被爆地ヒロシマが被曝を拒否する伊方原発運転差止広島裁判
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「ふるさと広島を守りたい」ヒロシマの被爆者と広島市民が、伊方原発からの放射能被曝を拒否し、広島地方裁判所に提訴しました


伊方原発広島裁判メールマガジン第13号 2017年1月31日



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┃ 伊方原発・広島裁判メールマガジン13号         ┃
┃ コスト優先思想による腐食割れを起こした原子力規制行政 ┃
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2017年1月31日(火)発行
編集長 :大歳 努
副編集長:重広 麻緒
編集員 :綱崎 健太

 伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立事件の広島地裁の判断を今か今かと待っているところ、
 1月17日に私たち債権者側の弁護団が、広島地裁に新たな準備書面の補充書を提出しました。
http://saiban.hiroshima-net.org/source.html

 昨年の10月31日までに出された書類は全て読むと広島地裁の吉岡茂之裁判長は約束しましたが、
 これは、そこで書類提出を締め切ると言ったわけではない、出来ることは全てやろうという弁護団の人事を尽くす行為です。
 私たち原告団はとても素晴らしい弁護団に巡り会えたことを誇りに思います。

 そんな折、非常に気になるニュースがとびこんできました。
 私たちが提訴する直前の2016年3月9日、大津地裁の決定により運転禁止となった高浜3号機の蒸気発生器で
 機器の損傷が見つかったというのです。

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■本号のトピック
1.時事通信の報道
2.高浜3号機で何が?
3.加圧水型原子炉のアキレス腱"蒸気発生器"
4.コスト優先でさらにアキレス腱化
5.伝熱管損傷は大事故への第一歩
6.規制基準適合性審査を通り抜ける蒸気発生器の応力腐食割れ
7.カリフォルニア、サン・オノフレ原発に納入された欠陥蒸気発生器
8.こちらも完成度の低い規制基準適合性審査
9.規制基準では防げない伊方原発過酷事故
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 時事通信の報道
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 2017年1月19日時事通信社の伝えたところによると、

「福井県は19日、定期検査中の関西電力高浜3号機(同県高浜町)で蒸気発生器の伝熱管
 から見つかった傷について、管の材料と環境、力の三つによって起こる「応力腐食割れ」が
 原因と推定されると発表した。問題の伝熱管は栓をして使用しないという。
 原子炉で生じた高温高圧水は蒸気発生器の伝熱管を通り、発電用タービンを回す蒸気を
 生み出す。高浜3号機には蒸気発生器が3台あり、計約9800本の伝熱管のうち1本で
 傷が検出された。環境への影響はなかった。
 県原子力安全対策課によると、蒸気発生器を製造する際、伝熱管と取り付け部分を密着
 させるため、管の内側をローラーで広げる。この時に引っ張り力が残り、高温高圧水(約
 320度、157気圧)が流れる状態が12、13年以上続くと、伝熱管はひび割れしやすくなる
 という。応力腐食割れは過去に22本の伝熱管で見つかっている。
 高浜3、4号機は昨年1~2月に再稼働したが(※規制基準適合性審査合格後の起動後検
 査であり"営業運転再開"ではない)、大津地裁が運転差し止めの仮処分決定を出し、停止
 状態が続いている。」
 (時事通信社)http://www.jiji.com/jc/article?k=2017011900809&g=eqa

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 高浜3号機で何が?
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 「沢山ある伝熱管の1つがよくある想定内の損傷をした。環境への影響も無いよ。
  でも裁判で止められちゃっているんだ。」

 そんな関電の主張をそのまま伝えたかのような時事通信社の絵に描いたような大本営発表の記事ですが、
 一体高浜3号機の蒸気発生器で何がどうして起こったのでしょうか?
 そしてそれはどの程度の重大性を持っているのでしょうか?

