伊方原発広島裁判メールマガジン第18号 2017年4月15日
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伊方原発・広島裁判メールマガジン第17号
今村復興相の発言に見る子ども・被災者支援法の意味と今後
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2017年4月15日(土)発行
編集長 :大歳 努
副編集長:重広 麻緒
編集員 :綱崎 健太
▽本号のトピック▽□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
■今村復興相の発言に見る子ども・被災者支援法の意味と今後
1.復興相の法律違反な記者会見
2.子ども・被災者支援法とは
3.復興相の弁解は問題点のすり替え
4.被災者支援のあるべき姿とそれが持つ意味
5.放射線被曝線量限度における2020年問題
■伊方原発広島裁判仮処分命令申立事件即時抗告の報告と
第5回口頭弁論期日のお知らせ
1.14日費やしても承服できない判断の枠組み
2.第5回口頭弁論期日はこれまでとちょっと違う
3.被爆地ヒロシマは諦めません
■メルマガ編集部後記
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╋■┛ 村復興相の発言に見る子ども・被災者支援法の意味と今後
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復興相の法律違反な記者会見
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4月4日の今村雅弘復興大臣の発言にはさすがにびっくりしました。
さすがに法律違反にあたるようなことはいくら現内閣のメンバーでも・・・というのは私が甘かったようです。
報道はどう伝えたかを見てみましょう。
▽毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20170405/ddm/041/040/168000c
復興相は発言を撤回したと伝えられていますが、明確に撤回したわけではどうやらなさそうですね。
▽日テレニュース
http://www.news24.jp/articles/2017/04/07/04358402.html
「撤回するということで理解していただいて結構だ」
とは、些か不思議な言い回しですが、余ほどご自身では撤回したくないという気持ちが表れてのことなのでしょう。
では、4月4日に今村復興相は何を言ったのか?もうすでにご存知だろうと思いますが、復興庁の会見録です。
http://www.reconstruction.go.jp/topics/17/04/20170405115121.html
序盤は序盤で、中盤は中盤で問題をはらんだり先送りしたりしている箇所が多々ありますが、今回は終盤の下りで出てくる発言に注目してみましょう。
フリーランスの記者、西中誠一郎氏と今村復興相のやり取りです。
(以下、復興相4月4日の会見録から引用)
(問)判断ができないんだから、帰れないから避難生活を続けなければいけない。
それは国が責任をとるべきじゃないでしょうか。
(答)いや、だから、国はそういった方たちに、いろんな形で対応しているじゃないですか。
現に帰っている人もいるじゃないですか、こうやっていろんな問題をね……。
(問)帰れない人はどうなんでしょう。
(答)えっ。
(問)帰れない人はどうするんでしょうか。
(答)どうするって、それは本人の責任でしょう。本人の判断でしょう。
(問)自己責任ですか。
(答)えっ。
(問)自己責任だと考え……。
(答)それは基本はそうだと思いますよ。
(問)そうですか。分かりました。国はそういう姿勢なわけですね。責任をとらないと。
(答)だって、そういう一応の線引きをして、そしてこういうルールでのっとって
今まで進んできたわけだから、そこの経過は分かってもらわなきゃいけない。
(引用ここまで)
この発言「本人の責任」は明らかな法律違反、子ども・被災者支援法に背く発言です。
それについては、原発被害者原告団全国連絡会の、復興大臣宛の抗議声明を引用します。
原発被害者原告団全国連絡会公式サイトより
▽復興大臣に対する抗議声明
http://www.jnep.jp/genzenren/daijin-kogi.pdf
抗議声明の中では、子ども・被災者支援法について、以下のように触れられています。
「子ども・被災者支援法では、被害者が居住・避難・帰還のいずれの選択をした場合でも
国が支援しなくてはならないことになっている。
現実に避難者がいて、まだ放射能の危険があるから避難を続けたいという願いを今年の3月で
打ち切ってしまったことは法の趣旨にも反しているものであり、国の責任を放棄するものである。」
3月には住宅支援などが打ち切られ、いわゆる帰還政策が露骨に強行されることになりました。
会見録冒頭にあったように、国は、「2020年度までに、地震・津波の被災地域の復興をやり遂げるという強い意志」を持っているようです。
しかし、放射能の被害についても同様なのでしょうか?
