被爆地ヒロシマが被曝を拒否する伊方原発運転差止広島裁判
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「ふるさと広島を守りたい」ヒロシマの被爆者と広島市民が、伊方原発からの放射能被曝を拒否し、広島地方裁判所に提訴しました

第4回審尋期日 2021年5月13日(木)


審尋期日報告 「南海トラフ巨大地震で最大地震動が181ガル?!」

2021年5月13日(木)は、広島新規仮処分の広島地裁第4回審尋期日でした。
申立人を含む原告団は、この期日のテーマを「伊方原発敷地直下のM9.0南海トラフ巨大地震で地震動が181ガル?!」と定め期日の取り組みを行いました。
広島弁護士会館3階大ホールの会場設営を終えたあと、広島裁判所前の南西交差点歩道に集合、コロナ禍とあって小規模ではありましたが、恒例の「裁判所乗込行進」を行いました。

乗込行進の様子。


今回の横断幕。


審尋出席者を見送ります

広島新規仮処分第4回審尋期日報告

(以下の報告は非公開でなされた仮処分審尋期日でのやり取りを申立人側でとったメモに基づき報告するものです。 裁判所や四電が承認しているものではありません。)

今回期日から裁判長交代

2020年3月11日に申し立てた伊方原発3号機運転差止事件(広島新規仮処分)は、2021年5月13日(木)に広島地方裁判所債権執行センター2階会議室で第4回審尋が開催されました。
午後2時から始まり、3時少し前に終了しました。
申立人側から出席したのは申立人7人のうち4人、代理人弁護士からは、河合弘之弁護士(仮処分弁護団長)、胡田敢弁護士、前川哲朗弁護士、大河陽子弁護士、北村賢二郎弁護士、弁護団事務局の松田奈津子さんの5人が出席しました。
また本案訴訟(本訴)原告は3人が出席。
相手方(四国電力)側からも代理人弁護士6人、四国電力社員6人とほぼ同数が出席しました。

審尋開始冒頭、吉岡茂之裁判長自らが今回審尋から裁判長交代を報告しました。(右陪席・中井沙代裁判官、左陪席・佐々木悠土裁判官は変わらず。)

続いて提出書面の確認が行われました。
なお吉岡裁判長は、申立人側が2016年3月11日に広島地裁に提訴した時(第一次仮処分)の裁判長で、四国電力の言い分を全面的に認め、申立を却下した裁判官です。
その後異動になり、今回大阪地裁から再び広島地裁に異動となり、担当裁判長になったものです。
第一次提訴はその後広島高裁即時抗告審で申立人側が期限付勝訴しました。

双方提出書面の中身

前回期日以降申立人側(以下「債権者」といいます。)の提出した書面は以下の通り。
 ① 2月19日付け求釈明申立書
  伊方原発敷地前面海域断層群が単独または連動して地震が発生したときの想定する最大マグニチュード、
  震源及び震源域に関する求釈明と敷地直下でM9の南海トラフ巨大地震が発生した時の最大地震動に関する求釈明。
 ② 2月19日付け準備書面6 (「債務者の認否未了等」)
 ③ 3月30日付け求釈明申立書
  2月19日付け求釈明申立に対する四国電力の回答が不明瞭だったため、回答の内容を確認する求釈明。
 ④ 5月6日付け準備書面7(「181ガル問題」について)
 ⑤ 甲号証73号証~76号証及び証拠説明書

これに対して四国電力(以下「債務者」といいます。)が提出した書面は以下の通り。
 ① 3月15日付け回答書
  債権者2月19日付け求釈明に対する回答書。証拠書面の頁数を示すだけで回答になっていない。
 ② 3月31日付け準備書面(3)(認否未了問題に対する回答書)
  債権者側は提出書面に対する認否を求めている(「認否未了問題」)が、この問題に対する回答準備書面。
  この書面の中で債務者は、債務者が必要と思う点にのみ認否し、その必要がないと考えれば認否しない姿勢を明らかにした。
 ③ 4月6日付け回答書
  債権者3月30日付け求釈明に対する回答書。敷地前面海域断層群の最大マグニチュードは8.0、モーメントマグニチュードは8.7とする回答。
 ④ 乙号証176号証~193号証及び証拠説明書。

