「ふるさと広島を守りたい」ヒロシマの被爆者と広島市民が、伊方原発からの放射能被曝を拒否し、広島地方裁判所に提訴しました
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伊方原発・広島裁判メールマガジン 第2号
2016年3月11日(金)広島地裁に提訴しました。
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2016年3月18日(金)発行
編集長 :大歳
副編集長:重広
編集員 :綱﨑
マスコミ報道で既に広く伝えられているように、2016年3月11日(金)11時、広島地方裁判所に提訴を行いました。また、その2日前の3月9日(水)に大津地裁から高浜原発3・4号機の運転差止仮処分の決定という、予想していない嬉しいニュースが突如飛び込み、事務局も大変な騒ぎになりました。
本号では、同日午前11時30分から広島弁護士会館で約一時間、行われた提訴後の記者会見を中心に、次号においてマスコミ報道では伝えられることのない提訴・記者会見の後のKKRホテル広島で行われた報告会・交流会でのやり取りを中心に報告します。
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今日の見出し
■大津地裁から高浜原発3・4号機の運転差止仮処分命令・決定のニュースが飛び込む
■東京から河合弁護士が来広
■2016年3月11日(金)11時、広島地方裁判所に提訴
■提訴後の記者会見
◇河合弁護士から本裁判の歴史的意味と仮処分命令申立についての説明
◇甫守弁護士から伊方原発における地震のリスクについての説明
◇堀江原告団長からの決意表明
◇伊藤原告副団長からの決意表明
◇記者からの質問
■編集部感想
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■大津地裁から高浜原発3・4号機の運転差止仮処分命令・決定のニュースが飛び込む
冒頭でお伝えしたように、提訴日2日前の2016年3月9日(水)に突如この嬉しいニュースが飛び込み、事務局も大騒ぎになりました。「報道陣が予想以上に集まるのではないか?」「用意している資料の数は、今のままで足りるだろうか?」「とりあえず祝杯あげよう!!」という混乱が生じました。
私たちメルマガ編集部でも、3月10日に発行する創刊号の最終チェックが終わり一安心していたところにこのニュースを知り、慌てて一文付け加えることをしました。
大きな驚きがありましたが、私たちにとって強い追い風が吹き始める予感を感じました。
■東京から川合弁護士が来広
脱原発弁護団連絡会共同代表であり、原発訴訟では著名かつ功労者である河合弘之弁護士が来広、提訴に自ら参加しました。
提訴・記者会見の前の10時に広島弁護士会館で参加者一同が集合しておりましたが、ここにも参加し挨拶しました。
あとの記者会見のところで詳しく触れますが、隣接県でおこす訴訟が勝利しやすいこと、被爆地・ヒロシマの市民が立ち上がることの歴史的意味について説明がありました。
■2016年3月11日(金)11時、広島地方裁判所に提訴
10時45分に参加者一同、弁護士会館を出発し、みんなで歩いて広島地方裁判所まで行きました。広島地裁に向かう途中、ちょうど17年ぶりに広島を訪れていた広島市現代美術館第4回ヒロシマ賞受賞者、クシュシトフ・ウディチコ氏が今日の提訴を知り、「行進に参加」するために来てくれていました。
そして11時に広島地方裁判所に本訴提訴および仮処分命令申立の訴状の提出をいたしました。(以下運転差止本案訴訟を「本訴」、運転差止仮処分命令申立を「仮処分」と表記します。)
■提訴後の記者会見
提訴後に再び広島弁護士会館に戻り、11時30分より応援団代表・原田二三子の司会のもと、記者会見が開かれました。
記者会見に出席したのは、主に仮処分を担当する広島県外の弁護団から
河合 弘之 弁護士
甫守 一樹 弁護士
本訴を担当する広島の弁護団から
胡田 敢 弁護士
能勢 顕男 弁護士
前川 哲明 弁護士
松岡 幸輝 弁護士
竹森 雅泰 弁護士
原告団から
堀江 壮 原告団長
伊藤 正雄 原告副団長