そもそも復興とは一体何を指しているのでしょうか?少なくとも“避難者”がいる現状では復興とは言えません。
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子ども・被災者支援法とは
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もう少し子ども・被災者支援法について見てみましょう。
次は子ども・被災者支援法そのものです。
▽東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り
支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律(平成24年法律第48号)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H24/H24HO048.html
目的の第一条には、この法律の対象者に復興相が言うところのいわゆる自主避難者が含まれているとは明確には書かれていません。
「一定の基準以上の放射線量が計測される地域に居住し、又は居住していた者及び政府による避難に係る指示により避難を余儀なくされている者並びにこれらの者に準ずる者」と書かれています。
これは、避難区域に指定されている住民と、それに相当する放射線量が計測される地域に居住し避難をした住民と解釈できます。
実際に、第八条では、「支援対象地域」として、「その地域における放射線量が政府による避難に係る指示が行われるべき基準を下回っているが一定の基準以上である地域をいう」とあります。
正に今村復興相の言う「それは本人の責任でしょう」という考え方は、法律違反そのものなのです。
現在「支援対象地域」に指定されている範囲は4月4日の会見時に出てきた千葉や群馬などは含まないではないかというご指摘もあるでしょうが、復興相はその地名が出る前から、「御本人が要するにどうするんだということを言っています」と述べています。
また、「だって、そういう一応の線引きをして、そしてこういうルールにのっとって今まで進んできたわけだから、そこの経過は分かってもらわなきゃいけない」という話も、これまでの経過は、子ども・被災者支援法を根拠法に適用してこなかったというだけの話なのです。
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復興相の弁解は問題点のすり替え
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今村復興相は、「感情的になってしまったことについて、改めて深くおわびする」として、記者会見をフリージャーナリストからの質問に激昂し打ち切ったことについて謝罪しています。
大臣とジャーナリストの刺激的なやり取りはここ数年この国ではすっかり見られなくなっていた光景ですから、必然的に注目はそこに集まります。
しかし、4月4日の今村復興相の発言の問題の本質は明らかに、行政の復興を担当する省庁のトップが、子ども・被災者支援法という法律に背く発言をしたことにあるのです。
その点、先の原発被害者訴訟原告団全国連絡会の復興大臣に対する抗議声明の指摘は、的を射た的確な指摘なのです。
しかし、多くのマスコミは情緒的な問題を報道し、内閣も問題の焦点を決して法律に背いていることにはしません。
問題の本質が、復興を担当する行政機関が、その基本理念たる法律を忘れて行動していることにあるという認識は、もっと広く深く共有されなければいけません。
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被災者支援のあるべき姿とそれが持つ意味
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子ども・被災者支援法は、罰則規定などはなく、いわゆる理念法です。
よって、実現性には乏しいという印象を私は受けていました。
その印象については今も変わりません。
現実に、被災者の抗議の声と要求には聞く耳を持たず(復興相は86,971筆に上る「避難用住宅の提供の打ち切り撤回と、避難住宅の長期無償提供を求める署名」を4月4日時点で確認していないと明言しました。
この署名の第2次は、3月24日に福島県、29日に内閣府、31日に東京都へ提出されています)、復興相はこの法律に背いても大臣として復興行政の指揮をしていくのかも知れません。
もちろんそれが仕方ないなどと言うことは一切なく、まず、この法律の存在が、この法律の理念に背く発言をした復興相への抗議と責任追及を可能にしたことは大きなことです。
私たちは、何故この法律の理念が行政から忘れ去られてしまったかを明確にしなければなりません。
そもそも福島第一原発事故以降、この国は被災者支援をするときに、子ども・被災者支援法を根拠法にしてきませんでした。
既成の自然災害に対する一般的な災害支援法に基づいた支援だったのです。
いわゆる自主避難者用の住宅は、災害救助法の適用でした。