提出書証の確認が終わったあと、吉岡裁判長は債務者に「債権者準備書面7(181ガル問題)に反論するか?」と尋ねました。
債務者は、一部はすでに準備書面(2)で反論済みだが明確な形で反論する、時間はさほどかからない、と答えました。

「認否問題」を巡って激しい応酬

次に裁判長は債権者側に、債務者の反論書面の前に、これから提出する書面はあるか、と尋ねました。
これに対して、債権者代理人弁護士は、「債務者準備書面(2)(地震動問題)に反論する予定があるが、債務者が前提である認否を明らかにしないので、反論の前提を欠く。裁判長から債権者に認否するように促して欲しい」と要求しました。
通常裁判では、原告(債権者)の主張に対して、被告(債務者)は、請求原因として書かれている一つ一つの事実に対して、認否を明らかにするものです。
認否とは、相手方が主張している各事実に対して、応答することをいいます。
認めた事実は、立証することなく真実と認められます。
相手方が否認した場合は、立証する必要があります。

ところが債務者は認否を行いません。
これでは、立証すべき事実が明確化しないまま、双方がいい放しになって、裁判長が判断する、といったいびつな審理になっていきます。

「卑怯な言い分だ!」

ここらへんから、第4回審尋は壮絶な双方の応酬となっていきます。その一部をご紹介しましょう。

河合弘之代理人:こちらは、基準地震動650ガルは現実に日本で発生している地震動に比較して低すぎると主張している。
  また敷地直下でM9の南海トラフ巨大地震が発生しても、敷地解放基盤面での最大地震動が181ガルなんてありえない、と主張している。
  最低限これらは認否してもいいじゃないか。
  また、準備書面(2)では「2000年以降日本で発生した700ガル以上の地震動」をリストアップしている。
  これも客観的事実の主張なんだから、認否してもいいじゃないか。
  これら事実を地域特性があるので認否できないというのは、卑怯な言い分だ。
  事実は事実じゃないか。
  これでは双方主張が噛みあわないまま、いい放しの空中戦になっちゃうじゃないか。
  確かにこれまでの原発裁判では議論が噛みあわないままの空中戦が多かった。
  しかし今回ボクらはちゃんと議論を噛みあわせたい。
  大体認否しないのはルール違反じゃないか。
  認否しないのは擬制自白じゃないか。」
(擬制自白=民事訴訟において、当事者が審尋や口頭弁論または弁論準備手続で相手方が主張した事実を争うことを明らかにしない場合に、この事実を自白したものとみなすこと)
 「裁判長に御願いしたいのは、事実の主張については最低限、認否しろ、という訴訟指揮をして欲しい。
  私たちが提出した準備書面6(認否未了問題)を詳細に検討の上、認否しなければ訴訟にならない論点を選択して債務者に認否命令を出して欲しい。」

「卑怯」、「擬制自白」と言われた四電の代理人弁護士は顔を真っ赤にして反論します。

四電代理人:債権者の求めている認否は、単純な事実認否ではなく、一定の主張を踏まえた事実を提出してきている。
  金の貸し借りとは違う。
  これを認否すれば理論まで認めたことになる。
  我々は必要な認否をしながら主張をしている。審理を進めるのに認否していないと、非難される筋合いはない。」

なにやら語るに落ちる、という感じもしないではないのですが。

河合代理人:それは、事実を認否しない理由にはならない。
  認否したからといって、その事実を前提とした主張を認めたことにはならん。詭弁だ。
  主要事実については認否すべきだ。」

四電代理人:あらゆる事実に認否が必要ではなく、主要事実である。
  必要と思える認否はちゃんとしている。
  債権者が容易に立証できるのであれば立証したらいい。
  裁判所から認否命令が出ればその他も認否する!」
河合代理人:裁判長、認否命令を出してください。事実の認否をしないで、主張の詰めに入っていけない。」

