被爆地ヒロシマが被曝を拒否する伊方原発運転差止広島裁判
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「ふるさと広島を守りたい」ヒロシマの被爆者と広島市民が、伊方原発からの放射能被曝を拒否し、広島地方裁判所に提訴しました


伊方原発広島裁判メールマガジン第17号 2017年4月1日

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 伊方原発・広島裁判メールマガジン第17号
 伊方仮処分広島地裁判断と司法判断の枠組み
 恐るべき司法の退廃ぶり
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2017年4月1日(土)発行
編集長 :大歳 努
副編集長:重広 麻緒
編集員 :綱崎 健太

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▽本号のトピック▽

■伊方仮処分広島地裁判断と司法判断の枠組み
 恐るべき司法の退廃ぶり

1.日本国憲法第76条第3項
2.これなら裁判所・裁判官は無用の長物、穀潰しの税金泥棒
3.福岡高裁宮崎支部決定がマニュアル?!
4.「新規制基準適合性審査」は水戸黄門の印籠ではない
5.広島地裁仮処分は本訴へ丸投げ、1年の歳月はなんだったのか?

■伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立事件(広島)は即時抗告へ
■伊方原発広島裁判 本訴 第5回・第6回口頭弁論期日のお知らせ

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╋■┛ 伊方仮処分広島地裁判断と司法判断の枠組み
■┛  恐るべき司法の退廃ぶり
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既報の通り全国の注目を集めた四国電力伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立事件の広島地裁判断(吉岡茂之裁判長・久保田寬也右陪席・田中佐和子左陪席)は3月30日、私たちの申立を却下としました。
このメールマガジンでA4版383頁に及ぶ決定文全体を網羅して論評することはできませんが、とり急ぎ日本国憲法下で日本の司法が果たすべき役割、といった視点でこの決定文を眺めてみましょう。
そうすると恐るべき司法の退廃という荒涼たる風景が私たちの目の前に浮かび上がってきます。

▽決定書(A4版383頁)
http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/karishobun/20170330_ketteisho.pdf
▽決定要旨(A4版2枚)
http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/karishobun/20170330_youshi.pdf

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 日本国憲法第76条第3項
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日本国憲法第76条は明確に次のように規定しています。

 「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
  特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。
  すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」

司法権が、立法権や行政権と独立し、議会、政府、その他何ものの干渉によっても判決を左右されない「司法権の独立」を高らかに謳った有名な条文です。
特に「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」とする部分は、
司法権のみならず個々の裁判官にもその独立性を求め、独自の判断を保障した項目で、特別に「日本国憲法第76条第3項」と呼ばれています。(以下「76条第3項」と表記)

「それは憲法に書いてあるだけで実際の裁判は違うのさ」と訳知り顔に解説することもできるでしょう。
しかしあまりものわかりよく現状を肯定してしまうのも考えものです。
日本国憲法はこうしたものわかりの良い一般市民の存在も十分計算にいれており、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。」(同第12条)とちゃんと釘を刺しています。
要するに憲法はあり得べき姿を描いているだけで、その姿に近づけるには国民の不断の努力が必要よ、不断の努力を怠れば憲法といえども一片の紙切れに過ぎなくなるよ、とする警告のメッセージとも受け取れるこれも有名なフレーズです。

こうしたわけで、「実際の裁判は違うのさ」とものわかりよく現状を肯定してしまうわけにはいかなくなるのです。

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 これなら裁判所・裁判官は無用の長物、穀潰しの税金泥棒
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さて司法権の独立、良心と憲法及び法令にのみ従うべき裁判官という立場からこの広島地裁決定(以下裁判長の名前をとって吉岡決定)を見てみましょう。
とすると最初からクビを傾げたくなるような文言にぶつかります。

「現在、全国で、原子力規制委員会によって新規制基準に適合する旨が判断された原発の運転差止を求める仮処分の申立てが
 複数審理中であるが、ある特定の原発の運転差止仮処分を求める複数の申立てが別々の地裁で審理されている状況下も見られる。
 そのような中で、審理対象とされる原発によって、又は、同一の原発について審理する裁判所によって、
 司法審査の枠組みが区々となることは、事案の性質上、望ましいとは言えない。」

と述べられています。(伊方原発運転差止仮処分命令申立事件・決定要旨)

要するに、全国で原発裁判が多数起こっているのだが、「同一の事案」について司法審査の枠組みが異なるのは望ましいとはいえない、と吉岡決定はいうのです。
76条第3項の精神に照らしてみるとこれはちょっとクビを傾げたくなるような話です。
「審理対象とされる原発によって、又は、同一の原発について審理する裁判所によって、司法審査の枠組み」が同じとなれば、後はトコロテン式に同じ結論になってしまう可能性が高くなります。
第3項の精神に照らせば、「司法審査の枠組み」をはじめとして事件の内容を個々の裁判官が自分で調べ自分の頭で考えていかなければならない問題のはずです。

