裁が伊方原発の運転の差止め仮処分を命じました。
この決定により、火山事象、特に火砕物密度流(火砕流)に対する安全性に関しては、実質的には、住民側の4勝1敗という状況になりました。
火山事象について原子力規制委員会の定めた基準が不合理であり、適合性審査を経た原発の安全性が確保されていないことは、少なくとも川内原発や伊方原発など、九州地方周辺の原発については明らかです。

前回被告が提出した大倉報告書は、火山学の限界に敢えて目を瞑った上で、報告書作成の注文者である原子力規制庁の意向にしたがって強引に「大規模なカルデラ噴火が起こるような状態ではない」という結論を示したものに過ぎず、科学的で信頼性の高い評価とは到底言えないものです。
裁判所は何ら惑わされる必要は無いと、住民側は強く結審を迫ります。

期日終了後、記者会見と報告集会を予定しております。
ご参加くださいますよう、よろしくお願いいたします。

■■2月28日(水)■■
13:00頃 門前集会 原告・弁護団によるアピール 裁判所入廷行動
福岡地方裁判所前(赤坂駅2番出口)
http://www.courts.go.jp/fukuoka/saibanin/hontyo/access/

13:30~ 第7回口頭弁論論期日(福岡地裁301号法廷)
14:30頃(口頭弁論期日、進行協議終了後)~記者会見・報告集会
  出席:弁護団(河合弘之、中野宏典)・原告団
■会場:日本基督教団 福岡中部教会(福岡市中央区大名2-4-36、赤坂駅近く)  
http://qsyu.tank.jp/fukuokachiku/fukuokachubu.htm
■問合先:原告団事務局長 青柳080-6420-6211
     さくら共同法律事務所03-5511-4386(松田)
■提出書面など「さよなら原発!福岡&ひろば」内
https://goo.gl/qENWSB


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メルマガ編集後記

今回は、伊方原発広島裁判メールマガジン始まって以来のメイン記事連載ものとなりました。

許容被曝線量の上限を変えるというのは、放射線被曝の「具体的危険」の定義を変えるということですから、それは深刻で根の深い問題です。

ところで、丁度1年前の2月15日に発行したメールマガジン第14号でも、放射線審議会の問題を取り上げています。
当時はまだ放射線審議会が諮問機関から政策提言機関に変わったすぐの段階で、福島での避難基準20mSvの法的根拠に焦点を当てた記事になっています。

あれから1年、年間1mSvを越える汚染地帯へ人を帰し、それを拒む人へは一方的に賠償・補償を打ち切る政策が次々と実施され、子ども・被災者支援法は形骸化し、私たちは被曝強制を受忍する社会へどんどん押し流されています。

1991年に出版された中川保雄氏の『放射線被曝の歴史』には、以下のような一文があります。

 「人びとに被曝を強制したうえに、被害が現れると、自分たちで過小評価しておいた放射線のリスク評価を用いて、「科学的」には因果関係が証明されないからその被害は原発の放射能が原因ではない、と被害者を切り捨てる。」

27年前に出版された本に今と変わらぬことが書き綴られていることに、いくばくかの絶望を禁じ得ないのが正直なところでもありますが、この間、私たち市民は被曝を強制されるべきではないという考えが継承されてきたのも事実な訳で、そのことを考えると、放射線審議会を監視し、被曝強制政策を批判・拒否するのにも、自然と力がみなぎるものです(私が単純なだけかも知れません)。

来年の2月にはどんな記事をお送りしているのかは分かりませんが、放射線審議会の今後に要注目です。
みなさま、よろしくお願いいたします。

(綱崎健太)


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伊方原発運転差止広島裁判
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◆伊方原発広島裁判メルマガ編集部◆
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