裁判長:私は今日初めて。
  本件は仮処分だから、債権者としては結論はどうあれ、迅速に手続きを進め、しかるべき結論は出すべきと思っているのでしょう。
  どういう思惑があるのかは別として、相手が土俵に乗ってこなくて一番困るのは債権者だと思う。
  認否をとれば、裁判が促進されるのは確かだが、一方で、どの部分について認否する、しないで
  裁判が前進しないのは好ましくない。
  認否だけじゃない、不知もある。一般民事なら不知の部分について書証で、と先に進めることもある。
  逐一チェックするのに何期日もかかる。
  本案ならキッチリ、チマチマやっていけばよい。
  (認否は、弁論の中で、相手方の主張する事実を争うかどうか答えること。
   争わない場合は「認める」、 争う場合は「否認する」または「不知(知らない)」と述べます。
   ―裁判所の公式サイト「傍聴前に知っておきたい裁判用語」より)

  「不知」ということになれば、ミもフタもない。
  ここは保全部なので、認否でやり取りしていては、前に進まない。
  債務者が認否しないなら、債権者は書証を出して裏付けを進めていけばいい。」


「いたづらに高度な科学技術論争はしない」

河合代理人:基礎的に重要な事実は認否すべきでしょう。
  裁判所で準備書面6からこれだけは認否して欲しい点を選び出して、裁判所で(認否命令を)行っていただきたい。」

裁判長:進行として、認否しないものとして疎明資料で補強したほうが話が早い。」

河合代理人:吉岡裁判長になって第1回目の審尋です。
  この仮処分の最大の特徴は「いたづらに高度な学術論争はしない」ことです。
  大体裁判官は、 文系の上に任期は平均3年、他に多くの事件も抱え多忙である。
  これは裁判官の三重苦。難解な学術論争をすることは結局、裁判所を煙に巻くことになる。
  学術論争は学会でやればいい。
  要は本件発電所が安全かどうかを市民感覚に照らして判断することを私たちは求めている。
  そのためには高校生でもわかる議論、論より証拠、足が地についた理論で訴訟活動をしようとしているんです。
  徒に難解な学術論文を出し合う必要はない。客観的な事実、現象としてはっきりした事実を基に審理していただきたい。」

裁判長:基本的な主張・立証の方針は、過去の地震のデータとの比較が重要ということか?」

河合代理人:一番、唯一とは言わないが、素朴な市民感覚・安全感覚に照らしてかなり重要なことです。
  3つの分類の中で最大の地震動が基準地震動とされているが、3つの分類のうちの1つの地震動が過去の地震記録に照らすとありえない小さい数字です。
(新規制基準では、「震源を特定して策定する地震動」で「内陸地殻内地震」、「プレート内地震」、「プレート間地震」の3つのグループの中から検討用地震を選定し、 その中から最大地震動を選んで、「基準地震動」とすることになっている。
上記河合発言の「3つの分類」とは内陸地殻内地震、プレート内地震、プレート間地震の3つを指している。
もうひとつのカテゴリー「震源を特定せず策定する地震動」の方が、地震動が大きければそちらを基準地震動とする定めもあるが、 伊方原発3号機の場合は内陸地殻内地震の「中央構造線断層帯480km連動ケース」の650ガルが最大とされたためこれが基準地震動となった。
また河合発言で「3つのうちの一つの地震動」というのは、もちろん「プレート間地震」で検討用地震に選定された「敷地直下南海トラフ巨大地震での最大地震動181ガル」を指す。)



今後の日程は?

裁判長が、今後の双方提出書面についてかなり突っ込んだ質問をしたのは、今後のスケジュールに関連しています。
すでに7月の期日(21日。第5回審尋期日)は確定していますが、その後の日程をどうするかという問題です。
債権者、債務者とも審尋を急ぎたいのはやまやまですが、債務者がこれまでのように、双方いい放しのまま、裁判官に判断させるという姿勢に対して、債権者はしっかり議論を噛みあわせたい、事実の認否を明らかにしたい、その上で裁判官に判断してもらうという姿勢である点が大きな違いです。

結局7月の審尋期日に双方ができるだけ書面を提出し、その上で次々回の審尋期日を決定することになりました。
(次々回第6回審尋期日は9月8日に行うということになっていますが、これはあくまで仮押さえで確定しているわけではありません。)

7月の審尋期日の書類提出期限7月7日(木)と決め、次回期日で第6回審尋期日を9月に行うか10月に行うかをきめようということになりました。
そして裁判長の、「夏休みもあることだし、書面はしっかり読める。」の言葉が審尋会場に余韻を残して、第4回審尋期日を終了しました。 