もちろん最高裁で確定した判断基準あるいは「司法審査の枠組み」ならば、これは個々の裁判官といえども従わなければなりません。
しかし、今回事件のような原発の運転が住民の人格権を侵害しているかどうかに関して最高裁の判例はありません。
そうであるなら、吉岡裁判長をはじめとする3人の裁判官は「司法審査の枠組み」から自分たちの頭で考え出していかなくてはならないはずです。
「司法審査の枠組み」を統一化しろ、いわばマニュアルを作れ、そのマニュアルに従って判断する、といっているのですから76条第3項の精神はどこへ行ったと言う話になります。

個々の裁判官が「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」の精神を離れて
個々の裁判官がマニュアルを求めるなら、裁判所は一つあればいい、裁判官も大幅に削減できる、地裁、高裁、最高裁の三審制もいらない、
その他の裁判所は無用の長物、個々の裁判官は穀潰しの税金泥棒ということにもなります。

吉岡決定は76条第3項の精神に照らせば、裁判官の独立性を裁判官自らが放棄した産物ということがいえるでしょう。

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 福岡高裁宮崎支部決定がマニュアル?!
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それでは吉岡決定はどこにマニュアルを求めるのかというと、なんと九州電力川内原発運転差止仮処分命令申立事件における福岡高裁宮崎支部決定(以下福岡高裁決定)に求めているのです。
吉岡決定の要旨から引用します。

「福岡高裁宮崎支部の決定は、新規制基準に適合する旨判断された原発の運転差止めを求める仮処分申立事案における
 司法審査の在り方について判断を示した、今のところ唯一の確定した抗告審決定である(最高裁の判例は見当たらない。)。
 そうであれば、本件における司法審査の枠組みについては、上記決定を参照することとするのが相当である。」

吉岡決定の主張に従えば、福岡高裁決定をマニュアルとする理由は、「今のところ唯一の確定した抗告審決定」だからだということです。
その他に理由らしい理由は見当たりません。
吉岡決定によれば、広島地裁より福岡高裁は上級審であり、その上級審で確定した決定の枠組みに下級審である広島地裁は従うべきだということになります。

そこには、川内原発と伊方原発の違いや鹿児島の住民と広島の住民の訴えに至る理由の違いなどは「司法審査の枠組み」には取り込まれず、
枠組みとして視野に取り込まれているのは、ただ「原発一般の運転と人格権一般の具体的人格権侵害の恐れ」という極めて抽象的な概念です。
川内原発と伊方原発の特殊性や個別性、ましてや個々の地域に暮らす住民たちの特殊性や個別性は全く捨象されてしまっています。
これなら広島地裁はいらない、ということです。
なんなら福岡高裁宮崎支部広島事務取扱所とでも名前を変えてもかまいません。

それでは肝心の福岡高裁決定は、司法審査の在り方についてなんと述べているか。

「同委員会(筆者注:原子力規制委員会のこと)が策定した新規制基準の内容及び同委員会が示した当該原子炉施設に係る
 新規制基準への適合性判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきである。
 この安全目標が達成される場合には、健康被害につながる程度の放射性物質の放出を伴うような重大事故発生の危険性を
 社会通念上無視し得る程度に小さなものに保つことができると考えられる。」
 (川内原発稼働停止等差止仮処分申立事件・決定要旨)

単純にいって福岡高裁決定は、行政(この場合原子力規制委員会)の策定した新規制基準に適合している原発は、事実上安全だといっているわけです。
福島原発事故前は、司法は「絶対安全だ」と太鼓判を押したのですが、
原発事故後の福岡高裁決定は、「絶対安全」を「重大事故発生の危険性を社会通念上無視し得る程度に小さなものに保つことができると考えられる」と焼き直したものに過ぎません。
これはすなわち表現を変えた「原発安全神話」に他なりません。

福島原発事故を引き起こした責任の一端は司法にもある、とする司法の反省はここには微塵もありません。

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 「新規制基準適合性審査」は水戸黄門の印籠ではない
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そもそも福岡高裁決定は、「規制基準に適合した原発は、仮に重大事故を起こしたとしても社会通念上無視しうる程度に安全である」という事実誤認を犯しています。
原子力規制基準に適合することは原発運転に必要な最低限の要件(いわゆるミニマム・リクワイアメント)を満たしたものに過ぎず、
「審査に合格しても決して安全であるとは申し上げません」(田中俊一原子力規制委員会委員長)程度のものです。

それを福岡高裁決定は、事実上「規制基準に適合した原発は安全である」と、「適合性審査合格」を一種神聖視し、
あたかも水戸黄門の印籠のように扱うという根本的誤りをおかしています。
行政(この場合は原子力規制委員会)の判断にあやまりがないかどうか、
それを憲法が保障する人格権侵害の具体的恐れがあるかないかを独立司法の立場から判断・検証するのが司法の役割であり、
行政の判断は正しいと前提するのなら、広島地裁どころか裁判所もいらない、ということにもなりかねません。

