被爆地ヒロシマが被曝を拒否する伊方原発運転差止広島裁判
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「ふるさと広島を守りたい」ヒロシマの被爆者と広島市民が、伊方原発からの放射能被曝を拒否し、広島地方裁判所に提訴しました


伊方原発広島裁判メールマガジン第12号 2017年1月15日



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┃ 伊方原発・広島裁判メールマガジン12号       ┃
┃ 米インディアン・ポイント原発2基廃炉決定の背景   ┃
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2017年1月15日(日)発行
編集長 :大歳 努
副編集長:重広 麻緒
編集員 :綱崎 健太

伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立事件の広島地裁決定日が刻一刻近づいています。
決定日は未定ですが(Xデー)、広島地裁の吉岡茂之裁判長は、決定日の一週間前には必ず通知すると約束しています。期待と不安が綯い交ぜのまま、2017年を迎えたところです。
そんなおり、アメリカのニューヨーク州にあるインディアン・ポイント原発2基廃炉決定のニュースが入ってきました。
今回メール・マガジンはこのニュースに着目し、原発廃炉の決定打はいったい何なのか、その一要因を探って見ることにしました。
(“Indian Point NPP”と2語になっていますので日本語表記では「インディアン・ポイント原発」と「・」を入れることにします)

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 本当に採算性だけが理由なのか?
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 まずこのニュースに関する日本のメディアの伝え方から見ておきましょう。

 「アメリカ、ニューヨーク市の近郊にあり、安全性の問題が指摘されていた原子力発電
  所が、2021年までに運転を停止して、廃炉になることが決まり、世界で最も多く
  の原発があるアメリカでは、採算性の悪化などを理由に原発から撤退する動きが相次
  いでいます。
  廃炉になるのは、ニューヨーク州にあるインディアンポイント原子力発電所の2号機
  と3号機で、2021年までに運転を停止し原発を閉鎖することで、ニューヨーク州
  と原発を所有する電力会社が合意しました。
  2基は1970年代半ばに営業運転を始め、東京電力福島第一原発とは異なる「加圧
  水型」と呼ばれるタイプで、出力は合わせて最大200万キロワットに上ります。
  この原発は、全米で最も人口が密集するニューヨーク市から北におよそ40キロのハ
  ドソン川沿いにあり、これまでに火災や放射性物質を含んだ水が漏れ出す事故がたび
  たび起きて、安全上の問題が指摘されており、クオモ知事は「廃炉の合意ができたこ
  とを誇りに思う」と述べました。
  これに対して原発を所有する電力会社は、エネルギー価格が下がる一方で、原発を維
  持するコストは上がり、採算性が悪化しているため、廃炉に合意したと説明していま
  す。
  アメリカでは去年10月、20年ぶりとなる新規の原発の営業運転が始まり、稼働す
  る原発は100基と世界で最も多くなっていますが、採算性の悪化などを理由にここ
  数年、古い原発の廃炉の決定が相次いでいます」(NHKニュース)
  http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170110/k10010833901000.html

 他のメディアも判で押したように同じような伝え方をしており、安全性の問題はあるものの、基本的には廃炉の理由は採算性の悪化だとしています。

 しかし、これはちょっとおかしいな、と思います。というのはー。

今回廃炉が決定したエンタジー社(Entergy Corporation)の所有・運営するインディアン・ポイント原発の2号機と3号機は、出力がそれぞれ103万kWと105万kWで、これまで廃炉が決まってきたアメリカの原発、たとえばドミニオン社のキウォニー原発(57.4万kW)やデューク社のクリスタル・リバー原発(86万kW)などとは出力が違います。
アメリカの原発産業では採算分岐点が出力100万kWとされています。一つには建設コストの上昇、それから何といっても全米で繰り広げられている反原発のうねりのために安全コストが急上昇しているのが採算分岐出力を押し上げている理由です。
第一、100万kW出力で採算が合わないというのなら、全米で約100基ある原子炉の平均出力が約100万kWですから、平均的にみればアメリカでは原発は採算に合わないということになります。
http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/world_data/nuclear_power.html#0
(因みに日本は平均約90万kW、ドイツは110万kWです。私たちが標的としている伊方3号機は89万kWでほぼ日本の平均並みの出力。世界平均から見ると採算分岐出力にも達していません。にもかかわらず四国電力は原発が稼働していないので採算が悪いと主張しています。そのからくりは・・・。本号のテーマではありませんが、別号で取り上げることにします)
確かに後でも見るように、エンタジー社は電力業界の競争激化、ガス燃料の価格下落によって採算性が悪くなり、インディアン・ポイント原発廃炉を決定したと主張していますが、どうもそれが主要な理由ではないようです。

