被爆地ヒロシマが被曝を拒否する伊方原発運転差止広島裁判
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「ふるさと広島を守りたい」ヒロシマの被爆者と広島市民が、伊方原発からの放射能被曝を拒否し、広島地方裁判所に提訴しました


伊方原発広島裁判メールマガジン第10号 2016年12月27日



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伊方原発・広島裁判メールマガジン10号
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2016年12月27日(火)発行
編集長 :大歳 努
副編集長:重広 麻緒
編集員 :綱崎 健太

四国電力伊方原発3号機の運転差止仮処分命令の広島地裁決定日(Xデー)が刻一刻近づいています。
年明け早々にも広島地裁(吉岡茂之裁判長)の判断が下されようという情勢です。
広島地裁判断の大きなキーポイントの一つが、去る9月20日第5回審尋期日に行われた債権者側(申立人側)弁護団が行ったプレゼンテーションではないでしょうか。
この機会に再びこの日債権者側の行ったプレゼンを振り返ってみましょう。
(なお本メルマガは、第10号で予定しておりましたが、審尋進行上の理由により公表を見合わせていたものです。
 すでにメルマガ11号が発行されておりやや変則的にはなりますが、メルマガ10号として発行します)


★☆ 伊方原発運転差止広島裁判 仮処分命令申立事件 第5回審尋期日 ☆★
│                                  │
│       債権者側、堂々のプレゼンテーションを展開       │
│                                  │
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去る3月11日、広島地裁に申し立てられた伊方原発3号機の運転差止仮処分命令申立事件は、
第1回審尋(4月8日)、
第2回審尋(6月16日)、
第3回審尋(7月13日)、
第4回審尋(9月13日)と仮処分事件らしく急ピッチで審尋を重ね、
9月20日に第5回審尋期日を迎えました。

第4回審尋期日では債務者側(四国電力)による裁判官へのプレゼンテーションだったのに対して、第5回審尋ではいよいよ債権者側(すなわち私たち)のプレゼンテーションが行われました。
実質上の審尋期日はこの第5回で最後とあって、債権者側のプレゼンは自然と力のこもったものとなりました。

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■本号のトピック
1.“人格権侵害”の恐れと“保全の緊急性”
2.第5回審尋期日での債権者側のプレゼン
3.伊方原発基準地震動策定の問題点を突く甫守プレゼン
4.伊方原発超過確率のウソ
5.仮説に仮説を重ねている長大断層の地震動評価
6.第5回審尋の白眉、長沢プレゼン
7.「震源を特定して作成する地震動」でも過小評価
8.吉岡裁判長の興味を惹いた「島崎問題」
9.頑張ってはいるが、世界標準にはほど遠い日本のレベル
10.「安全系損傷で事故が起こる」とする“通説”の誤り
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 “人格権侵害”の恐れと“保全の緊急性”
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この種の仮処分命令申立事件では、申立人の当然の権利(この事件では申立人の“人格権”。
日本国憲法が保障しています)が侵害される具体的恐れがあり、緊急にこの権利を保全する必要性がある、と裁判所が判断した場合には、裁判所は保全のため仮処分命令を出すことができます。
つまり裁判所は、

1.人格権侵害の具体的恐れがあるかどうか、 2.その保全のために仮処分命令を出す緊急性があるかどうか、

の2点を判断することになります。

人格権は日本国憲法が保障している国民1人1人がもっている奪うことのできない権利です。
つまり私たちは日本国憲法を楯に、ほとんど唯一の楯にしてこの裁判を闘っていることを忘れてはなりません。
もし憲法が変えられこの人格権に一定の制限が設けられれば、今後人格権の保全を主張してこの種の訴えを起こすことができなくなる可能性も出てきます。

緊急性については実は裁判の争点にはなりません。
というのは伊方3号機は、原子力規制委員会の規制基準適合性審査に合格し、すでに再稼働しているわけですから、誰が見ても緊急性があるのは明らかだからです。