樋口英明氏緊急記者会見

広島地裁債権センターで第4回審尋が行われているその時刻に、広島弁護士会館3階大ホールでは、「樋口英明氏緊急記者会見」が行われました。
元裁判官の樋口さんは、広島で進行中の新規仮処分事件に特別な関心をもっておられ、今回も記者会見報告会に参加するとの連絡が事前にあったため、急きょ記者会見を実施することになったものです。
樋口さんはレジュメに沿って、原発の基準地震動(原発の耐震基準)は、その重大事故時の影響の大きさを考えると、本来最も厳しくなければならないのに、 あまりにも低すぎるとの見解(いわゆる樋口理論)を約1時間にわたって、報道陣を含め約20人の参加者に説明しました。
この時の樋口さんのお話しの内容は別途に報告、掲載します。


樋口氏の緊急記者会見の様子

記者会見・報告会

樋口さんの記者会見が予定より少しのびたため、審尋を終わって会場の3階大ホールに引き上げてきた弁護団や申立人・原告が、 席に座って樋口さんの話を聞くという光景も見られましたが、審尋期日記者会見・報告会は午後3時15分くらいから始まりました。



開始に先立って本訴原告であり、また7人の仮処分申立人の1人でもある綱﨑健太さんが、「本訴原告となって意思表示を」と題する5分のプレゼンテーションを行いました。
プレゼンのスライドレジュメは公式Webサイトに掲載されています。)
本訴原告団は8月30日に予定されている本訴第24回口頭弁論期日で第8陣提訴を予定していますので、綱﨑さんのプレゼンはこの第8陣提訴を見据えたものです。
綱﨑さんは、「原発をこの社会からなくすため、強い意志表示をしてください。そして最大限の強い意志表示である原告になってください。」と力のこもった呼びかけをしました。



大河弁護士からの期日報告

第4回期日報告は、仮処分弁護団の事務局長格の大河陽子弁護士からなされました。



先の審尋期日報告でも触れた通り、大河弁護士は今回から裁判長が藤沢裁判長から、吉岡裁判長に変更になったことに最初に言及しました。
そして提出準備書面の報告の後(審尋報告参照のこと)、審尋の最中、債権者代理人河合弁護士と債務者代理人田代弁護士(四電側)との間で激しい応酬があったこと、 今後の進行について検討していた時に、裁判長から「過去の地震記録が最重要の証拠なのですか」という質問があったので、 「極めて重要な証拠です。それが間違っていたら、最大地震動を基準地震動にするという四電の算定した基準地震動が誤っていることになるので、とても重要です。」と答えことを報告し、 「新しい裁判長には、私たちの主張が従来の科学技術論争とは全く異なるものであることは理解してもらえたようです。」と報告しました。
そして今後の日程について(前出「審尋報告」参照のこと)報告しました。



「181ガル」問題に関する弁護団解説

「181ガル問題」とは、債務者(四国電力)が、「伊方原発敷地直下でM9の南海トラフ巨大地震が起こっても敷地最大地震動は181ガル」と主張している問題のことを指します。
この件は今回期日で債権者は準備書面(7)「181ガル問題について」を提出しています。
弁護団の解説はこの準備書面(7)に絞って行われました。
解説するのは仮処分弁護団長の河合弘之弁護士です。
河合弁護士は、解説に先立って次のような興味深い話を披露しました。



「今回の吉岡裁判長について、大河さんの評価は「説得できれば勝つ」でした。
 説得可能な裁判官と言ってもよいかもしれません。
 今日の審尋でも、今回の裁判は今までの裁判とは違うんだ、僕らの言うことはとても簡単なことで、難しい科学論争にはしませんと、吉岡裁判長によく説明しました。
 基準地震動650ガルは、過去の地震記録から見ても非常識と言うことができます。
 700ガル以上の地震がこんなにたくさんあるのに、四電はこれについて認否しようとしません。
 「過去の地震と650ガルを比べても仕方がない。地域特性があって全然違うから認否しない」と言っています。
 まずはこの事実を認めるか否かです。
 認めるが、地域特性があるというならそう言えばよい。
 一番重要な所で逃げまくり、都合の良い科学論争で煙に巻く。
 強震動予測というのは仮説と推測の体系だから、南海トラフの地震で181ガルしか来ないというような非常識な数値が出てくるんです。
 こうした私たちのやり方に、裁判官は少し興味をもってくれたかもしれません。」