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 年季の入った反「インディアン・ポイント」ニューヨーク州知事、アンドリュー・クオモ
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ここでインディアン・ポイント原発廃炉の決定打となったニューヨーク州とエンタジー社の協定を見ておきましょう。両者の協定合意が近いという話は16年12月ごろから出ていましたが、これを最初にはっきり報じたのは17年1月6日付けのニューヨーク・タイムズ紙(NYT)です。
“Indian Point Nuclear Power Plant Could Close by 2021”(インディアン・ポイント原発、2021年までに閉鎖の可能性大)と題する記事です。
https://www.nytimes.com/2017/01/06/nyregion/indian-point-nuclear-power-plant-shutdown.html?_r=0
この記事の中でNYTは、同原発の2基ある原子炉のうち1基が2020年4月までに、もう1基が2021年4月までに閉鎖とはっきり書いた上で、「同原発の閉鎖は、・・・長い間アンドリュー・クオモ同州知事の最優先事項の一つだった。これまでも何度も閉鎖を要求している。同氏によれば、同原発から30マイル(約48km)足らずの南に位置するニューヨーク市にとってあまりに危険すぎるという」と書いています。
さらにクオモ知事は、16年6月の時点でNYTの記者に「インディアン・ポイント原発操業の継続を許せば、それはとりも直さず、社会の良識、あらゆる計画、基本的公衆衛生などをなおざりにするのと同じことだ」という意味合いのことを話していました。
ニューヨーク州知事、アンドリュー・クオモ氏は州知事に当選する前、ニューヨーク州の州司法長官時代には、市からわずか30マイルしか離れておらず、しかもマンハッタン区、そしてその北側に位置するブロンクス区の西岸を流れるハドソン河に面した同原発をニューヨーカーにとっての最大の脅威として運転差止を求めて裁判を起こしており、この裁判は係争中でもありました。つまりクオモ氏は筋金入り「反インディアン・ポイント原発」派だったのです。

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 州あげての廃炉運動
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もちろん「反インディアン・ポイント」はクオモ知事が突出している、というわけではありません。それどころかニューヨーク州政府あげての取り組みです。その背後には州民、特にニューヨーカーからの絶大な支持がありました。
たとえば現ニューヨーク州司法長官、エリック・T・シュナイダーマン氏は協定合意目前の1月6日には、NYTに次のように語っています。

「もう何年もの間、州司法省はインディアン・ポイント原発が地域社会と環境に突きつけている深刻なリスクのことを世の中に知らせようと闘ってきた。
 この協定は公衆の安全を強化するものであり、かつより信頼のできる再生可能エネルギー分野への投資呼び込みを促進するものだ。
 もしこの協定のもと、インディアン・ポイント原発を閉鎖に追い込むことができるなら、それはこの地域に居住する数百万人のニューヨーカーにとっての重要な勝利になるだろう」

 もちろんこの協定には、ニューヨーク州政府だけでなく、「リバーキーパー」(“Riverkeeper”)といった非営利環境保護市民団体なども参加し、大げさに言えばオール・ニューヨーク対エンタジー社という対立構造を見せていたのです。

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 いよいよ州とエンタジー社との合意なる
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そしていよいよ1月9日の月曜日、エンタジー社は“ニューヨーク”に屈服する形で、両者の合意が成立しました。
ニューヨーク州政府はエンタジー社に対する告訴を取り下げるかわりに、前述のように2基ある原子炉の一つを2020年4月までに、そして2021年4月までにもう一つの原子炉を閉鎖することに合意正式調印したのです。
また同時にリバーキーパーもアメリカ原子力規制委委員会に対する提訴、すなわち同原発は公衆の安全と環境に対して重大な脅威となるとする提訴を取り下げることに合意しました。

エンタジー社の経営首脳陣は、この決定は主として財政上の理由で行われたと説明しました。実際エンタジー社はニューヨーク州やリバーキーパーなどとの係争で、約2億ドルの費用をかけたとしています。

また経営首脳陣の1人は、約200万kWの発電能力またはニューヨーク市とウエストチェスター郡が消費する全電力量の約1/4に相当する電力源をどうやって代替するのだろうか大きな疑問が残る、とも述べました。
これに対してニューヨーク州は、クオモ知事の計画、すなわち2030年までに全消費量の約半分を再生可能エネルギー(主として水力発電、風力発電、太陽光発電)でまかなうとする計画で反論しています。