ですから争点は“人格権”を侵害する具体的恐れがあるかないかです。

“人格権侵害”の恐れのうちもっとも“具体的な危険”は、伊方3号機が、東電福島第一原発のような、あるいはそれを上回る過酷事故を起こすかどうかにあります。
伊方3号機が放射能過酷事故を起こす具体的な危険性は、南海トラフ巨大地震や直近の中央構造線断層帯を震源とする巨大地震を原因とする過酷事故のケースです。
こうして裁判の争点は、果たして伊方3号機はこうした巨大地震に対して安全性が十分に確保されているかどうかを中心に争われることになりました。

重要なことは通常の裁判と違って、仮処分命令申立事件では地裁の命令が出れば、四国電力は直ちにその命令に服さなければならないという点です。
いいかえれば、広島地裁が申立を認め、伊方3号機の運転差止の仮処分命令を出せば、直ちに四国電力は現在運転中の伊方3号機の運転を止めなければならないということです。
今年3月9日、申立人の言い分を認め、大津地裁は関西電力高浜3・4号機の運転差止(禁止)の仮処分命令を出しましたが、関西電力は運転中の高浜3号機の原子炉に制御棒を入れて運転を翌日に止めなければならなかったのです。
(この命令は現在も有効)“勝てば即止まる仮処分”といわれるゆえんです。

四国電力は、これまでの答弁書や第4回審尋のプレゼンで、伊方3号機は、地震や津波などに対して高度の安全性が保たれており、放射能過酷事故を起こす確率は極めて低く、債権者側の主張には根拠がない、と主張してきました。
しかし、伊方3号機は絶対に安全であり、絶対に過酷事故を起こすことはない、と言い切ることはできませんでした。

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 第5回審尋期日での債権者側のプレゼン
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こうして迎えた第5回審尋期日は吉岡茂之裁判長が簡単に提出書面の確認をした後、直ちに債権者側のプレゼンが開始されました。
(なお、右陪席は第4回審尋から交代した久保田寛也裁判官、左陪席は田中佐和子裁判官)
 
トップバッターは、大河陽子代理人弁護士による「原発事故の被害」と題するプレゼン。
http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/karishobun/20160920/kou_D494_20160920.pdf

大河弁護士は、ひとたび原発事故が発生すれば、生命、身体、精神、生活に、取り返しのつかない被害が発生する、この実態を再認識していただきたいと裁判所に訴えました。
そして被害が甚大であればあるほど、当然原発には完全に近い高度の安全性が求められるとし、こうした原発の危険性を認めなかった従来の(3.11前の)司法の判断が誤りであったことを示し、
「司法が踏み込んでチェックしていれば、福島第一原発事故はなかったかも知れない」とする海保寛元裁判官(関電高浜原発2号機訴訟における第一審裁判長)の言葉を引用しつつ、司法においては被害の実態を直視して欲しいと述べました。

さらにチェルノブイリ事故被害、福島原発事故被害の甚大さを指摘し、伊方3号機で過酷事故が起きた場合、広島に何が起こるかを示しました。
また福島原発事故で発生した数々の原子力災害特有の放射能による不条理な悲劇(双葉病院事件、請戸の浜の悲劇、山木屋事件など)を例証しつつ、原発事故という放射能災害が放射性物質への人々の不安を含め、いかに私たちの生活をまるごと破壊するかを力説しました。
特に「請戸の浜の悲劇」に触れて画像がスクリーンに映しだされた時に、債務者側(四国電力側)の審尋参加者の1人が、聞くに堪えないという風にうつむいてしまったシーンは印象的でした。
 
大河弁護士に続くのは、中野宏典弁護士で「本件仮処分における司法審査の在り方」と題するプレゼンを行いました。
http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/karishobun/20160920/kou_D495_20160920.pdf

中野弁護士は原発の「絶対的安全性」と「相対的安全性」を論じて、安全性の概念の整理をまず行った上で、原発に絶対的安全がない以上、またそれを支える科学技術に不確実性が伴う以上、
原発にどの程度の安全性を求めるのかは、結局社会がどの程度のリスクなら受容できるかに問題の核心が存在する、その上で重要なのはリスクの内容を客観的・具体的に明らかにすることだと強調しました。

それはその通りで、原発によるリスクが曖昧にされたままでは、社会はその受容性を判断できません。
こうしたことを考えると現在の日本において、制度上原発の安全性をチェックできるのは裁判所以外にはない、と述べます。