 また、時事通信社の記事では触れられていませんが、高浜3号機は規制基準適合性審査にまがりなりにも合格した原発です。
 規制基準はこれを防げなかったのか?規制基準はどこまで過酷事故に対する予防効果を持っているのか?
 加圧水型原子炉で規制基準適合性審査合格という同じ状況の伊方3号機は一体どうなのか?それも疑問になります。
 今回は「ひび割れしやすくなる」蒸気発生器のこと、もしかしたらひび割れしやすいのかも知れない規制基準について考えてみましょう。

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 加圧水型原子炉のアキレス腱"蒸気発生器"
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 2017年1月12日、関西電力は、高浜原発3号機で、蒸気発生器内の伝熱管1本に損傷が見られると発表しました。
 http://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2017/0112_2j.html

 損傷した箇所は、蒸気発生器と呼ばれる1次冷却水と2次冷却水の熱交換を行う箇所の高温側管板部で、150気圧、300度以上の
 高圧高温の一次冷却水(果たして"水"と呼べる状態なのかどうか)が直径約2cmの伝熱管に流れ込んだ直後の場所です。
 想像しただけでも過酷な状況ですが、この蒸気発生器は加圧水型原子炉のアキレス腱であります。
 ではどれくらい壊れやすいのかを簡単に見てみましょう。

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 コスト優先でさらにアキレス腱化
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 加圧水型原子炉は、核燃料で熱された1次冷却水の熱を、蒸気発生器を介して2次冷却水に伝え、
 2次冷却水を熱して蒸気に変えることでタービンを回し電気を作ります。
 http://www.kepco.co.jp/energy_supply/energy/nuclear_power/shikumi/genshiro.html

 タービンが直接汚染されないなどのメリットの反面、2次冷却水を沸騰させ蒸気に変えるためには、
 1次冷却水が高温にならなければらないという問題があります。

 そこで、1次冷却水に圧力をかけて沸点を高めるのです。これが加圧水型と呼ばれる所以です。
 その加圧、加熱された1次冷却水は、外径約20mm、内径約18mmの伝熱管の束である蒸気発生器に流れ込みます。
 つまり、伝熱管の肉厚は約1mmしかないのです。

 想像してみて下さい。

 僅か1mmの肉厚の伝熱管の中を高温高圧の熱湯がすざましい勢いで流れる状況を。
 伝熱管の強度を考えれば伝熱管の肉厚は厚い方がいいですが、1次冷却水の熱を2次冷却水に伝える効率を考えればその肉厚は薄い方がいいのです。

 安全を採るか効率(熱効率)を採るかを考慮したとき、電力会社もメーカーも熱効率を採ります。
 高浜3号機で採用されている三菱重工の蒸気発生器は54F型と呼ばれる旧式で伝熱管の厚さは約1.3mmでしたが、
 新型の70F-1型では約1.1mmになっています。

 実際に蒸気発生器には様々な損傷事例があるにもかかわらず(高浜3号機の応力腐食割れ等により損傷し、
 施栓され使用されていない伝熱管は362本に及ぶ。特に2004年には311本の伝熱管に損傷が確認されている)、
 安全よりも熱効率が優先される、つまり、コストが優先されているのです。

 今回の応力腐食割れとは、伝熱管を伝熱管に垂直な側管板に密着させるために管を内側から広げた時の応力と、
 1次冷却水の高温高圧が作用して起こる腐食割れのことで、蒸気発生器の用途、構造上避けられない損傷です。

 しかも、肉厚の薄い蒸気発生器の伝熱管では、応力腐食割れによるひびだけではなく、
 管が完全に切断するギロチン破断も過去に起きています。

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 伝熱管損傷は大事故への第一歩
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 1991年2月9日、関西電力美浜原発2号機で原子炉が緊急停止しました。
 放射性物質が外部に放出されたこの事故は、伝熱管が完全に切断された
 いわゆる「ギロチン破断」が起きたことによる1次冷却水の漏洩というあわや大惨事という事故でした。

 幸いなことに複合災害ではなかったこの事故では、炉心が露出する前に収束させることが出来ました。
 しかし、それはあくまでたまたま幸運だったということであり、
 福島原発事故の原因究明がなされないまま見切り発車した規制基準の下では、地震や津波などの複合災害に対してはおろか、
 それぞれの機器ひとつひとつに充分な安全水準があると考えてしまうのは、それもまた見切り発車と言えるでしょう。

 加圧水型のプラントは、タービンが直接汚染されないため、タービン建屋を隔離していません。
 つまり、伝熱管の厚さのみで、炉心と1次冷却水は隔離されているのです。
 伝熱管損傷は、安全確保のため密閉・隔離されているはずの高濃度に汚染された1次冷却水の漏洩、
 環境中への放射性物質放出につながる重大事故への一歩なのです。

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 規制基準適合性審査を通り抜ける蒸気発生器の応力腐食割れ
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 ところで高浜3号機は2015年2月12日に、再稼働の前提条件である規制基準適合性審査に適合した原発です。
 そんな規制基準適合の原子炉であっても、伝熱管応力腐食割れを起こすのです。