となっています。
全員の自己紹介の後、胡田弁護士のほうから本訴についての説明がありました。原告結成集会での説明があった通り、この運転差止請求は、人格権に基づく請求であることと、これに加えて不法行為に基づく請求も同時に行うという説明がありました。
◇河合弁護士から本裁判の歴史的意味と仮処分命令申立についての説明
続いて河合弁護士から広島から訴訟を起こす歴史的意義と仮処分の説明がありました。
「弁護士の河合でございます。脱原発弁護団連絡会共同代表をしております関係で、日本の原発訴訟全体を直接的または間接的に関わっております。今日、提出した本訴と仮処分は、歴史的にも大きな意味があると考えております。
広島は世界で初めて原爆の被害にあった所ですが、ここから被爆の被害を受けたヒロシマの市民が中心となって、今日の本訴と仮処分の訴訟を起こしたという意味は限りなく大きくて、世界に対して“ヒロシマの市民がついに原発を止めるのに立ち上がったぞ”ということと、“放射能の被害を受けるという意味では核兵器も原発も同じなんだよ”という強烈なメッセージを放つと思います。また、国内におきましても、大きな驚きを持って受け止められるのではないかと思います。
伊方原発は、ここから約100kmのところにあります。過酷事故が起これば、風向きから言って基本的にはこっちに向かって吹いてくると思いますけど、多分ですね、大変な放射能が飛んでくると思います。これに対して座視していること自体がおかしいと私は思うのですが、これについに(ヒロシマが)立ち上がったんだな、と私は思います。
それから、一昨日、滋賀県大津地裁で高浜原発を差し止める決定が出ました。そのこととの関係におきましても、この裁判は非常に重要で密接な関係にあると思います。
まずひとつは地元の裁判所ではなく県外で決定が出たということですね。これは要するに『被害地元』と言って、何の利益も得ていなければ、電力会社から補償金も貰っていない、被害だけがもたらされる場所で、大津の事件も滋賀県の裁判所がおもに滋賀県の県民の訴えを聞いて、福井の原発を止めたという意味で重要です。
もう一つは、現実に動いている原発を止めたというところが重要です。
私たちが本訴だけでなく仮処分も起こしたのはそうした理由からです。本訴はもちろん一番重要な戦いですけど、一審で勝っても控訴されて、そして最高裁まで行って確定しなければ差し止める効力がありません。それだけでは不十分なのです。
もちろん本訴での戦いが一番本格的な戦いなのですが、目の前で動き出した原発、また動いている原発を止めなければ、私たちの安全は確保できない、また再稼働に対してストップをかけられない訳ですから、仮処分のほうも大事です。
一昨日(2016年3月9日)の大津の決定は、実際に動いている原発を実際に止めたという意味で非常に歴史的な決定だったのですが、それと同じことを(広島でも)やろうとしているわけです。」
◇甫守弁護士から伊方原発における地震のリスクについての説明
続いて甫守弁護士のほうから伊方原発における地震のリスクについての説明がありました。
「伊方原発、これから争っていく上では、やはり地震の問題が大きいと思います。南海トラフ巨大地震の震源域に伊方原発は当たっていますし、中央構造線という非常に長い断層、180km連動すると想定されていますけど、これが5kmという非常に近い範囲にあるわけです。これは世界で2番目に大きなリスクがある原発と言っている地震学者の先生もいらっしゃるのです。
1位は浜岡原発ということですが、浜岡の基準地震動(*注1)は2000ガル(*注2)です。伊方は650ガルです。全然違いますよね。
一昨日止められた高浜原発は700ガルですが、高浜にはそんな何百kmのような断層もなければ、南海地震の震源域にも当然当たっていないので、この(650ガルという)基準地震動が過小であることは誰の目から見ても明らかです。当然、こうしたことを中心として争っていく予定です。」
(*注1):基準地震動 原子力発電所の耐震設計において基準とする地震動。地質構造的見地から、施設周辺において発生する可能性がある最大の地震の揺れの強さのこと。単位はガル。
(*注2):ガル 加速度の単位で、人間や建物にかかる瞬間的な力の事。