こうしてプレゼンは司法判断の枠組みについて展開され、下山憲治教授(名古屋大学大学院)の主張を、九州電力川内原発運転差止福岡高裁宮崎支部の決定、すなわち「合理的に予測できるものに対応していれば良い」「(原発には)これを超える安全性は求められていない」と対比されます。
そしてドイツ連邦行政裁判所ヴィール判決(1982年)、すなわち「『通説』に依拠するのではなく、代替可能な全ての学問上の見解を考察の対象としなければならない」とも対比させます。
また原発の安全性に関する立証責任(立証負担)は、債権者・債務者が、公平に分配された上で負うべきだと主張しました。

そして、債務者(四国電力)は、伊方3号機の安全性に欠ける点のないことについて、全力を挙げて主張・立証しなければならない、これが立証できない場合には、債権者たちの人格権を侵害する具体的危険が推認される、とまとめました。

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 伊方原発基準地震動策定の問題点を突く甫守プレゼン
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次は甫守一樹弁護士のプレゼンです。
甫守弁護士は「伊方原発基準地震動の問題点」と題するそのものズバリのプレゼンを行いました。
http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/karishobun/20160920/kou_D496_20160920.pdf

まず「伊方原発の基準地震動は考えられる最大の地震を想定して決定した」と主張する四国電力の言い分を、
地震学会の重鎮、入倉孝次郎京都大学名誉教授(元原子力安全委員会専門委員)の「基準地震動は一番大きい揺れの値ではない。それは経営判断である」のコメントと対比させます。

そして、そもそも地震は現在の科学では十分な予測はできない、原発のように高度に危険な存在の安全性を、科学だけで審査できると考えたのが間違いだった、とする纐纈一起東大地震研究所教授のコメントを紹介し、
さらに、日本のように地殻変動の激しいところで原発を安定的に運転することは土台無理だったという感じがする、という主旨の防災科学技術研究所所長の岡田義光氏の感想も合わせて紹介。
科学者の役割は、事実や曖昧さ、科学の限界をきちんと示した上で予測値を提供することであり、基準地震動を決定することではない、基準地震動を判断するのは原発のリスクを受け入れる社会である、とする
泉谷恭男信州大学名誉教授のコメントを紹介しています。

事故被害のリスクを受け入れるのは社会、すなわち私たちであってみれば“決めるのは科学者。被害を受けるのは私たち(社会)”という決定構造はそもそもおかしい、というわけです。

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 伊方原発超過確率のウソ
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次に「不確かさ」について話しが進みます。
地震に限りませんが、科学には常に「不確かさ」がつきものです。
ましてや観測データも不足、実験もできない、そもそもが複雑系科学である地震に関する科学は「不確かさ」の固まりと言っていいような学問体系です。

それを四国電力は「不確実な部分については“不確かさの考慮”を行って保守的に定めています」と説明します。
しかし実際には「不確かさの考慮」は、原発を何が何でも動かすという前提で「エイヤッ」で決められたものであることを明らかにし、「このリスクを一般公衆(すなわち私たち)に負わせることができるのかどうかがこの裁判では問われている」と迫ります。

続いて話題は「超過確率」に及びます。
超過確率は統計学の考え方で、たとえば100年に1回の確率で発生すると予測した場合、この確率のことを超過確率と呼んでいます。

四国電力は伊方原発の基準地震動650ガル(ガルは加速度の単位)を超える地震が伊方原発を襲う頻度を1万年から100万年に1回と主張しています。
超過確率は1万年から100万年に1回ということになります。基準地震動650ガルを超えることは、もしあるとしても1万年から100万年に1回ということであれば、
事実上四国電力は、伊方原発の基準地震動650ガルを超える地震が襲うことはない、と
いっていることになります。

それも事実がはっきり裏切っています。
全国の原発のうち、4カ所で2005年から2011年の間に5回も、それぞれの原発の基準地震動を超える地震が襲っているのです。
これを原子炉単位で計算してみると概ね30年に1回の基準地震動を超える地震が原子炉を襲っています。
1万年から100万年に1回という四国電力の主張からすれば300倍から3万倍の誤差があるということになります。