今回はそれが打ち切りされています。
しかし、本来ならここには、子ども・被災者支援法が適用されなければなりません。
ましてや今、災害支援法の適用を止めた以上、子ども・被災者支援法適用の必要性は明らかです。
理念法である子ども・被災者支援法に留まらず、その理念を基に実効性を持った実施法を作り、それを実施させていくことが必要なのです。
それは、被災者の人権を守り生活を支えるばかりでなく、原発推進に対する1つの歯止めとなります。
実に実効性のある原発反対運動なのです。
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放射線被曝線量限度における2020年問題
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ところで、復興庁のサイトではポータルサイトとして、2020年のオリンピック特設サイトが作られています。
▽復興庁トップページ
http://www.reconstruction.go.jp/
奇跡の一本松まであしらったこちらのサイトは、「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を契機として、復興の後押しをするとともに、復興しつつある姿を伝えるため、関連する情報を集約し、わかりやすく発信します。」と書かれています。
オリンピックで復興した福島を見せるつもりなのか、復興の過程でオリンピックが励みになるという見せ方をするのかは分かりませんが、年間被曝線量1mSv以上の地域は法令違反になるため、もちろんその場所でのオリンピックの開催は出来ません。
現在、20mSvでの帰還政策が試しみようとされていますが、この20mSvの法的根拠は原子力緊急事態宣言です。
▽原子力緊急事態宣言
http://www.kantei.go.jp/saigai/pdf/kinkyujitaisengen.pdf
2011年3月11日16時36分に発令された原子力緊急事態宣言は、今日でもまだ解除されていません。
解除時期についても明確な見通しはありません。
▽衆議院議員逢坂誠二君提出原子力緊急事態宣言に関する質問に対する答弁書
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b190164.htm
この緊急事態宣言下で原子力災害対策本部長が避難基準を20mSvと定めたこと、これが唯一の20mSvの法的根拠だと原子力規制庁が認めています。
緊急事態宣言下のオリンピックというのは恐らく前例がないのではないでしょうか?
このままでは、国は1mSvという一般公衆の年間被曝線量限度を定めた法令を全て変えるか、1mSvを超える地域は、全面的に補償し国が管理するかの2択を選ばなければならなくなります。
不安の声を「本人の責任」と恫喝し、一方的に被曝線量限度を上げて辻褄を合わせ復興を装うなど、人が個人としての尊厳と幸福追求を認めた日本国憲法の定める人格権の侵害も甚だしいところです。
しかし、たとえ補償したとしても、故郷を捨てなければならない人の苦しさは、計り知れないものがあります。
これが、原発過酷事故の現実です。
(文責:伊方原発広島裁判メールマガジン編集部・綱崎健太)
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╋■┛ 伊方原発広島裁判仮処分命令申立事件即時抗告の報告と
■ 第5回口頭弁論期日のお知らせ
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14日費やしても承服できない判断の枠組み
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4月13日15時、広島地裁に対して、即時抗告の抗告条を提出しました。次は広島高裁にて、私たちの人格権の保全について争われることになります。
3月30日の広島地裁吉岡決定は、司法及び裁判官の独立を謳った日本国憲法第76条を無視した到底承服しがたい司法審査の枠組みでした。
高裁では、自らの頭で考え判断されることを強く望みますとともに、かつて司法も認めた原発安全神話の放置により福島第一原発事故が起きてしまったことを顧み、原発過酷事故を防ぐ責務を果たすことを強く望みます。
4月13日広島地裁提出
▽即時抗告状(A4版79頁)
http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/karishobun/20170413/kokokujyou.pdf
▽抗告理由書(地震動関係)(A4版46頁)
http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/karishobun/20170413/koukoku_riyuu_jishindou.pdf
▽抗告理由書(火山)(A4版51頁)
http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/karishobun/20170413/koukoku_riyuu_kazan.pdf