◇堀江原告団長からの決意表明
弁護団の先生からの説明に続いて、原告団の堀江団長の方から決意表明がありました。
「放射能の恐ろしさを知っている者が、その恐ろしさを後世の人に伝えないのは非常にまずいのではないかと思っています。私自身も4年前に悪性リンパ腫に侵されましたが、いまでも原爆の被爆者で圧倒的に多いのが、この悪性リンパ腫と白血病です。まだ70年前の痕跡は残っているのです。」
団長は、核廃棄物が貯まり続けていること、現在は第2次大戦以降もっとも不安定な時期に入ったこと、地震がなくても原発は大量の放射能を放出し近隣の健康被害を与えていることについて説明したあと、
「美しい、綺麗な日本を次の世代に引き継ぎたいと思います。」
という言葉で結びました。
◇伊藤原告副団長からの決意表明
次に伊藤副団長からの表明がありました。
「私は4歳半の時、爆心地から西3.5kmの地点で被爆しました。私自身は元気にしておりますが、12歳の兄と10歳の姉を即死状態で失いました。このことは私が幼かったため、あまり悲惨さを感じておりませんが、一番大きなショックだったのは、5年前ちょうど福島の事件(*)があった4日後の3月15日に、3歳下の妹がなくなりました。
(原爆投下から)60年以上経っていたので、私はあまり原爆と結びつけたくはなかったのですが、医師の死亡診断書には放射線障害による白血病及び、甲状腺がんと記してありました。
60年以上経っても、未だ放射線による障害によって死亡していることが現にあるということを知って私は非常に大きなショックを受けました。このようなことからも私はこの訴訟に加わることにしました。
今回の訴訟は“被爆地・ヒロシマに被曝はいらない”という地域限定型のような訴訟にはなっていますが、私の願いは、日本国中の、いや世界中の原子炉が取り除かれて人類と全生物が安心して暮らしていけるような世界を築かなければならないのではないか、これが本題的な私の願いです。」
(*):伊藤副団長は事故とは言わず事件と言います。
伊藤副団長の発言中、河合弁護士が腕を組んで目を閉じて何度も深く頷いていたのが印象的でした。
◇記者からの質問
このあと、記者の方々からの質問となりました。この中からいくつかの質問と出席者からの回答をご紹介します。
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(時事通信社・記者):
「広島・長崎の被爆者方々がこうした訴訟した例がほかにもありますか?また3月11日に提訴をした意味はどういうことですか?」
(河合弁護士):
「私自身、日本全国の差止訴訟を見てきていますが、このようなことは本当に初めての例です。」
(堀江団長):
「同じ提訴をするのであれば、他の日にするよりこの日にしたほうが世間の方が受け止めるインパクトが大きいと考えて、この日(3月11日)にしました。」
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(東京新聞・記者):
「広島の被爆者の方々は、原爆の被害と核の平和利用を切り離してお考えにある傾向があると伺っているのですが、堀江さん、伊藤さんは3.11以前と以降でお考えが変わった点はございますか?」
(伊藤副団長):
「正直なところ、福島の事件がある前は原発に対しての不安は一切ありませんでした。政府が発表する安全神話を100%信じておりました。広島に原爆が投下されて10年後ぐらいに『復興博』(注)というものが開かれました。このときは原発の模型が展示されまして、マジックハンドというもので操作をしているような核の平和利用が宣伝されたのですが、当時の市長さんも私たちもそれを信じて今日まで来たわけです。
だけど、このような事故を見て政府や電力会社の言っていることは眉唾なのではないかと感じるようになりました。」
(堀江団長)
「私のほうは伊藤と違いまして、上関原発の反対運動のころから関わってきました。」
(注):副団長が『復興博』が呼んだのは正式には原子力平和利用博覧会で、被爆者自身が米国の世界戦略〈アトムズ・フォー・ピース〉のなかで、世論操作のターゲットにされていく象徴的なイベントでした。