なぜこんなことが起こるのか?
甫守プレゼンは、前出泉谷教授のコメントを引用しながら次のように結論づけます。

「基準地震動の現在の決め方は科学ではなく『割り切りだ』。もしも科学的真実に近い基準地震動を得たければ、100万年単位の地震観測が必要。
 少ない観測データから恣意的な『想定』をするから、基準地震動を超える地震が僅か10年足らずの間に4カ所の原発を襲うということになる」

つまりは電力会社、原子力規制委員会の基準地震動の決め方が大甘だ、ということになります。
それは基準地震動の超過確率の計算方法の問題点と直結します。

事実算出方法は一般には公開されていませんし(ブラックボックス化)、超過確率の算出にかかわった専門家の名前もその過程も公開されていません。
「超過確率について、実際に起きている現象が説明できるような根本的な見直しがなければ、伊方原発のリスクはとても受容できない」と甫守プレゼンは述べています。

つまりは申立人たちの「人格権侵害」の具体的危険性があるということになります。

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 仮説に仮説を重ねている長大断層の地震動評価
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次には長大断層の評価手法について話が及びます。
伊方原発が、中央構造線断層帯の直近に位置していることはよく知られた事実です。
(全く、なんでこんなところに原発などを作ってしまったのでしょうか?)

中央構造線断層帯は、伊方原発前面海域約6km~8kmの位置にはいわゆる「敷地前面断層帯グループ」を形成し、さらに西には別府湾まで延び東には紀伊半島の金剛山山系まで延びています。
これを伊方原発周辺からそれぞれ範囲を拡げていくと、54km、69km、130kmの長さをもつ断層帯グループを想定できます。
別府湾から金剛山山系までの中央構造線断層帯の長さは約480km。これらが連動して地震が発生したらどの程度のゆれがくるのか、この地震動評価が「長大断層の地震動評価」というわけです。

これだけの長大断層が連動するケースまで想定しているのだから、さぞ大きな地震動を想定しているんだろうなと思いきや、これがさにあらずで、長大断層が連動しても伊方原発の基準地震動は650ガル。
敷地から10km離れたところにある長さ3kmの活断層(F-14断層)がもっとも影響が大きいとした電源開発の青森県大間原発の基準地震動650ガルと同じです。

なぜこんなことが起こるのか?

それは長大な横ずれ断層に対する強震動評価の体系が、仮説の上に仮説を重ねた体系であり、また検証不可能な段階にあることにもかかわらず、伊方原発の地震動評価に使っているからだ、と甫守プレゼンは結論します。
心許ない「仮説」に基づいて原発のように影響の大きい施設の耐震安全性が証明できるはずがない、というのが専門家の意見です。

そして、長大な活断層から発生する地震動を予測して基準地震動を策定するのは困難を極める、本来中央構造線断層帯直近に位置する伊方原発は立地不適とすべきだが、もししないのであれば、
十二分に余裕をもった基準地震動の策定をしなければならないが、650ガルはあまりに過小評価、東北地方太平洋沖地震を経験した今、自然に対しては謙虚でなければならないのに、
債務者(四国電力)にはその謙虚さがない、と結論しています。

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 第5回審尋の白眉、長沢プレゼン
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4番目にプレゼンに立ったのは、大阪府立大学の長沢啓行名誉教授です。
長沢教授は「伊方3号の基準地震動は過小評価されている」と題するプレゼンの中で、伊方3号の基準地震動の決め方のみならず、現原子力規制委員会の地震動評価やその審査のありかたに対して根本的な疑義を提出し、
今回プレゼン中白眉ともいえる迫力のある中身を展開しました。
http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/karishobun/20160920/kou_D497_20160920.pdf

長沢教授のプレゼンは専門性の極めて高い内容のため、このメルマガでは詳細を割愛してお伝えしますが、原子力規制委員会が基準地震動策定で採用している2つの手法、すなわち「震源を特定して策定する地震動」においても
「震源を特定せず策定する地震動」においても、伊方原発の基準地震動650ガルは極端な過小評価になることを論証しています。