 河合弁護士の解説ではレジュメスライドが用意されています。

「南海トラフ巨大地震はマグニチュード9.0の、今最も恐れられている超巨大地震です。
 それで(直下で起こって最大地震動が)181ガルなんて、そんなことある訳ないでしょう。
 四電は、震源の深さが41㎞で深いからと言っているが、震源の深さ41㎞はごく普通の地震で、何の言い訳にもなっていません。
 また、地盤が固いからとも言っているが、181ガルを超える地震動は、地盤の固いところも柔らかいところも含め、我国では数えきれないくらいの観測数です。」



規制委員会の地震ガイド

「規制委員会の地震ガイドにいいことを書いてあります。
(「地震ガイド」の正式名称は、「基準地震動及び耐震設計に係る審査ガイド」)
  基準地震動は、最新の知見や震源近傍等で得られた観測記録によってその妥当性が確認されていることを確認すると書いてあるんです。
 つまり、出てきた計算結果を実際の観測記録に照らし合わせてみて、常識的にあっているか見なさいよと言っているんです。
 机上の計算のみに依拠し、観測記録を参照せずに基準地震動を策定することは、「審査ガイド違反」と言えます。
 いい規定を自分たちで作っておきながら、わざとやらないでスルーしているんです。
 もし181ガルが誤っているなら、650ガルも信用できない、ということにもなります。
 というのはですね。
 中央構造線断層帯にかかる想定最大地震動は①「650ガル」(中央構造線断層帯480km連動ケース)でした。
 一方で南海トラフ巨大地震に係る想定最大地震動は②「181ガル」と四電は主張しています。
 四電は、①と②の内、大きい方を選んで基準地震動にしています。
 181ガルがいんちきだとすると、さらにそれより大きい数字かもしれません。
 とすれば基準地震動650ガルも、最大とはいえず信用できないことになります。」




プレゼン資料を使って解説する河合弘之弁護士。

原発の耐震設計に強震動予測を用いる危険

「現在の規制基準の定めでは、原発の敷地ごとに将来襲う最大の地震動を予測し、それを基準地震動としています。
 この予測に用いる学術的手法のことを「強震動予測」といいます。強震動予測は、仮説と推測の体系で、用いる数式(レシピ)や変数(パラメータ)によって結果が大きく変わります。
 南海トラフ巨大地震が伊方原発直下で起きても(強震動予測の計算で出てきた数値)最大地震動181ガルというのは、強震動予測の根本的問題を表しています。
 そうして出てきた最大地震動は、地震ガイドの定めの通り、基準地震動策定にあたって、妥当性確認のため、地震観測記録を参照しているでしょうか?
 そうは思えません。
 計算で出してきた基準地震動と、これまでに発生した地震記録を照らし合わせて、常識レベルで合っているか検証してみたら、みんな不合格になってしまいます。
 だからやっていない。
 これは審査ガイド違反で、審査に看過しがたい過誤・欠落があると言えます。

 そもそも原発の耐震性の要である基準地震動策定に強震動予測を用いることは危険なのです。
 これらはすべての原発差止訴訟に水平展開が可能です。
 (伊方原発ばかりでなく、他の原発にも応用できる。)」



日本の原発裁判のパラダイムシフト

ここで司会者は、会場にいる樋口英明さんにコメントを求めました。樋口さんは大筋次のように発言しました。

 「今まで(伊方原発裁判では)181ガルというまったく非常識なことが通用してきました。なぜこんなことが通用してきたのでしょうか。
  それは、訳の分からない話(高度に専門的な科学技術論争のこと)をしてきたからです。
  原発は国の政策だから、止めようと思えば誰でも納得する論理でないと止まらないんです。
  誰が聞いてもわかる、わかるから議論に参加できる、そして誰でも確信がもてる、こういう裁判でないと勝てないんです。
  勝ったり負けたりしながら、負け数が多い裁判で、どうして最高裁で勝てますか。
  とても勝ち目がないんです。日本で原発をなくすには、最高裁で誰でも納得できる理論で勝たないといけないということなんです。
  これまでの説明で、誰でも納得する理屈で181ガルがおかしいということがわかったのだから、今日は日本における原発裁判のパラダイムシフトの、第一歩の記念すべき日になると思います。」