原子力平和利用博覧会(ウィキペディアより)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E5%B9%B3%E5%92%8C%E5%88%A9%E7%94%A8%E5%8D%9A%E8%A6%A7%E4%BC%9A
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(共同通信・記者):
「大津裁判のように立地県ではなく、隣接した県がこうした訴訟をおこすことの波及効果はあるのですか?」
(河合弁護士):
「これは非常に大きな影響があると思います。“そうか、隣の県でもいいのか”ということで波及していくと思います。立地自治体、立地県は目前の利益で“再稼働しろ!!再稼働しろ!!”と大コールをしているのですが、そこを一歩出た場所では“もう、いい加減にしてくれ、もうやめてくれ”というところがすごく多いですね。だけど、どうしていいかわからない人、自治体がすごく多いのですが、それに対して“そうか、こんな方法があったんだ”というのを指し示した決定だと思います。
したがって、そういう訴訟、仮処分申請が今後起きてくる可能性は非常に高い。私個人の意見では、こうした仮処分申請をどんどんやっていくべきだと思います。
現に大津では、福井で既に同じ訴訟をやっているのに後から追っかけてきたのですね。そして、福井の人たちは福井地裁で、樋口裁判長からあの決定を獲得したのですが、あれがひっくり返されるかもしれないので、こっち(滋賀)でもやっておこうと〈つっかえ棒〉するかたちで、そこに入っていったら、本当に福井のほうがひっくり返って〈つっかえ棒〉になっちゃた訳です。
あとひとつ、一昨日の決定はすごく重要な点があって、去年の12月に樋口決定がひっくり返されたのですが、これが誰によってひっくり返されたのかというと最高裁事務総局出身の超エリート裁判官が、ボロクソに書いてひっくり返したのですよ。そうした超エリート裁判官が念入りに潰した決定を見て、他の裁判官はふつうそれに迎合するのではないかということを心配したのですが、それから数ヶ月してその決定を徹底的に検証した上で、それと正反対の決定を出す、〈宝のような裁判官〉が世の中にいるのだ、ということがわかりました。
そのような〈宝のような裁判官〉に弾を当てるには、弾をたくさん撃たなければならない(=仮処分請求をたくさん起こさなければいけない)、これはあくまでも私の意見ですけど」
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2日前の大津地裁の決定も影響してのことなのか、2月28日に行われた原告団結成集会よりもさらに多くの報道関係の方々が集まってくださいました。こちらの方で後日確認したところ、記者会見に出席したのは17社。内訳はテレビ局5社、新聞10社、通信社2社で、全体で30人以上の報道陣でした。皆様に厚く御礼申し上げます。
■編集部感想
記者会見終了後、多くの記者が伊藤さんに集まりました。
60年を経ても尚、放射線障害があるという被爆者の話に注目が集まっている感じでした。
その後の報道では見当たりませんが…。(東京新聞さんが取り上げたとのことですね)
努めて笑顔で仮処分のお話をする河合弁護士、丁寧に語りかける堀江さん、悲しい話にも憎しみの言葉を織り込まない伊藤さん。
私たちは四電を相手に裁判を争っている訳ですが、私たちと同じく被曝の脅威に遭っている人にその姿を見せる時は、今は憎しみや攻撃ではなく冷静に、被曝は被害であることをきちんと伝えていかなければならないと思いました。(綱﨑)
広島の被爆者のなかにも、「原爆は悪いけど、原発は悪くない」と思っている方はまだたくさんいらっしゃいます。
伊藤さんの話を聞くと、これはそういう意見になるように誘導もしくは操作があったからではないかと考えてしまいます。
これは近現代史のテーマにもなりうるもので、そういう研究されている方は既にいらっしゃるのではないかと思います。
こうした研究に関してもこのメルマガで折を見つけて取り上げていきたいです。(大歳)
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