たとえば「震源を特定せず策定する地震動」(伊方原発3号機の直下には今のところ活断層はないと前提されて審査がはじめられたが、直下が震源となった場合を仮定して地震動評価をすること)の場合。

2004年12月に北海道留萌支庁南部を震央とする地震が発生しましたが、この時震源の深さは約9kmと比較的浅く、またマグニチュードは6.1、観測された最大震度は5強(北海道苫前町)でした。
この時震源近傍地での地震動は電力会社によると620ガルですが、地域地盤環境研究所による再評価は1100ガルでした。
もし同種の地震が伊方原発近傍で発生すれば、伊方原発の基準地震動650ガルははるかに越えてクリフエッジの855ガルも超えてしまうことになります。

「クリフエッジ」は文字通り「崖っぷち」という意味でこれ以上超えると原子炉建屋や原子炉など重要設備がもたないとされる境界線の数字です。
基準地震動650ガルは建物・設備が壊れてしまう地震動ではないとされています。そこには「余裕」(耐震裕度)が取ってあり、その余裕の幅を超える限界点がクリフエッジというわけです。
伊方3号機の場合、基準地震動が650ガルで地震のクリフエッジが855ガルですから、余裕(耐震裕度)は、1.315倍ということになります。

そもそも原子力安全基盤機構(JNES=ジェイネス)の断層モデル解析をみると「震源を特定せず策定する地震動」マグニチュード6.5で1340ガルという数字が出されています。
長沢氏は規制委が無視してきたこの解析が熊本地震の前震(4月14日)で詳細に観測された結果と整合しており、解析が有効であることを示しました。
1340ガルの地震動が伊方原発を襲えば、650ガルはおろか855ガルのクリフエッジもはるかに突き抜けることになり、何が1万年に1回の確率だ、基準地震動の決め方自体がおかしいとなるわけです。

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 「震源を特定して策定する地震動」でも過小評価
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次に「震源を特定して策定する地震動」においてもまともに評価すれば855ガルのクリフエッジを超えることになる、と長沢プレゼンは主張します。
震源を特定する地震動というのは、

(1)480kmモデル(紀伊半島の金剛山山系から別府湾の万年山断層帯にいたる長大なモデル)、
(2)360kmモデル、
(3)130kmモデル(伊方原発敷地前面海域断層帯と東側に延びる伊予断層帯・川上断層帯)、
(4)69kmモデル(不確かさを考慮した敷地前面海域断層帯)、
(5)不確かさを考慮しない敷地前面海域断層帯(要するに四国電力が当初に設定したモデル)

の5つのモデルが存在します。

このうちここでは(4)69kmモデル(不確かさを考慮した敷地前面海域断層帯)を取り上げてみましょう。
69kmの長さをもつ断層帯が震源で地震が発生したらどうなるか?
この断層帯の断面が北側に傾斜していた場合、「耐専スペクトル」と呼ばれる距離減衰式を使って計算してみると、地震動は570ガルを超えてしまいます。
このため、四国電力は規制基準適合審査時の基準地震動申請値570ガルを650ガルに引き上げたいきさつがあります。

それではこの69kmの断層帯断面が鉛直だった場合、同じ耐専スペクトルという計算式を用いて計算すると855ガル以上の数値が出てくるのです。
このため四国電力はもっともらしい理屈をつけて、「69km断層帯断面鉛直」のケースは計算しないで規制委に資料を提出、規制委もすんなりこの資料を承認し、基準地震動を650ガルのままとしてしまいました。

長沢教授は、四国電力が「69km断層帯断面鉛直」のケースを採用しなかった本当の理由は、基準地震動が650ガルを超えてしまい、さらに安全対策コストがかかるのを嫌ったためだろう、と推測しています。
もしこの推測があたっているなら(私はあたっていると思いますが)、コストのために安全性を犠牲にしても恬然としている四国電力の体質を余すところなく表しているといえるでしょう。

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 吉岡裁判長の興味を惹いた「島崎問題」
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長沢プレゼンの中で吉岡裁判長の興味をもっとも惹いたのは、おそらく「島崎問題」ではないでしょうか?
長沢プレゼンは「『世界最高水準の規制基準による適合性審査』のひどすぎる実態が遂に暴かれた!」という表題のもとに、
原子力規制委員会前委員長代理・島崎邦彦氏が2014年9月任期切れ退任の後、断層モデルのうち「入倉・三宅式」と呼ばれる計算式の批判を開始したいきさつに触れました。