福岡高裁決定をマニュアルとする吉岡決定においても、「債務者(筆者注:四国電力のこと)の主張は、専門性・独立性を有する原子力規制委員会による審査が行われ、
厳格な規制が行われているため、安全性に欠けるところがないことが担保されている」と判断し、
福岡高裁決定と全く同じ誤りを犯しています。

適合性審査合格は決して水戸黄門の印籠ではないのです。

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 広島地裁仮処分は本訴へ丸投げ、1年の歳月はなんだったのか?
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それよりなによりもっと司法の存在意義に根本から疑問を抱かせる問題が吉岡決定には内在しています。

広島地裁は1年かけて判断を下しました。
その間には膨大な枚数の準備書面、証拠、双方のプレゼンテーションがありました。
私たち原告団事務局も何日も徹夜同然でそれら書面を印刷し、製本し準備しました。
弁護団は私たちの数倍、いや数十倍の精力と費用と時間を使って審尋期日に備えて準備しました。
特に第4回審尋期日は四国電力のプレゼンテーション、また第5回審尋期日は今回仮処分事件全体の白眉ともいえる債権者側のプレゼンテーションがあり、
それぞれ当否は別として、訴えの中身について真剣に討論してきました。
勝ち負けは別として広島地裁に真剣に調べ、研究し、精査した上で判断して欲しいという熱意と誠意の賜です。

ところが私たちの誠意は司法の裏切りにあったのです。

吉岡決定はつぎのように述べます。

「そのような証拠調べは、本案訴訟(筆者注:本訴)で行われるべきであって、本件のような仮処分手続きにはなじまない。」

なじまないというのなら、それまで費やしてきた多くの人たちの誠意、最終判断は別として私たちの司法への信頼はいったいなんだったのでしょうか?
少なくとも吉岡裁判長をはじめとする3人の裁判官は、これら人間としての誠意と司法に対する信頼に応え、諸課題への自らの判断を示すべきではなかったか?
私たちが「司法の裏切り」と形容するゆえんです。

仮処分とはいえ、裁判官の良心にかけて限られた時間と材料の中で3人の裁判官はギリギリの判断を示すべきでした。
それを本訴に丸投げとは・・・。
自ら思考停止状態に入った裁判所や裁判官なら日本の社会に居場所はないといわざるをえません。
恐るべき司法の退廃ぶりです。
私たちはこれと闘わなくてはなりません。
でなければ真の民主主義社会への展望はひらけません。

(文責:メールマガジン編集部・綱崎健太、原告団事務局・哲野イサク)


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╋■┛ 伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立事件(広島)は即時抗告へ
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3月30日広島地裁は、四国電力伊方原発3号機の運転差止仮処分命令申立を却下しましたが、
4人の申立人、申立人を選出した本訴原告団、弁護団は、この却下決定を不服として、一致して即時抗告することに決定しました。
即時抗告は決定が出て2週間以内に広島地裁に行い、広島高裁で争われることになります。
即時抗告日が決まれば直ちにみなさまにお知らせいたします。

<参考資料>
2017年3月30日 広島地裁同事件決定書及び決定要旨
▽決定書(A4版383頁)
http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/karishobun/20170330_ketteisho.pdf

▽決定要旨(A4版2枚)
http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/karishobun/20170330_youshi.pdf

▽2017年3月30日 本訴原告団声明
http://saiban.hiroshima-net.org/seimei/20170330.pdf

▽2017年3月30日 弁護団声明
http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/karishobun/20170330_bengodan_seimei.pdf


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╋■┛ 伊方原発広島裁判 本訴
■┛  第5回・第6回口頭弁論期日のお知らせ
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今年2月6日第4回口頭弁論期日の進行協議の際、末永雅之裁判長は大要次のように発言しました。

「毎回傍聴に沢山の人に来ていただいている。こうした方々にできるだけわかりやすい形で裁判を進行していきたいと考えている。
 今の口頭弁論の進め方ではなかなか一般の人には裁判の流れがわかりにくいと思う。
 そこで進行協議を先にして進行協議の内容も口頭弁論の中で示していければ、口頭弁論も傍聴の人にわかりやすいものになるのではないかと思う。
 従って次回から進行協議、口頭弁論の順にしたいと思う」

こうして第5回口頭弁論期日から、口頭弁論と進行協議の順が逆転することになりました。
みなさまの熱意と誠意が裁判長を動かした、ともいえます。

■第5回口頭弁論期日:
  2017年4月19日(水)
   午後2時から      進行協議
   午後2時20分ごろから 口頭弁論

■第6回口頭弁論期日:
  2017年7月5日(水)
   午後2時から      進行協議
   午後2時20分ごろから 口頭弁論

詳細は別途チラシ、Webサイト、メール等でお知らせします。
口頭弁論期日には是非広島地裁にお越しいただき、期日にご参加ください。


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伊方原発運転差止広島裁判
URL http://saiban.hiroshima-net.org/
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