▽即時抗告によせて原告団声明
http://saiban.hiroshima-net.org/seimei/20170413.pdf
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第5回口頭弁論期日はこれまでとちょっと違う
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さて、4月19日は第5回口頭弁論期日(本訴)が行われます。当日は是非傍聴にお越し下さいませ。
▽御案内チラシ
http://saiban.hiroshima-net.org/pdf/20170419.pdf
本訴の末永雅之裁判長は、傍聴席いっぱいの傍聴人を見て思うところがあったのか、前回の口頭弁論期日後の進行協議にて、
「毎回傍聴に沢山の人に来ていただいている。こうした人に出来るだけ分かりやすい形で裁判を進行していきたいと考えている。
今の口頭弁論の進め方ではなかなか一般の人には裁判の流れが分かりにくいと思う。
そこで進行協議を先にして進行協議の内容も口頭弁論の中で示していけば、口頭弁論も傍聴の人に分かりやすくなるのではないかと思う。
従って次回から進行協議、口頭弁論の順にしたいと思うがどうか?」
と提案をしました。公開の法廷である口頭弁論を内容のあるものにしたいという末永裁判長の意向は、私たち原告団にとって非常にありがたく歓迎すべきことです。
傍聴希望者が多いことは、独立した裁判官が自らの頭で考える時の判断材料の1つになる、こともあるのかも知れませんね。
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被爆地ヒロシマは諦めません
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広島地裁での仮処分の決定は残念な結果でしたが、それは長い戦いの中の1日、通過点です。
私たちの戦いはまだまだ続きます。
まずは、4月19日の第5回口頭弁論期日へ、可能な方は是非起こし下さいませんか。
そして、原告として伊方原発を止める力になって、その訴えを私たちとともに実現していただければと切に願っております。
(綱崎健太)
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╋■┛ メルマガ編集部後記
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本文中に「そもそも復興とは一体何を指しているのでしょうか?」とありますが、私にはそれは「オリンピックまでに復興を遂げて、
原発事故が一度ぐらい起きても日本はぜんぜん大丈夫なんですよ」と世界にアピールすることが、復興庁もしくは現政権が目指しているところではないのだろうか、と思えてなりません。
そのために無理にでも避難者を故郷に帰還させたいと考えているのではないか、と勘繰ってしまいます。
では実際にどれぐらい原発事故の避難者が故郷へ帰還しているのでしょう。
これは自主避難ではなく避難指示が出た五つの市町村(田村市、川内村、楢葉町、葛尾村、南相馬市)の例ですが、これらの市町村は2014年4月以降に避難解除が出て、今年はじめの時点でも帰還率はわずかの13%となっています。
▽毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20170207/ddl/k07/040/097000c
2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでは残り3年しかありません。
こうした現状にあせりを感じているのか、今村復興相は今年3月12日のNHK「日曜討論」において
「ふるさとを捨てるというのは簡単です。戻って頑張っていくんだという気持ちを持ってもらいたい」
「全国の皆さんも応援していただける」
という発言をして福島に戻ることを促しています。
▽しんぶん赤旗
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik16/2017-03-13/2017031302_02_1.html
このような発言をしていたことも驚きですが、避難指示が出て移住をした方々も自主避難を選択した方々も、移住した先で大変な思いをしてその地に何とか根を張り始めているなかで、いまさら簡単に戻れるわけありません。
このような実情を見ることなく、何が何でも2020年までに復興するんだ、ふるさとに戻りなさい、とか言われても、国家の面子に振り回されて何度も国策の犠牲にさせられたのではたまったものではありません。
(大歳 努)
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伊方原発運転差止広島裁判
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