地震モーメント(地震で放出するエネルギーのこと)を活断層の長さから予測する場合、震源断層の長さ(あるいは面積)と地震モーメントとの関係式が使われますが、
当然のことながら地震発生前に使用できるのは活断層に関する情報であって、震源断層の情報そのものではありません。
地震発生前は震源断層そのものはまだ未知だからです。
また地震モーメントの過小評価は、これも当然のことながら地震や津波など自然災害の過小想定に直結しますから、大いに注意する必要があります。

その地震モーメント「Mo」(単位はニュートン・メートル=Nm)を予測する式は、マグニチュード7程度以上の巨大地震に関していえば、武村式、山中・島崎式、地震調査委員会式(松田式)、入倉・三宅式と大きく4種類使われています。
島崎氏の批判は入倉・三宅式を使うと地震モーメントの過小評価につながるという点にあります。
 
しかしこれは小さからぬ問題です。
というのは、電力会社や原子力規制委員会など、いわゆる“原発コミュニティ”では、地震モーメントの予測に入倉・三宅式を多用してきたからです。
実際島崎氏も地震問題の専門家として、原子力規制委員会の委員長代理だった時代には、入倉・三宅式による計算結果を合理的なものとして受け入れてきたいきさつがあります。
その島崎氏が規制委員退任後、入倉・三宅式に対して、「災害の過小想定につながりかねない」(日本地球惑星科学連合2015年大会の島崎氏の口演「活断層の長さから推定する地震モーメント」)と批判したことは、
ある意味島崎氏の豹変であり、規制委審査の科学性・客観性に重大な疑義を提出したことになります。

これらいきさつをかいつまんで長沢教授がプレゼンで紹介すると、吉岡裁判長の質問はこの「島崎問題」に集中します。
吉岡裁判長の質問は多方面にわたり、長沢教授は、事実は事実、教授の推測は推測として明確にしながら回答しましたが、質問が想像の域に達する話題になると、「それは島崎さんに聞いていただきたい」と答えざるを得ませんでした。
「島崎問題」が今回仮処分審尋の一つの焦点になりつつあることを窺わせるやりとりとはなりました。

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 頑張ってはいるが、世界標準にはほど遠い日本のレベル
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さて最後は「伊方原子力発電所3号機の安全性」と題する原子力コンサルタントの佐藤暁氏のプレゼンです。
http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/karishobun/20160920/kou_D498_20160920.pdf

ただし佐藤氏のプレゼンは大河陽子弁護士と掛け合いの形で進みました。
佐藤氏がハンドマイクを持ち、大河弁護士はヘッドセットマイクです。
佐藤氏のプレゼンは、要するに「日本の原発の安全対策思想と手法」について論じたもので、四国電力だけでなく日本の規制当局の甚だしい“遅れ”を指摘し、世界水準とのギャップを埋めるのは困難であろう、とする内容です。
その佐藤氏の考え方は、一言でいえば、

「四国電力は、短期間のうちに一気に、過酷事故の現象について学習し理解を深め、対策技術についても膨大な資料を収集し、多くを実践に移している。
 一方、原子力規制委員会が制定した『新規制基準』にも、米国やIAEAなどの規制要件を広範に調査した跡が表れており、大変な努力の末の結果であった。
 筆者(佐藤氏)は、両組織によるそれぞれの努力に対し好感を懐き、敬意を表したい。
 関係者の能力の高さも讃えたい。
 しかし、・・・日本の原子力安全における過去の遅れは甚だしく、5年の歳月を以てしても追いつけない問題が多々残っている。
 (中略)
 強大な自然現象には、四国電力が諸々の対策を講じ、原子力規制委員会がそれらを有効なものと認めた今もなお、軽々と一蹴してしまう威力があるように思える。
 今や、安全か否かが議論のポイントなのではなく、リスクを受け入れるか否かではないだろうかと考えさせられる」(同氏プレゼン資料「全般的所感」)