「181ガル問題」に関する原告団の所感と訴え

次に「181ガル問題」に関する原告団の所感と訴えがプレゼンされます。
担当するのは本訴原告で応援団事務局次長の正垣ますみさんです。
正垣さんのプレゼンもスライドレジュメが用意されていました。正垣さんは大筋次のように発言しました。

 「地震動の「181ガル」というのは、気象庁の震度階級に対応させると震度5弱程度なんです。
  固定されていない家具が動く、本棚の本が落ちる程度です。日本観測史上最大規模の地震であるM9の地震が伊方原発直下で起きても181ガルとはあまりに非常識で、異常と言えます。
  どうせ難しい話はわからないだろうと、裁判所や私たちを舐めてかかっているのでしょうか。
  それにしても、181ガルを全く問題にせず基準地震動の審査を行い、再稼働を認めた原子力規制委員会の罪は重大です。
  原子力事業者と一緒になって原発を推進する規制委員会は、ふたたび「規制の虜」となっているのでしょうか。
  そうであるなら、規制委はないよりも、むしろある方が私たちにとってより危険だと言えます。
  南海トラフ巨大地震は確実にやってきます。
  福島原発事故の再来を未然に防ぐためにも、いま私たちが闘っている仮処分で、四電や規制委の誤りを明確に突いて、伊方原発3号機即時運転差し止めを勝ち取りましょう。」


ここで質疑応答に移ります。
当日は会場に約40名、ZOOMによる遠隔参加の人が26名いました。

 質問:「強震動予測はあてにならないと言われましたが、愛媛県が南海トラフを想定して出してきている1351ガルも強震動予測で出しているのでしょうか?」
 回答:「強震動予測で出しています。
     同じ強震動予測を使っても、仮定のとり方、データの入れ方、計算の仕方で、こんなにも違いが出てくるのです。
     だから、観測記録によってその妥当性を確認しなければならないと、地震ガイドに定められているのです。
     伊方町庁舎のある港の方は、砂地で地盤が弱いので、1351ガルとなっていますが、伊方原発の方は地盤が固いので低くなっていると愛媛県は説明していたと思います。
     伊方原発の敷地だけは、スポット的に低い数値になると言っているのです。
     四国電力原子炉設置変更許可申請書の中に、このことがしっかり書き込まれていて、プレート間地震は181ガルだと四電は言っていますが、実際は、計算式が出ていないんです。
     応答スペクトルによって181ガルを導き出しているが、震源モデルに従って計算したということだけで中味は書いていない。
     これもずさんな審査の一例だと思います。」

 質問:「地域特性や地盤特性について、裁判長は、債権者に反論するのか聞かれたそうですが、これはどういう意味合いがあるとお考えですか?」
 回答:「審理の終了する時期を見定めようとして聞いてきたのか、地域特性や地盤特性など専門的な所に興味をもって聞いてきたのか、裁判長の意図はよくわかりません。
     僕は、聞いてくるのはもっともなことだと思います。地域特性や地盤特性について、四電は何も具体的なことは言ってない。
     どこがどうなって181ガルになるのか四電ははっきりいいなさいと言いたい。
     どんな説明を出してきても181ガルはないでしょう。
     この問題は、立証責任をどちらが負うかという問題になると思います。
     こちらは、181ガル以上の所はいっぱいあると言っているんです。
     数えきれないぐらいあるんです。
     ざっと数えても500以上の地点で181ガル以上が観測されているんです。
     その500を超える観測点について、どんな共通点があるか我々に言えというんですか。
     それは、向こうが言うべきことです。
     181ガルを超えた地点と、伊方原発では、地域特性や地盤特性でこれこれが違うということを、向こうが言うべきです。
     それが、立証責任の分配で、当然向こうがやるべきなんです。
     これを真っ先にいうべきです。
     地域特性、地盤特性を重視しているのは向こうなんだから。
     向こうに、伊方原発の地域特性や地盤特性が、500箇所以上のどれとも違うことを言ってもらわないといけない理屈になります。
     だいたい、地域特性、地盤特性の定義さえ向こうは言ってないんだから。
     地盤特性や地域特性について、科学技術論争にもっていってはいけない。
     立証責任は向こうにあるということを真っ先に言わなければいけませんね。」