 それは、伝熱管の宿命なのです。そして、規制基準はそれをカバー出来ないことが今回で浮き彫りになりました。

 規制基準適合性審査は、機器の経年劣化や検査方法は審査の対象ですが、
 機器そのものが本来の用途で充分な安全水準を持っているのか、ひとつひとつ審査をしていくことはありません。

 蒸気発生器の伝熱管という非常に繊細な機器の完成度は、コスト優先思想に染まったメーカーに一任されているのが現実なのです。

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 カリフォルニア、サン・オノフレ原発に納入された欠陥蒸気発生器
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 2011年から2012年にかけて、三菱重工は、南カリフォルニア・エジソン社が運営するサン・オノフレ原発に、新型の蒸気発生器を納入します。
 ところが2012年1月3号機の蒸気発生器から放射性物質を含んだ汚染水が格納容器内に漏洩します。

 幸い3号機は緊急停止し過酷事故は回避されました。原因究明の結果、三菱重工の納入した蒸気発生器の伝熱管、2号機、3号機合わせて
 3000本以上に15,000箇所以上の早期摩耗が発見されました。

 原因は、三菱重工の蒸気発生器のお粗末さと、それを承知で納入した電力事業者にありました。

 元々安全性に大きな疑問がいくつも投げかけられていたサン・オノフレ原発は、
 その後激しく市民に突き上げられた規制委員会に再稼働の道を拒絶され、
 地元議員から三菱重工蒸気発生器納入に関する不正行為を司法省へ告発されたりもあり、
 事故から17ヶ月後にとうとう再稼働を断念、廃炉発表となります。
 http://www.inaco.co.jp/hiroshima_2_demo/pdf/20130614_A4.pdf

 同じ三菱重工製の蒸気発生器を使用しているのにも関わらず、
 高浜原発とサン・オノフレ原発でこのように結果に違いが出ていることは、
 私たち市民社会も含めた原子力産業への依存と、核の平和利用を無批判に受け入れる体質の根深さを感じないではいられません。

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 こちらも完成度の低い規制基準適合性審査
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 原子力規制委員会設置法に明記されているように、福島原発事故後の法改正・規制行政の変更は、
 福島原発事故のような事故を2度と起こしてはならないという考えのもと行われたものでなければなりません。

 そのためには、福島原発事故の原因究明は不可欠です。
 ところが実際には原因究明も責任の所在も全て曖昧なままです。
 蒸気発生器伝熱管損傷のような重大事故の一歩であり、それが構造上起こり得るという致命的な欠陥も、見過ごされています。

 規制基準適合性審査の審査手順は、書類主義と呼べるほど現物を見ない手順になっています。

 機器そのものをひとつひとつ確認しないこと、日本製の鋼材の強度不足が日本ではなくフランスで発覚したこと、
 それが日本の原子炉にも使われているが事実上放置されていることが、それを物語っています。

 また、規制基準の中身、規制委員の人事、これらが第3者からの批判を取り入れる体制が出来ているとは到底言えない状態です。
 規制基準も、その運用にあたって充分な完成度を持ったとは言えない、損傷寸前の規制なのです。

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 規制基準では防げない伊方原発過酷事故
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 いつ損傷・破断するか分からない伝熱管を約10,000本抱えて現在稼働中の伊方3号機は、まさしく時限爆弾と言って差し支えないでしょう。

 原子力業界は、感心するほどの徹底されたコスト優先主義です。
 それは、何度も繰り返される手抜き点検が雄弁に物語っています。
 安全は軽視するという姿勢が脈々と受け継がれているのでしょう。

 また、ここまで述べてきたように規制行政も、例えば昨年の島根原発2号機から発覚した中央制御室ダクトの腐食など
 様々な問題が明るみに出る中で、福島原発事故並みの重大事故を防ぐだけの安全水準を持っているとは言い難い状況です。
 そして、高浜3号機を見れば分かるように、規制基準適合性審査に合格しても、伝熱管は減肉だけではなく「損傷」するのです。

 規制基準では、放射性物質を閉じ込めることは出来ないのです。
 それは、「規制基準に適合したからといって安全とは申し上げられません」という田中俊一原子力規制委員会委員長の言葉が裏付けています。
 現在の規制基準に適合したからといって原発を再稼働させることは、原発過酷事故を自ら招き寄せることと同じなのです。

(文責:伊方原発広島地裁メールマガジン編集部・綱﨑健太)



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