しかし両者とも肝心な点に触れていません。ニューヨーク市とウエストチェスター郡で必要とされる電力の約1/4が原発でまかなわれているとして残り約3/4は現在何によってまかなわれているのか?答えは石炭発電です。
現在全米の総発電量のうち約1/2が石炭発電でまかなわれているのです。

またこの協定では、エンタジー社に近傍のダッチェス郡内に新しく「緊急時センター」(“an emergency operations center”)の新設を義務づけています。
ともあれ2021年4月までは、操業を続ける訳ですからこうした「緊急時センター」はどうしても必要です。この費用は1500万ドル(約17億円。1ドル=115円)とされています。
さらに2021年までにニューヨーク州の計画通りに再生可能エネルギーへの代替が完了しない場合には、インディアン・ポイント原発の閉鎖は2年から4年延長される項目もこの協定に盛り込まれています。

ともあれ、NYTによれば、クオモ知事はマンハッタンで開いた記者会見で次のように述べました。

「ミッドタウンからわずか30マイル圏内(約48km圏内)に存在する“チクタク時限爆弾”(a “ticking time bomb”)から逃れる極めて重要な交渉だった。」

(南北に細長いマンハッタン島は、金融センターが存在するダウンタウン、企業群や政治の中枢センターのある中程のミッドタウン、現在再開発の対象となっているアップタウンと大きく3通りに分類されています)

「私は個人的にいえば過去15年間、インディアン・ポイント原発を閉鎖しようと頑張ってきた。(インディアン・ポイント原発の閉鎖で)大変重要なリスクが取り除かれることになる。歓迎すべき安穏だ。これでニューヨーカー少しは枕を高くして眠ることができるようになる」
https://www.nytimes.com/2017/01/09/nyregion/cuomo-indian-point-nuclear-plant.html

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 インディアン・ポイント廃炉決定の教訓
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ここでクオモ知事が述べていることは、伊方原発という“チクタク時限爆弾”を日常生活の中に抱える多くの広島市民、広島よりさらに近い松山市民、それよりさらに近い大分市民、また今現在伊方3号機の仮処分提訴を準備している山口県の市民をはじめ、瀬戸内海沿岸に住む多くの西日本の市民が感じている実感でしょう。
なぜ、エンタジー社(本社はニューオーリンズ)は、60年間操業許可を得ているインディアン・ポイント原発をあきらめざるをえなかったのか、ここからいろいろな教訓が私たちも学べそうです。
様々な訴訟でエンタジー社が財政的にも疲弊したこと、ニューヨークにアンドリュー・クオモという州知事がいたこと(アンドリューのお父さん、マリオ・クオモ氏もやはりニューヨーク州知事を務め、州内の原発をなくそうと努力した人です)など様々な要素が絡み合っていたのだと思います。

しかし、何といっても多くのニューヨーク州の市民が原発をなくそう、自分たちの生活圏に原発があっては安心して生活ができない、とする声が結局インディアン・ポイント原発にとどめをさすことになったのではないかと思います。
私はお父さんのマリオ・クオモ氏が州知事時代に仕事でニューヨークに暮らしていましたが、当時クオモ氏が原発をなくそうと努力していたことなど全然知りませんでした。
5番街を反原発のデモ行進があっても“へそ曲がりな連中だな”くらいにしか思っていませんでしたし、多くのニューヨーク市民も私と同じ感じ方だったと思います。

むしろ「社会に原発は必要だ」という世論が支配的だったように思います。

福島第一原発事故(フクシマ大惨事)を挟んで、私が暮らしていた頃とは世論が様変わりしたのです。それには長い時間がかかりました。
しかし単に時間が過ぎ去った訳ではありません。アンドリュー・クオモ氏が過去15年間、インディアン・ポイント原発を閉鎖するために頑張ってきたというように、また現州司法長官のシュナイダーマン氏が「インディアン・ポイント原発のリスクを社会に知らせようと闘ってきた」というように、多くの無名の“クオモ氏”や“シュナイダーマン氏”が存在して、インディアン・ポイント原発にとどめをさすことになったのだと推察しています。

決してあきらめずに、また「反原発村」に閉じこもるのではなく、多くの市民に、原発賛成の市民を含めて粘り強い説得活動を継続し、世論を変えていくことがもっとも大切だと思います。

(文責:原告団事務局長・哲野イサク)



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