 こうして記者会見・報告会は予定時間を30分近くオーバーして終了しました。



期日案内

1.新規仮処分第4回審尋期日

2020年3月11日、広島地方裁判所に、新規に提訴しました四国電力伊方原発3号機運転差止仮処分提訴(以下「広島新規仮処分」)は、5月13日に第4回審尋期日(一般非公開)を迎えます。
私たち申立人側は、これまで3号機の耐震性が、現実に日本で発生している地震の地震動に照らして見てあまりに過小評価であるという主張を中心にして新規仮処分を闘って参りました。
伊方原発の耐震性は、「基準地震動」という指標で表すことができますが、現在原子力規制委員会が合格とした耐震性はわずかに650ガル。
(「ガル」は加速度の単位で、地震の揺れを示す客観的・科学的指標。)

日本列島は1990年以降、活発な地震活動期に入っているようで、大きな地震が相次いでいます。
たとえば、2011年の東北地方太平洋沖地震で観測された最大地震動は2933ガル、記憶も新しい16年の熊本地震1791ガル今年3月に発生した福島県沖地震は1432ガル。
実際1000ガル程度の揺れは日本列島では珍しくもなんともありません。

これに比べると伊方原発の耐震性「基準地震動650ガル」は、一ケタ違うんじゃないの、と思わせるほどお粗末な耐震性です。

なにも難しい地震学の議論をしなくても、常識レベルで誰にでもわかることです。
こうした誰にでも判断できる訴えで、これまで新規仮処分をたたかって参りました。

2.いよいよ「南海トラフ巨大地震」が登場

第4回審尋期日では、いよいよ「南海トラフ巨大地震」が最大の争点となります。
南海トラフ巨大地震は、「首都直下型地震」とならんで国が最も警戒を要するとしている地震の一つで、その発生確率は今後30年間で70%以上ということですから、発生はほぼ間違いないと覚悟しておかねばなりません。
その地震のエネルギーも、11年の東北地方太平洋沖地震と同等の最大規模「マグニチュード9」が想定されています。

その想定震源域は広大ですが、あろうことか伊方原発はその想定震源域内に立地しています。
常識レベルではもうこれだけで「運転禁止」ですが、四国電力は「南海トラフ巨大地震が伊方原発の直下で発生しても地震動は181ガル」と主張しています。(「181ガル問題」)

第4回審尋期日では、この四国電力の荒唐無稽な主張を、現実の地震動に照らしながら論破する書面を裁判所に提出します。
また私たちは今回期日のスローガンを、「伊方原発敷地直下の、M9南海トラフ巨大地震で地震動が181ガル?!」とし、スローガンに連動した期日案内チラシを作成し拡散しています。

▽御案内チラシ A4版4ページ クリックするとPDFでご覧頂けます


3.記者会見・報告会

当日午後2時から審尋が行われますが、審尋そのものは非公開のため、期日終了後、広島弁護士会館3階大ホールを会場に「記者会見・報告会」(以下「報告会」)を開きます。
報告会では、
  1.本広島仮処分が民事訴訟原発裁判で、全国唯一の仮処分提訴事件になってしまっていること
  2.裁判長が交代したこと
  3.審尋期日などの諸報告
  4.「181ガル問題」に関し、弁護団からの解説や本訴原告団からの解説・訴え

そのほか、質疑・討論など盛りだくさんの内容を予定しています。

4.ZOOM参加の呼びかけ

恒例の「裁判所乗込行進」や記者会見報告会場に直接足を運んで、是非ご参加をと呼びかけたいところですが、新型コロナ第4波拡大の状況ではそう申し上げにくいのが実情です。
そこでみなさまには、「内容が面白いので、是非ZOOMでご参加を」と呼びかけます。

ぜひ、記者会見・報告会にZOOMでご参加ください


▽当日のスケジュール

13時35分  広島地裁南西角交差点集合
13時40分  広島地裁へ乗込行進・審尋出席者送り出し
14時00分  第4回審尋開始
15時00分頃 審尋終了次第、ZOOMにて記者会見・報告会開始
16時30分  終了予定


詳しくはぜひ御案内チラシをご覧下さい。
▽御案内チラシ A4版4ページ クリックするとPDFでご覧頂けます




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