の言葉に代表させることができます。

こうして佐藤氏のプレゼンは、世界水準から見て伊方原発の立地自体が不適であること、福島事故の教訓は、原子炉事故と自然災害の複合事故だったこと、この教訓が十分反映されていないことなどを論じ、
現在の日本の安全対策上の共通的な問題として、高い「安全目標」を掲げてはいるが、達成を評価する方法がなく、未達成となる可能性が大きい、と指摘します。

また伊方原発の立地条件は、世界水準に比較すると、中央構造線活断層帯に沿っていること、地震リスクの過小評価、狭い敷地、無理な造成などが見られると指摘しました。

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 「安全系損傷で事故が起こる」とする“通説”の誤り
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さらにプレゼンは伊方原発の安全評価の欠落点に進み、「安全系」と「非安全系」を対比した時、実際には「非安全系」の損傷によって「安全系」が脅かされる事故が圧倒的に多いにもかかわらず、
「非安全系」への対策が不十分と指摘しました。(これは伊方原発に限らず、日本の原発全般にあてはまる安全評価の欠落点)

つまり、「原子炉事故(=過酷事故)は、安全設備の損傷や故障によって起こる」とするのが日本での通説ですが、
現実には「原子炉事故は、非安全系設備の故障が安全設備の故障を起こすことで起こる」ことを踏まえていない「安全評価」になっているということです。

伊方原発の安全対策については、世界標準と比較してみると、
操作員の主観的判断とその判断に基づく手動操作に依存している、
移動式仮設資材や機材に依存している、動力や人力に依存している、
地震が多発する特徴があるにもかかわらず地震による同時多発損傷、負傷者の発生、運搬道路の損壊、余震の影響などが考慮されていない、などの短所が見られる、と指摘しています。
(これは伊方原発に限ったことではなく、新規制基準にもあてはまる短所です)

さらに伊方原発の事故拡大抑制に関する評価と対策の問題点についても、世界標準に比べると、過酷事故対策が効果を上げていない場合の評価をしていない点を上げています。
言いかえれば事故対応策は常に成功することを前提に考えられている、ということになります。(これも伊方原発に限りません)
また緊急時対策所の設備能力不足、特定重大事故等対処施設(特重施設)設置の見通しがたたない、そもそも各建屋から100m以上隔離の要件を満たす候補地が、狭い敷地内に確保できるのかどうかがはなはだ疑問、としています。

伊方原発の「安全目標」達成の見通しについては、たとえば炉心損傷頻度を1万年に1回、セシウム137換算で100テラBq放出事象の発生頻度を100万年に1回としているが、
その計算モデルは統一化されていない、もし正当な評価をした場合には、達成が相当困難なはず・・・と指摘しています。

そもそも四国電力が盛んに宣伝する安全目標なるものは、規制基準適合性審査の審査項目ですらありません。

さてみなさんはこうした佐藤氏の指摘を、どのように受け止め、いかがお考えでしょうか?


こうして1時30分から開始された第5回審尋は、予定の5時を大幅に過ぎて終了しました。
その印象を一言でいえば、既成権威をものともしない、独自調査と高い見識、科学性を示した債権者側の“堂々のプレゼンテーション”ということができるでしょう。

なお、この日実質審尋期日は第5回目で最後とする、債権者・債務者とも述べ足りない部分があれば10月31日までに書面で提出する。「期日までに提出された書面は必ず読みます」とは吉岡裁判長。
「求釈明書」(一種の裁判用語で、この場合は裁判所から債権者・債務者双方に出す質問書面というほどの意味)があればその都度協議の上、釈明書提出期限を決定するなど、重要なことも決まりました。
(実際には11月以降“求釈明”は行われませんでした。)

以上を勘案すると、3人の裁判官が書面を読み通し、さらに裁判官が決定文を作成するのに最低1か月はかかると見ると、決定が下りるのは年を越しそうだ、というのが私の見立てです。

(文責:伊方原発広島裁判原告団事務局長・哲野イサク)

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なお、決定日(Xデー)は広島地裁より1週間前に通知があります。
決定日時が判明次第、みなさまにお知らせ致します。

▽Xデーチラシ
http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/Xday.pdf

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